ep77 軟弱令嬢オリビア
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狩猟大会が終わってからの此の二月近く、日々王城通いを続けている御祖父さまは、すっかり頬がこけて年を取った気がしてしまう。(大丈夫だろうか?) 何処か力無い足取りで出かける御祖父さまをエントランスホールから見送り、わたしはお母さまたちと暖かなサロンへと戻った。
わたしことオリビア・アーシュレイは、本来乙女ゲーム『ライ花』(ライラックの花が咲く頃に)に置ける悪役令嬢の役をキャスティングされていた。あくまでゲームシナリオ上でだけども。
しかし恐怖のゲームシナリオの導入部〔流行病に因り祖父と母が病没する〕を無事に回避が出来た(気がする)為、その喜びで今の今まで(10日間くらい)全身からパワーと云うパワーが抜け、もぬけの殻の脱力状態になっていたのだ。
真っ白な灰になっていたのさ、フフフ♪
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年明けの降現節にジェロームから聞かされた、〔西方側への疫病の封じ込め成功?〕の知らせに、張り詰めていた緊張が解け、わたしは思わずサロンでギャン泣き姿を、ティータイムに集まっていた人たちへと晒してしまった。
全くもって面目ない。
その後、わたしは美しきプリーストの2人が滞在している部屋に行き、見っともない泣き声と泣き顔を晒してしまったことをローランとジェロームに謝り、そして心から湧き上がる感謝の気持ちを二人に告げた。
美麗なローランの楽し気な笑顔には、若干イラっときました。
が、危い色気の美少女ジェロームの心配げな表情に、申し訳なくなってわたしは再び謝意を表した。
それにしても王都パルスのセクティウス大聖堂にいらっしゃるアンゼル枢機卿台下は、一介の神学生であるジェローム(しかも公爵令息だよ?)に、アーシュレイ侯爵家への言付けを頼むなんて驚きですよ。
まあローランの態度やわたしに対しての言動で、彼が一介の神学生でないことは察するに余りあるけれども、此れ以上教会内部のコトを知りたくないので、わたしは気付かなかったコトにした。
次にコレットの部屋を訪ね、心配させたことを詫び、手渡してくれたハンカチーフのお礼を言った。
コレットが渡してくれた綺麗な薄紅のハンカチーフは、メイドに頼み洗濯して貰った。(我ながら自分で洗えよと頼みながら思う。) 当然コレットにお返しはしますよ。むしろハンカチーフ2枚の倍返しで。
そして本命のデジレの部屋を訪ねた。 部屋着に着替えていたデジレに「ありがとう」と言いつつ抱きつき、わたしは「ムグムグ」と音を漏らすデジレを気にせず、思う存分暑苦しい抱擁をした。
デジレは暫く辛抱して呉れていたけど、とうとう暑苦しさに耐え切れなくなり、わたしの後頭部をポコポコと拳骨で叩いてきた。
「痛いっ、デジレさん、、、痛いです。」
わたしは後頭部の痛さに抱き締めていた両腕を開き、やっとデジレを開放し、叩かれていた後頭部に右手をやった。
「苦しいっつうの!リビーは加減を憶えなさいよ。もう二度とリビーを慰めないからね!」
プリプリ頬を膨らませて怒り出すデジレを見て、「そんなぁ」と言いつつ、わたしはホッと安堵の息を吐いた。
だって照れ臭いのだもの。
慰めてくれていたデジレに顔面液体3点セット(涙・鼻水・涎)を擦りつけ、折角のデイドレスをベシャベシャに濡らして駄目にしちゃったんだよ。
幾らわたしの見かけは8歳児でも、中身は三十路過ぎた女が、女子高生に泣き縋るってどうなの? 冷静になって来ると、穴掘って埋まりたくなる。
わたしは怒っているデジレに照れ隠しで、「アハハハ。」って笑いながら「ゴメンゴメン。」と軽いお詫びの言葉を呟き、明るい足取りでデジレの部屋を出て行った。
(また色々とデジレには気を使わせたなー。)
「ありがとう、デジレ。」
