ep69 悪役令嬢は攻略対象者の存在を思い出す
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月が変わり12月。
王都の町屋敷でソラリス神様の顕現祭の準備に余念のない祖母や執事のクロードたちをチラチラと目で追いつつ、母やわたしを含めた子供たちは、メイド長の昔からの言い伝えを楽しみながら、祖母からの指示に従い手伝いに勤しむ。
何せ生れて初めての王都パルスでの年越しの準備なので、ジルとセルジュ、そしてデジレ(セルジュの姉なのだ)と、わたしでワチャワチャと騒いで居て『手伝いなのか遊びなのか分からない』と、精神的に大人なコレットたちに呆れられたり。
祖父は、枢密院の集まりで、王城や猟場の古城に忙しく今日もお出かけ中。
すっかり冬支度が整った町屋敷では、母が丈夫な蔦草で〔ホーリーツリー〕の切った枝でリースを作り、わたしたち子供らは清めの歌を歌いながら、楽しく玄関扉や窓へと飾り付けて行くのだ。
秋の終わりから冬の間ずっと枯れずに、棘のある濃い緑の葉と艶やかな赤い実を付けた常緑樹は、女神レトの聖なる力が宿りし〔ホーリーツリー〕と呼ばれている冬ヒイラギだ。
日差しが少なく曇天が多い此の季節は、病の源である瘴気が屋敷内に入って来やすい。
それを防ぐ為に、瘴気の侵入口を聖なる力が宿る〔ホーリーツリー〕で飾る。 アーシュレイ侯爵領の領主館では無かった風習で、母やわたしは祖母と執事のクロードたちが語る神話に興味津々だった。
12月に女神レトの〔ホーリーツリー〕飾る風習は、ユリウス教が興る以前からあったという伝承だった。
そして12月25日に催される顕現祭は、アトラス大陸の多くの国々で、ソラリス神に祈りを捧げて感謝する祝祭日。
700年前の大浄化の後、人々が大陸の大地で過ごせるようにソラリス神が真冬の最中に顕現し、地を埋めていた魔獣たちを北東のアトラス山脈と南のノアール大森林に追い遣り、大地を整えて呉れたことに感謝し、ソラリス神に祈りを捧げる祝祭日である。
本来ソラリス神の神力は、夏至祭のシーズンに強くなり、11月下旬から12月のこの時期は、徐々に弱まり、3月のユリウス様の降臨祭までは、ソラリス神のお休みタイムと言われている。 そんな時にソラリス神は、わざわざ顕現され、人々を救って下さった。 もう感謝するしかないよねってことで感謝祭とも呼ばれ、夕食時に兎や羊・鳥の焼いた肉を当主が自ら先ずソラリス神に捧げ、次いで家族や親族にサーブして行くのだ。
家禽の屠殺は、家禽たちの餌の少なり始めた祭事の狩猟大会後に行い、肉を熟成させたり、保存用に加工したりして、顕現祭でソラリス神に供える準備を始める。
当主である祖父は、家令に指示するだけのようですけども。
こうしてフローラル王国の北部とアーシュレイ領地や王都パルスなどの中央地帯にある各領地では、冬ごもりの準備が晩秋から始まって行くのでした。
◇
昨日、わたしは張り切って、冬ヒイラギの枝をこれでもかという位に、木々の根元に咲く、俯きがちな初雪おこし(クリスマスローズ)の小さな白い花々を物ともせず、意気揚々と庭師に頼み、パチリパチリと切って貰った。
「ねぇリビーってばっ! コレって〔ホーリーツリー〕の枝がちょっと多過ぎない?」
「良いのよ、デジレ。 気分的なモノなのだから。」
わたしと一緒に外に出て居たデジレは、赤ずきんのようなフードが付いた赤い厚手のウールのオーバーコートに身を包み、冬ヒイラギを手袋をした両手で持つわたしに元気な突っ込みを入れてきた。
〔イワシに頭も信心から。〕
ってワケでもないし、〔溺れる者は藁をもつかむ。〕つうのでもなく、遠い昔から瘴気対策として民間に伝わっている〔ホーリーツリー〕なら、何か効果がるのかと思ったのですよ。
何せ教えて呉れたのは、自称・次期水の精霊王である水色のフワフワ毛玉の猫型精霊アルプさまなので。
「アルプ、冬ヒイラギって瘴気に効果が或るの?」
『ナイことがナイこともナイ?』
「結局はドっちなの? アルプ?」
『ウム。人の子たちの伝承だからのぉ、、、。まあ無駄ではなかろう。』
とまあ、頼りないモノでしたけども。
◇
それにしても、、、ですね。
神聖ロベリア教皇国で枢機卿たちを始めとした聖職者や信徒の皆さまが、付属海沿岸で暗黒大陸(ファティマ大陸)から渡ってきた船舶を留めて、隔離などの防疫に勤しんでいるのに、フルーブ4世と来たら12月の声を聴くまで、猟場の古城で療養という名のバカンスだったのですよ。
幾ら祭事の狩猟大会が終わって顕現祭が始まる一週間前までは、国王陛下に王城での式典とかないとは云え、フローラル王国の君主なお方なのです、タブン。 それなりのお勤めだってある筈だと思うのは、前世のわたしが気弱な社畜タイプだったせいかしら?
