ep60 ローランの同僚
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デジレとひと心地ついていると祖父の従者が、夕食会の誘いに部屋へと訪れた。
案内された家族の夕食会は、弟が晩餐室使用の年齢に達して居なかった為、一階のサロンで催された。
集まった家族は、祖父母夫妻、母、弟、わたしにマナー教師のクレール夫人で6人。
ローランは、未だ出掛けた侭で、アーシュレイ邸に戻っていない。
そして、王都の町屋敷で勤めている上級使用人達の紹介が、祖父から行われた。
執事長のクロード・エミルゴは、家令のセバスの息子だった。 詰り、リーシェとコレットの父親である。
他の執事や執事見習い、逞しそうなメイド長たちともご挨拶。
屋敷内での侍女長は、取り敢えず祖母付きの侍女が務めることになった。
アッチの侍女長サマンサはお留守番。
善きかな、善きかな。
それから祖父は、自分の侍従3人、祖母の侍女4人、母の侍女2人(メラニー、メアリー)、弟の従者見習いの3人(セルジュ、エミール、リーシェ)、そしてわたしの侍女見習二人(コレット、デジレ)と侍女二人(ナタリア、セリーヌ)を町屋敷の上級使用人達へサラリと紹介した。
その後、執事長のクロードから今後のスケジュールを聴きつつ、家族たちとパルスで流行りのオサレな料理を頂いた。
肉以外の食材が全て裏ごしされたモノで、成型されて美味しいのだけども、何故か微妙な気持ちになった。
だって、野菜や果物、魚、卵が、幾つかのスープと見た目が数種のババロアと化してたんだもの。
多様な恵みを味わう晩秋の頃なのに何てこった。
嫌、噛まなくても美味しかったけどさ。
◇
結局、ローランが色気溢れる美少年と共に、町屋敷へ戻って来たのは三日後の15時過ぎだった。
白い扉を少し開いた状態で、ローランが廊下から声を掛けて来た。
「色々あって、遅くなったよ。」
そんな黒い修道服のローランの近くには──────
アレ?美少年?
保護しに行ったのは、少女じゃ無かったかしら?
10歳位の少年は、グレーの短い修道服の上から防寒用の生成りのシンプルなローブを羽織っていた。
伸びかけた桜色の髪を無理矢理ひっつめて後ろで1つに括り、形の良い両耳を見せていた。 蒼い綺麗な瞳は潤み、上気している頬や耳朶が、ほんのりと朱に染まっていた。
──────何かイカンでしょ?コレ。 短いチェニックから見える膝小僧が可愛いし。 少年を直視しているコッチが恥ずかしい。で、でも目が逸らせない。 もしかしてわたしってアブナイ人かも?
「オリビア、部屋に入っても良いかな?」
「ええ、どうぞ。」
吃驚し過ぎて、入室許可を出すのを忘れていた。
わたしは、近くに居たコレットへ2人の案内を頼む。
わたしとデジレとコレットは、お茶の時間を利用して、紅茶の香り比べのコツをクレール夫人から教わっていたのだ。
乾いた茶葉の香りなんて、わたしにはサッパリ分りません。
蒸らしている時の最高の瞬間とか、、、ナニソレ、、、。
こういうのは、お嬢サマなコレットに任せよう。
デジレとわたしは、こっそり目を合わせて、首をチョコンと二人で傾げてみせた。
わたしが控えの間に居るナタリアを呼んでいる時、クレール夫人は陶酔した表情で、ローランに見惚れていた。
コレットは、もう1つあるティーテーブルへとローランと美少年を案内し、「此処で良い?」と言うように目で伺ってきた。
わたしはコレットに軽く頷き、立ち上がってマントルピースが置かれた近くのティー・テーブルへと歩いていった。
「師から命じられて狩猟大会の期間中、コイツを押し付けられた。」
「コイツではありません、準大枢機卿。 私はジェロームと申します、レディ。」
「ど、どうも。アーシュレイ侯爵家が一子、オリビアです。よろしく?」
少年ジェロームが名乗りを上げた途端、ローランがパシンと掌で、桜色の形の良い頭を叩いた。
そしてローランは美麗な顔を顰めて、大きく息を吐き出した。
「はあ、オリビアには後で話そう。」
そう言ってローランは、クレール夫人やコレットたちが居る方向に視線を遣り、胡散臭い綺麗な笑顔を作り、優雅に会釈した。
立っていたわたしは、クレール夫人にローランを、ローランにクレール夫人を紹介した。
領主館では時間的に2人が会うこともないだろうけど、この町屋敷のアーシュレイ邸だと、今度も出会う可能性があるからだ。
2人が卒なく挨拶を交わしたと思ったら、クレール夫人がローランたちを凝視して、口を開いた。
「もしかして其方は、ラクール公爵家の御令息様ではないでしょうか?」
「はい。ええと?もしかしてローデン小伯爵夫人・・・ですか?」
あら?
