ep59 精霊たちの嗜好品
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どこぞの美術館か高級ホテルかって具合の王都パルスにあるアーシュレイ侯爵邸。
初代国王より下賜されたパルスの区画は、公爵家の次、侯爵家の中では5番目に広いらしい。
敷地面積の規模で言うと、アーシュレイ侯爵領地に在る領主館は、山あり谷あり小川や泉もある一つの新興住宅地くらいの広さがある。 パッとした館の見た目は、お城かな。 東棟には物見の塔があるし。
籠城戦があっても数か月は、何とかして過ごせる感じの広さ。
そして王都パルスは、王城と大聖堂を起点として、デザインされて創られた都市。
道なんかも計算されて敷かれている。
その為か、整然とした瀟洒な庭園と建物が並び、デザイン豊かな各家の鉄柵で仕切られ、計算された美しい街並みを見せていた。
アーシュレイ侯爵家の町屋敷は、館の外壁や床に磨き抜かれた希少な雪花石を惜しみなく使っていた。
青白色の鏡の館か!?って具合で。
石工職人さんたちの匠の技に脱帽ですよ。
ウチは、貴族街で何処と金貨を投げ合って戦っているんでしょうか?
そんな雑感を抱き、閉じた濃緑の艶があるカーテンの見事な刺繍絵を眺めつつ、残っていたカモミールティーをコクリコクリと飲み干した。
そんなことはさて置き、猫型精霊アルプ大先生から聞いた魔力のお話。
人体には、無属性の人固有の魔力が、体内を巡っている。
これは貴族や平民貴賎なしで。
祝福無しでも、無自覚で肉体強化の魔法を発動している人が、騎士に多いとか。
自然界にある魔素を体内に取り込み、心臓の近くに在る聖核で無属性の魔力へと転化している。
これが精霊たちの好物、、、。
嗜好品的なエネルギー。
ひとりひとり味や香りが違うとか何とか。
だから魔力レベルとは、肉体に宿る無属性魔力量の大小。
で、属性とは、その人が発している魔力に刺激され、集まった自我の無い其々の属性の精霊たちの種類なのだ。
黒の魔水晶盤に色が発現するラインまで、精霊が集まって来ないと、魔法を扱うことが出来ないので、祝福無しの判定になる。
精霊王の加護や精霊たちの加護は、授かった人の血脈に受け継がれる。
時代を経ると薄く為ったり、絶えちゃったりすることもある。
ニコル・メナシードのように黒の魔水晶盤には無反応だったけど、加護のお陰で、しっかりと闇属性の祝福持ちだったりするそうだ。 そもそも闇属性には反応しないように作られているとか。
『水の精霊は、光の精霊と闇の精霊と相性が良く、水の精霊と共にいることが多い。』
「えっ!?じゃあ、もしかしたらわたしにもニコルちゃんみたいに闇属性の祝福があったり!?ワクワクしてきたわ。」
『安心しろ。我が居るのだから他の祝福が付くわけないだろうが。』
「・・・うっ、そうですよね。アルプは唯の猫型精霊じゃないモノ。 次代の水の精霊王さまですもんね、何たって。 それにわたしは魔力レベル1だし、、、。」
『いやオリビアが魔力レベル1なのは、ゴニョゴニョ、、、』
急にアルプが、小さな右前足で、クイクイと顔を洗い始めた。
擬態していると分っていても、水色のふわ艶な長毛種マダム顔のペルシャ猫。
くそっ、可愛いじゃないか!猫型精霊アルプ。
なんか誤魔化された気もするけど、仕方ない。可愛いは正義だし。
と、長距離移動で疲れた心と身体を、わたしは猫型精霊アルプに癒され中。
そこへ白い木製の広い扉を少し開いて、入室許可を求める心の友デジレの元気な声が。
「リビー!疲れは取れた? 夕食までお喋りしたいのだけど大丈夫?」
「あっデジレ!おつおつ。おっけーだよー。」
綺麗な銀杏の葉色したリネンブロード生地のデイドレス姿のデジレが、弾む様に歩いてわたしの隣のソファーに、ふんわりと腰掛けた。
長袖のパフスリーブの袖口とデコルテを飾る濃いグレーの繊細なレースが、黄色いデイドレスに品のあるアクセントとなって良く似合っていた。
ふわふわのマロンブラウンの髪を同じ濃いグレーのレースのリボンを使って、サイドアップで纏めて、お嬢様を演出していた。
デジレは初の王都訪問で、お洒落に気合マシマシ。
当然、わたしも初めての王都パルスに初めての町屋敷だけどね。
出来れば、わたしは弟のジルと同様に動きやすい乗馬服で旅路を過ごしたかった。
まあ、祖母や母のような華やかな重武装ドレスは遠慮したい。
いっそオ○カルさま目指して、男装の麗人にでも成ろうかしら?
