ep63 町屋敷でお留守番
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翌日、ローランは祖父と面談し、わたしと共にジェロームの魔力調節をする為の滞在許可を得たとのこと。 どうやら師であるアンゼル枢機卿からの滞在依頼書とジェロームの父であるラクール公爵からの手紙を祖父へと手渡したそうだ。
ジェロームが神学校から出奔してしまったのは、膨大な魔力が突然不安定になった為、精神錯乱でパニックに陥ったことによるもの。と言うことにしたらしい。(教会側は)
「私は教皇猊下や(大)枢機卿台下達と一刻も早くお会いしたくて旅に出ただけなのですが。」
とは、滞在する部屋に案内された後の美少年ジェロームの弁。
ラクール公爵にしろ祖父にしろ教会からの言葉は、微塵も疑うことなく信じ受け入れることが、前世に毒されているわたしには、奇異に感じてしまう。
ローランがわたしに幾度か「人前でユリウス教会へ疑義を呈してはいけない。」と忠告したことは、間違いで無かったと肌感覚で実感してしまった。 そう言えばデジレも、「言葉に気を付けないと駄目だよ。」って、コッソリ陰で注意してくれていたっけ。
祖父は、王家の血筋であるラクール公爵家のお坊ちゃまと縁が繋がるかも知れないと期待でニコニコ状態。 わたしがジェロームとの婚約を匂わせるような画策をしなくても、祖父の脳内で勝手にジェロームを婚約者として変換していた。
彼は、神職を目指しているから婚姻とか無理なのですけどね。
ローランとジェロームから、そのことがラクール公爵に知られると面倒なので、内緒にして置いて欲しいと笑顔でお願いされた。
はあ、教会関連のことって秘密ばっかりね。
二人からの話を聞いて、わたしは祖父に対して、罪悪感を抱いて溜息をついていた。
「でもオリビア。 これは疫病が治まるまで王都に留まる理由付けになるよ? 狩猟大会が終わったからと言ってジェリー1人を町屋敷に残して、領地へと帰れないだろ? ある程度ジェリーの魔力が安定する迄と知らされている筈だからオリビアの望む期間、此処に留まれる。ねっ? オリビアがアーシュレイ侯爵閣下に罪の意識を感じる必要はないでしょう?」
悪戯っぽく片目を瞑ってローランは、軽い調子でわたしへと話した。
なんだか上手くローランの掌で転がされている気もするけれど、祖父と母の命を救う為だとわたしは自分に言い聞かせ、罪悪感を飲み込むことにした。
まあ、これまでも祝福を授かった児童が、神学校へ入学前に魔力酔いで体調を崩したら、聖堂の神父たちか、重症の場合は枢機卿の誰かが調整をしにお宅訪問をしていたそうなので心配しなくて良いと言われたのですが。 だってわたしの目の調子にしろ、ジェロームの混乱にしろ、詐病じゃ無いですか、、、気が付いたら教会サイドの共犯者にされているって、今一つ納得が出来無いよね。 祖父への罪悪感は兎も角。
そして狩猟大会の一日前に祖父母と母は3人で、王都から北の近郊にある王家の狩場へと出掛けて行った。 領地から連れて来たアーシュレイ騎士団の20人の騎士たちと共に。
今年は、魔獣のポム兎やグラス狐が増えた所為で、魔狼の一種イエロードックと呼ばれている小型の魔狼が数多く出没しているとか。 その為何時もより狩猟の日程が延びる予定だそうだ。
そんなこんなで町屋敷に保護者の皆が居ない日々。
弟とわたしは王都の街へと繰り出し・・・・・・・・ません。
いや、出たいですけれども。
ただ弟は、紹介された家庭教師の神学生(高等部)や護衛騎士、成人を過ぎた従者、そしてセルジュたちと共に馬場のある公園へと出掛けて行っているようですが。 (ぐっ、裏山、、、。)
因みに神学生は、7歳秋から12歳春までを初等部。 聖冠の儀を終えた13歳秋から神父認定資格を得るまでが高等部なのだ。フローラル王国の神父資格認定は、7つある大聖堂の司祭以上が行う。 司祭以上になるには、祝福属性が二つ以上顕現し、神聖ロベリア皇国のユリウス大聖堂での教えを受ける必要がある。
王都パルスでのわたしの生活は、来年春の建国祭に向けてクレール夫人から主に宮廷マナーについてのお勉強。 専属侍女として王宮へと付いてきてくれるコレットとデジレと共に。
本来なら宮廷マナーは、高位貴族の子女が10歳で参加するお茶会デビューまでに学べば良いことだった。 が、祖父のハッチャけた言動のせいで、来年の春までにそれなりの形まで出来ねばならなくなった。 即席マナー教育ってどうよ?