2人はお知り合いだったようですね。
旧交を温め合うと言っても、ジェロームは10歳くらいの少年だし。
クレール夫人は23~4の貴婦人だし、弾む会話はないように思える。
「もう違いますのよ。ラクール公爵令息様。夫が亡くなり婚家を出ましたので、クレールとお呼びください。今は期間限定でオリビア嬢のマナー教師をしておりますの。」
「それは情報に疎くて申し訳アリマセン。私も何れ世俗と縁を切ることになると思いますので、ジェロームとお呼びください。」
「あー、コホン。ジェリー、話があるなら向こうで。僕はオリビアと話が在るから。」
ローランは、わざとらしい咳払いをして、会話を打ち切れとジェロームに仄めかした。 その気配を察したクレール夫人は「所用がありますので失礼しますわ、ごきげんよう。」と、いつものゆったりとした口調で挨拶をして、コレットたちと共に白い扉から静かに優美な所作で退室していった。
流れるような素早い対応にデジレは取り残されてキョトキョトしていた。
コレットさんや、ちゃんとデジレを回収して行ってくださいな。
「デジレ、お疲れさま。また後でね。」
「う、うん。では、ローラン先生たち、お先に失礼いたします。」
わたしの助け舟の声掛けで、ホッと救われた様な顔をしてデジレは、サイドをシニヨンに結ったマロンブラウンの後ろ髪を揺らして、そそくさと白い扉の外へと消えた。
その間にナタリアはティーテーブルへと紅茶セットをサーブし、軽く礼をして、ホワイトオークのカートを押し控えの間に向かった。
「はあ、やっと落ち着いて腰を降ろせる。」
「ふふっ。なんだかローラン先生が年寄りくさいわ。」
「いやぁ、だって精霊様からの頼みで、攫った後に慣れない子供の看病して、、、。その最中にセクティウス大聖堂へと呼び出され、コレを押し付けられたからね。放浪癖があるから見張って於けって。」
「うふ。実はローラン先生って子供好きだったとか?」
「はっ!なんて性質の悪い冗談を言うのだろう、オリビアは。」
ローランは、本気で嫌そうに麗しい顔を思い切り顰めた。
胡散臭い笑顔と顔面圧迫以外の表情を初めて見た気がする。
何だか可笑しくてニコニコ笑って居たら、「オリビアは、ニヤニヤしない!」って、ローランから八つ当たり気味に大人気なく注意されてしまった。
ニヤニヤじゃなくニコニコだってば。
質素な使用人部屋で朦朧としていたニコルちゃんには、《さようなら にこる》とだけ書き置きさせてから攫い、某所で医者を呼び、寝かせているとか。
自我のある闇の精霊がニコルに憑いていたので、魔力に合いそうな守り石の原石を選んでもらい、一先ず握らせているらしい。
ローランの小姓をしているオスカーって子に今は任せているとか。
「12歳って、子供じゃないですか、ローラン先生!!」
「オズは大丈夫だよ。大抵のことが出来るように躾けているから。それにちゃんと大人の使用人も雇っているしね。」
「ええー、彼らって修道士でしょう?私用で使ってイイの?ローラン卿。」
「うっ!コホン。聖職者に私用な時間など無いのだよ、ジェリー。」
ジェロームが、少年らしい声で茶々を入れて来た。
何だか2人の会話って、大人と子供では無くて職場の同僚同士みたいだ。
麗しの美貌を持つ教師ローランと色気駄々洩れの美少年ジェローム。
こんな同僚が居る職場なら勤めてみたいかもしれない。
ポンポンと続く小気味良い二人の会話が耳に楽しくて、わたしはジェロームが話していた準大枢機卿って言うキーワードを忘却してしまっていた。
◇◇
※注1参照 ラクール公爵
オリビアの母ちゃんクラウディアと駄目父ロベールを王命で婚姻させた宰相の家。今は息子が当主をしている。〔ep2 うちのジルたん参照〕
※注2参照 オスカー
オスカー・ロイエン ⇒ 〔短編 オスカー・ロイエンの願い〕を気が向いたら参照して下さいにゃっ。




