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旅路  作者: 風の中で
12/17

12.

8月9日


窓の外からザーザーという雨音が聞こえてくる。時々ゴロゴロと雷も混じっている。


あ…雨か。


ぼんやりと目を開けて窓の外を見る。まばたきをして、体を少し動かして、また目を閉じた。


「うあっ!」


急に上体を起こして窓の外を見る。


ゴロゴロゴロッ――大きな雷鳴が響く。


ザーザーザー! 一瞬で雨脚が強くなった。


素早く起き上がり、窓に張り付いて外を眺める。


「あ……にわか雨だから、すぐに止むはず……たぶん」


---


どれくらい経ったか、ようやく雨が止んだ。


目をこすり、立ち上がって外へ出る。陽の光が雲の間から差し込んでいて、顔に当たる。左手をかざして日差しを遮り、狐芙の家へ向かう。


狐芙の家に着き、掛け錠を外して外の扉を押し開ける。


トントントン……軽くノックする。


トントントン……もう一度ノックするが、誰も出てこない。


「まだ寝てるのかな…」


思って振り返ろうとしたその時――


ギシッ……と扉が開く。


「陌鋒?」


「よっ」


「なんで来たの?」


外の扉を指さす。「昨日、鍵を掛けておいたんだ。お前、開けられないかもなと思って」


「私、バカじゃないんだからね! とりあえず上がってよ」


「おお。足、ちょっとは良くなった?」


家の中へ歩きながら尋ねる。


彼女は首を振る。「右足、腫れちゃってさ。触ると痛い」


「あ…貼る薬とか買ってこようか?」


「え? い、いいよ! そのうち治るって」


「あ…」


足を止めて振り返り、うつむく。


「ん…やっぱり上がらないほうがいいかも? ギルドに行かないといけないし」


「なんで? 雨が上がったばかりで、しかも結構降ってたんだよ。森になんて絶対に入れないよ」


「うーん………」


彼女がうつむく。


「大丈夫だよ! 早く入って!」


頭をかきながら彼女の後ろをついていく。彼女は片足でぴょんぴょん跳ねながら進む。


「あの…支えようか?」


「え?」


振り返って、右手を俺の首の後ろに回し、反対側の肩に置く。俺は上半身を少し低くする。彼女は体重を全部預けてくる。ソファまで支えていき、俺も隣に座る。


「あのね…もう一つ聞きたいことがあったんだけど…」


彼女がうつむき加減に言う。


「なに?」


「昨日、机の上に置いてあったご飯、あんたが買ってくれたの?


