17 客が来る
この国の一年は、なんと都合の良いことに日本と同じで、曜日や時間も同じだった。
木曜日に哲平と再会し、金曜は婚約祝いとしてイッシュバルド家のお金で服やアクセサリーなど、これでもかというくらいお買い物をさせてもらった。
土曜にイッシュバルド家を出発し、火曜日には家に帰って婚約内定を大喜びする両親に盛大に祝われた。
ラス様が話してくれていたが、哲平がキュレル家にお世話になるという話は、婚約の話と同時に連絡がいっていた。
そのため、私が帰った時には、すでに哲平が住む部屋は用意されていた。
その次の週の月曜日の朝、キュレル家にやってきた哲平を私たちは笑顔で出迎えた。
哲平に用意された部屋には、私が案内することになった。
哲平はイグスの体をもらった今でも女性が苦手なこともあるが、彼が私をご指名したからだ。
メイドの顔ぶれが昨日と違っていることに気づき不思議に思っていると、哲平が顔をのぞき込んできた。
「すっげぇ顔してんぞ」
「うるさいわね。人の顔に失礼なこと言わないで」
「そうだった。お前じゃなかった。申し訳ない」
アリスの顔であり、ありすの顔ではないと言いたいらしい。
いや、私の本当の顔であっても失礼だ。
まあ、このことについては、あとで言葉の暴力をお見舞いしよう。
「急に見たことのないメイドばかりになったから、どうしてかなと思ってただけよ」
哲平は私の頬から手を離して答える。
「ああ、そいつらには今日から別の屋敷に行ってもらうことになった」
「え?」
「いや、俺は女性が苦手だし、公爵家から俺のことを理解してくれているメイドを連れてくることになったんだ。それに、お前の話では今までのメイドはアリスって子をいじめてた奴らだろ? いなくてもいいじゃねぇか」
「違う場所でメイド仲間をいじめたらどうするのよ」
「別の屋敷に行くといっても、メイドとして働けるかは謎だ」
哲平は意味深な発言をし、にやりと笑った。
哲平の部屋は私の隣で、アリスのお兄さんが使っていた部屋だった。
なぜ私の隣の部屋なのかというと、理由は婚約者だから、単純な理由だった。
今お兄さんの部屋に残されていた家具を、わざわざ空いている部屋に移しているから、今は何も置かれていない。
哲平と一緒にやって来た公爵家の使用人たちが、これから部屋の中に家具や荷持を運び入れるそうだ。
哲平を居候させるという必要経費として、公爵家から月々、決まったお金がキュレル家に入ってくるのことになっている。
使用人たちが部屋の中を忙しなく動いているのを眺めながら、哲平が口を開く。
「休み明けから、俺も一緒に行くから」
「どこへ?」
「学校に決まってんだろ」
「ああ、リトグル学園ね」
アリスが通っているのは、10歳から18歳までが通う学園だ。貴族も平民も分け隔てなく一緒に学ぶ、というスローガンを掲げている、とても大きな学園らしい。遠く離れた地域からも通えるように、なんと寮もあるそうだ。
アリスは17歳クラスで、哲平も同じ学年に転入できるようになった。
辺境伯の息子も17歳クラスだったので、哲平はそのクラスに入るらしい。
ちなみに、二人はアリスとは違うクラスだ。
「そういえば制服はあるの?」
「ある。ラス兄さんが手配してくれた」
「あんたのお兄さん、まだ公爵になってないのに、すごい権力者ね」
「そりゃそうだろ。友人が王子だから」
哲平はさらっととんでもないことを言った。
王子が友達って、かなりすごいことなんじゃないの?
部屋の入口で立ったまま会話していると、執事のロッカが焦った顔をしてやって来た。
「お嬢様、ご友人がみえられましたので、とりあえず応接間にお通ししたのですが、よろしいでしょうか」
「友人? ノアのこと?」
日記を読んだかぎり、アリスの友達といえばノアという子くらいしか思いつかないんだけど。
「いえ、ノア様ではなく、アズール男爵令嬢と名乗られたのですが……」
アズール男爵令嬢?
記憶にないわね。
「誰だ?」
「知らない」
哲平が尋ねてきたが、思い出せなくて否定した。
「ありがとう。待たせているのなら行くわ。あ、てっぺ、じゃなくて、テツ」
「ん?」
「暇だろうし、これでも読んでて」
一度部屋に戻り、日本語で色々と走り書きしたノートを持ってきて差し出すと、哲平は素直に受け取ってくれた。
「一人でも大丈夫か」
気遣う素振りをみせる哲平に「大丈夫」と頷いてから、ロッカに連れられ、応接間に向かった。
さあ、アズール男爵令嬢というのが、どんな子かはわからないけど、休みの日にわざわざ家までやって来る、ということは大物ではなさそうね。
一体、何をしに来たのかわからないけれど、今までのアリスだと思ったら大間違いよ。




