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ep73 イブの夜


◇◇




12月25日はソラリス神の顕現マニフェスタティオ祭。

その前日24日は、マニフェスタティオ・イブ(前夜祭)で、12歳未満の子供たちでも夜にお出かけが許される日。 但し、わたしたち貴族家児童の夜間外出が許されているのは、貴族街にある礼拝堂か王城にある礼拝堂(聖堂)で行われる2つのミサどちらかだけなのですけどね。



アーシュレイ領地では、日付が変わる少し前、領都の聖堂で行われるイブのミサに祖父たち大人組が参加し、わたし(オリビア)(ジルベール)は、夢の中に居る為、イブのミサには参加しない。

翌25日の顕現祭当日、アーシュレイ侯爵家の当主で或る祖父と祖母、そして母、弟とわたしたち5人で領都ウィドールのヴィラ聖堂へ行き、朝からミサに出席する。

パイプオルガンからの荘厳な音色と聖堂敷地内に住む神学生たちの美しい讃美歌のハーモニーは、胸の奥を震わせる程、感動的であったりした。



その(あと)に当主である祖父は、ソラリス神に感謝の祈りを捧げる。 それからソラリス神、そして家族や親族などに祭事で狩った加工した獲物の肉や屠殺した家禽の肉類を調理し、神に捧げ、皆へと分け与えていくのだ。


(レッツ!冬の焼肉パーティーだぜっ!!)


祖父の祈りと指示に従い、粛々とソラリス神へ感謝を捧げて過ごすので、前世の記憶に或るクリスマス・パーティーとは程遠いものだったりする。 郷に入っては郷に従えの気持ちで、(焼き肉パーティーだ!)と逸る思いを隠し、とても静かに家族たちと12月25日を送るのでした。



領主館の文官や武官、そしてアーシュレイ騎士団の騎士たちは、12月1日~イブ(12月24日)までを待降節たいこうせつとし、ソラリス神の顕現を待ち望む期間で休みとなる。 そして12月25日~1月13日までを公現日こうげんびとし、ソラリス神が天上から地上に降り現れていた降現節こうげんせつで休日となる。 内勤の文官は兎も角、武官たちは交代制で休暇を取っている。



それを考えると、初代国王ロイス・ロワ・フルーブ1世が、祭事の狩猟大会後、領主たち貴族に領地へ戻るように命じたのは、信心深いか将又(はたまた)ユリウス教会上層部と何らかの交渉をしたのでは?って思えるのですよね。 俗説のような吝嗇なせいで、2月中旬まで領主たちを王都パルスや王城から追い払っていたワケなんかじゃない気がします。


きっとフルーブ1世もわたしのように教会の秘匿案件のせいで、何も喋れなかったのじゃないかと、思ったり思わなかったり。







さて王都パルスのイブや顕現祭は、アーシュレイ領地で行われる顕現祭と違い、大通りや家々にキャンドルライトが灯され、冬の夜だというのに明るく華やかでした。



って訳で、町屋敷(タウンハウス)から、24日の20時過ぎに王都の東ロイヤル大通りを行き、エストール聖堂にジルたちと向かった。



〔王城に出入りを許されている貴族家の子女は、王城敷地内に在る聖ロイス聖堂に集まって大司教が取り仕切るミサを行うそうな。 フローラル王国建国の祖であるロイス・ロワ・フルーブ1世が逝去された時、ユリウス教会のロベリア教皇から、フローラル王国でユリウス教の為に尽力したことを認められ〔聖〕の称号を信徒ロイスへ送られた。 その記念で王城敷地内に在った礼拝堂を教皇の許しを得て聖堂へと改築し、聖ロイス聖堂となった。 フローラル王国の王都パルスに聖堂が2つある理由は()れである。 ローランの話によると、通常であれば一つの王国の王都には、1つの大聖堂と一つの聖堂だけだとか。〕




そして本来なら侯爵家の子女であるジル(ジルベール)やわたしは、聖ロイス聖堂に向かうのだろうけど、一先ず10歳未満であることを理由にして、わたし的に気楽な貴族街のエストール聖堂をチョイスした。(暗黙の了解で大人と同じようなフォーマルな装いが似合うのは10歳頃とされているため、王宮での挨拶(お茶会)も10歳になってからなのだ。 つまりそれまでに子供たちは宮廷マナーを身に付けろってことですね。)


だって王城に在る聖ロイス聖堂だと、第一王子や第二王子とかに遭う可能性が高いし、無用なトラブルに巻き込まれたくないのだ。特に今は。

一先ず、祖父と母の健やかな笑みを来年2月のわたしの誕生日に見るまでは、他に精神的な気遣いが出来る余力なしなのでござる。


それにエストール聖堂の方に、下位貴族や平民の王宮に勤めの文官や武官の王都住まいの家族たちがミサに参列しているので、男爵家のデジレやセルジュも気を使わなそうだしね。

