ep76 雪が降った日 〔※SIDE コレット〕
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王都パルスで珍しく雪が降り積もった日
今日はオリビアからコンバサトリーでお茶を飲もうと誘われ、コレットが二階のメイン階段から降りて行くと、エントランスホールから話しながら歩いて来るジルベールとセルジュたちと出会った。 当然のようにコレットの兄リーシェと、オリビアとデジレに揶揄われているエミールともいた。
「お帰りなさいませ、お坊ちゃま。」
「ちょっとぉ!コレットまで、その呼び方止めて呉れるかな?」
「申し訳ございません。ついつい父や祖父に聞かされ慣れているものですから。 気を付けますね、ジルベールさま。」
「まあセバスとクロードなら仕方ないか。コレットは此れから姉さまとサロン?」
「いえ、今日はコンバサトリーの方です、ジルベールさまも如何ですか?」
「その前に着替えなきゃね。流石にコレだと動き辛いしね。 それにしても姉さまは、、、良かった。コレットもそう思うでしょ?」
礼をしてコンバサトリーに向かって歩き出そうとしていたコレットの動きを、ジルベールの其の言葉が止めた。
若干ジルベールより背の高いコレットと向き合う形で互いの顔を見た。
ジルベールは心配性の侍女メアリーから、両耳と形の良い頭をキャラメルブラウンの川狸の毛皮で覆い、アイボリーホワイトの柔らかな髪をのぞかせる帽子を被らされ、コート(上着)の上から更に焦げ茶色した長い毛皮のオーバーコートを羽織らされ、モコモコと着膨れていた。
(きっとオリビアなら、モコモコのジルは可愛いって、見悶えるのだろうなあ。)
コレットは、キラリと薄い空色の瞳を嬉しい気に輝かせ、見上げて来るジルベールと目を合わせた。
「、、、そうですね。ユリウス教会側の疫病報告をオリビアさま聴いて、号泣してから一週間経ち、やっと落ち着かれてニッコニコになられました。」
「ふふっ、姉さまはアレで、疫病のコトを心配しているのを、僕たちに隠せているつもりだったみたいだよ、コレット。 まあ家令のセバスやクロードに聞いてから色々と分かった僕が云ってもドッコイどっこいだけど。」
「そんなことは御座いません、ジルベールさま。オリビアさまは何かに悩んで居るのを知っていたのに結局私が知れたのは、此処アーシュレイ邸でジルベールさまから、お聞きした時ですもの。」
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昨年の葡萄祭が終わった頃から、様子が徐々におかしくなって来たコトは、コレットも気付いていた。それまでも淑女マナーよりも健康マニア気味だったが、それに益々磨きが掛り、オリビアが一体何を目指しているのか、不思議がるより不安になるコレットだったのだ。
領主館でデジレに、心配なオリビアの事を訊ねても、「ロベリア教皇様から疫病に対して回文を出されたからだよ。だってリビーは領主様の孫娘だもの。当然だと思うわ。」そう言ってデジレは、自分の言葉に頷きながら、宥めるようにコレットの左肩を軽く叩いて、用意されている自室へと戻っていった。
翌日にコレットは、デジレに何か誤魔化されて居るような気がして、アーシュレイ侯爵から留守を預かるジルベールにオリビアのことを訊ねてみたのだ。
〔ジルベールお坊ちゃまは、、、。〕
〔ゴホン!何かな?コレット!〕
〔し、失礼しました。 あのう、ジルベールさまはオリビアさまが、何に心を悩ませているかご存じでしょうか、、、?〕
〔ああ、コレットも姉さまを心配してくれていたんだね、ありがとう。って、あんなに難しい顔ばかりしていたらワカルよね。フフ。初めは僕もセルジュたちの言う通り祝福のせいで視力が悪くなったことを悩んでいると思ったのだよね。ねっ、セルジュ?〕
〔だってエミール様やリーシェ様が、視力が悪いのは遺伝するから、貴族令嬢の婚姻には致命的だと話していたから、、、。〕
〔うん。私は執事の父からそう聞いてたからね。リシェールも家令のセバス様から聞いていたのだろう?〕
〔まあワタシは、祖父からオリビア様は、折角の祝福持ちだったのに勿体ないと、聴いたからね。 どうしても貴族の婚姻だと子や孫に遺伝しやすいウィークポイントを持つ令嬢は忌避されてしまうし。 魔力の安定で視力が改善すると聴いたことが無かったしね。 でもオリビア様の視力がローラン先生のお陰で改善されただろう? 流石は教会本部から派遣された魔力調整師の方だと感心したよ。〕
〔本当にローラン先生には感謝しかないよ。 僕の姉さまが、目のことくらいで他人から見下されるのは我慢ならないから。〕
〔あー、でもジルは、云ってたよね。此れで姉さまが嫁げなくなるなら嬉しいって。〕
〔うっ、コホ。セルジュは内緒にして置けって言ったのに。〕
〔ふっ。オリビアお嬢様も面倒な弟君を持たれたものですね。〕
