新しい日課
俺たちは連に教えられた通りに毎日明華の思い出話を不慣れながらにも打ってあげてを繰り返していた。
「それで……お母さんが……」
明華が両親のことを話し、俺が一足遅く打つ。2日ぐらい経ったが未だに手が慣れない。
なんで連はあんな早く打てるんだよ。あんなの千手観音ぐらいしかできないって……。
頭の中でそうボヤきながらカタカタと手を動かす。
「勝星」
「ん?」
「ここ間違ってるよ」
「ヘ?」
零に言われてよく見てみると確かに間違っている。
カバに入るってなんだよ……。川だろ川。
やっぱまだ慣れないな。ノールックってどうやってるんだろ?
「よし、こんなんでいいか?」
俺が明華の方にパソコンを向けるとしばらくそれを読んですぐにOKサインを手で作って見せた。
それをまだ慣れない手で投稿する。
「よし、終わり」
「おつかれ〜」
そう言ってる間に俺のパソコンから通知音が聞こえる。
「またいいねついてる!!」
画面に集中していた明華が嬉しそうに声をあげた。
最近はっしゅたぐのお陰もあるのか、いいね数や
りついーと?の数も増えてきた。フォロワーは増えていないが、、、(泣)
「あ!!コメントも!!…………」
明華が嬉しそうにまた声を上げたかと思うとすぐに勢いがなくなってしまった。どうしたのかと画面をスクロールさせると理由がすぐにわかった。
「作り話もいいところじゃない??
マジでお涙頂戴って感じ。こういうのって正直うざいしそんなんで注目集めて何が楽しいの??正直こういうのって詐欺じゃない??」
「明華……」
零が心配そうに声をかける。
明華は明らかに肩を落としていた。
これ、いわゆる荒らしってやつなのか?
作り話なんかじゃないのに……
グツグツと俺の中で怒りがこみ上げる。
明華をちらりと見やると肩を震わせていた。
まさか泣いて……ってあれ?なんかデジャヴ……?
「うっっっざーーーーーー!!!?」
明華は急に大声を上げたかと思うと大きく拳を振り上げた。
え? いや、まさか!?
その拳は真っ直ぐと俺のパソコンに向かっていく。
「いや、ちょ、ちょっと待っったーーーーーー!!?」
そんな俺の静止の声も虚しく俺のパソコンは無惨にも……砕けなかった。
その拳はスカッとパソコンを通り抜けたのだった。
あ、明華ってそういえば幽霊だったな←(今更)
「ほん……っとにうざい!!何!?こいつ!!?うざい、うざい!!気持ち悪い!!自分は正しいんですってドヤ顔してる姿が目に浮かぶわ!!ホントにこうゆうやつ滅べばいいのに!?」
そう、キーキー言いながら足や手で蹴る殴るを繰り返す明華。透き通るってわかっててもドキッとする。
「明華!!落ち着け、落ち着け!!?」
このままだと俺のパソコンへの不安が爆発しそうだったために止めに入る。
「だって!!?腹立たないの!?」
「いや、立つけど……」
「じゃあ、今すぐ抹殺だ!!この社会に顔出せないようにしてやる!!」
明華の怒り様を見て俺は少しずつクールダウンしてくる。
人間って不思議だな、自分よりやばく怒ってるやつがいたら落ち着くもんなんだ。
「明華、落ち着きなよ!!そんなこの世界のクズみたいな奴のために使うエネルギーがもったいないよ!!」
零も零でかなりすごいこと言った気が……
「殺してやる!!」
やべぇ、明華が悪霊化しそう……。
そんな空気の中を知ってか知らずかガラッと音を立てて病室の扉が開く。
扉を開けた先には……誰もいない?
「星兄……」
声が聞こえて下側を見るとそこにいたのはぴょこっと音が付きそうなアホ毛に少し乾いた黒髪のキューティクル。うるうるした零れ落ちそうな大きな瞳。まさに天使のような見た目を持つのは俺が知る限り一人しかいない。
「紺平!!どうしたんだ?」
そこにはもじもじしている紺平がいた。
俺はベッドから降りて紺平の元に歩いていく。
すると紺平はトテテと走ってきて俺の腰にヒシっとしがみついた。
「なっ!!?」
何この可愛い生き物!?
「どっどうしたんだよ?急に」
キョドってるのを悟られないようにできるだけ平静を装う。
しかし、紺平は何も言わずに俺にしがみついたままだった。
本当にどうしたのだろか。
「星兄……」
「ん?」
紺平がやっと口を開いた。
「しばらく抱っこして」
紺平が顔を上げたと思ったらその顔は少し泣いていた。
「どうした?」
「……なんでもない」
「いじめられたのか?まさか」
すると紺平は静かに首を振った。
「じゃあ、秘密だからね」
すると紺平はしゃがんでいた俺の胸に顔を埋めた。
「なんか怖くなったの」
「怖い?」
「うん、理由はないんだけど……抱っこしてくれそうなの星兄ぐらいしか思いつかなかったから」
「お前の兄ちゃんは?」
「兄ちゃんは……今日は来てないの」
それを言い終わるともっとギュッとしてと言って頭をぐりぐりと押し付けてきた。
……クソかわいい!!……けど……
俺はどうしてもただかわいいと思う気分にはならなかった。
可愛いのだけれども……どこからか同情らしきものが出てきたのだった。
俺にも似たような記憶があったからだろうか。
母さんが来なくて小さな俺は強がってたけどやっぱり寂しかった。病院にいるだけで自分が誰にも気づかれずに消えてしまいそうでたまらなく怖くなった。
俺は気づけば腕に力をこめて紺平を抱きしめ、頭を慣れない手付きで撫でていた。




