表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
12/12

第12話 飽くまで伊織

 昼下がりのファミレス。

 休日の喧騒がガラス越しに揺れて、スプーンの音が遠くでかちゃりと鳴った。

 俺は何気なく顔を上げて、入口に立つ一人の男を見た。


 透だった。

 ……いや、そう“見えた”だけだ。


 少し長い茶髪を片耳だけかけ、金のピアスを光らせながら軽く笑って店員に会釈をする。

 その角度、呼吸の間、手の置き方。全部、伊織だった。


 思わず背筋が冷たくなった。

 人が他人を真似ることはできる。けれど、ここまで「他人そのもの」になるのは、もう模倣や真似じゃない。


 彼は窓際の席に座り、グラスの水をひと口飲んで、軽く目を細めた。その仕草一つで、周囲の空気が整う。

 そこにいた誰も、彼を「葉月透」として見ていない。誰も覚えていないのか、最初からそんな人間はいなかったみたいに。


 俺だけが、その歪みを知っていた。

 脳裏に、あの夜の言葉が蘇る。


――「成るよ」


 本気で言ったあの声は、今も形を変えてこの空間に居座っている。

 呼吸を飲み込む。声をかけることはできなかった。


 彼は食事を終え、レシートを手に立ち上がる。

 その背を見送る間、俺の中で確信に変わってしまった。。


 もうこの世界に、「葉月透」はいない。


 それは、飽くまで伊織だった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