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ep53 ローランからの一報




 アーシュレイ家一門のお披露目会を終えて、わたしは祖父から新しマナー教師を紹介された。



 クレール・ローデン小伯爵未亡人。


 彼女は、何処か影があり幸薄そうな面差しをしていた。


 普通に見目は整って居るのですが、、、まあ、高位貴族のご婦人は、大抵が目鼻立ちが整っているモノだけども。

 (きっとわたしオリビアだって、大人になったら美人になれる筈! 確信しているモン。記憶に残っているゲームのスチル的に。)


 クレール・ローデン小伯爵未亡人の嫁ぐ前は、フローラル王国の中央地帯に在る侯爵家のご令嬢だったとか。 母より1歳年下だった。

 17歳でローデン伯爵家に嫁ぎ、22歳の時に後継だった夫が落馬事故で亡くなった。そしてクレール夫人に子供が居なかった為、夫の弟がローデン伯爵家の後継となり、婚約者と婚姻することが決まった。



 古い家柄の場合は、後継である兄に嫡男が生まれてからでないと、当主から次男以降の婚姻が許されない家もあった。 爵位継承順位で揉めない為に。、、、、しかしそれって後継の嫁へとかかるプレッシャーが凄い事に成りそうだ。


 そして実家に戻ったとしても、5年間懐妊しなかった女性に行き先があるか? て言う問題になり───。生家の当主から適当な(良い意味では無く)家へ嫁がされるか、修道院しか道が見えなかったそうだ。


 其処へクレール夫人に友人から救いの声が掛かった。


『YOU 王城の女官として働きなよ。宿舎もあるよ。』


と言われたり言われ無かったり。


 王城勤めの女性は、女官、侍女、メイド、下働きとにザックリ分類される。

 貴族令嬢が勤めるのは、女官と侍女。

 そして侍女は、独身の貴族令嬢が良い花婿をゲットする為のポジション。

 女官は、婚姻で辞める心配のない既婚女性が勤める。

 未亡人や困窮している方、その他軽い大人の恋愛をしたいご婦人などが、それなりの人に紹介されてから勤めている。

 中には夫に勧められてと言う方も。


 8歳のわたしが居る前で、祖母とクレール夫人があけすけに大人の事情を喋ってるのって如何なの?

 勿論良い子のわたしは口出しなかったけども。





ルドベリアの赤い花が咲く8月初めの昼下がり。


 領主館のサロンで当主の祖父レイモン、祖母のミッシェル、クレール・ローデン小伯爵未亡人、母のクラウディア。 そしてわたしを含めた5人が、マホガニーの応接セットに腰を降ろし、向かい合って談笑していた。

 メインで話して居るのは主人席に座っている祖父と斜め向かい隣に座っている祖母。と、話のネタにされているクレール・ローデン小伯爵未亡人。 祖父母2人とマナー教師になるクレール・ローデン小伯爵未亡人の紹介を頷きつつ、母とわたしは大人しく話を聞いていた。



 「夫の喪が明けた折りに婚家の当主であるローデン伯爵から申し出がありましたの。 『此の侭ローデン伯爵でクレールが意地を張るのを見るのは、痛々しいものがある。 領主館を出て、領地の一角にある屋敷で気が済むまで過ごされても構わない。まだ若いのだから、いずれは生家の侯爵家へ戻りなさい。』そうローデン伯爵様から申し出されまして。 全くもう、私がローデン伯爵を去るのが当たり前として話されるのですもの。 素直に出て行かざるをえないでしょ?」



 ゆっくりとした品の良い口調でクレール・ローデン前小伯爵夫人は、諦観した様子でそう語られたのが印象的だった。


 クレール夫人は、9カ月の期間限定で、わたしに宮廷マナーを教えてくれるらしい。

 そしてその後は王城勤めに戻られるそうだ。


 来年の建国祭に王宮庭園で行われる王妃様主催であるお茶会参加へに向けての準備だそうだ。(・・・───ハァ、面倒な。)





 そう言えば、夏季休暇で王都から領地へ戻ってきた祖父に、ローランが「魔力調整が上手く行き視力補正具は不要になった。」と空々しく嘘の報告をした。

 

