ep58 身体は子供、頭脳も子供
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領主館にあるわたしの自室と違い、可愛らしいお嬢様仕様ではない、王都の瀟洒な町屋敷の品と質の良い客間でまったりと寛ごうとしていた。
侍女のナタリアにお茶を頼んでわたしが1人になると──────。
いつもは空気を読んで、礼拝堂か寝室でしかわたしに話し掛けて来ない猫型精霊アルプが、唐突に現れ、顔面どアップで勢いよくお願いをして来た。
「お願い?」
『うん。王都に入って眷属の精霊に頼まれてしまった。ちょっと命の危機みたいなのだ。』
「えっ!?命の危機って!!誰の?」
『それは・・・』
アルプによると、その子の名はニコル・メナシード令嬢。
わたしと同じ水属性の祝福を得ている。
彼女は、魔力レベル3なのだとか。
ニコルは、祖母であるニコレット様の血筋を受け継ぎ、闇の精霊の加護を受けているそうだ。
つまり闇属性の祝福持ちでもある。
祖母のニコレット様は、フローラル王国の南に在るエスパニア帝国所縁の方だった。
その昔、闇の精霊王が一時的にノアール大森林に暮らして居た頃、近隣に住む者に加護を与えたそうなのだ。 お気に入りの魔力を持つ一族に、加護を与えるのが其々の精霊王たちの性だとか。 わたしのような愛し子とは別物らしい。 加護って、こいつらの魔力は俺のモノって言うマーキングみたいなモノっぽい。
闇属性は、祝福の儀で黒の魔水晶盤に表れない、教会から秘された属性だ。
現在、闇魔法を使える者は、其々の精霊と契約したロベリア教皇と2人の大枢機卿、そして大枢機卿候補の1人しかいない。
闇魔法は、精神に干渉する魔法が多いとの話。ローラン談。
実は、わたしがローランから、コッソリと闇魔法を掛けられていたと知ったのが、制約魔法を受け入れる契約を交わした後であった。
ローランにモノ申したい事が山の如し。
しかしメガネを外せて、視界良好にして貰えた恩人なので、結局は何も言えなかったけれど。
『ニコルは、祝福の儀により属性魔力が固定された為、幼い体内で魔力の動きが活性化し始めて、少し暴走気味になっている。精神も不安定だったから。 本来なら守り石で、肉体に合わせて魔力を調律するのだけどね。』
水色の猫型精霊アルプは、フヨフヨと目の前で漂いながら、呆れ気味な調子で話す。
『祝福の儀には、身内でアフターフォローが必要なのに───ゴニョゴニョ。』
(知らんがなー。)
アルプさん、アルプさん、ちょっと良いかな?
その話、きっと人間サイドは知らないと思うゾ。
まあ、それはそれとして。
母親が違うニコルは、所謂継子いじめされている為、用意されるべき守り石が用意されていなかった。
健康と長寿を願って祝福を得た子の為に、本来当主が用意すべき守り石なのに。 つか一族の誉れとして喜んでプレゼントすべきモノでしょ!?
わたしが祝福を得てから、我がアーシュレイ侯爵家なんて母を筆頭に大歓喜で、守り石を用意してくれていたことを思い出す。
(異母だけなら兎も角、実父である筈の当主メナシード伯爵って最低ー!)
まあ、わたしの父親もその最低野郎の1人だから、ニコルの父親については口籠るしかないけども。
ニコルは、乳児院から戻って以来、町屋敷で家族扱いされずに下働きとして働かされ、精神が疲弊していた。 そして何と母親が違うと、ニコル本人に説明されていない為、精神的な動揺が大きく、長く続いている。
そこに祝福の儀で、ニコルは祝福を得た。
これでメナシード家で両親から家族として認められるかも知れないと、ニコルは期待して過ごして居たけれど、家族や執事の冷たい態度は変わらず。
聖堂から戻ってもニコルは、執事以外と顔を合わせて貰えなかった。
そのこともあり、精神が徐々に擦り切れ、肉体的な魔力のバランスが崩れ、現在熱を出して倒れていて危険な状態だとペルシャ猫型精霊アルプが、わたしにヘルプを願って来た。
「パッと魔法でさらってくれば?」
『・・・はぁ。』
親指大の猫型精霊の癖に、溜息と共に顔を逸らして、わたしに対してガッカリ感を全身で表現しないで欲しい。
『あの御方が、新たな理で我たちの存在を(人間たちから)秘すと決められたのに、直接働きかけれる訳がなかろう。我の姿が見えたオリビア、ソチが異例中の異例な存在だと自覚しろ。』
精霊が視えるのって、愛し子特典じゃないの?
ってアルプに訊ねたら、どうやら大浄化後の今は違うらしい。
「イレギュラーを自覚しろって言われましてもねぇ?」っと口を尖らせ拗ねて居たら、ナタリアが部屋付きのメイドたちと一緒にカートに乗せて、お茶を運んで来た。
温かなカモミールティーとアプリコットの水蜜漬けをテーブルの上にサーブして貰い、わたしは独りになりたいことをナタリアたちに告げ、控えの間に下がって貰った。
そして猫型精霊アルプに一階の客間に居るだろうローランを呼んで来てもらうことにした。
幾ら前世が30代のおばさんでも、現在、肉体は唯の8歳児なわたし。
出来る事等、殆ど無いに等しい。
こう言う時こそ、世間的に信頼のある絶世の美人ローランがお役立ち。
何よりアルプのお願いなら精霊関連のことだし、ローランに持ってこいの役どころ。
えっ?
頼みごとをローランに丸投げ?
まさかまさか、、、そんなつもりはありません。
子供は子供らしく大人に頼ってみるだけデス。
他意ハ、アリマセン。
わたしは、林檎を思わせる優しいカモミールティーの香りを楽しみつつ、温かなティーカップに唇を付けた。
◇◇◆◇◇
白地に金で彩色された木製の扉から、ちょっぴりピリ付きを感じる極上の美人さんであるローランが黒の修道服を着て現れた。
今日は、グレーの修道服では無いのね。
銀色の髪を後ろで緩く三つ編みで纏めて、いつもは胡散臭い笑顔を張り付けているのに、アメジストのような紫眼で、わたしを真っ直ぐに見据えてスタスタと歩いてきた。
「やっ、やあ、ローラン先生。お疲れの所、申し訳アリマセン。どうぞ、そちらに、、、。」
わたしは、ビビり気味に自分の正面の席では無く、左斜め前に置かれたソファーを勧めた。 ローランはボソボソと囁きながら、わたしの指し示した左手を無視して、ロザリオの黄玉を指先で触れ、正面のソファーに腰を静かに落とした。
どうやらローランは、防音結界を張った模様。
「次代の精霊王になるアルプ様を使い走りに使うとは、、、。オリビア、貴女と言う人は全く。」
「ええー。 だってそれは、アルプからの頼みが原因なのですもん。 頼みごとの内容が、丸っと制約が掛かっている事柄だから、ローラン先生に話すしかなかったですし。それにアルプの眷属の精霊からのsosだったみたいですよ。」
珍しく不機嫌モードのローランへ、猫型精霊アルプと一緒に命の危機に瀕している(アルプ談)状況を説明する。
「現在、希少な闇の精霊の加護持ちだから、少女を救出、捕獲し、飼育せよ!ソは我の望みなり。」
的なアルプの指令。
「かしこまりぃー。」
そうローランが返事したようなしなかったような。
そして軽く右手を左胸に当て、アルプに軽く礼をして、客間からイソイソと退出していった。
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