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ep68 世俗的な問題




王都パルスの貴族街の住人たちは、ヴァンダンジュ(収穫祭)に参加するために自領に戻っている人が多い。 

この時期は、日頃王都に滞在している高位貴族たちも自分たちの領地へと戻り、収穫された穀物や果実で作られた新酒などの味見を愉しみ、領主館の貯蔵場所へと運び込む作業に追われる。

領主たちには待ちに待った徴税の季節。

領民たちは、収穫された食物を神に感謝しつつ捧げ、飲めや歌えで踊り、賑々しいヴァンダンジュ(収穫祭)が始まる。 アーシュレイ領では、領主館が解放され、ヴァンダンジュに合せて旅芸人を呼んだりして、領民たちを労うのだ。


祖父は、ヴァンダンジュが在るので領地にソワソワと戻りたそうにしていたけど、祖母たちの体調不良と運悪く(わたしにはラッキーな!)臨時の枢密院会が開かれることになった。

祖父は枢密院議員のひとりなので、王城へ出仕するようだ。


何でもフルーブ4世(フローラル国王)のゴニョゴニョな問題について話し合いが行われるのだとか。


祖父は言葉を濁したけど、『狩猟大会でフルーブ4世は新たな愛人を作った』とローランは、わたしが自室へと戻った時に付いてきて、コッソリと教えてくれた。

 

そしてわたしの部屋のソファーに腰掛けながら、ローランは意地の悪い顔をして、器用に整えられた銀色の眉山から眉尻を上げて、言葉を続けた。 


「愛人の少女は12歳! 陛下って若いね。オリビアもそう思わない?」


ちょっと待って!ローラン先生っ!相手は12歳の少女ですって。、、。 うわぁナニソレ。



「ゲホっゲホっ、! 国王陛下は、なんてコトを、、。幾ら逆らえ無いからと言っても、少女の両親は堪らないでしょね。 しかし国教のユリウス教では一夫一妻制なのに。しかも陛下は38歳だった気が、、、。だ、大丈夫なの、ローラン先生? ユリウス教的に。」


わたしはローランの話に驚き、思わず咽てしまった。

そしてチラリと桜色の髪を揺らしてソファーに座ったジェロームの様子を窺った。ジェロームはニコリと蒼い目を細めて笑みを浮かべた。


「教義的には駄目だけど?当然。 でも教会が本来関わるのは、聖堂で司祭が行う婚姻契約の儀式の時だけだしね。 王侯貴族たちの愛人の多さを考えて見てよ、オリビア。 一々婚姻審問何かを遣って居たら、僕たちの身体が持たないよ。 審問官の人数を考えたらオリビアだって分かるよね。」

「うぐっ。女性からの離婚はペナルティが大きいのに。」

「それは世俗的な問題。 基本的に教会は離婚を認めてないからね。 そこは各国の司教以上の者たちの権限であるしね。」



ローランの説明だと、教会は司祭により対の魂と定めた婚姻契約における離婚(契約解除)は、本来認めていない。 しかし夫婦に次代の継承者(子供)が生まれないと、血筋が途絶え世俗的な不都合が生じる為、各国の司教により婚姻審問(離婚審査)が行われる。 あくまで離婚は世俗の事とし、各国で選ばれた司教や大司教の審議(婚姻審問官は司教の管轄)で行われるらしい。

その為、女性からの離婚審査の訴えを受けるかどうするかは、各国(王国法もしくは世俗法)によって違うとのことだった。


一瞬、国が変われば母も離婚が!と考えてから、無理だと判り、わたしはガクリと肩を落とした。


母は、自分で弟のジルからアーシュレイ侯爵家の後継の座を失わさせるようなコト等するワケないじゃん。 父は離婚出来るものなら、母と離婚したいのだろうけども。 でも祖父の目の黒い内は、父の方が次期当主の座を失いかねないものね。 うん、やっぱり祖父には長生きして貰わなきゃ、母と弟、そしてわたしが不幸になる未来しか見えないわ。


「はぁ~、離婚しても女性や子供が幸せになるのは難しいのね。」


わたしはローランとジェロームの存在を忘れてポツリと言葉を漏らした。



「何をもって幸せとするのか分からないけどね。 僕たち神職に就いている者たちは、皆全て世俗的な縁を切っているからね。 だから離婚とか愛人の事柄に、僕は余り興味は湧かないかな。」

「ロロは本音を話し過ぎだよ。リビーが難しい顔をしているよ。」

「ふっ、今は、まあオリビアしか居ないしね。 そうそう愛人になる子の親はオリビアが心配しなくても大丈夫だよ。 何せフルーブ4世に娘を紹介して差し出したのは森番の父親自身だしね。」

「うぅ。ローラン先生、ソレって知りたくなかったかもです。」

「そう?ごめんね、オリビア。」

「駄目でしょ?ロロ。リビーは女の子なのだから生臭い話をしちゃ。」


なんだか少年のジェロームの方が、ローランより大人のような口ぶり。

一先ず、わたしが考え込んでしまって居たのは、フルーブ4世の愛人になった少女の両親を心配していたからだと、ローランには思われたみたい。


そう言えば猫型妖精アルプの姿が見えなくて、わたしは癒しを求めキョロキョロと辺りを見回して居ると「ああ、アルプなら友人の所へ行くと言って居たよ。」そうローランが教えてくれた。


