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ep83 9回目のバースディ 前編


◇◇



やっと祖父が王都から戻り、西館1階の応接室で、わたしの9回目になるバースディ・パーティーが開かれた。 家族たちとの少し贅沢な昼餐かな?



三つ並んだ大きな額縁のような窓からは、冬枯れで茶や焦げ茶色に染まる中庭が見える。窓の外の空は、重々しい雲が低く垂れ込め、濃い灰色。

油断すると気持ちがメランコリーに囚われテンションがローに成ってしまう。


それを防止するため、、、では無いけれど、わたしが部屋に入った時には、ブラウン系のダマクス柄の壁に取り付けた棚に置いたキャンドルやランプ、そして天井から吊り下がっている豪華なクリスタル・シャンデリアには、煌々とした明かりが灯されていた。


そしてメインテーブルやサイドテーブルには、太陽を思わせる暖かな黄色の黄水仙やミモザの花々が飾り付けられている。



此の三ヶ月でプラチナブロンドにすっかり白い髪が増えた祖父ですが、それはそれで渋みが増してクールなシニアのイケ(じじい)と成っていた。

威厳マシマシだった強面感が和らいで、わたしもビビらずに話しかけ易くなった気がする。



上品な祖母と共に居る姿も似合って見えた。


二人とも白い頬がほんのりと赤く染まって、珍しくご機嫌な笑顔を浮かべていた。





そしてわたしの部屋に置かれていたおニューな家具(アンティークで或るけれども)は、やはり祖父(アーシュレイ侯爵)祖母(アーシュレイ侯爵夫人)からの誕生日プレゼントでした。 何やらカナーン王国時代に作られた良い出物情報を聴き、思わず目を惹いたアンティーク家具を修復し揃えさせたそうです。

神聖ロベリア教皇国の影響を受けたルネサンス様式なのだとか。

カナーン王国期の物は、「余り現存していないので、大切に使うように」と祖母から微笑みながら注意をされちゃったのですが、そんな貴重な物を9歳の子供に使わせないで欲しいです、ハイ。

愛が重たいって、こう時に云うのかしら?



応接用のサロンで私を祝って呉れて居るのは、祖父と祖母。 そして(クラウディア)ジル()にローランと飛び入りのジェロームが同じテーブルに着いた。

でもって心友のデジレにコレットとセルジュにエミールとリーシェ少し離れた扉側のテーブルへ座った。

流石に気を使いながら自分のバースディを過ごしたくないので、クレール夫人の招待は見送りました。


祖父や祖母から「9歳、おめでとう。」と、祝いの言葉を貰って、皆でワインで乾杯をした。

そして青みがかった白いテーブルクロスの上に料理の皿が並べられた。


たっぷりのバターとハーブを使ったニジマスのムニエル。そして低温の油で煮た鴨のコンフィなどなど。冬用の保存食と川魚を使ったいつもより少しリッチな昼食なのだ。

ローランとジェロームのリクエストで、「今年はスイーツ少な目で食事を中心にして欲しい」と、シェフにお願いして置いた。 決してローランへのワイロではないわよ? 疫病を西方の川にと入らせないよう、教会上層部へと知らせて呉れたローランへのお礼だったりするけれね。


でもまあローランは、専ら白ワインとクリーミーな白カビのチーズを食べてたりしてるけども。

こんがりジューシーな鴨肉は、ジルやセルジュ、エミール、リーシェがモリモリ食べているから良いのですけどね。



今年は、ジル(ジルベール)とセルジュが7歳になるので、祝福の儀を迎えるため、その話題で盛り上がった。 と云っても、ジェロームに寄宿舎でどんな暮らしをしているのか、等の質問コーナーになっていたのだ。



神学校では、早朝起床後に朝の祈りを捧げ、聖書の黙想を行う。ミサを行った朝食後に神学校の講堂で各属性魔法を担任教師から学ぶ。 そして昼食後に鍛錬を行い、水で身を洗い清める。各聖堂によって泉だったり川だったりするらしい。 聖堂のある場所には大抵水場が或るのだとか。


そして夕食を摂り、夕の祈りを捧げ、聖書の勉強会を行い、黙想後に就寝。



寄宿舎は一部屋に2~4人で過ごし、上級生から寄宿舎や神学校・教会のことを学ぶそうだ。




ジェロームの話を聴きながら、弟のジル(ジルベール)は、好奇心溢れる仔猫のように空色の目をキラキラさせている、、、けれども、、、大丈夫なのだろうか?

此れで祝福を得れなかったから、滅茶苦茶にジル()が落ち込みそうだ。

「ジルは間違いなく祝福を得れるよ。」って言ってる祖父や祖母たち。その謎の自信は何なの?


