ep61 ジェローム・ラクールの旅立ち 〔※第三者視点〕
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夏至祭シーズンの祝祭日当日。
ジェロームは唐突に思い出したのだ。
自分が使徒であり〔2番目〕ディオと仲間たちから呼ばれていたことを。
フローラル王国のラクール公爵領に在る聖堂の祈祷の間で、ジェロームは数十人の少年達と膝丈のチェニック姿で、朝の祈りを捧げていた。
一般信徒が集う豪奢で厳かな祭壇のある聖堂の礼拝の間とは違い、神学校にある祈りの間は、木造造りで天蓋などが開け放たれ、早朝にも関わらず眩しい立夏の太陽光が室内に降り注いで、祈る少年達を照らして居た。
その光の中で、少年たちは独特のリズムでランテ語の聖書を謡うように諳んじていた。
その最中の出来事だった。
(冗談でしょう。何故、今なのですか。主よ・・・。)
ジェロームは混乱していた。
何故なら、彼は現在10歳なのだ。
本来なら7歳の祝福の儀が行われた際、記憶の封印が解かれ、ジェロームがディオであったことを自覚し、覚醒するのだ。
そして神聖ロベリア国のユリウス教団本部から、使徒だった仲間がジェロームを迎えに来る筈だったのだ。
(今回はフローラル王国の人間として生を戴きましたか。前回はプロメシア王国の人間でしたが。どの道13歳の聖冠の儀で、世俗との縁は断ち切れるのですから、出生国の存在は無意味ですがね。)
ジェロームが、そう結論を出した後、不意に父であるラクール公爵が、神学校の寄宿舎へ出立するジェロームに告げた言葉を思い出した。
「風の祝福を得たことは喜ばしいが、お前が神職へ進む事はラクール家当主として許さない。それを忘れずに日々精進しなさい。」
「はい、父上。」
ジェロームがラクール聖堂で祝福の儀を終え、風属性で他の属性魔力の色も混り、魔力レベル5と言う異例な結果に両親や親族達は色めき立った。
次男だった父は、祝福を持てなかった為、喜びもひとしおだった。
5人の兄や姉たちの中で2人は光属性の祝福を得ていたが、魔力レベルは在り来たりなレベル1だったのだ。ただ神学校での鍛錬次第で、魔力レベルは成長することがある。
父親は館に置いてあった守り石の原石だけでは飽き足らず、慌てて宝石商を呼び出し、希少な原石などを追加注文した。
張り切っていたラクール公爵との期待とは裏腹で、ジェロームが選んだのは、マスカットのような小さなプレナイトの碧石だった。
子供が親の期待を裏切るのは、極ありふれたことなのだが、、、ラクール公爵は有り余った期待を持て余し、王国が管理する貴重なミスリル金を使った最高品質のブレスレットとピアスを守り石で作り、息子のジェロームを呆れさせた。
先代のラクール公爵、つまりジェロームの祖父は、〔笑う白狐〕宰相として、フルーブ3世と共に辣腕を振るい政を執り行ってきた。
が、後を継がせる予定だった長男を不審な事故死で失った。
長男は24歳の若さで、2人の娘と妻を残して天の庭へと逝ってしまったのだ。
そこでジェロームの父親が慌てて王立騎士団を辞め、20歳で婚姻し、次期ラクール公爵となった。長男のスペアとして、それなりに厳しい教育を父は受けていた。 が、兄夫婦に嫡男が生まれるまでは、次男以降が婚姻出来ない仕来りだった為、自由な独身ライフをジェロームの父はエンジョイしていた。
それが急転直下の事態。
政のパワーゲームの中心に居るラクール公爵家の後継にしては、ジェロームの父は素直過ぎた。
宰相であった祖父は、ジェロームの父を補佐として就けていたが、次代の宰相とするのを断念した経緯がある。
現国王で在る4世とは、可もなく不可もなくの距離での交流だった。 とは言え、現在は後継であるジェロームの長兄と4世の第一王女は、父ラクール公爵の望みを外れ婚姻関係になっていた。
フローラル王国の王家であるロイス・フルーブ家は、初代から始まり子沢山の一族だった。 王妃が皆、短命なのは、次々に子を出産させられたから、と言う噂が流れているくらいだ。
前王であるフルーブ3世が、王国内安定の為、公爵家は現状の7家以上は増やさないと決めた程だ。
