↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

79/87

ep78 第二シガールーム


◇◇


今日の午後からクレール夫人のマナー教室だったのだけど、領地へ戻る船の準備が三日後に出来ると話した。 すると、「如何しましょう。アーシュレイ領へ行く前にお友達と会いたかったですわ。」そう残念そうにクレール夫人は表情を曇らせた。そこでわたしは母に相談して、「どうぞどうぞ。」とクレール夫人に友人と会うことを勧め、気持ち良く時間を譲り、午後の授業をキャンセルした。


実の所、薄幸美人なクレール夫人から受けるマナー講座は、生臭く(下ネタ)て苦手だったりするのだ。

それは別にわたしがピュアピュアな精神ってワケでなく、おっとりとした喋り口調でクレール夫人が話す7大公爵家の先代当主や現当主の下世話なネタに、どう対応して良いのか分からないからだったりする。


唐突にクレール夫人がサロンで「離婚()()()或るお方の話なのですけれど、、、」って話し出した時は、ヒヤリとして心臓に悪かったのだ。


「離婚()()()()。」ではなく「離婚()()()。」て、コナール公爵しかいないじゃなないですかっ!!クレール夫人!










ユリウス教を国教としているフローラル王国では、原則的に離婚が許されていない為、離婚が殆ど無い。 離婚が許されるのは、婚姻して3年経っても懐妊の兆しがない場合。

そして妻の不貞があった場合だ。


後者は、妻サイドからのお家乗っ取りと見做され、世俗的なペナルティが重い。

離婚申し立てが、今まで一件もないのが夫は同性愛であったってモノね。


特にフローラル王国では、女性に対して厳しい気がする。

その原因の一端がフルーブ1世の発言だった。

フローラル王国を建国したロイス・ロワ・フルーブ1世には、『そのような意図がなかった』と、ミランダ先生の楽しいフルーブ1世の歴史を習ってそう思う。


フルーブ1世は建国以前にラダリア王国の王女と結婚されていた。 当時フルーブ1世は命の危険があった状態(カナーン王国を滅ぼそうと画策していた最中)だった為、ロベリア教皇の元で限られた者のみ立ち会った正式な婚姻式だった。


アレコレありやっとフルーブ1世たちが、カナーン王国を廃し、フローラル王国が建国された。

そして建国を祝う臣下の集ったセクティウス大聖堂で、フルーブ1世は7歳なったアンリ王太子(フルーブ2世)を紹介し、こう宣った。


〔これよりフローラル王国では、ロベリア教皇猊下から父子の血の正統性を(しる)して頂き、祝福を授けられし者が、次代のフローラル王国の国王として継承し王太子となれる。〕

こうしてフローラル王国の柵立儀礼の在り方が決まった。


そして王妃の出産の立ち合いは、限られた者のみとなった。

フルーブ1世になるまで王妃の出産は、完全な「国家の重大事」として多数の貴族や関係者の前で公開して行われていた。世継ぎの誕生を確認し、すり替えを防ぐための厳格な伝統だったのだ。


だがしかし、ロベリア教皇は魔力を視、正しき血脈であるかどうか判定が出来ることを知ったフルーブ1世は、立太子の礼で遣って貰うことを決めた。

そして再婚時(初代王妃は建国20年後に逝去された。)には、閨の儀もなしにした。

衆人環視の中で新妻との初Hをしたくなかったのが理由だそうだ。但し、閨の儀は個人の趣味なので子孫に任せるとしたらしい。 が、子や孫、曾孫まで閨の儀は非公開だとか。



「余の血であれば、誰が産もうと構わん。それにヤッタ相手と日時くらいは余が覚えておるしな。」ってなコトをブッチャけてしまった。 いえ言葉は歴史書に記されているくらいだから、もっと丁寧で改まってるけど、軽く要約してみた。



この台詞を残したばかりに、益々、女性の浮気に対して、世間がより一層厳しくなったのだ。

まあ、カナーン王国末期は乱れに乱れていた反動もあるのだろう。

浮気を婚姻審問に訴えられ、事実認定されたら妻の生家から夫に賠償した挙句、離婚の上で妻は平民落ちですよ。(王国法では平民の離婚は無いのだ。どうしても婚姻継続が嫌なら修道院か他国に逃げるしかない。)


わたしは衆人環視の中での閨の儀や出産の儀を無くしたフルーブ1世に拍手喝采を送っていたのに、誰が産んでも良いとか、ちょっと女性を馬鹿にしてませんか?とモノ申したい。