祖父と祖母の会話をひっそりと聞いていると、現在宰相を務めているポーセリア小公爵(北の公爵家)に公務を任せているから問題ないそうだけども。
フルーブ4世の側近と呼ばれている人達や秘書官と補佐官たちが陛下の代わりに、王城や猟場の古城で動き回っているようなので、今のところはフルーブ4世が居なくてもノープロブレムの無問題。
そう言えばわたしって流感のことばかり考えて居て、ゲームシナリオでの肝心なことを忘れていたりしたの。
まあ、わたしに取って重要かドウかは、微妙な事柄なのだけどね。
気付きの切っ掛けを与えてくれたのは、セレブでロイヤルなラクール公爵家のお坊ちゃまのジェロームなのだけどね。
ラクール公爵家から王家に嫁がれたパトリシアさまは、現在フルーブ4世の正妃さまで、ジェロームの叔母にあたるお方。 其の御子さまは、言わずと知れたヒロインのメイン攻略対象者の〔フェリクス第二王子〕(現在6歳)だったりする。 そして第4王女(4歳)と第3王子(2歳)と第4王子(0歳・昨年に生れたばかり)4人もの御子をパトリシア王妃殿下は出産されていた。 パトリシア王妃殿下は16歳でフルーブ4世の再婚相手として嫁がれて、王子を3人も出産され王妃として責任を果たされ10年の歳月が経ち、、、。(で、今、陛下は年若過ぎる愛人と浮気中。同じ女として嫌過ぎるわ。)
我が家のアレと同類の父親を持ち、攻略対象者のフェリクス第二王子も苦労させられるのね、これから。
不敬だと思いつつ、わたしはフェリクス第二王子に同病相憐れむ心持になってしまった。
そしてラクール公爵家のジェロームを含めた7人の兄弟姉の名前とか年齢を教えて貰ったの。
それで信じられないコトが色気ダダ漏れ美少女のジェロームの口からわたしに知らされた。
なんと末っ子の名は、〔エルヴァ・ラクール〕────攻略対象者では!?!?!?
マジですか?
でも待って!? 確かショタ枠の〔エルヴァ・ラクール〕は、宰相の息子で第3令息だったハズよ?
なのに現ラクール公爵は、枢密院議員の1人では或るケド、宰相としてフルーブ4世に仕えていない。 しかもラクール公爵の第3令息は、目の前に居た艶やかな桜色の髪を耳元で切り揃えているジェローム・ラクールだし。 エルヴァはラクール公爵の第4令息に成るのですけども?
前世の記憶が正しければ。
思わずわたしはジェロームにエルヴァの年齢を尋ねると弟と同じ6歳だった。
年令だけは、乙女ゲーム【ライラックの花が咲く頃に~ファーストダンスはアナタと~】通称『ライ花』と同じで何となく安心した。
ってことは、フェリクス第二王子とエルヴァ・ラクール第4令息と弟のジルベール・アーシュレイは同年齢の友人兼側近となり、ヒロインのアリシアと同期生として王立ロイス貴族学院でキャッキャウフフな学院生活をエンジョイしっちゃったりする、、、のかしら?
いや、それは良い。
アーシュレイ侯爵家の後継である弟させ巻き込まないなら、学院で幾らでもヒロインと攻略対象者たちが、ラブラブでもイチャラブでもエンジョイ・ライフを送ってくれて構わないと思う。
寧ろ、悪役令嬢予定の?のわたしや素直に可愛く育った弟の存在なんて、スルーして下さって「オール・オッケー!」でしてよ?
