ep52 面倒な子供
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わたしは視界がクリアになってから、メガネ無しでもストレスなく領主館で、長期夏季休暇を気兼ねなく過ごせるようになった。
水色のペルシャ猫モドキのアルプは憑いているけど。
アレで気兼ねしてたのか?
って問われそうだけど、してましたよ。メガネ無しの時は、極力目を細めないようにするとかね。
読めない契約書をローランと交わしてからソラリス祭に向けて、聖堂へ行く家族や子供たちを御もてなし中だったりしている。
祝福の儀は、侯爵領27家、辺境伯領4家、公爵領7家、王領8つ、王都は2つある聖堂で行われる。プラス前カナーン王国時代に建設された聖堂が10カ所ほどが、現在のフローラル王国で、伯爵領や男爵領と呼ばれいている場所にもある。
フローラル王国では計58カ所の聖堂で、司教たちによって祝福の儀が行われる。
だからソラリス祭シーズンと呼ばれる6月中旬から7月中旬は、聖堂を目指して動く夏季休暇の一部で、聖堂のある領主館や街道沿いの宿泊施設や船宿は混雑しているコトが多い。
わたしは去年やっとお披露目会を迎えたので、今年はホスト側としてゲストの皆さんに挨拶を強要される番なのだ。
いやぁ、今まで母は、次期アーシュレイ侯爵夫人として家令たちと一緒に良く頑張ったと思う。
王都に滞在していない家門の人たちや近隣の貴族の皆さんが、祝福の儀を受けるまで滞在しちゃうのですよ。
日頃は使用していない区域や客間の解放支度、回廊の絵画や調度品を整え直したりと大変そうで、領主館を運営する侯爵夫人とかに成りたくないなあーとか、思ったり思わなかったり。
まあ、わたしはフヨフヨと浮かぶアルプを連れて、母と一緒にテクテクと客間へ挨拶をしに行くだけなんだけども。
視界がクリアになったから、顔を合わせる相手に、眼タレてないからね。
だって、ちっこいファンシーなニャンコ見ていると心が和むから。
◇
そして今日は、中庭で子供たちのお茶会です。
祝福の儀を終えた子供たちを招き、去年わたしもやったアーシュレイ侯爵家一門のお披露目会。
日除けの天幕を張って、37席ほど用意されてガーデンテーブルに7歳の子と家族たちが着席し、当主のお祖父様が家門の1人に成った事や祝福を得たことを祝って、歓迎のご挨拶。
(来年再来年以降は、お披露目会のテーブル数が増える予定。
何故かって?
来年は、フェリクス第二王子が7歳になるんですもの。ベビーラッシュだったそうですよ。何だかねぇ、、、。それと可愛い弟のジルベールも7歳。ついでにヒロインのアリシアも7歳デス。)
おっ、主催者席のわたしにピリつく視線を寄こすのは、去年も居たクラリス・シッタール伯爵令嬢だ。
クラリス嬢と同じカメリア色の髪をしている少女は、妹さんかしら?
姉らしきクラリス嬢が若草色の瞳を細め睨みつけてくる隣で、妹さんは明るい若草色の瞳を真ん丸にして、一生懸命にガラスコップを持って葡萄ジュースを飲んでいて、いと愛らしい。
いやあ、人間て目付きで愛らしさが0になったり100になったりするもんですね。
と言うことは、ガン飛ばしてるとデジレに言われていたわたしって駄目じゃん。
今年は3人ほど風の祝福を得た子がいた。
曾祖父レナールも風属性だったし、アーシュレイ地域は、風属性が生まれやすいのかしら?
そう言えば辺境伯の領地には、祝福を得る子供たちが多いと言う。
今度ローランに訪ねて見よう。
「よろしくて?」
主催者席で、ボーっと考え事をしていたら唐突に少女の声がして、わたしはピクリとして声の方へ顔を向けると、其処にはクラリス嬢が、凝ったレースを胸元と薄桃色のディドレスのスカート部分へ幾重にも重ねた可愛らしい恰好で、上体を逸らし気味に立っていた。
可愛らしいファンションなのに、敵愾心丸だしな表情が残念。
この子には、挨拶したくないなぁと思いつつ、ゆるりとガーデンチェアーから立ち上がって、わたしは厭々唇を動かした。
「ご挨拶するのは初めまして?かしら。アーシュレイ侯爵家のオリビアです。」
わたしは、クラリスと今後も宜しくはしたくないので、名乗りだけして、頭を下げない軽いカテーシーをした。
「御機嫌よう。ご存知かと思いますがワタクシは、シッタール伯爵家が3女クラリスでございます。1つお聞きしたい事があって声をかけさせて頂きましたの。」
「(エラソーだなあ。なに目線なのアナタ?)何でしょうか?シッタール伯爵令嬢。」
「ええ。王都で小耳に挟んだのですが、第一王子殿下の婚約者候補にオリビア様が選ばれているとか?本当ですの?」
(ええー、王都でそんな噂が本当に広まって居るの?誰ヨ!そんな噂を広めたのわ。
お祖父さまは、来年の建国祭で王妃殿下主催のお茶会に参加要請があったと仰っただけで、別段に婚約の話なんて欠片もしていなかったけど?