「あ…昨日、お前寝ちゃってて、夕飯食べてなかったから買ったんだよ」


「うん…ありがと…」


小さな声で言う。


「あ、いいよ。足くじいたんだろ? 朝飯は食った?」


「パンはちょっと食べた。もうお腹空いてない」


「そっか。じゃあ、家にパンまだある?」


「えっ?!」


素早く顔を上げて俺を見る。


「なかったら買ってくるよ」


「そういう意味じゃないの! もうお金使わなくていいって! バカ!」


「いいんだよ。俺も使うとこないからな」


トントントン――扉をノックする音。


狐芙を一瞥してから立ち上がり、扉を開ける。


「姉貴?!」


「陌鋒!」 ディシアの声が外から聞こえる。


扉を開ける。「姉貴、ヘルクさん、どうしたんすか?」


「狐芙の様子を見に来たんだ。食い物とか買ってきてな」


ディシアが言う。


「ああ…お前は果物が好きじゃないから、それは買わなかった。他の食い物と朝飯を買ってきた。お前はもう朝飯を食べたのか?」


ヘルクが買ってきたものを全部小さな机の上に置く。


「朝はパンを少し食べました。うん…これ、お昼にします」


「うん」


ヘルクがうなずく。弁当箱が淡くオレンジ色に光る。


「保温魔法をかけておいた。昼まで冷めないはずだ


「ありがとうございます~ あっちに椅子がありますよ! 陌鋒! 早く取ってきて姉貴とヘルクさんに座ってもらってよ!」


狐芙が部屋の隅を指さす。


「おう!」


隅から椅子を二脚持ってきてディシアとヘルクに渡す。


ディシアとヘルクが椅子に座り、続ける。


「そういえば狐芙、足の具合はどうだ?」


「うん…触ると痛いけど、ちょっと良くなった気がします。何日かしたらまた依頼に行けます!」


「ああ…弁当箱に魔法をかけるのが早すぎたな」


ヘルクが横の弁当箱を見て言う。


それから彼は狐芙に向かって手をかざす。狐芙の体が淡いオレンジ色に光る。


「わあ…治療魔法ですか? ヘルクさん、治療魔法も使えるんですか?」


狐芙が言う。


「少しだけ習ったことがある。初歩だ。できるのは痛みを和らげる程度だ」


ヘルクが言う。


しばらくしてヘルクがもう一度弁当箱に保温魔法をかける。


「時間は長くない…冷めないといいんだ」


ヘルクが顎に手を当てる。


「ああ…私も魔法習いたくなっちゃった」


狐芙が言う。


「習いたいなら、俺も教えられるぞ」


ヘルクが言う。


「それじゃあ、面倒じゃないですか? 陌鋒! なんであんたは魔力がないのよ。あんたが使えたらよかったのに~」


狐芙が言う。


「俺も習いたいよ…でも、多分一生魔法は使えないからな」


「俺も魔法は得意じゃないんだ」


ディシアが言う。


「姉貴と俺は違うっしょ? あ! そういえばヘルクさんが魔法を使うとき、魔法陣が出ないのはなんでですか?」


「それは完全魔法使いの能力だ。陌鋒にも、魔力がなくても使える魔法というものが存在する。だけど――」


ヘルクがうつむいて考える。


「今の俺はほとんど魔法を使えない。だから教えられることはあまりない。基本的な魔法陣の作成と、今の俺にまだ使える魔法以外は、自分たちで学ぶしかないだろう」


「まあ、ヘルク先生をがっかりさせないようにしろよ」


ディシアが言う。


「ふん…ここに一人、もう俺をがっかりさせているのがいる」


ヘルクが軽く笑う。


俺は彼を見て頭をかく。


「それは俺が魔法が苦手すぎるからでしょ。だからいっそ学ぶのをやめたんだ」


ディシアが頭をかく。


「え?! ディシアさんなんですか?!」


狐芙が驚く。


「俺かと思ってた」


頭をかく。


「そうよ! 私も陌鋒だと思ってた!」


狐芙が続ける。


「陌鋒が魔法を学べない最大の理由は魔力の問題だ。しかしディシア、あの頃…俺たちが出会ったばかりの頃――」


「なんでそれを言うんだよ?!」


ディシアが顔の上半分を覆う。


「話してよ!」


狐芙が興奮して言う。


ヘルクがディシアを見上げる。ディシアが手を広げる。「まあ、聞きたいって言うなら話してもいいぜ」


「あの頃、俺たちが知り合って一ヶ月ほど経ったころだ。ディシアが『魔法を習いたい』と言ってきて、俺に教えてくれと。彼女には魔法の基礎があったので、簡単な生長魔法を教えた。結果は…村の南にある、お前たちがいつも訓練してる大きな木、知ってるな?」


