ep84 9回目のバースディ 後編
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酔っ払った祖母と祖父と共に母などアーシュレイ侯爵家の大人組は、家令のセバスや執事長のアランにフォローされながら、賑々しくサロンの扉から出て行った。
見慣れぬ祖母の剣幕にジルを始めとしてデジレ姉弟、コレット兄妹、エミールはポカンと口を半開きにして呆然とした侭、サロンチェアーに座っていた。
祖母と並んで座っていたローランと祖父の近くに座っていたジェロームは、自分のグラスを持ち、ジルとわたしの隣の席へと何食わぬ顔で移って来た。
淡い水色の猫型精霊アルプは、ジェロームの傍でフヨフヨ浮かんで戯れているし。
楽し気に耳打ちして来たローランの話を纏めると、私のバースディ・パーティーが始まる前に、二階のサロンで、祖父母とジェロームとローランの4人で、良い具合に飲み交わして居たそうだ。
そこで祖父母たちから、ジェロームとわたしの婚約を勧められ始めたので、ローランは詐欺師ぶりを発揮し、話題を逸らしながら(主にジルの祝福関係の話だったそうだ)、セバスが心配する位の酒量を二人に呑ませたとのこと。
いつもより酔いの早かった祖母、、、。
やっぱり犯人はアナタだっとのね、ローラン。
綺麗な薔薇には棘があるとは言うけれど、聖職者の癖にローランは、ちょっとヤリ過ぎでしょうが。
祖母は何時も上品なアルカイックスマイルを浮かべ、夏でも流行のリネンのデイドレスは着ずに、ブロケード(金襴)のドレスで身を包む無口なザ・貴婦人。
それをあれ程に酔わせるなんて、、、。
素面に戻った時の祖母の心情を思い、居た堪れなさにわたしは、ついつい胸の前で手を組み、ソラリス神に祈っていた。 (どうぞ祖母の御心がソラリス神の御業で守られますように。)
その様子と隣で見ていたローランは、左手の掌を開いて見せて、小さな寄木細工の宝飾箱を右手でそっと掴んで、私の前にトンと置いた。
「9回目のお誕生日おめでとう。此れは僕とジェリー(アルプ様)からのプレゼントだよ。」
そう言うとローランは、紫眼の左目を器用に閉じて、口の端を上げ、悪戯っ子のような笑みを浮かべた。
わたしと神聖言語で制約を結んでから、麗しい容姿の表情が豊かに為った胡散臭いローランさまは、何を企んでいることやら。
それでなくとも唯でさえ外見は、飛び切り美形なのに、こんなにホロリとする優しさとか見せられたら、わたしが惚れたら如何して呉れるのですか?
攻略対象者でも無いローランが、途轍もなく美麗なビジュアルな上に、内面までイケメンとかって、一体わたしを如何したい?
然も神の花婿で或る聖職者、、、何というイケメンの無駄遣い。
まあローランに惚れた途端、わたしが失恋しちゃうのはワカっているので、そんな無駄なコト等をする気もないけどね。
バースディ・プレゼントが嬉しくて、ニマニマと口元が緩みそうに成るのを、わたしは気合でムギュっと唇を結び直した。
必死で無表情を作ったわたしは、テーブルの上に置かれた小さな寄木細工の宝飾箱を手に取り、上蓋を開いてみた。
すると艶のある白いシルクのサテン地の上には、極めて高い透明度の磨き抜かれたティアドロップ型の極小の石がチョコンと鎮座していた。
極小の石の内側から、鮮やかな水の色に発光していた。
宝飾箱の中敷きに敷かれた白いサテンへと、鮮烈な青の光が映り、水の色の輝きを反射させた。
「うわあ、綺麗。」
「初めて見る宝石だわ。」
「姉さまに似合うと思いますよ。」
「蛍光石って云う石だよ。 水の精霊王の涙が固まって出来たと云う伝説が或るモノなんだ。 オリビアは水属性の祝福だっただろ? 守護石として持っていると良いよ。」
「、、、ローラン先生、ありがとう。 実は何だか凄いモノですよね?この石って。」
「さて、どうだろうね。 オリビアはどう思う?」
ローランは、美しい紫眼を、ジェロームの近くで漂っていた猫型精霊アルプへと、笑みを含んで向けた。
ジェロームの柔らかな桜色の短い頭髪の近くでフヨフヨと浮かぶペルシャ猫型精霊アルプたん。
わたしとローランの視線に気付いて、サッとジェロームの背後に隠れてしまった。
(アルプって、そんな素早い動きも出来たのね!)