ローランも王太子殿下とわたしが婚約することは無いって断言していたもの。わたしの立場的に。)
「有り得ませんわ。建国祭のグランドフィナーレに出席していた祖父から、そのような話は一言も聞いて居ませんもの。 どうしてそのような噂が出回って居るのかしら? シッタール伯爵令嬢さまから主家であるわたしへ、わざわざのお心遣いありがたく存じます。」
(ちょっと嫌味がきつかったカモ?)
「アーシュレイ侯爵家の家門の者として、当然の心配りですわ。 もしそのようなお話が出ましたら是非ワタクシたちにお知らせくださいませ。 家門の者としてオリビア様をお手伝い致しますから。では、失礼しますわ。」
「ええ、ごきげんよう。シッタール伯爵令嬢。」
余りクラリスには嫌味が通じなかったみたいだわ。
要は噂の真偽確認。
それと、わたしが王太子殿下の婚約者候補だった場合を考えて、自分を売り込みに来たつもりだったりして?
あんなに敵愾心丸出しなのに?
もしかして親にでも言われたのかしらね。
クラリスが去ったのを見計らって、お披露目会に参加していた家令セバスの孫娘コレットがやって来た。
コレットは、今年祝福の儀を終え、アーシュレイ侯爵家のお披露目会に参加していたのだ。
可愛らしくサイドで編み込んだ艶やかなホリゾンブルー髪型のコレットは、わたしの傍に来て、切れ長で涼やかな淡いグレーの瞳を揺らして、心配気な表情をしていた。
「大丈夫でしたか?オリビア様。」
「うん。ありがとう、コレット。 しかしクラリス様って何なのかしら? 去年のお披露目会でもわたしを睨みつけて来たし。今回も敵愾心丸出しで話し掛けて来るしで意味が分からないわ。」
「ああー。実は、クラリス様の初恋の相手が、親戚ならオリビア様を紹介して欲しいと頼んだから、オリビア様に焼き餅を妬いて居るのだと思いますわ。 去年の場合は。」
「そんなあぁ。知らないわよ。クラリス様の八つ当たりに近いじゃない。」
「ふふ、そうですわよね。」
「じゃあ今年は嫌いなわたしに無理矢理でも話し掛けなければ為らない状況だったからとか?」
「まあ、ご家族からは、クラリス様へオリビア様と縁を繋ぐように、とは言われてるでしょうけども。」
「迷惑な。」
「クラリス様のお姉様たちが、王都で人気があってチヤホヤされているのに、気が強過ぎるクラリス様は、周囲から余り褒められないとかで。 おまけに王都では、オリビア様が王太子殿下の婚約者候補だと噂になり騒がれていて、そのことで余計に苛立たれているのでは無いでしょうか?」
「益々、迷惑だわ。」
わたしは、コレットの話を聴いて脱力した。
クラリスの初恋の相手なんて誰?
全く思い出せないのですけども。興味もないし。
可愛げのない子供の相手なんて面倒臭い。
あっ、肉体年齢はクラリスと同じ8歳だったわ。そう言えば。
しかし、わたしと縁を繋ぐって言っても曾祖父の弟の子の孫娘って、親戚なの?
一応、席次からみて上座だからアーシュレイ侯爵家一門のようだしね。
後で仲良くしないといけない立ち位置の子か、祖父に訊ねてみよう。
しかしクラリスは、5姉妹の真ん中かあ。
色々と鬱屈したモノがありそうね。
シッタール伯爵家は、3女のクラリスと今日紹介された妹と入れて5姉妹らしい。
フローラル王国では、特別な継承権を持っていない限り、女性に後継としての権利がないから此れからが大変そうだ。
出来ることならクラリスとは関わらずに生きて行きたい。
フヨフヨとわたしの傍で浮きながら、他人には聞こえぬ罵詈雑言を叫んでいる水色のペルシャ猫モドキのアルプに慰められて、自然と口元が緩んだ。
水の精霊アルプの姿と声は、相変わらずローラン以外の人間には、知覚されないモノらしい。
「めがねを外される様になって、オリビア様は良く微笑まれるようになりましたね。嬉しいです。」
コレットは、わたしが漏らした独り笑いを見ていたらしく、楽し気にそんな言葉を掛けてくれた。
8の月の強い太陽の陽射しを避けた天幕の下で、わたしはコレットと二人、次に行く領都でのお茶会に着て行くドレスの話に笑顔で花を咲かせた。
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