ep62 企む悪役令嬢
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肌寒い晩秋に膝小僧を見せていた色っぽい美少年ジェロームの説明をローランから受けて驚いた。
なんと彼は、ラクール公爵領地の神学校を抜け出し、2ケ月かけて夏の国内旅行を楽しんでいたのをアンゼル枢機卿に捕獲されていたらしい。
幾ら何でも公爵家のお坊ちゃまが遣るには、破天荒過ぎる行いでしょ。
おまけにこんな美少年が、フラフラと1人旅とか。
ジェロームが見つかった後、父親であるラクール公爵は、「心配だから神学校へは通わせない!」と言い張ったらしい。
「教会での規則ですので。」
と、アンゼル枢機卿が丁寧に説得したそうだ。
「いい加減に父上も子離れして欲しいですよ。 末の弟を入れると7人も子供が居るのですから。」
何処か諦観している表情と声に、わたしは「君って10歳の子供だよね?」と、思わず突っ込みそうになった。
ヤレヤレと肩を竦める仕草や半眼になってる表情など、まるで大人のようだった。
ジェロームこそが、「見た目は子供、頭脳は大人!」を地で行くのでは無いだろうか。
そしてジェロームのそんなセリフを受けてローランは、、。
「あの調子だとジェリーの聖冠の儀が難しそうだね。」
と、此方も肩を竦める始末。
2人とも気が合っているようで何よりです。ハイ。
しかし、10歳で世俗と縁を切って、生涯童貞の道を選択するなんて、後悔しなけりゃいいけども。 大人のローランも当たり前に其れを受け入れているし。 三十路過ぎてたおばちゃんのわたしは、ジェロームの将来が心配だよ。
そして狩猟大会のシーズンが終わるまで、ローランがジェロームの面倒を見るそうな。 えっ!??つう事は、このアーシュレイ邸に滞在するってこと?
それにしても流れる艶やかな銀髪に、魅入られそうな紫眼をお持ちの完璧な美貌のローラン。 珍しい桜色の髪を撫でつけて、藍色の蒼い目をわたしに向ける大人っぽい美少年のジェローム。 こんな見目麗しい2人が揃って居れば、デジレを始めとした町屋敷の人たちの心を騒がしそうだ。
わたし?
勿論、目は奪われるけれども、どの道彼らはソラリス神の花婿ですからねぇ。
余所様の夫に興味は沸きません。
勿体ない話です、ハイ。
そう言えばジェローム少年の家、ラクール公爵家の先代の当主って、宰相だった頃、母の不幸な結婚を推し進めた犯人の1人じゃないですか。
王命を出した張本人のフルーブ3世は、4年前に崩御され、今や彼岸の方ですけれども。
「そうそうオリビア、疫病の件だが。 ロベリア半島湾岸部から河で内陸部へ行く商船には、教会から一週間程、足止めするように御触れ出したそうだよ。 咳や熱が出てる人と接触した人たちの発病は、それ位で分かるとのこと。 発症者は、各教会や神殿で隔離している所だ。」
「そうなのですか?ありがとうございます、ローラン先生。」
「ああ、この子がアンゼル卿が話していたイレギュラーなんだね。ロロ。」
「そうだよ、ジェリー。と言うか、僕をロロって呼ぶな!」
「あははっ。」
「え?っと?」
あれ?
わたしが、転生者で精霊が視えることを教会の人にも(一部の人を除いて)話しちゃ駄目だった筈。
その為に読めない契約書に血判を押して、制約魔法を施されたのよね? 違反には、死のペナルティ付きで。
現在わたしが、転生して精霊が視えていることを知って居るのは、ローランとアンゼル枢機卿、会ったことの無いベルン枢機卿、そして畏れ多くもロベリア教皇猊下だけだったような?
わたしは、訳が分からなくて目を白黒させた。
脱走神学生にバラしちゃって良いの?
目をパチパチと瞬かせて、困った時のアルプ頼みで、猫型精霊アルプを探した。そういや此の三日間、姿を見ていない。
「ああー、うん。彼は、僕の弟子だから、オリビアの事を話しても大丈夫だよ。」
「ロロが、私の師匠だって?」
「口を閉じてろ、ジェリー。年齢差を考えてご覧? それに未だ君は、聖冠の儀を終えて無いでしょう?」
「私とロロは対等、、、コホっ。、、では無かったか。 申し訳ありませんでした、ローラン卿。 オリビア嬢も驚かしたようで申し訳ない。」
「・・・いえ、、、。」
わたしの怪訝な視線に気付いたジェロームは、慌てて取り繕ったように言い換えた。
、、、胡散臭い。
ユリウス教の聖職者と聖職者を目指す人たちって、皆、胡散臭いのだろうか?