今でも偶に母親が産褥死で亡くなったと云う話を聴いている。

フルーブ1世さま、女性は命懸けなのですよ。

いやでもフルオープンで出産シーンを見せたいワケじゃないですけども。


でもってフルーブ1世には、もう1つ負の遺産が、、、。

建国時に王国法(世俗法)で、同性不純交友禁止と同性婚の禁止を、婚姻法にデカデカとゴシック体(嘘です。単なる強調文字です。)で表記しちゃったのですよ。


同性婚禁止は理解出来る。

子孫を残すための結婚制度だもの。


でも同性の不純な交流なんて単なる性癖なだけで、と、思い掛けてわたしは思考を中断する。

イカンイカン!

それは前世でのわたしの嗜好だった。





そうだった。

クレール夫人の「離婚された或るお方の話、、、」って、きっとコナール公爵のことだよね。ミランダ先生の元旦那さん。


お茶会などの場で名前をボヤかして話すのは、身分が高い方か、口にしては憚れる内容の時なのだ。

なら端から喋らなければ良いのに、と思うのだが、喋れる内容の話ばかりでは、社交が成り立たないのだとか。

そうやってボヤかして話して、周囲の方々の反応を見たり(この噂が何処まで拡散しているか等)、更に話したがっている関係者から、ここだけの話として事実や追加情報が聴くそうなのだ。


「情報は淑女の剣よ。byクレール夫人」


そんなコトを思い出し、暖炉付近で優美なサロンチェアに座る祖母を見ると、安定のアルカイックスマイルで静かに紅茶を飲んでいた。 勿論無反応で。

そしてわたしの右隣りで母は、「まあ!何?」というように、大きな吊り目を見開き、銀灰色の瞳を丸くして見せた。


凄いわ。

祖母も母もミランダ先生と或るお方(コナール公爵)との関係を知っているのに、気にする素振りを見せないなんて。

(良かった、、、)わたしはミランダ先生の離婚したホントの理由を知らなくて。

わたしがもし知ってたら、きっとクレール夫人に見透かされちゃうのだろうなぁ、いや尋ねられても話さないけれども。



「或る方と離婚なさった夫人は、私が王宮に女官として務めるかなり以前に辞めてしまっていましたの。 残念ですわ。 お会いしたら直接お話を聴けましたのに。」



そう言えば、領主館で見事にクレール夫人とミランダ先生は、顔を会わせないようなシフトを家令のセバスが差配していたような?

もしかしてお祖母さまから、2人がブッキングしないよう、セバスに命じていたのかしら?

お祖母さまは、(いず)れ女官として王宮に戻る物見高いクレール夫人と、ミランダ先生が出会わないようにしたのかしらね。


わたしが前世の記憶を取り戻してから、ミランダ先生と仲良くなり、「実は、、、」って聞かされた所によるとミランダ先生の生家・マーテル伯爵家とクロノア公爵家は、分裂した西ロマン帝国時代からの縁戚関係になるのだとか。

、、、ミランダ先生のその話の長かったこと。 わたしはミランダ先生の国史好きを再認識した。 つまりクロノア公爵家とは、親戚関係だったのだ。(その結論に至るまでの2時間は長かった。わたしなら『分家だった』の一言で済むのに、、。)



そして何なのだろう。

此のドキドキ感。 そうクレール夫人が、いつお祖母さまの地雷を踏み抜くのか?と云うような黒ひげ危機一髪っぽい感じ。



「実は先日お友達から誘われて王城の夜会に行ってましたの。 そしたら或る方が、綺麗なご友人と睦まじく会場で過ごされておりましたのよ。 すると暫くして肩を寄せ合うようにされて庭園近くの第二シガールームへと向かわれましてね、、、。 思わず私と友人は、彼ら二人を目で追ってしまいましたのよ。 顔を赤くするわけにも参りませんから友人と顔を見合わせ苦笑しましたわ。」



クレール夫人の『分かる人にだけ分からせる』マナー講座的な時間。


綺麗な友人と仲良く過ごし、第二シガールームに向かうのに何の問題が?って思ってそうな顔をして、マナー講座を受けていたピュアなコレットちゃん。

どうぞキミは腐らずに、そのままピュアで居て欲しい。


わたしの悪い方の先生であるローランから第二シガールームの存在を聴いて、わたしは速攻で心友のデジレも元へ駆けるようにして向かったことを思い出した。


王城には何カ所かシガールームがある。 コッソリ葉巻用の火種など持ち込まれたら火事になる危険性もある為、喫煙室を設けている。 しかも昨今は、刻み煙草にして独自にブレンドしたものをパイプで燻らせるのが、オシャンティーだと流行の兆しだったりしている。