「知ってる!」


二人同時にうなずく。


「まったく想像もつかないよ。草を生長させる魔法でどうやって木が一本育つんだ」


「俺は最初、治療魔法を習いたかったんだ。子供の頃に誰も、自分がこんなに魔法が苦手だって教えてくれなかったんだ。魔法ってそんなに難しいものなんだと思ってたよ」


「どれだけ魔法が苦手でも、立派な魔法使いにはなれる。狐芙、何かやってみたい魔法はあるか? 俺にできる範囲で教えよう」


「まだ決めてないなぁ…陌鋒は何か興味ある魔法ある?」


「それを俺に聞くなよ…全部の魔法に興味あるからな」


顎に手を当てて言う。


「ふんふん~ あんたはバカだから魔力がないんだよ。やっぱりまずは治療魔法からかな?」


彼女は背もたれに寄りかかる。


ヘルクがうなずく。「治療魔法は他の魔法より少し難しい。だが時間はたっぷりある。基礎をしっかり固めよう」


「俺も魔法習いてぇな~」


ソファに寄りかかる。


「ほーほー…私が魔法を覚えたら、その感覚を教えてやるからな!」


「ヘルクさん! 彼女には教えないでください! お願いします!」


「ヘルクさんはあんたの言うことなんか聞かないよ! ね!」


「お前たちなあ…」


ヘルクが言う。


---


しばらくして。


「さて、俺たちもそろそろ行くか。陌鋒も帰るか? 今日はもう依頼を受けなくていい。明日からでいい」


「陌鋒、もう少し居てよ! まだ用事があるんだから!」


「あ…ああ、いいよ」


ディシアが軽く笑って続ける。


「陌鋒、狐芙の夕飯を頼めるか?」


「いいっすよ。任してください」


「じゃあ頼んだ。狐芙、ゆっくり休めよ~ また来るから」


「はい」


ディシアとヘルクが部屋を出る。俺は見送ってからソファに戻る。狐芙はディシアたちが持ってきたものを見ている。


「で、何の用事って?」


「別に何もないよ~ なんでそんなに急いで帰ろうとするの? はい」


狐芙が袋から干し肉を一本取り出して俺に渡す。


「あ…姉貴たち何買ってきたんすか?」


干し肉をかじりながら言う。


狐芙は干し肉をくわえたまま袋から壺を取り出す。


「これ何?」


壺を膝に置いて蓋を開ける。


「うわっ!」


狐芙が驚く。


「何だそれ?」


彼女は指を壺の中に突っ込み、中身を少しすくって口に入れる。指を舐めながら微笑む。


「甘い~ ああ~ 姉貴たち、こんなのまで買ってくれたんだ」


「だから何だって?」


中身を覗き込もうとすると、狐芙は壺をどけて見せない。そして再び指を壺に突っ込む。その指を俺に向ける。


「あの…スプーンを取ってくるよ」


「垂れるよ!」


指を震わせる。


「いや…その…いや…あ…」


俺は狐芙の指をくわえて、すぐに離す。手で下半分の顔を覆い、手の甲で口を隠す。


「手、洗ったし」


彼女は耳をピクピクさせ、尻尾も勝手に揺れる。


「そういう意味じゃないって!」


「ふふん、美味い?」


「結構甘いな」


「へへ、照れた?」


狐芙が笑う。俺は少し顔をそらして彼女を見る。


「へへ、これね、蜂蜜なんだ。こんな小さな壺でたぶん50銅貨くらいするね」


「そんなにするのか?」


「もう食べる?」


また指を壺に突っ込む。


「いいよ」


「なに、私の指が汚いって?」


彼女はその指を自分の口に入れる。


「違うよ、ただ…その…スプーンがあればいいなって」


「へへ、照れた!」


「照れてない!」


手の甲で口を隠す。


「ふんふん~」


また指を俺に向ける。


「狐芙!」


「落ちちゃうよ! 垂れるって! 受け止めてよ!」


「狐芙!!!」


---


しばらくそうして遊んだあと。


狐芙がパンを一枚手に取り、スプーンでたっぷりの蜂蜜をすくってパンの上に塗る。隅々まで丁寧に塗り広げてから、俺に差し出す。


「あ…お前は食べないの?」


蜂蜜たっぷりのパンを狐芙から受け取る。


「あんた食べなよ。私は姉貴が持ってきてくれたご飯を食べるから」


うなずいて、蜂蜜たっぷりのパンを大きくかじる。


「美味いな~」


口の中のパンを噛みしめながら、中の甘さを楽しむ。


「一口ちょうだいよ!」