全く期待して居なかったわたしが祝福を得れたから、出来の良いジルなら間違いないとでも、祖父母たちは考えて居るのだろうか?


『祝福が得れるかどうかはソラリス神の思し召し』って、神父さまたちの説法で話されていた筈なのに。

って云うか、ニコニコ笑んでいるローランは、せめて期待値上げ過ぎている祖父母の頭を冷やして呉れないかな。


ゲームシナリオだと、攻略対象者のジルベール()・アーシュレイって、祝福持ちじゃ無かったのだけどなあ。 まあそれを言ったら悪役令嬢のオリビア(わたし)・アーシュレイだって、ゲームでは祝福など無かったワケですが。


(クラウディア)は少し不安そうにパールグレーの瞳を陰らせて、ジルとわたしに目を向け、(気にしないように)というように、頷いてから首を小さく左右に振った。


そして母は、チラリと祖父母の傍に立つセバスとアランをわたしに目で示した。

セバスの手には新たなロゼワインのボトル。そしてアランの手には白ワインのボトルがあった。

アレ?

二人の前には赤ワインが入った大きなデキャンタ―が在った筈なのに見当たらない。

もしかしなくても祖父母の2人は、飲み過ぎてたりして、気が大きくなってたりするのですね。


わたしが応接用サロンに入った時、妙にご機嫌だった祖父母(アーシュレイ侯爵夫妻)は、既に誕生会が始まる前から、二人でワインを飲んでいたみたいだ。


はぁぁ。

今更その気になっているジル()に祝福を得れなくても凹まないで、とも言えないし。

全くもう!!此の酔っ払いのジジババはっ!なので或る。











実の所ホントは、ご機嫌な祖父にフルーブ4世の話を尋ねて見たかったのだけど、如何(どう)やら愛妾(マノン)ちゃんの話は内密にしてるっぽいので、良い子のわたしはグッと我慢した。




出突っ張りだった祖父が、少し心配になり、わたしはフルーブ4世(国王陛下)のコトを変に情報ツウなローランに訊ねていたのだ。



「ローラン先生。 教会法違反で、陛下(フルーブ4世)に何か罰とか下されたりしますか?」


「ああ、オリビア。 別に教会(ユリウス教)側としては、隠す心算で枢密院が動いている此の件に、此方(こちら)から事を荒立てたりする心算はないよ。 表立って堂々とフルーブ4世(国王陛下)が教会法を破らない限りね。」

「そう言えば、昔、居たね。 ロベリア教皇に離婚させろと自国の司教を使いパシリにした国王が。 今その国は、オベリスク帝国に吸収されちゃってけどね。 あっ、ロロ(ローラン)は知らないか。」

「一応は記録を読んでいるから知ってるよ、ジェリー(ジェローム)。」


と、まあ酷く軽い調子で、ローランとジェロームが話していた。


美麗な表情を変えずにローランは、ユリウス教会が聖典で禁忌と定めていることは、(なん)と『祝福の儀の時にソラリス神の聖名に於いて制約を掛けている』等と、わたしの前でブッチャけやがった。


(え!?、幾ら大浄化を防ぐためだからって、其れってヤバいコトだよね?)


わたしは、そう叫びそうに為ったけども、声が封じられてしまっていた。

そうだった。

ローランと私が結んだ魔法契約は、ユリウス教への疑義を口に出して呈するコト等も出来ない制約が、かかっていたのだった。


(チッ!) 


わたしは心の中で舌打ちをした。

わたしの声が出なかったコトに気付いて、ニコやかに微笑むローランの細めた紫眼を、悔し紛れにわたしは睨み返した。




そんな胡散臭いローランの話の続き──────


世俗寄りの教義(教会法)は、大浄化後のモラル無き弱肉強食時代の産物らしい。

現在は、各国それぞれに教会法を模倣した世俗法(王国法・帝国法)があるので、それ程、ユリウス教の本部では、教義審問官により厳しいチェックを行っていないと云う話だ。

〔教義審問官は、教会の捜査官って感じかな。 異端審問などの調査権限を与えられているため、貴族からも恐れられている。 聖騎士を動かせる権限を持つ。〕


但し、あからさまな教会法への違法行為は、信仰の堕落の要因になるため、見せしめ的な処罰を下す必要が出て来るそうな。


「ええー! ならローラン先生がお祖父さま(アーシュレイ侯爵)に、そう言って下さったら良いのに。 恐らくお祖父さまたちは、陛下(フルーブ4世)の教会法を破ったことで、陛下がユリウス教から破門になってしまうコトを恐れて、日々枢密院会議を開いて居たのだと思うの。 ローラン先生の一言でお祖父さまたちは、とても助けられます。」


