ep66 はじめてのお茶会
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祖父たちが、王家の猟場に出向いた慌しさも落ち着いた頃、弟たちにジェロームを改めて紹介する目的で、昨日開いた午後のお茶会を思い出し、わたしは溜息を洩らした。
大きな窓で中庭と繋がりテラスを設えた一階のサロンでのお茶会だった。
採光の為に作られた町屋敷の中庭は、領主館の広さと比べると可愛らしいものになる。 陽光を遮らないように低木の苺の木が植えられ、白い花からは仄かにキャラメルのような香りを漂わせている。深い色味の秋薔薇や艶やかな秋椿が、重苦しい雲で覆われた灰色の空を忘れさせてくれる。
本来この季節は、ヴァンダンジュ〔収穫祭〕の準備で、貴族たちは領地に戻っている時期の為、王都パルスの貴族街は、閑散としている。
今回、神事の狩猟大会が王都近郊にある北の猟場で行られた為、それを理由にわたしは、母と弟たちと王都の街屋敷に滞在出来ているのだ。 狩場には、貴族たちが宿泊出来る古城があるそうだ。
ちなみに王都で暮らして居る父と母がバッティングしないよう、王都へ出発する前に、家令のセバスへと重々お願いを済ませていた。
「本当に父君であるロベールお坊ちゃまと、お会いしなくて宜しいのですか?オリビアお嬢様。」
「当然でしょ?出来れば一生顔を見たくないかも。それにアッチもそうだと思うもの。よろしくね、セバス。」
少々悲哀の籠った声のセバスとの会話が過った。
父のロベールとは会ったことが無いから、怒りとか憎しみと言う感情が湧かない。 まあ腹立たしく思うことは年に数度あったけど。
前世の記憶が戻る前は、健気にも幼いオリビアは父親に会いたいと願っていたようだけども。
アレは、母を嫌っていた乳母のドロテアによる洗脳みたいなモノだと思っている。おそらくね。 弟のジルも空気を読んでいる所為か、父については全く口にしないから。 弟がローランに懐いている姿は、女神と天使の戯れのようで眼福、いや、微笑ましいです。ハイ。
お茶会の参加者は、弟のジルベール、乳兄弟のセルジュ。そしてエミールとリーシェたち4人。 でもって一応主催者であるわたしとデジレにコレット。 お目付け役にクレール夫人。 そしてゲストには、ジェローム・ラクール公爵令息と保護者のローラン。
ウチのジルの白い仔猫のような愛らしさはいつも通りなのだけど、ジェロームはヤバイ。
耳朶の中程で切り揃えられた桜色の光を纏う絹糸のような艶やかな髪。
著名な彫刻家の手で作られたような彫りの深い形の目には、吸い込まれそうな藍色の宝石眼が填め込まれていた。
完璧な美貌のローランの隣に座っていても、思わず目を惹くジェロームの美少年ぶり。
もしかして聖職者って美形じゃないと成れないとかなの?
ユリウス教の聖職者に教義で婚姻を禁じているのは、職場の同僚が美し過ぎるのが理由だったりして。 だって並の令嬢では、心が動かないでしょう、これじゃあ。
とまあ、皆がジェロームの美しさに瞠目しながら、ぎこちなくお茶会が始まった。
先代のラクール公爵が亡くなり、公爵位を継いだ息子が、宰相の役職を受け繋がなかった。 一見政治の中枢から離れたように思えるが、現ラクール公爵の嫡男の元へフルーブ4世の娘である第一王女が降嫁し、貴き血が重ねられた家柄で或ることには変わりない。
ジェロームは神学生だったが、急に増えた魔力で調整が上手く行かず、その調節の為、ローランが預かることになったと、ぎこちない空気の中皆に紹介をした。
「私のことはジェロームか、ローラン卿のようにロロとでも気楽に呼んでください。」
「ふーん。で、何で姉さまと一緒なのですかね?」
ニコニコと満面の笑みで自己紹介するジェローム。
それを遮るべく、あからさまに不機嫌な態度を取る我が弟。 なんだか仔猫が毛を逆立てて威嚇しているように見えてしまう。わたしから見れば可愛らしいけど駄目だよ、ジル。目上の公爵令息にそんな不敬な言動をしちゃ。 マナー教師のクレール夫人が視線で窘めているわ。
「そうですね。ローラン卿は、オリビア嬢の不安定だった魔力を改善し、視力を回復させた実績がありますからね。教団上層部はローラン卿の腕を見込んで私を託したそうですよ。 アンゼル枢機卿台下のお墨付きですしね。 暫くの間よろしくお願いします。」
まるでジルのミャオミャオと吠えるクレームなど無かったようにジェロームは、涼しい顔で尤もらしい説明しちゃっているし。 隣りでローランは楽しそうに微笑んで、頷いている。
完璧な美貌の青年の側には、仔猫のように愛らしい弟、清廉さと危い色気を纏うジェローム、そんな二人の美少年が戯れているように見える朗らかな午後のティータイム。 眼福、眼福。
独りツンツンしているジルは兎も角。
セルジュたちやデジレたちは、神学生と言えども、ジェロームがラクール公爵家の令息と知って、盛大に緊張しまくって凄く無口になって居たし、ぎこちないお茶会になって仕舞った。
神学生も聖職者と同じで、世俗の家格など関係ないと周知されていても、世俗で生きている者からすれば〔唯のジェローム〕として接するのは至難の業だったみたい。 だって彼が現在居るのは、神の家たる教会ではなく、アーシュレイ侯爵家の町屋敷だものね。
主催者たるわたしが持て成して、アットホームな雰囲気を演出すれば良いのだけども、不器用なわたしには無理な話。
そんなスキルがあれば、領主館でのお茶会や領都での集まりで、友人をもっと増やしている。
お目付け役のクレール夫人は、補助役に徹するし。
こうして8歳にして初めてわたしが主催したお茶会は失敗に終わってしまった。詐欺師的に口八丁なローランは、ニマニマ微笑んでるだけで非協力的だったのが痛い。 と言うか、ローランが連れて来たジェロームを紹介する為のお茶会だったのに手助けして欲しかった。
唯一の救いは、ゲストのジェローム、そしてローラン、クレール夫人を除けば、皆が身内だったと言うことで、わたしの失敗は外部へと伝わらないってことね。
まっ、でなければ執事長のクロードが、一階にある格調高い来賓用サロンの使用許可を出さなかっただろうしね。
それにしてもジェロームは、10歳と思えない落ち着いた話しぶりで、時々、(もしかして彼も転生者?)って疑った程だ。
はじめてのお茶会は、準備不足と慣れた身内ばかりだと言う甘えもあって、惨憺たる結果だったけれど、目的であったジェロームの紹介は、弟の側近たちと上級使用人には出来たはず。
まあ、目が幸せなお茶会だったと言うことで良しとしましょう。
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