「あ…もう一個作ればいいじゃん…」


そう言いながらパンを彼女の口元に持っていく。


「あむ」


狐芙がパンの別の角を大きくかじる。


「美味しい~~~」


隣に座って彼女を見る。そのままパンを食べ続ける。彼女もディシアたちが持ってきた昼飯を食べ始める。それはもう切り分けられた焼きポークステーキとご飯だ。


彼女はフォークを手に取り、一口大のポークを刺す。


「あ~ん」


手をポークの下に当てて、肉汁が床に落ちないようにしてから、フォークを俺に向ける。


顔を上げて狐芙を見る。彼女の耳が微かにピクピク動いている。


「あ~ん」


フォークを微かに揺らして、もう一度声を出す。


少しうつむいて、彼女が差し出したものを食べる。


「美味いか?」


食べながら左手を広げて答える。「美味いよ。それにまだ温かい」


「へへ…そう?」


彼女も一口サイズのポークをフォークで刺して口に入れる。


「うわわ~美味しい~」


---


時間はあっという間に過ぎる。


昼食を終える。


「じゃあ、帰るわ」


「もう帰るの?」


「もう結構長く居たし。ゆっくり休めよ。また後で来るからな」


「あ、そうだ。洗った弁当箱、台所にあるから。自分で取ってね。そうすれば新しいのを買わなくて済むから」


洗った弁当箱を持って、扉の前に立つ。


「夜、何か食べたいものある?」


「何でもいいよ。バイバイ」


狐芙が片手を挙げて別れを告げる。


「バイバイ」


返事をして部屋を出る。外の門に掛け錠をかける。


ゆっくりと道を歩き、家へ向かう。


---


時間は過ぎ、空には夕焼けが広がっている。弁当箱を持って狐芙の家の前に立つ。


「狐芙!」


ドアをノックし、少し待ってから扉を押し開ける。


「なんでこんなに遅いのよ~」


彼女が部屋から出てくる。


「これでも遅くないだろ?」


慌てて彼女を支え、ソファまで連れていく。


「一人で家にいるとつまんないんだよ~」


狐芙が言う。机の上に飯を置き、俺も隣に座る。


「何日かはかかるかもね~」


狐芙が続ける。


「しょうがないよ。何日かはゆっくり休め。何買ったと思う?」


「うーん…今回は豚の煮込み?」


「自分で見てみろよ」


彼女が弁当箱を開ける。


「牛肉? なんでこれ買ったのよ~」


「あ…好きじゃなかったのか?」


「これ買うくらいなら豚の煮込みを買ってよ! これ、豚肉より10銅貨も高いんだから! そんなに私のためにお金使わなくていいのに…」


狐芙はうつむいて弁当箱を見つめ、小さな声で言う。


「いいんだよ。お前もいつも世話になってるからな」


彼女は素早く顔を上げて俺を見る。耳をこちらに向け、指を突き出して叫ぶ。


「誰があんたの世話なんかしてるのよ! バカ! バカ!!! 誰があんたの世話なんか――」


だんだん声が小さくなり、うつむく。


「まあいいから、まず飯食おう」


彼女はうつむいたまま何も言わず、そばにあったフォークを手に取り、一口大の牛肉を刺す。そして俺に向ける。


「いいって、自分で食べられるから。なんでいつも俺に食べさせるんだよ?」


「バカ! 私、別にあんたを心配してるわけじゃないんだから! ただ…あんたが買ったものだから…食べさせてるだけよ!」


彼女は少し首をかしげて、チラリとこちらを見る。俺は彼女を見てまばたきし、口を開けて彼女が差し出した牛肉を食べる。顔をそらして噛みしめ、手で口を隠す。彼女を見ると、まだ食べていない。少し首をかしげてこちらを見ている。


---


夕飯を食べ終えるまでに、彼女はまた何度か牛肉を食べさせてくれた。


「じゃあ、帰るね。狐芙、ゆっくり休めよ」


立ち上がって言う。


彼女は少し顔を上げて俺を見る。


「明日…明日の朝も来る?」


顔を上げて考える。「姉貴も許してくれるんじゃないかな…」 うなずく。


「じゃあ…また明日ね!」


狐芙が言う。


「ああ、また明日。バイバイ」


「バイバイ」


狐芙の家を出ると、空はだんだん暗くなっていく。もう輝きを失った太陽を眺めてまばたきし、道を歩きながら進む

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