流感を乗り越えたら、本気で日常生活の向上を考えましょう。
「マジでゲームシナリオ開始以前に、王都へと来ちゃったわね、リビー。これってやっぱり?」
「ハイ。ソウデス。流石デジレ、鋭い。 流感予防に祖父と母をアーシュレイ領から連れ出しちゃいました。確かゲームの『ライ花』には、同時期に王都パルスで流行ったって記述は、なかった筈なのよ。色々とローラン先生には、お世話に成っちゃって。」
「吃驚したわよ。急にリビーが若奥様の前で、王都へ行くって言い出したから。」
「あはは。今頃は教会の方で疫病についての回文の説明をしていると思うわ。レナール曾お祖父さまにもセバスから王都へ行くのを打診して貰ったのだけど、肉体的に厳しいって、、、。」
そう、曾祖父レナールにも狩猟大会へのお誘いを手紙でしてみたのだ。
と言っても御年70歳前。
平均寿命が50代だから、長寿の部類に入るみたい。
去年のお披露目会でお会いした時は、矍鑠として元気そうだったのだけど、年齢を理由に遠慮されてしまった。残念。
旧領主館で曾祖父レナールと暮らす家令にも「瘴気は口や鼻、手などから入り込む。」と注意喚起の文章を教会からとローランに書いてもらったりした。
何とか此れで、年末年始を祖父と母が、無事乗り越えられますように。
わたしは、この世界の神に、深く心から祈った。
◇◇◆◇◇
オルサ大河の中よりに出来た島に建つ大聖堂の転移門を使い、神聖ロベリア教皇国のユリウス大聖堂の転移門へローランは飛び、師でもあるアンゼル大枢機卿と会い、ニコルの件を伝える。
「面倒なコトは嫌がる貴方らしくないですね。ローラン教師、クックックツ。」
「仕方ないではありませんか。次代の水の精霊王から直々の頼みなのですから。僕もそろそろ契約してくれる精霊と本気で出会いたいですしね。」
「聖地巡礼へと行かせたのに、ロロが契約精霊と出会えないなんてね。」
「僕が精霊に嫌われているってコトは無いですよね?アンゼル大枢機卿。」
「ククっ。それは無いだろう。魔法は使えているし、自我のある精霊を視認出来るのだから。頑張ってロロ。じゃあ暫く王都の方はロロに任せるよ。」
カナリーイエローの髪を項で1つに整え、白と銀糸の法衣を纏ったアンゼル大枢機卿は、風の精霊エリアルを顕現させ、ちょい悪親父顔で紫眼を細め、ローランに見せびらかした。
ローランは、大人気ない師の態度に「チっ」と舌打ちして、踵を返して、転移門へと向かった。
何通かの疫病関連報告書(フローラル王国提出用)を右手に持ち、王都パルスの大聖堂を船で出て、王宮に行く為の馬車に乗り、鉛色の空の下、往来する人々で賑やかな石作りの街並みを窓から眺める。
船着場からの道は、護岸された周囲には下町、通称〔庶民街〕が続き、三叉路や五叉路の大きな広場には、マーケットが立っている。 そして大きな屋敷が見え始め、裕福な平民たちが住む住宅街へと辿り着く。 ローランは、御者に大通りから脇道へと入らせ、お目当てのオスカー・ロイエン少年が暮らして居た屋敷に行く。 連れ出したニコルをオスカーの部屋に預け、世話を頼むつもりなのだ。
12歳のオスカー少年に、面倒事を丸投げしようとしている師匠似のローランもローランなのだが、本人はそのことに気が付いていない。
ローランは、祝福を得た少女と言うことで、教会として正々堂々と表からニコルを救出するつもりで、ユリウス大聖堂の教団本部まで相談と報告に行ったのだ。 しかしアンゼル大枢機卿は、密かにメナシード伯爵邸から少女を連れ出し、「一刻も早く静養させよ。」と無茶な任務をローランに押し付けた。
「絶対、面白がってるだけだよ、あの人は。 まあ僕が、祭事の狩猟大会への参列を断った仕返しだろうけど。 オリビアのフォローもあると言うのに、全くどいつもこいつも。」
ローランは、馬車の中で独りごちて、揺れの激しくなった座席でバランスを取る。
そして、メナシード伯爵邸への侵入計画を脳内で組み立てるのだった。
整い過ぎている容貌の唇の右端を少し上げた、ローランのゾッとする程美しい笑顔を見れる観客は、此処には誰も居なかった。
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