等というツッコミは、一先ず置いて於く。
きっと此の蛍光石は、猫型精霊アルプからの贈り物なのだと思う。
わたしが一時掛けていたメガネのレンズと似た透明度を感じるもの。
(ありがとう、アルプ。)
わたしは声に出さずにアルプが見ていることを願いつつ、唇を動かした。
「折角の蛍光石だから、そうだね。 わたしの伝手でリビーに似合う宝飾品をハプスト(宝飾職人)に作らせよう。 それがわたしからリビーへの誕生日プレゼントだよ。 で、良かったよね?ロロ。」
「ゴホ、ゴホっ。」
「(ホントにロロは捻くれているなあ。)ホレ、水だ。」
ジェロームから手の内を明かされ、焦ったローランは、飲んでいた白ワインに咽てしまったようだ。
わたしは、ジェロームから手渡されたグラスの水に焦って口を付けるローランに可笑しみを感じ、思わずホッコリとして笑みを溢した。
「あっ、私もプレゼントが或るのよ。お誕生日おめでとう、リビー。」
「おめでとうございます、オリビアさま。 わたしは此れを。」
そう言ってコレットは、マホガニーのハガキ大サイズのフレームに、繊細なレイチェルのレースでネモフィラの花束を作り、ゼニスブルー色したベルベットの台地に乗せたモノをプレゼントしてくれた。
此のレイチェルと呼ばれるニードルポイントレースって、作るのが無茶苦茶難しいし、時間が掛かるのに、、、絶対コレットはレース職人に成れるよ。 ピンで帽子に付けたりするのだけども、わたしは勿体ないので部屋に飾りますよ。
わたしは嬉しくて、コレットに満面の笑みで感謝の思いを伝えた。
「ありがとう、コレット。早速部屋に飾らせて貰うね。」
「オリビアさまに喜んで貰えて良かったです。」
「うっ、リビー。 コレットの後に出したくなかった。」
そう言ってデイジは、折り畳んでいたキャンパスの布地をわたしへと、押し付けるように渡してくれた。
デジレから押し付けられた畳まれた布を開くと、此の世界には無い桜並木と、ローランが暮らす古い礼拝堂が描かれていた。
「、、、懐かしい、、、。」
此の世界でわたしが〔サクラ〕と呼んでいた花は、純白でサクラと同じ5枚花弁。そして花が纏まって咲く桜桃だ。 チェリーは疲労回復などの薬用に重宝されている。
虫が付きやすいのは〔サクラ〕と同じ。
そういえば昨年の晩春に「薄紅色のサクラ並木が見たいなあ。」って、デジレに零していたっけ。
「ほら、リビー。此処が持ち手になって、内側にポケットが付いて居るの。」
わたしがしみじみとデジレの呉れたキャンパス地を広げてサクラ並木に感銘を受けていると、デジレの小さな手が伸びて来て、ピラリと同じキャンパスの布地の紐が二つぶら下がって居たのを掴んだ。
「おおー、トートバクか。凄いじゃん。ありがとう、デジレ。」
「へへ。どういたしまして。此のサクラ並木は、リビーのお気に召しまして?」
「うんうん。勿論だよ、デジレ。」
どのプレゼントもわたしへの思いがいっぱい伝わって来て、胸の奥がホコホコしてきた。
只まあ、デジレのトートバックは額装師に頼んで、油彩画として楽しませて貰おうと思っているけれど。
デジレは忘れているかも知れないけれど、一応わたしって侯爵令嬢なワケよ。 そんなわたしにトートバックの使い道ってないからね。
って、そんなコトを考えていると、リーシェが手を振り、ジル、セルジュ、エミールに合図を送り、ユリウス聖歌を謳い始めた。
澄んだボーイソプラノの四重奏は、広いサロンの室内に美しく響き渡る。
其処にジェロームとローランの声が入って行った。
すると途端に荘厳なミサの合唱曲へと変わり、信仰と祈りと希望に満ちたモノになっていった。
ああ、わたしは今、皆に慈しんで貰えている。
前世の記憶を取り戻してから2回目の誕生日。
そしてわたしが誕生してから9回目の誕生日は、弟と友人たちからの愛に満ちた祝いの日となった。
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