そう独りゴチて、わたしは私室に戻り、続きの間の寝室でバタリとベットに疲れ過ぎた身体を倒し、、、意識を放り出した。
────それから知恵熱出ること三日間、、、。
、、、、、でもってベットの住人になってしまい、ダラリダラリと一週間を過ごした悪役令嬢改め軟弱令嬢オリビア・アーシュレイとは、わたしのことです、ハイ。
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金彩を施された美しく女性らしい部屋で、質の高いエンパイアドレスにケープドレスを羽織った二人の貴婦人が口元を扇で隠しながら、密やかに話し合っていた。
「あの女は未だ王都に留まっているのですね。本当に忌々しいわ。」
「ですが、もう領地の方へ戻られるようですわ。」
「そう、それなら良いのよ。 ロベールの邪魔になるようなら如何して差し上げようかしらと考えてましたもの。 此の侭、私の庭に未だ留まるようなら、、、とね。」
「その時は、私が動きますわ。」
「うふふ。心強いわ。やはり持つべきモノは女友だちね。」
「身に余るお言葉です。でも嬉しゅうございますわ。」
「うふっ。あらそろそろ他の方がお見えになる時間だわ。」
この格調高い部屋の主人であるらしい一人の貴婦人は、空色が美しいレースのグローブを嵌めた手で、ガラス細工の繊細な造形の呼び鈴を持ち、控室で待つ使用人を呼ぶ為に高く澄んだ鈴音を鳴らした。
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アーシュレイ邸の執事クロードは、『アーシュレイ領地の領主館や曾祖父さまの暮らして居る旧領主館でも疫病の兆しはなく皆元気で恙ない』と云う報せが家令のセバスからあったことを、お祖父さまだけでなく、わたしにも伝えてくれた。
今回の被害と言えば、領地に流れるノルド川とロウグ川を運航する商船が激減して、領地の税収が減ったことだろうか。 冬ごもり前の時期だった為、結構な額でした。
でもですね。 領地で疫病が蔓延することを思えば、きっとプライスレスな幸運なワケです、ウンウン。
いやぁ、それにしても我ながら五里霧中の中、暗中模索で其れなりに頑張ったような気がする。
《~オリビアが8歳の年末に祖父、次いで翌年初めに母親が、アーシュレイ領地にて流行病で亡くなった。~》
程度のテキスト文書で始まる『ライラックの花が咲く頃に』でのオリビア不幸物語。
よく考えれば、今東方で流行っている疫病が、インフルエンザか如何か等、今でもハッキリ分かっていないし、ゲームシナリオでも病名の言及がなかったのよね。
全然別の病気だったら、、、と、今更ながら背筋を寒くしているわたし。 いえ真冬だから全身が寒いので、当たり前なのですけどね。
そう云えばデジレに相談し始めの頃、「流感て決めつけて大丈夫?」みたいなことを注意されていた気がする。
わたしの中では、風邪に似た症状で高熱が続く新たな疫病って、もう流感しか考えられなくなっていたしね。
(コレってやっぱりオリビア・アーシュレイのサイドストーリー『始まる前の物語』の影響かも。)
既に8歳でゲームクリアした気分のわたしですが、人生何があるのか分からないので、油断せずに行こう!と思います。 恐らく猫型精霊アルプとローランのせいだと確信しているけども、現状わたしは西方諸国での最大権力サイドのユリウス教会にロックオンされている身ですし。
ローランに言わせれば「自爆体質なオリビアのせい」らしい、、、。 まあ思い当たることが一個や二個、いっぱいあるので、若干肩身が狭い気もする。
その猫型精霊アルプなのですけど、幻影魔法を使っているだけなのに、性格が気儘で猫っぽい。
特に王都パルスに来てからは、繁殖期かと思う程、外出している。
「王都に来てからアルプは、居なくなること多いね。 もしかしてアルプは季節外れの恋をしているのかしら?」
わたしは水色の猫型精霊アルプにウキウキとそう尋ねると、フレーメン現象を起こした猫のように、口を半開きにして遠くを見始めた。