女性には聞かせられない話などをしつつ、紳士同士で楽しくお話しできるのが、通称第一シガールーム。

そして「人生とは何か」的な重たい話を葉巻を燻らせつつ、じっくりと議論し思索し合うのが、通称第二シガールーム。 『自宅で遣れ』等と思っては駄目らしい。

王城で開かれる夜会には、大抵の場合、エスコートしているパートナーが居るもので、勝手に放り出して帰る訳にもいかないのが、紳士の嗜みなのだとか。


でも意婦人たちは、銘々(めいめい)女性同士でお喋りなどを楽しんでいるから、帰りのエスコートなど強いて望んで居ない気もするのは、私だけなのだろうか? デジレも夜会で、そんな重い話をする相手は要らないって言ってたしね。


しかし軈て第二シガールームで、哲学では無く、愛を語り合うモノが湧いて出てきたのだ、とローランから聞かされた。


再び、わたしは思う。


()()()()()()


「オリビアだってアルプ様と話す時、ひとりに成れなくて苦労しているだろう? それと一緒さ。 屋敷に居る時は従者や使用人が居るし、外出時は従者か護衛騎士が傍に居るだろ? 一応、フローラル王国で、同性愛は違法だからね。 オリビアは忘れているみたいだけど。 格式ある王城の夜会会場は入れる人間が、限定されるから哀れな恋人たちの隠れスポットなんだよ。 特にシガールームは煩い女性達が入って来れないからね。 彼らにとっては楽園なのかも? ふふっ。」


わたしは心の中で呟いていた心算だったが、如何(どう)やら声に出していて、ローランの耳に届いたっぽい。

一際(ひときわ)輝く美麗なローランの笑顔。

その笑顔は、何に対するご褒美なのでしょうか?



ローランからの薄汚れたタレコミで、わたしとデジレはクレール夫人の話にコッソリと目と目を合わせた。 ああー、何かヤバイ気がするわ。


「私は、或る方の夫人がお気の毒で。お会い出来ることが有れば、お慰めしたいと思っていますのよ。」

「相変わらず、クレール夫人はお優しいですわね。そう思わないこと?クラウディア。」

「ええ、そうですわね。お義母さま。」



こうして和やかに冷え冷えとしたお茶の時間は過ぎて行った。

冷え冷えと感じたのは、わたしの気のせいかも知れない。 と思いつつ立ち上がったデジレの顔色は、今一つ優れないを見て、あの冷気は祖母からだったのだと、わたしは認識した。


それにしてもクレール夫人は、ミランダ先生のことを知っていて、あの話題を選んだのかしら?



でもまあ、クレール夫人はコナール公爵の話題だけでなく、意外に祖母の琴線に触れる生臭い話も放り込んで行くのだ。

不敬に為らないように調節された王城で出回っているフルーブ1世の夜伽での秘話やら。

フルーブ1世は、祖母の祖父にあたるのだ。

そしてフルーブ2世が、若い4度目の再婚相手(各王妃さまとは死別です。)と共に、グランドデザインした王立ロイス貴族学院についてのあれやこれやなど。

フルーブ2世は、祖母の伯父にあたる。



薄幸(に見える)美人なクレール夫人は、おっとりとした口調で生臭い話をして、祖母の何を耐久しているのだろうか?

今までは、疫病のことばかりに神経が集中していて、実の所、クレール夫人との会話は聞き流していたので、話の内容について余り気に成らなかったけども。


此の頃、コレットの話し方がクレール夫人に似て来たことを思い出し、わたしは僅かに焦りを憶えた。

あのピュアなコレットが、クレール夫人みたいに成るのはヤダなあ。







そこに執事のクロードから、領地へ持ち帰る品々が届いたとサロンへと告げにきた。

わたしはクロードにお礼を言って、一緒に品物が或るエントランスホールへと向かうことにした。



既にわたしの心は、アーシュレイ領の領主館へと飛び立っていた。



領主館に居る皆々の顔が脳裏を過った。

そしてわたしは、聞き取りやすい声量で教えて呉れるミランダ先生の王国史の講義を懐かしく思い出していた。


わたしは早くアーシュレイ領の領主館に戻りたくなってきた。








◇◇




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。