 「ありがとう、ローラン卿。これでオリビアの瑕疵がなくなった!」


 なんて祖父が滅茶苦茶に喜んだ。

 その様子に良心がジクジク痛んだのは、わたしだけだった。


 後でコッソリわたしは、嘘つきローランに文句を言った。




 「聖職者は人に嘘を言わないのではなかったかしら?ローラン先生。」

 「嫌だなあ。オリビアって、細かいよ。フフッ。嘘は言っていない。僕は、ただ本当の事を話して居ないだけで。オリビアだってメガネが不要になったことをアーシュレイ侯爵閣下に報せ無ければダメだっただろう?」

 「そうですけど。」

 「どの道、制約魔法で精霊の事は話せないのだからね。」

 「そう、、、だけども。」



 相変わらず胡散臭いローランの口車に乗せられだけ。



 まあ、魔力調節が出来るようになったと言う説明は便利だったので、母と弟、友人のデジレとコレット、そして侍女たちには、使わせてもらった。

 この年で自殺願望などありませんので。 (制約魔法を破ろうとすると魔力枯渇で死ぬそうです。ローラン談。)



 猫型精霊アルプと一緒に領主館や領都でのお茶会へ参加(おかあさんといっしょ!)しつつ、9月の葡萄祭などを迎え、穏やかな日々をしばらく過ごしていた。


 そんな或る日、わたしはローランから領主館敷地内の礼拝堂へと呼ばれた。

 後ろから護衛騎士のアッシュが付いて来ていた。

 友人たち(デジレとコレット)や側付きの侍女たち(ナタリアとセリーヌ)は、内緒話のせいで今回もお留守番。


 修道士の案内で礼拝堂の小部屋に入り、前回と同じローランが引いて呉れた木製の椅子に、わたしは腰を降ろした。

 10月に入って涼しくなったので、厚手で黄色のデイドレスとラズベリー色のローブドレスを羽織ってきた。 もう着ることの無いエプロンドレスは、今年入って来た侍女見習の子へと下げ渡した。



 ローランは、既に司祭の役職を得ている癖に教師のフリをして、相変わらずグレーの修道士服を着ていた。 目立たない為と嘯いているケド、ローランが周囲から目立たないなんて無理だから。



 そしてローランにしては珍しく緊張した面持ちで、わたしが目の前に着席するのを待って居た。



 「お待たせしました。ローラン先生。」

 「いや、こちらこそ急に呼び出して申し訳ない。」

 「まあ、、、!」

 「うん?」

 「いえ。」


 

 あの太々しいローランが謝りやがりました。

 意外に思ったわたしは、つい迂闊な声を漏らしてしまった。



 「今朝、ユリウス大聖堂からの一報が届いた。やはりオリビアには夢視の力があったのだね。」

 「へっ!?えぇと??」

 「神聖ロベリア教皇国から東方に在る付属海の沿岸部の町で、風に似た症状から高熱が出る患者が出ているそうだ。」

 「ええ!!」

 「西方ユリウス教会の管轄外、、、つまり東方正教教区域である東方の帝国で流行り始めたらしい。」

 「、、、やっぱり、、、。」




 西の西洋海から繋がるアトラス大陸中央南部地帯に或る付属海。

 大浄化後、アトラス大陸の東端とアトラス大陸から南にある暗黒大陸東端のが二つが、東陸地で繋がり、挟み込む様にして出来た海。

 付属海は、女神レトの涙で出来たとも言われている。


 その付属海の東部沿岸から起きた風邪に似た症状で高熱が出る疫病。

 やはり予想通り流感だよね。


 神聖ロベリア教皇国の聖都ミスティアからフローラル王国の王都パルスまで、陸路なら約4カ月くらい。 河を船で乗り継いだ水路なら一ヶ月余り。

 付属海経由の東からの水路なら王都パルスではなくて、アーシュレイ領地を走るノルド川から領都ウィドールのロウグ川、そして旧領都の在るパルテール地区で流行る可能性が高い。


 どうすれば良いかしら。



 わたしは、ローランからの一報を聞いて、ゾワリと背中から、冷たい何かが這い上がって来る気配を感じた。





◇◇



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