アーシュレイ侯爵家の後ろ盾がある伯爵家出のコレット、リーシェ、エミールたちは、わたしたち姉弟の将来のため、聖ロイス聖堂に見聞を広めに行ってくれていた。 助かりまするよ。


東ロイヤル通りを馬車で走らせると、町屋敷の外門では明々と篝火が焚かれ、道路の両サイドには街灯が灯されていた。 そして小路の街路樹には、風避けをガラスで作ったキャンドルライトが点々と飾られて、道々に黄金色の仄かな明かりを放ち、暗い夜の世界にエストール聖堂まで光の道を作っていた。



「ほぇー、凄いねぇ。ジル、デジレ。」

「綺麗ねっ、リビー。」

「夢の世界みたいですね、、、姉さま。」

「、、、すごっ!」



余りにも幻想的な世界を目にすると、人間て語彙が無くなり、皆、瞬きもせず、窓の外に視線が釘付けになってしまうものなのですね。


そして沈黙して馬車に揺られて暫く経つと三々五々から人々が聖堂の広場へと集まって来た。


昏い青さに染まり凛と空気が凍ったイブの夜、浮かび上がったオクトスタイルのロマン神殿風の聖堂から、荘厳なパイプオルガンの音色が響いて来た。

そこで願う祈りは、天上のソラリス神に届きそうな気がしてきた。


護衛騎士のアッシュたちに守られながら、荘厳な聖堂内を進むわたしたち。

大理石で作られた天に上がって行くユリウスさまと天使たちの彫像や、半ドーム型になった天井に描かれたレスコ画に思わず息を飲むしかなかった。

眩い光が、アトラス山脈やノアール大森林を創生し、伝説の竜や翼竜などを封じ込めていく様子を描いた天井や壁画は圧巻の一言に尽きる。


その近くの回廊には、ユリウスさまと12人の使徒たちが出会うシーンを現した人形が作られ飾られていた。

見事な柱やステンドグラスに見惚れつつ中央部に歩いて行き、燈明で浮き上がったソラリス神のシンボルにジル、わたし、セルジュ、デジレが聖火台に蝋燭に火を灯し飾って行った。


丁度、エストール聖堂の司教さまかが乳香を振りながらの呼びかけが始まり、わたしたちは祭壇へと並び、神の恵みである葡萄酒と小さなパンを受け取り、わたしは無病息災の祈りを捧げてから、入った時と逆方向に回廊を進み、見事なレリーフが施された扉を開放している門へジルたちと静かに出て行った。


そしてわたしたちが祈りを捧げている間に、アッシュたち護衛騎士は、アーシュレイ侯爵家の寄進を奉献台へと置いたようだ。


聖堂内は、どこかしこに同年代の子供たちが居て、静かだと感じていた王都パルスの賑わいの一端を知ることが出来た。 そのコトを話すと護衛騎士のひとりが、平民たちは教区ごとに建てられた教会に集い、子供劇や音楽会など催され、簡素であるけども賑やかなのだとか。 そっちの方へ行ってみたいと願ったのは秘密なのだ。




わたしたちを案内してくれていた神父さまは、「聖堂の建物から少し歩いた場所にある林の中には神学校の寄宿舎があり、そこで神学生が管弦楽や聖歌隊でコンサートを開いている」と明るい声で丁寧に教えてくれた。 だけども、多くの人々の祈りの熱量にあてられていたわたしたちは、学生たちに寄進だけして帰宅することにしたのだった。 (神父さま、申し訳ないです。)




ヘロヘロだったわたしとデジレは、祖父たちが聖堂に訪れる23時までとても待てる気力が保てなかった。 現在未だ22時前なのだ、、、。



「こらリビーは落ち込まないの。 8歳の体力ってこんなモノだよ、リビー。」

「いやだってデジレ。 6歳のジルもセルジュも未だ元気そうじゃない?」

「この子たちは場の空気に中てられて興奮してるだけだから。」

「「ええー!」」

「違うよ、姉上。」

「うん、ちょっと僕とセルジュは、神学校の見学をしたかっただけで。」

「うんうん。ジルの言うとおりですよ。姉上。ボクらはそれほど子供じゃないですから。」

「だからそう言う所が子供なのよ、セルジュは!」


乗り込んだ馬車の中で、デジレとセルジュが軽く姉弟でじゃれ合い始めた。

そう云えば精霊王アルプは、ローランが居ない時に聖堂へ行きたがらないなと、二人の賑やかな声を聴きながら思い出していた。



「「ふわぁ~」」


わたしとジルが同時に気の抜けた欠伸をして、じゃれ合っていたデジレとセルジュの動きを止めてしまった。



「、、、。」

「、、、。」


「「「「ふふっ。」」」」



わたしたち4人それぞれが噴き出して顔を見合わせた頃、馬車はアーシュレイ邸の外門へと辿り着いた。




馬車から降りて外へ出ると、 凍えそうな藍色の夜空には、女神レトが司る月光と冬の星々が輝いていた。






◇◇



 




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