だがしかし、『アレとフルーブ4世は遊び仲間で仲良しだ』とクレール夫人から聞かされた現状だと、弟は父親同士の繋がりで、フェリクス第二王子とオトモダチにさせられるかも知れない。
今はゲームスタート以前に、祖父と母が流行病で亡くなるゲームシナリオをわたしは暗中模索しつつ、ローランを巻き込みながら回避しようと頑張っている最中なのに、、、。 でもローランのせいで、わたしがウッカリな行動をし過ぎたばかりに、恐い教会サイドに目まで付けらる危険まで冒してしまったけど。
ううっ、そうなったら何がキッカケで、どんな火の粉が、わたしたちアーシュレイ姉弟に飛んでくるか分かったモノじゃないでしょ?
わたしは唯々平穏に生きて、今世では長生きしたいだけなのになあ。
ハァ~儘ならないわ。
どうもね、わたしって、、、ヒロインのアリシアに対して穿った見方をしちゃうみたいなのね。
嫌まあ、頑張ってゲームをプレイしちゃったのはわたしなので、ゲーム内のヒロイン(アリシア)のせいなどではナイと頭の中で理解しているのよ。
当然リアルなアリシアと、わたしが動かして居たゲーム内のアリシアとは違うって。
それに本来、此の世界で逆ハーレムルートなんて有り得ないし。
どうやってリアルで其のルートに進む気よ?ってなるしね。
逆ハー・ルートは、其々の攻略対象者たちの好感度を八割で抑えて、生徒会主催のダンスパーティーで、ヒロインが攻略対象者全員と踊り終えてから、、、大量のスチルと甘々なヴォイスが溢れる大サービスの逆ハーレム・ルートが始まったハズなの。
ゲーム本来のシナリオでは、推しの好感度フルにして、ライラックの花が咲くプロムパーティーへと大好きなひとりの攻略対象者からヒロインはエスコートされ、二人で最初から最後まで踊り、彼から愛の告白と婚約を申し込まれるのだ。 そこでストーリーはハッピーエンド。
で、逆ハーレム・ルートは、ゲーム性の殆ど無い空き容量で作ったファンサービスのようなモノなのね。 選択コマンドが二つだけでシナリオが進み、流れるようにスキン・シップ過多な攻略対象者たちに愛を囁かれる。 やや肌を露出気味のヒロインが皆に囲まれ、そして意味深な各男性声優陣からそれぞれ甘々ボイスで殺し文句を囁かれるのだ。 瀟洒な王城や美しい庭園、そして猟場のホラーテイストな古城や風光明媚な離宮などでモテまくりな1年間を過ごす。 それをスチルとヴォイスで楽しめるオマケなルート。
、、、?アレ?フルーブ4世が愛人と過ごして居たのも猟場の古城だったよなあ?
うん。
逆ハーレム・ルートは、二次元のゲームだから楽しめた訳で、リアルな此の世界で、そんなヒロインをわたしは見たくないし。 何だかんだ言ってもアリシアとわたしは、半分だけでも血の繋がった姉妹なのだから。 まっ、お互いに会って見ないと性格は判らないけれども。
まあしかし、強いてわたしはヒロインのアリシアとは、関りになりたくなけども本音。 でも別段、不幸になって欲しいワケじゃないし。 寧ろわたしが今の所、不幸を願って居るのはアレに対してだけだし。
わたしは色々と考え過ぎて、脳がクラクラしていると、パチリパチリと弾ける暖炉の薪の音に不図、気が付いた。
その音に気付いてわたしは、一階のサロンの室内に意識を戻した。
暖炉近くに置かれた猫脚の長椅子に腰を掛けて、ローランとジェロームは並んで本を繰っていた。
しまった!
ジェロームにエルヴァの話を聴いている途中だった。
わたしはジェロームへの恥ずかしさと気まずさを隠して、サロンのドアを開いて入って来たデジレに『早くきてよ!』と目で合図した。
すると肘掛け椅子に座ったわたしの膝の上に、運んできたオレンジ色の毛糸で編まれた膝掛けを悪戯っぽい目付きで、サラリと何気なくデジレが掛けて呉れた。
たっぷりとフレアーを取った目の詰んだエルムグリーン色したわたしのスカートの上に、デジレからふわりと掛けられた鮮やかなオレンジ色の膝掛は、ジンワリとした温もりを帯びていた。
落ち着かない気持ちの行方を夜になったら、少しゲームと違う〔エルヴァ・ラクール〕のコトなどを、前世持ちで同じゲームの記憶を共有している〔心友〕であるデジレに、早速相談してみようと考えていた。
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