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「やっと検証できる」
大佛会長の見立て通り、2週間の停学処分が下された。処分自体は狙い通りの落としどころだったものの、昨日は母さんのお小言だの何だので、結局まとまった時間を取れずじまいだった。
しかし、今日からは自由の身である。反省文と課題の山は脇に放り出し、涼馬は再び押入れのダンジョンへと潜っていた。
一面を覆う生々しいピンク色の景色にも、いい加減慣れてきた。
今日の目的はただ一つ。
先日、オナホクンGが落としたマジックオーブ。
それを砕いて習得した魔法、調教魔法 淫の検証だ。
「オナホクン、ここで会ったが3日目! 俺の仲間になれよ」
獲物を見つけるなり、涼馬はさっそく魔法発動の準備に入った。
頭の中には、どうすれば魔法を発動できるのかが不思議なくらい鮮明に浮かんでいる。
涼馬は掌をオナホクンへ向け、覚えたばかりの呪文を唱えた。
『淫靡なる扉、果てるは性の定め、隷属するは従、従えるは王、テインム!!』
確かな手応えがあった。
掲げた掌から淡い光が迸り、空中で幾筋もの鎖へと姿を変える。光の鎖は一直線にオナホクンへ伸び、その小さな身体へ次々と巻き付くと、ぎゅっと締め上げた。
「おっ!」
成功した。
そう思ったのも束の間。
パリンッ!
乾いた音とともに光の鎖が砕け散り、無数の光の粒となって霧散した。解放されたオナホクンは何事もなかったかのようにピンピンしている。
これが、レジストされたということなのだろう。
想定通りだ。そもそも、対象を弱らせる必要があるのだから……。
そして当然のように、涼馬の下半身めがけて飛び掛かってきた。
「うおっ!」
涼馬の拳が反射的に動く。すっかり身体に染みついた動きで何度か殴りつけると、オナホクンはあっさり煙となって消えてしまった。
「あ」
涼馬は振り抜いた拳を宙に浮かせたまま、床に転がる魔石を見下ろした。
「……つい倒しちゃった」
「全然、捕まらねぇ」
オナホクンの形見となった魔石を拾い上げ、涼馬は深く溜息を吐いた。
気付けば、今日だけで10個を超える魔石が集まっている。
つまり、それだけの数を試して、それでも一度も成功していないということだ。
少なくとも、オナホクンが『淫属性』のモンスターであることだけは分かった。これも、調教魔法 淫を習得したことで得られた感覚なのだろう。ならば、対象そのものを間違えているわけではない。
最初の一体を除けば、きちんと弱らせてからテイムを試みている。それでも、結果は変わらなかった。
問題は別にある。
魔法の練度が足りないのか。それとも、テイムするために何か別の条件が必要なのか。あるいは、単純に運が足りていないだけなのか。
そこまで考えて、ようやく気付いた。
身体がやけに重い。
「……あれ?」
頭がくらくらする。視界がぐらりと揺れ、足元のピンク色の床が二重に滲んで見えた。考えようとしても思考がうまくまとまらず、指先にはじんじんと痺れが走っている。
足にも力が入らない。踏ん張ろうとしても膝が小刻みに震え、身体を支えることさえ覚束なくなっていた。
まずい。これ、魔力切れか?