メガネを作ってくれたアンゼル枢機卿は、カルトなユリウス様のクイズマニアなだけで、柔和なナイスミドルに見えたけれども、やっぱり胡散臭いのだろうか。
まあ、いいか。
わたしとしては、ゲームのシナリオから脱して祖父と母が疫病に倒れず、平穏な日々を家族たちと過ごせれば良いのだし。
どの道、教会には目をつけられている見たいだから、今の所は余り多くを望むまい。
転生仲間のデジレに飛び火しないよう気を付けなきゃね。
うん、ローランとジェロームが、BでLな関係だったとしても気にしない。
「オリビア、なんか碌でも無いことを考えてない?」
「い、いえ。ローラン先生、わたしは何も。」
「ふーん。」
ティーカップの紅茶が空になった頃、ノックの後、コレットが部屋に入って来て、夕食を何所で食するのかを尋ねてきた。
祖父母は、母を伴って招待されたお宅の晩餐会に行ったそうだ。
「将来の為に今からでも中央での社交を。」と、祖母から言われて、幾つかのパーティーへ母も参加されられることになったのだ。
弟たちは、家庭教師と一緒に既にサロンで食べ始めているそうだ。
神学生であれど、一応はラクール公爵家のお坊ちゃまであるジェロームは、わたしのゲストとして、扱われて居るそうだ。 コレットの話によると。
きっとクレール夫人が執事長のクロードたちへジェロームのことを伝えたのだろう。
絶対祖父は、ジェロームをわたしの婚約者として、狙いを定めちゃうような気がする。だって公爵家だし、風の祝福持ちで魔力レベル5なんだよ。
王家を狙うより、労力や金が掛らなそうだもの。
いや待てよ。
ジェロームは13歳になったら神職になる為、世俗を離れる。ならば、ジェロームと婚約するかも?って祖父に匂わせて置けば、3年間は婚約しなくても済む?
案外、美味しいかも。ニヤリ。
「オリビアは、何を企んでいるのかな?」
「い、いえ、何も。えーと、そう夕食! 夕食は、第二サロンで。コレット、第二サロンは大丈夫かしら?」
「はい、お父様が。いえ、クロードがそちらに準備されてると申しておりました。」
「そう、ありがとう、コレット。では、クレール夫人と合わせて4名でお願い。」
綺麗な礼をしてコレットは静々と白い扉から去って行った。
わたしは控えの間に居るナタリアを呼び、立ち上がって、ローランたちと夕食の為に第二サロンへと向かった。
さて、執事長のクロードにジェローム少年へ、客間を1つ準備して貰わないと。
ローランのいる部屋の近くで良いのかしら。
わたしがアレコレと考えて歩いている後ろから、興味深げに藍色の目で見詰めるジェロームとそれを目で諫めているローランが居たことを知らなかったけれども。
すっかり陽が落ちて暗くなった邸内の廊下やメイン階段には、魔石ランプがオレンジや黄色の明かりを点け、赤々と闇を照らし払っていた。
◇◇
──────水が流れ落ちる音が響く黒い森の奥──────
『クロいるか?』
流れる滝のような長い髪を黒水晶の床に広がって居るのも気にせず恐ろしく見目の整った少年は、質量を持った重たい暗闇に向かって声を掛ける。
その声に誘わる様に暗闇から漆黒の影が浮き上がり、人外の美しい中性的な青年の姿を形作っていく。
闇を纏ったような長い黒髪。
ブラックオニキスを嵌め込んだような瞳。
漆黒の髪と瞳を際立たせる純白の肌は、月光を思わせる。
『闇の精霊王ノクティスである我をクロと呼ぶな。水の幼子よ。』
『確かに水の精霊王アクアリウムからすれば、我は生まれたばかりだが。 我の愛し子が、黒い猫をクロと呼んでいたのだ。 その言葉が闇のに似合って聞こえたのでね。』
『全く水のモノたちは、直ぐ愛し子を作る。 少しばかり人の力に頼り過ぎていないか?』
『それを言うなら闇の精霊たちであろう。 多くの人間たちに加護を与えて過干渉過ぎだ。 闇の精霊から助けてと頼みに来たぞ。我の眷属を使って。』
『フン。理は犯しておらんわ。 どうせ何か頼みがあって我の元へ会いに来たのだろう、水の幼子よ。』
『うむ、話が早くて助かった。 実は我の愛し子傍に、あの御方から加護を得し使徒がおるのじゃが、何やら魂にヒビが入っている様で、魔力が変質し前世での契約精霊との繋がりが切れておった。 それ故に未だ精霊と契約を結べてないのじゃ。 あ奴は闇魔法を良く使っておるのでな。 一先ず知らせて於こうと思ったのだ。 ヒビは時間が経てば癒えるが、変質した魔力は元に戻らぬ。 恐らく前世では風の精霊と契約しておったのだろう。その名残が感じられた。』
『ご苦労なことだな、水の幼子よ。』
『王に成るまでは、自由に動けるからな。それに我の愛し子は特別なのだ。』
(大浄化後で精霊の姿が視える人間なぞ2人目だと聴く。)
『水のモノたちは、いつもそう言うがな。まあ、気には留めて於こう。』
『うむ。わざわざ来たかいがあった。ではな、クロ!』
『コラっ!』