〔まあ僕のコトは兎も角おいて於くとして、視力が改善して姉さまの表情も明るくなったような気がしていたのに。〕
〔その前にアレだったろう?侯爵様が、オリビアお嬢様の自慢をし過ぎて、王城での茶会に招かれることになって、酷く落ち込まれていたのもあったしね。 侯爵様に対して、ジルベール様も怒っていたよね。
〕
〔ああ、、初めてお祖父さまに対して殺意が湧いたよ。その件に関して僕は今でも立腹中だけどね。、、、でも、姉さまは、視力補正器具を外せるようになってからも、お茶の時間に思案する事が増えて行った。 それが気になって僕は、姉さまに悪いと思ったけど、色々と頼みごとをしている家令のセバスに尋ねたんだよ。 姉さまから何を頼まれてるのかって。〕
〔流石ジル。そこでズバリとセバス様に聴けるところが、本家のお嫡子さまの強さだよね。〕
〔僕に気を使う必要が?セルジュ。 まあそれはそれとして、姉さまは、お祖父さまとお母さまの身体に良さそうなことを何か思いつかれる度に、セバスに提案してきたそうだ。 まあ姉さまが気に掛ける身内など限られて居るし疑問に思わなかったけどね。 そうこうしているうちに王都になどまるで興味を示さなかった姉さまが、お母さまと共に王都行きを決められた。そして暫くして教会から新たな疫病についての布告を知らされた。 その疫病への注意事項は、普段姉さまが領主館で僕たちに言い聞かせていることそのままだった。 コレットだって驚いて居ただろう? 『此れって日頃オリビアさまが言われていたことだ』ってね。
それで此処からが肝心なトコだから、コレットは心に刻んで於いて欲しい。 これはセバスとクロードとも話し合ってのだことだ。 姉さまには教会から知らされた疫病のことを前から知っていたのではないだろうか。 そして僕たち家族が罹るかもと心配していた。 まあ今までの話からして、それはお祖父さまとお母さまだろう。 だからあんなに必死で、そして姉さまの王都に家族で出向くことにしたのではないのだろうか。 姉さまの未来を知るかのような力は、何であるのか分からないけれど、教会に目を着けられて居るのは確かだろうと、セバスとも話していたんだ。
元々セバスは、ローラン先生の有能さを訝しんでいたそうだ。
それが高い魔力レベルを有したラクール公爵家のジェローム第三令息の魔力調整師に選ばれたことで、セバスは確信に変わったと話していた。
『オリビアお嬢様やアーシュレイ侯爵家に対するローラン卿の好意的な接し方で、今の所、教会サイドから異端視されていないと察せられるが、特異なことで世間を騒がせるコトを過去の歴史から見て、ユリウス教は厭う。だからローラン卿から何かあるまでは、オリビアお嬢様が疫病の存在を事前に知っていたと云うような噂が立たないようにしましょう。旦那様には時期を見てわたくしから伝えましょう。今、旦那様はとあることに専念しておりますので。』
まあだからコレットは、姉さまのコトを心配し過ぎて、アレコレ余計なことはしないでね。 コレットの祖父であるセバスと父上のクロードからの伝言だよ。 大丈夫だよ、コレット。 心配しなくてもクロードや僕、そしてセバスも姉さまを見守っているから。〕
ジルベールは6歳とは思えない口調ときっぱりとした態度で、コレットに祖父からの伝言を伝えたのだ。
そしてコレットはデジレが自分を誤魔化して居ると感じていた意図にやっと気が付けた気がした。
(デジレでもそれは言えないわよね。でもオリビアさまから私にも相談して欲しかったけど、、、。)
そんなコトをコレットは考えながら、今まで通りにオリビアやデジレと接することにしたのだった。
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コンバサトリーに向かう途中の廊下で、コレットはジルベールの「姉さまは誤魔化せているつもりだった。」と言うセリフを聴いて、思わず噴き出した。 コレットの笑い声に釣られるように、ジルベールは小さく声を漏らして笑った。傍にいた兄やエミールも。
明かり採りの窓から空を見れば、止んでいた筈の小さな雪の欠片がチラチラと舞い落ちて来ていた。
コレットが窓の雪を見たコトに気付いた3人もコレットの視線を追って天井に斜めに付けられた窓から空を見た。
落ち着いた笑顔を見せるようになったオリビアの顔を過らせ、コレットは願う。
もう直ぐ月が変わって訪れるオリビアの9回目の誕生日。
オリビアにとって、どうぞ善き年になりますように、そして去年と同じように皆でオリビアに「おめでとう」と健やかに告げ合えますように。
廊下の冷えを足元から感じたコレットは、ジルベールたちに挨拶をして、オリビアたちの待つコンバサトリーに向かって歩き始めた。
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