ダンジョンの中で、気を失うのは……。
そこから先を考えることすらできなかった。
涼馬が自分の異常に気付いたときには、すでに手遅れだった。猛烈な眠気が一気に意識を覆い尽くし、抗おうとしても瞼が勝手に落ちてくる。
膝が折れ、身体がぐらりと傾いた。咄嗟に手を伸ばしたものの、床に突くよりも早く腕から力が抜け、そのまま崩れるように倒れ込む。
そして涼馬の意識は、深い闇の底へと沈んでいった。
***
「涼馬ちゃん、好きだよ」
沙織の声が耳を撫でる。凛として、それでいてどこか甘い、鈴の音のような声だった。
「沙織!!」
目の前には、一糸まとわぬ沙織が立っていた。
燃えるような赤い髪を揺らし、普段とはどこか違う、妙に大人びた微笑を浮かべながら、ゆっくりとこちらへ近づいてくる。豊かな二つの膨らみをたゆんたゆんと揺れる。
そこでようやく、涼馬は自分も服を着ていないことに気付く。
「そんなに恥じらわなくてもいいのに。涼ちゃん、案外乙女?」
沙織はくすりと笑った。そのまま涼馬の前へしゃがみ込み、下から覗き込むように顔を近づけてくる。長い睫毛に縁取られた瞳が、上目遣いでこちらを見つめている。
「ちょ、沙織……」
止める間もなかった。
ふわりと髪の甘い香りが鼻先をくすぐる。柔らかな感触とともに、涼馬の頭の中が真っ白になった。
「っ……!」
「沙織!!」
天国への階段を三段飛ばしで駆け上がりそうな程の昂りだった。
どう考えても初心者の振る舞いではない。妙に手慣れた仕草に、涼馬はされるがままに翻弄されていた。
「こういうの、結構自信あるんだ」
そして恥ずかしそうに頬を赤らめ、はにかんだ。
「哲人君にやり方教えて貰ったの」
「うわあああああああっ!!」
涼馬の意識は、一瞬で現実へ引きずり戻された。
目の前にいたのは、沙織ではない。
金色に輝く触手。
しかも、その大きさは以前見かけたオナホクンGとは明らかに違っていた。
小動物どころではない。人の腰ほどの大きさはある。
そんな巨大なオナホクンGが涼馬の身体に覆いかぶさり、触手を幾重にも絡みつかせていた。
「な、なんだよ……こいつ……」
触手がうねるたび、背筋をぞわぞわとした感覚が駆け抜ける。身体の奥底から何かを吸い上げられているようで、全身にうまく力が入らない。
それだけではない。
周囲には10体近いオナホクンがずらりと控えている。
襲い掛かってくる様子はなく、ただ巨大な個体の周りでじっと待機していた。
まるで、王の命令を待つ家来のように。
そこまで確認したところで、涼馬は思考を放棄した。
「っ、うぅぅぅぅっ!!」
次の瞬間、全身を駆け巡った強烈な刺激に、視界が真っ白に染まった。
「はっ……はぁ……」
全身が干からびそうな程に激しく何度も搾り取られた。
気付けば全身から力が抜け、指先ひとつ動かすのも億劫になっていた。
巨大なオナホクンGは、満足げに身体を震わせている。その頭頂部に開いた穴へ、触手がせっせと涼馬の体液を運んでいた。
周囲のオナホクンたちも、そのおこぼれにあずかろうと群がっている。
どうやら、こいつらにとってはご馳走らしい。
「くそっ……!」
涼馬は重たい身体に鞭を打ち、拳を叩きつける。
だが、相手にのしかかられた状態ではろくに力も入らない。
拳を当てても、巨大なオナホクンGにはまるで効いている様子がなかった。
このまま俺はオナホクンに精子を搾り取られてテクノブレイクで死ぬ?
嫌な想像が脳裏に浮かぶ。
嫌だ。嫌だ。嫌だ。
涼馬は半狂乱になって身体をばたつかせた。
だが、オナホクンGは触手をがっちりと絡みつかせ、びくともしない。
「離れろっ! 離れろって!!」
ポコッ。ポコッ。
もはや攻撃と呼ぶのも馬鹿らしいほど弱々しい抵抗だった。
何の意味もない。
どうしようもない。
そう思った、その時だった。
ふいに、身体を締めつけていた触手が緩む。
オナホクンGはするりと触手を引き戻すと、上下逆さまに覆いかぶさっていた身体をくるりと回転させ、そのまま床へ着地した。
「へ?」
そして何事もなかったかのように、こちらへ背を向ける。
巨大なオナホクンG、いや、ボスオナホクンGとでも呼ぶべきか。
ボスオナホクンGは、そのまますたすたと歩き去っていく。周囲に控えていたオナホクンたちも、一斉にその後を追った。
前回のように、無防備な背中へ飛び蹴りを叩き込む。
そんな気には、とてもなれなかった。
ただ悠然と勝ち誇り去っていく王の姿を、茫然と見送ることしか出来なかった。
「……俺はイカされたうえに、生かされたんだ」
数秒の沈黙。
「って、誰が上手いこと言えと」
涼馬はそれからしばらく、床に転がったまま動くことができなかった。