『これだから人の子は。 我にとて遣らねばならぬこともあるのだ。 ニコルや(ミューのことなども)、、ゴニョゴニョ或るしの。 それに我にも学ばねば為らぬことが或る。 それとオリビアよ。 我は人の子のように番わなくても良い身じゃぞ?』
アルプさんや、ペルシャ猫のマダム顔で呆れた調子で言わないで欲しい。
何だか地味にわたしの胸に刺さるわ。
基本的に精霊は精霊石から生まれるものらしい。
「もしやわたしのあのメガネのレンズは、水の精霊たちの卵だったの?」
そのコトにビビって目をウヨウヨと彷徨わせていると違うと猫型精霊アルプは、ニョオニョオと笑うような鳴き声を出した。 その鳴き声は不気味だからストップ!して下さい、猫型精霊アルプさん。
どうやら精霊王たちのそれぞれ聖地で、精霊王の力が溜まって来ると、結晶化して石になっていくのだとか。 そして月満ちてソラリス神の神力を浴びると、あの光の粒子みたいな精霊が生れて、聖地から自然界に流れ出るらしい。
アンゼル枢機卿がわたしに渡した精霊石は、力が出尽くして空っぽに為った物だったのだ。
精霊王が気に入った相手にのみ空になった精霊石を贈るとのこと。
そんな希少なモノを精霊王から贈られるアンゼル枢機卿って、只のクイズマニアじゃなくて本当は凄いヒトだったのね。
〔※オリビアの知らないことだが、精霊王から贈られるのは使徒だからです。。〕
そんな猫型精霊アルプとの会話を思い出しつつ、わたしはお祖母さまとお母さまとで、アーシュレイ領地の領主館へと戻る日程について話していた。
未だ暫く祖父は、枢密院での会合がある為、領地へと戻れないらしい。
フルーブ4世の不倫問題で。(恐らくね)
こちらの世界でも未成年との不道徳な関係は、枢密院会議が開かれるくらいに大問題みたいだ。 まあ教会法で禁じられているから余計にかも知れないけれど。
実はフルーブ4世と愛妾さんは、〔おママゴトしているだけでした〕と言う落ちを希望しているわたしだったりする。
わたしは16歳の婚姻すら早いと思っているのに、、、。 それが12歳と不適切な関係だなんて、全くわたしの想像外の世界過ぎて二の句が継げない。
昔の結婚は13歳だったらしいけれど、フルーブ1世がフローラル王国を建国してからは、王族の婚姻は16歳からになったそうだ。 他国との兼ね合いもあり、王国法に表記はされて居ないけれども。
だから王国法的には、教会と同じく13歳で成人と認め、婚姻が出来るのよね。
お祖母さまは、お祖父さまから愛妾の年齢の話まで、聴いているかどうかは分からないけれど、お祖母さまは、フルーブ4世を悪戯っ子を親族枠で見ているような気がする。 確かお祖母さまのお母さまは、フルーブ1世の娘なのよね。 わたしからすれば曾祖母にあたる方ですね。
この話題、わたしからは絶対に触れたら駄目な奴なので、ポロリ発言に気をつけなくては。 ネタ元が聖職者のローランだったとか言ったら祖父が倒れるやも知れない。 教会サイドに愛妾の年齢だけは知られたくないだろうし。
ホント、ローランとか愛妾の年齢を知っている筈なのに「別に」って感じで反応が薄いのですよね。
ローランから聞いた話なのに、わたしの方が焦って混乱したくらいで。 若干今もね。
ユリウス教って戒めの教義ってくらい禁忌事項が多いのに、(どういうこと?)ってローランの発言を聴いていると疑問が湧いて来る。
ダメダメ。
こう言う好奇心が碌でも無い結果を生み出すのだ。
わたしはタップリとミルクの入ったミルクティーを飲みながら、さっきサロンに入って来たクレール夫人とお祖母さまの世間話に耳を傾けるのだった。
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〔※注 1〕
短編『始まる前の物語』
本作の主人公オリビア・アーシュレイの母親クラウディア・アーシュレイのお話です。
お手すきの時にでも~。