「そんな堕落のすゝめを聖職者である僕がする訳ないだろう。 そこはシッカリと臣下の者たちが責任を持って隠して貰わないとね。 オリビアだってフルーブ4世(国王陛下)が未成年の少女との不適切な関係の噂話など耳にしたくないだろ?」


「そうそう、ロロ(ローラン)に言う通り。 仮にもソラリス神の使徒たるロベリア教皇猊下が、ソラリス神の名の下に、フローラル王国の王位継承をフルーブ4世(国王陛下)へと宣言したのだからね。

 本来なら其の名に恥じぬような国王たらんと、日夜努めるべきなのだから。 衆生しゅじょうは、高みに或る世俗の王の姿を通して、視えぬソラリス神を見るものだからね。」



相変わらずジェロームの物言いは、声は少年らしいのに10歳の神学生と思えない口調だった。

10歳のジェロームと20歳(ハタチ)過ぎのローランは、年齢を入れ替えた方が良い気がしてしまう。


でもってローランは「国王の情報管理すら出来ないような側近に囲まれた王は、早晩倒れて国が亡くなるよ。」等と、恐ろしいコトを明るい声でわたしに告げる。

そういや2年前に亡くなったラクール前宰相(ジェロームの祖父)が居た頃は、フルーブ4世(国王陛下)の愛妾の存在など知られるコト無かった気がする。


いや正確に言えば、別に今でもフルーブ4世(陛下)の愛妾の存在は、世に秘されて居るのですがね。

今回は、運悪く狩猟大会に出向いていたアンゼル枢機卿の知る所と成ったから、世俗に興味の薄いローランとジェロームも知ってしまっただけのようだ。



この頃、わたしやローランたちは、フルーブ4世の愛妾マノンちゃんの実年齢など知らなかった。 だから13歳になったらマノンちゃんは、どなたかに名だけ嫁がせて、愛妾になるものと思っていたのだ。 なので数か月くらい秘して居れば、問題ないと思ったりしていた。 

一緒に礼拝堂の一室で話していたローラン、ジェローム、そしてわたしの3人共、比較的気楽にマノンちゃんのコトを考えて居たのだ。







皆の食事が終わる頃、祖母(ミッシェル侯爵夫人)の酔いが最高潮に達して、溜まりにたまったクレール夫人への愚痴が始まり、それが怒りへと代わって、祖父(アーシュレイ侯爵)へと向かった。


「そもそもレイモン(アーシュレイ侯爵)! ナゼ10歳に満たないオリビア()を王妃殿下の茶会へ出す約束などしたのですか? 社交慣れしていないクラウディア()オリビア()を任せる心算だったのですか? 一人で勝手に決めてしまわれて。 それでなくても、ただでさえオリビアは、身体の成長が遅くて、フォーマルなドレスは体形と合わず、茶会用のデイドレスを作るのにも苦労しているのに。 王城の庭園で恥を掻いたら一生モノの瑕疵になる場合だって或るのですよ。  おまけにあんな下品な女(クレール夫人)を家庭教師だと言って連れ帰ってきて。 オリビア()の教育には悪いし、クラウディア()にだって申し訳ない状態なのよ、レイモン()! それにロベール(息子)のことだってそうよ。 私に何一つ相談もせず勝手に全部手配してしまっている。 本当に勝手な事ばかり、、、、、、」



祖母は、祖父に向かって、燃え上がる怒涛の口撃を続けた。

何だか常々言いたいコトを祖母は、耐えていたみたいで、ピンクの頬を青くしつつ、項垂れて行く祖父へ追撃を仕掛けて行った。


偶には感情を爆発させることって大事だよね。

と思いつつも、きっと素面に戻ったら、祖母は後悔しちゃうのだろうなと、わたしは考えてしまい、母の耳元へ身体を寄せて、「お祖母さまは、そろそろ部屋に戻られた方が良いのでは?」と囁いた。


わたしには、幾度か経験が或ったのだ。

酔った時のテンションの侭で色々なコトをしでかし、素面に戻った翌朝、頭痛と共にメンタルがフルボッコになってしまい、ベットで独り沼打(のたう)つ羞恥を。



此の羞恥の記憶は、前世に於いて来た侭で良かったのに。


そんなコトを思いつつ、祖父と母、セバスに支えられながら、部屋の扉から出て行く祖母をわたしは、そっと見送っていた。


わたしは羞恥の記憶を脳裏に浮かべた侭、9回目のバースディは、こうして過ぎて行った。





◇◇











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