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ep65 シスコン   (※ジルベール視点)



 王都に来てから十日過ぎ。


 ジル(オリビアの弟)は、貴族街にある公園の馬場で、日々、馬術訓練を堪能していた。とは言っても未だ6歳のジルに用意されるのは、可愛らしい茶毛の子馬だったが。


 仔馬に騎乗し町屋敷から、並足で20分ほどの公園に至るまでの見慣れぬパルスの街並みは、ジルの目を愉しませた。但し、隣を行く馬丁に手綱の1つを持たれてしまっているのが、ジルには少々不服だった。



「仕方がありませんよ、ジルベール坊ちゃま。ここは領主館の敷地内ではありませんので。」


 日に焼けた強面の顔を情けなく崩している年老いた馬丁に、何も言えなくなったジルだった。




 セルジュたちと出掛ける前に姉のオリビアから、午後のお茶に誘われたので、ジルは元気よく「了!」と返事をした。


「ジルはオリビアさまが大好きだよね。」


 悪戯っぽく茶色の瞳を向けて乳兄弟で友人のセルジュは、嬉しそうに姉のオリビアへ答えるジルを揶揄った。






 そうジルは、友人のセルジュから、揶揄われている通りのシスコンである。



 ジルが、生後半年で初めて認識した家族は、姉のオリビアだった。 人として初めに知覚したのは乳母のロザリーだったが。


 領主館西棟の子供の部屋に置かれたベビーベットへと、時々顔を見せ、始終話し掛けていたのは、2歳のオリビアだった。

 オリビアは母の専属侍女のメアリーに頼み込み、自分の乳母であるドロテアを出し抜いては、ジルの部屋へと突撃していた。


 母のクラウディアが信頼するメラニーとメアリーに「ジルはわたちが守りゅのよ。」と、オリビアは舌ったらずな口調で繰り返して話して、二人をコッソリ悶えさせていた。 二人は、ブランシェ辺境伯領から母のクラウディアに付いて来た乳母と侍女。 メラニーは母クラウディアの乳母。 メアリーはメラニーの娘で、クラウディアとは乳兄弟になる。



後々、オリビアが「ジルを守りゅ!」って言っていた真意が分り戦慄することとなるのだが、それはまた別の話で。



 幼い頃のジルベールは、姉のオリビアを何でも出来て、どんなことでも知っている素晴らしい人だとキラキラとした尊敬のまなざしで見ていた。


 その想いが微妙に変わったのは、ジルベールが乳兄弟のセルジュに対して、手に負えない我儘を言い出した5歳になる前の頃だった。


 領主館で兄弟の様に育っていたセルジュだったが、乳母で母のロザリーからジルベールの言い付けは何でも素直に聞きなさいと教えられてきたのだろう。 ジルベールは、セルジュに「あれやってこれやって」と些細なことまで言い付けるようになった。 母が此の侭だと駄目だと思った極めつけは、厨房へセルジュを行かせて、おやつを持って来させたことだろう。 それは本来メイドたち下級使用人の仕事である。 姉のオリビアは、乳母のドロテアから歪んだ教育を受け、また乳兄弟がいないので、其処ら辺の関係性には無頓着だったのだ。


 王都での社交の代わりと、領地運営に忙殺されていた母のクラウディアは反省し、家令のセバスに相談し、年が近いセバスの孫リーシェと執事長アランの息子エミールをジルベールの側近候補としたのだ。  セバスの孫リーシェは3歳年上で7歳、エミールはオリビアと同じ年6歳。 何でも言うことを訊く男爵令息で身分の低い素直なセルジュとは違う者をジルベールの側へと置いたのだ。


 男爵令息のセルジュは、侍女長サマンサたちや乳母のドロテアなどの一部の使用人たちから見下されていたのだ。 特にドロテアは後継であるジルベールの乳母になろうと画策していた為、ロザリーやセルジュへの当たりが厳しかったのも一因。


 兄のようなリーシェやエミールに使用人と側近の違いを諭され、ジルベールはセルジュに対しての態度を改めた。

 


 そしてオリビアの7歳の祝福の儀が行われた。

 そこで姉のオリビアは、────── 前世を思い出したのだ。



 それ以前もオリビアは、ジルベールを猫可愛がりしていたが、益々甘くなっていった。


 だが、弟はリーシェやエミールと話す内に気付いてしまったのだ。


 〔僕の姉さまは、貴族令嬢としてオカシイかも? 西の庭の庭木へと登るし、小川に突っ込んでいくし、僕たちと一緒になって駆け回って遊ぶし。まあ僕としては、それはそれで可愛いから良いのだけどね。何か企んでいる仔猫みたいで。〕


 時々、ウッカリ発言をして侍女たちに叱られている姉のオリビアをジルベールは微笑ましい思いで眺めていた。




 そんなことをジルベールが思っていることを知らないオリビアは、今日も白猫みたいで可愛いと(ジルベール)を愛でていた。



 但し、町屋敷で新たな客人となったラクール公爵令息は、気に入らないと思うジルベールだった。 そして折角のオリビアとの午後の茶会で、綺麗な笑顔で姉のオリビアの前の席に彼が居たことに、ジルベールは益々、ラクール公爵令息のことが気に入らなくなってしまったのだった。




◇◇



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