まあ、はんなりとした口調のクレール夫人なので、余りストレスは感じないのだけども。
そして、王都パルスの仕立て屋さんを呼んでのドレスの注文。
祖母は、いつも王都で呼んでいる仕立屋さんへと頼むよう、執事長のクロードに仕様書を渡していた。 今回は、わたしと王城へ行く、コレットとデジレの分と一緒に。
今だに何となく友人を侍女として扱うことに抵抗感を持つわたし。 だけど招待されて誰かに付き添ってもらうには、専属侍女か(未成年は)後見人で無ければ入れない場所があるとか。 招待状に、”友人などとお誘いあわせの上”と言う文言が無ければ、招待名がある人しか本来は、会場入りが出来ない。。。専属侍女って、元は夜会で、貴婦人の長いローブドレスの裾を持つ女性だった風習の名残。
特に王城などで、男爵令嬢のデジレには入れない場が多いしね。
此の為、伝手を頼って王宮や高位貴族の屋敷へ行儀見習いとして侍女になる令嬢が多いのだ。 偏に婚活の為。そして親族たちから言われて人脈を増やす為。
お陰で侍女の平均年齢は、特例を除いて13歳~18歳と比較的若いのだ。
祖母が注文していた生地を仕立屋さんが届けに来た。
「何かリビーん家に申し訳ない気がする。」
デジレは、へにゃりとマロンブラウンの眉を垂らして、仕立屋さんに注文を終えた後、済まなそうな声で詫びて来た。
「お祖母さまやお母さまがデジレに言っていたでしょう? わたしの侍女として王宮のお茶会に出席するなら必要だって。」
「そうですわ、デジレ。申し訳ないと思うのでしたら、クレール夫人からの教えを自分のものになさってくださいね。オリビア様のためにも。」
「「はい!」」
あっ!わたしは、思わずコレットの口調に反応し、デジレと同時に返事しちゃったよ。
近頃益々クレール夫人の口調が似てきたコレット。
わたしより1つ年下なのに、淑女然としているから、お姉さんに見えちゃう。 流石、家令のセバスの孫娘だけはある。
しかし憂鬱だ。
やっぱり出席しないと駄目なのだろうか?王妃主催の子供会、、、違った、ロイヤルでプレミアムなお茶会だった。 本来なら10歳くらいで招待されるはずなのに・・・・・・・・。 このお茶会って、王城庭園で開催される高位貴族の子女たちを招待しちゃうお披露目茶会とは、また別口なんだよね。
ついついそんな愚痴をデジレとコレットへと溢してしまう。
「私とデジレが専属侍女として、オリビアさまに付きますからご安心くださいませ。」
「うんうん。コレットが居るからリビーは大丈夫だよ。私もコレットを頼りにしているからね!」
「ですからデジレ!言葉使い!はぁ。」
「ゴメンナサイ。コレット。」
「ふふふ。」
コレットは、丁寧な口調を放棄して、デジレを叱りつける。 その様子が可笑しくて、わたしは小さな笑いを漏らす。
水色の猫型精霊アルプも帰って来て、久しぶりにわたしのドレスの膝の上で寛いでいる。
カーテンを開いた窓の外は、冬の気配を感じさせる鉛色の空。
弟とわたしが今は、この広い町屋敷の小さな主人。
祖父が出掛けに弟へ「アーシュレイ邸の留守を任せたぞ。」と言い聞かせると、弟は背筋を伸ばして「はい!お任せください、お祖父さま!」そう力強い応えを返した。
留守を守って居るのは、実質執事長のクロードたちだけど、幼いながら主人であろうとしていた弟の可愛らしくも凛々しい姿を見送りの日と同じ雲に覆われた空を見て、思い出した。
さて、今日の午後のお茶の時間は、弟たちも誘いましょうか。
エミールと会って照れる淑女のコレットの姿も見てみたくなったし。 わたしの代わりにコレットから叱られっぱなしのデジレをそろそろ救出しなくちゃね。
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