全く下世話な話を知ってしまったから水色ニャンコのアルプを見たかったのに。


そう思いながら、わたしは光の薄い大きなアーチ型の窓の外を眺めてみた。





冬になるコトを知らせる、肌寒い北東の風に鈍色の薄い雲が次々と王都パルスの空を覆い、二階の窓から、人通りの少ない大通りを寒々しく見せていた。


それでも黄色に染まるマロニエの木々や赤みさすプラタナスの木々、緑の葉が嬉しくなるサバンの木々など様々な樹木で、物悲しく見える晩秋の庭園や街路を彩ってくれいていた。

明日は、雲が晴れるといいな。








冬が近づいても相変わらずわたしは、ローランとジェロームとのランテ語の授業なぞが続いているけども、(って云うかジェロームはランテ語を完璧にマスターし終えてるし。こやつは天才か!)流感の兆しはフローラル王国に未だ届いていない。 付属海に入港している船舶の運航を止められるロベリア教皇さまの威光は恐るべし。 やっぱり各国の君主たちより権威があるのかも知れない。 ユリウス教会には『絶対逆らえない!』と、わたしは思わず肝に銘じてしまいました。




そして祭事の狩猟大会が終わって2週間近くが経ち、祖母や母の打身や筋肉痛もすっかり癒え、時間が合えば、暖炉の焚かれた一階のサロンで、祖母からは刺繍を母からは編み物を教わりながら、デジレとコレットと一緒に昔話を聞いたりして過ごしている。


(ジルベール)たちは王都の町屋敷(タウンハウス)でも元気で、相変わらず馬場に通う日々。

時折り、椎の実や毬栗(イガぐり)などの木の実を拾って来ては、庭師や使用人と木の実爆弾とか作って、投げ合って遊んでいる声が聞こえてくる。


そして宮廷マナー教師のクレール夫人から、王城で好まれている詩歌などを習い、王族(フルーブ王家の皆様)の方のことを教わったりしている。

フルーブ王家の話を余り聞きたく無いなあと思うのは、フルーブ4世の愛人の事をローランから聞いてしまったから。 ミランダ先生から聞くフルーブ王家の話は、何処か歴史小説みたいで楽しいのだけど、クレール夫人の話は、宮廷で実際に会われて知らされた物せいか、どうも生っぽくて、、、苦手かも。


8歳の小娘(わたし)に語る話題でも無い気がしないでもない、、、ケドも、幼くとも淑女ならば自衛のため、知っていた方が良いのだとか。


特に聞かされるのが、亡くなった前王妃(アンナリーザ)(ベネクトア大公国)が出産された第一王子殿下レオナルドのことだったりすると、陛下(フルーブ4世)の不倫を知ったことへの罪悪感が、胸の奥からジワリと滲み出してくる。

そして現王妃殿下パトリシアに対しては同じで、、、。


どうやらわたしの父とフルーブ4世は、遊び仲間だったそうで(父よ、またお前か)、お相手に事欠かなかったようです。

王城で侍女や女官として務める貴婦人たちの暗黙のルールで、フルーブ4世と異性としてお付き合いしたくない場合は、独りで彼のテリトリーに入らないというモノがあるそうな。特に夕方以降は。

中には積極的にフルーブ4世とお付き合いしたい方がいらっしゃるらしく、そういう方には「どうぞどうぞ。」と譲っているとのこと。

女官で勤めている夫人の夫が自ら妻を薦めているケースもあるらしく、中々アダルトな職場環境のようで、端から戦線離脱を宣言したクレール夫人には、面白い所みたいです。

クレール夫人は達観していらっしゃる。



未だクレール夫人には、フルーブ4世の新たな相手は森番の娘だとバレてなさそうです。 が、現在も猟場の古城で療養(笑)していらっしゃるフルーブ4世なので、バレる日も近いと予想してます。


枢密院で日々話し合いをして疲れ切って帰宅する祖父を見ていると、もう少し祖父を労って欲しいとフルーブ4世に悪態を付きたくもなったり。

ジェロームの父親であるラクール公爵が、宰相を遣らされて居なくて良かったと安堵してみたりと、わたしの感情が忙しなく右往左往している。


わたしって此の方(国王陛下)の息子であるレオナルド第一王子殿下と、来年の建国祭の前後どちらかに会わせて頂くことに成って居るのですよね?

その時に現王妃殿下であるパトリシア王妃殿下ともお会いさせて頂くのですよね?


、、、、、勘弁して下さい。  、、、ホント。




因みにパトリシア王妃殿下は、ジェロームの叔母上になるそうですよ。

そして亡くなった前王妃(神聖ロベリア教皇国に連なるベネクトア大公国の公女)のお産みになった第一王女殿下はジェロームの長兄の奥方だそうな。


流石は前宰相のラクール公爵家とでも言えば良いのだろうか?



それにしてもジェロームは、こんな地位マシマシのラクール公爵家との縁を切らせて貰えるのだろうか。

、、、ジェロームが神の花婿になるまで後3年なのよね。

10歳で溢れる色気の美少女で、典礼言語のランテ語が完璧な天才児。

愛情過多な父親が居なくてもサラブレットなジェロームを手放さない人が多そうだけどね。



世俗的な問題にどっぷり浸かったわたしは、神の花婿になるコトをきっぱりと決めているジェロームの清々しい表情に若干の嫉妬を憶えたりする晩秋の頃。





◇◇




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