建国時は1つだった公爵家が増えたものだと、ジェロームは4度目の生で、出会った初代ロイス・フルーブを思い出した。
あの当時は、未だフローラル王国を建国する前で、ロベリア教皇の代理で枢機卿として、彼と新たな国と教会の取り決めについて話し合っていた。
闇の精霊王を従えているかに見えたロイス・フルーブは、ジェロームからすれば異質な存在だったのだ。
(そんな複雑な所感を抱いていたフローラル王国の政の中心に生まれ変わるとは──────。 父の代で、政争の中心からは、やや離れているようだが。)
だが、(主のなさることに無駄はない)とジェロームは思い至り、今後について考え始める。
気が付けば、夏至祭シーズンの祝祭日に祈る聖書の章は終わりに近付いていた。
(取り敢えずラクール領地からであれば、パルスに在るセクティウス大聖堂を目指して、他の枢機卿たちと連絡を取らねばなりませんね。
紙鳥用の魔紙があれば、楽だったのですが、無い物は仕方ありません。)
祈りが終わったことを告げる鐘の音を聴きながら、ジェロームは足早に祈りの間を退出し、木材と漆喰で作られた古い寄宿舎を目指した。
樹齢を重ねた木々に囲まれた静謐な聖堂の広大な敷地内にある神学校から抜け出したジェロームは、切り揃えて肩に届きそうな桜色の髪を麻のキャップに隠して、旅慣れた様子で乗合馬車の乗客となっていた。
ラクール聖堂の神学校で、領主の息子であるジェロームが消えたと大騒動になって居たことを旅を楽しむ彼が知る由もない。
◆◇◇
その日の夜、神聖ロベリア教国のユリウス大聖堂で、ロベリア教皇であるモノへ、ディオが現れると言う夢視の力が働いた。
目覚めた後、煙るような白金の髪を掻き上げ、まだ19歳の若いモノは眉根を寄せ、寝台の上で軽く舌打ちをした。
とても礼拝に訪れる一般の信徒には見せられないロベリア教皇の姿である。
「くそっ! イレギュラーなオリビアが、こんなバグを引き起こしたのか。」
新たな過去世持ちが、フローラル王国で出現するとは、星見でも夢視でも知らされなかったのだ。
今代で13人の使徒が全員揃うと夢視のお告げがあったのは、6年前。
初代ユリウスでありモノである彼が、それを視たのは、13歳の聖冠の儀の夜であった。
ローランからの報告で、オリビアは異界の過去世を持ち、次代の精霊王の愛し子とあった。
初めは、フローラル王国と言うことで教皇は、異端の寵児初代ロイス・フルーブの再来かと気を揉んだが、その後の報告で何の脅威にもならない在り来たりな少女だと大枢機卿会議で、一度目の結論を出し、現在はローランがオリビアを経過観察中だ。
「契約精霊のいないローランは、任せる役目を限定させるしかないので、丁度良いと言えば良いのだが。 それにしても、3年前に7歳の祝福の儀で、過去世持ちが現れたのに黒の魔水晶盤が反応しなかったとは、いったい、、、。」
ロベリア教皇は、契約精霊のフェンリルにアンゼル大枢機卿へと声を繋いで貰い、ジェロームの保護を頼んだ。
アンゼル大枢機卿が、当初の目的を忘れ暢気に旅を愉しむジェロームを捕獲したのは、ラクール聖堂からジェロームが旅立った日から二月後。
そして子煩悩なラクール公爵が、発見された愛息子のジェロームを神学校へ戻さないと騒ぐのを宥め終えたのは、その一月後。
「もうボクは歳かな?ジェロームの相手がしんどい。」
そう零してアンゼル大枢機卿は、連絡のあったローランにジェロームを任せた。
「主は無駄なことはなさいません。これがロロの助け手になるやもしれませんよ。ああ、保護した少女の面倒を見るのも忘れずに。オリビア嬢によろしく。」
ナイスミドルなアンゼル大枢機卿は、ニッコリと極上の美女であるローランに微笑んだ。
そんな会話を師と弟子がしていることを知らないロベリア教皇は、オベリスク帝国に居るヘプタの光の契約精霊から声を受け取っていた。
西方の各国では、ロベリア教皇から疫病の回文が出されているを余所に、狩猟狩りシーズンが始まった。
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