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墓に添える花の名は  作者: 春鏡凪/ちゃんす
金平糖
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送迎

 しばらくその状態でいたら紺平はいつの間にか眠ってしまっていた。


「寝ちゃったね」


 零はフフっと笑いながら優しい目で紺平を見つめた。


「どうしたもんかな」


 そう言って俺が紺平を抱えたまま立ち上がると俺の目の前に急に明華が現れた。


「ヒョ!?(ハッ!)ムグッ」

「勝星変な声〜」


 思わず大きな声を出しかけて必死でおさえたが紺平は起きていないだろうか?

 そーっと腕の中にいる紺平を覗き込むとスヤスヤと安定した呼吸を繰り返していた。良かった、起きていない。


 明華は顔に手を添え、しかめっ面でずっと紺平を睨んでいる。


「うーん」

「(コソッ)一体どうしたんだよそんなに見つめて」

「いやね?なんか見たことあるなーって」

「生前に?」

「うーん……忘れた!!こりゃ思い出せないな!!」

「思い切りいいな……」


 とりあえず紺平は部屋にでも送ってやるか。

 俺が歩きだそうとした瞬間、今度は明華の手が俺の前に現れた。


「ちょ!?……へぶっ!!……あ、そっかぶつかんないんだった」


 目の前に障害物が現れた俺はとっさにぶつかる体制をとるが、手はスッと俺の顔を通り抜けたのだった。


「……たく、今度は何だ?」


 俺が少し苛立ったように聞いたが明華は意にも介さないように声をだした。


「それにしてもさ……す……い」


「は?」


 明華が黙る


「おい?どうしt「この子可愛すぎない!!?」うっさ!?」

「何この子!?モデルとかそんな子??ホントにかわいい!!勝星!!その子もっと見せてよ!!」

「ヒェ……」


やべぇ、こいつの目。クラスにいたアイドルにキャーキャー言ってる女子たちとおんなじ目してんじゃねぇか。


「だめだ。こいつは早く返してやらねぇと。そうしないと看護師さんたちが心配するだろ?」


そう言ってギャーギャー言っている明華を横目に俺は扉を開けようとする。その時、紺平に渡し忘れていた金平糖を思い出した。ササッ引き出しに行って瓶を取り出し、紺平の手に握らせる。


それにしても何であんなところにあったのだろうか、しかも2回。


紺平が登れるとは思えないし……


「ま、いっか」


そう言って俺は紺平を送りに小児科の棟に行く。すると目の前に必死な顔の見慣れた人物が現れた。


「勝星……」

「名代……」


目の前に苦手な名代が躍り出て来たではないか。

え?今、こいつ俺のこと名前で呼んだ?


名代は俺と俺の腕にいる紺平を交互に見て


「あぁ、なんだ。君のところにいたのか」


そう言って安心したかのように髪を整えていた。

こいつずっと弟のこと探してたのか。


「すまないね、うちの弟が迷惑かけたみたいで」


そう言っていつもの貼り付けたような笑顔に戻る。


「いや、別に」


名代が手を出してきたので紺平を預ける。

名代は預けた弟のことをじっと見て心底ホッとしたような顔をした。

俺、もう帰ってもいいよな?


「じゃあ、紺平のこと頼むぞ」


「待ってよ」


踵を返そうとした俺の肩に手が置かれる。


「君、今って暇?」


「ヘ?」


その後俺はあれよあれよと休憩コーナーにつれてこられてしまった。


目の前でコーヒーをすすっている名代を見ながら俺は病気のこともあるため、今日飲んでいいと言われていた量の水を飲んでいた。


「奢りたかったけど、こればっかりはしょうがないね」


「いや、奢らなくていい。あとが怖いから」


今ばっかりは口実になってくれた病気に感謝だ。奢られたら未来がない気がする。


「さて、本題だけど、君に借りができてしまったみたいだね。なんか欲しい物とかあったりする?」


「いや、いいよ。別に大したことしたわけではないんだし」


俺は意地でもこいつと関わるわけにはいかないんだ。

関わったら次は追っかけられるだけじゃ済まないかもしれない……。怖っ……。

すると名代は貼り付けたような笑顔を崩さずに言った。


「そうはいかないよ。僕だって家の名を担ぐ者だ。それぐらいの礼儀はわきまえてるつもりだよ。だ、か、ら、”何でも”好きなこと言ってみてよ」


その言葉には有無を言わせない圧があった。

家の名を担ぐ者?……あぁ、そういえばこいつ家が金持ちかなんかだったんだっけ?

良家の出身とかそんな感じなのか?

名代はずっと俺を笑顔で見つめている。

……これ言わないと返してもらえないやつだな……。どうしよ。


俺は頭を回し始めた。

大体欲しいものとかクロマンが用意してくれるからいらないし……。

金だって俺一応社長の子どもだから困ってないし……。(困ってたとしても言わないけど)

まず、この借りに見合うもんじゃないとあとからなんか言われそうだな……。

考えろ、考えろ俺。

この問いの模範解答はなんだ?


……………………!!あ、これなら……。


俺は李蘭に目を合わせて言った。


「お前って弟のこと大切にしてるんだよな?」


「え?何突然?」


「いや、俺兄弟いないからあんまそんな気持ちわかんなくて……連も兄弟いないし、その……だから……兄弟の思い出話とか一つ聞きたいなーって……」


我ながらしどろもどろな回答である。しかし、兄弟の話に興味があるのは本当だ。俺は年中ボッチだったために兄弟の話なんかきいたことがないのだ。それに話ならお金は関わらないし、大きな借りを作ることはないだろう。

名代は俺の答えを聞いてしばらく目を丸くしていたがしばらくしてプッと吹き出したのだった。


「おい、何がおかしいんだよ」


俺は少し恥ずかしくなって頬が熱くなるのを感じながらも反論した。

名代は静かに笑っていた。

その笑顔はさっきの仮面のような笑顔ではなく自然な笑顔だった。


「いや、あまりにも素朴な話が来たな〜と思って。一つだけでいいの?僕のこともっと知りたいとかない?今ならどんな願いでも聞いちゃうよ。ランプの魔人みたいに」


そう言いながら李蘭は指をくるくると回して見せる。


「いや、いいって、いいって……」


俺は速攻でお断りする。

釣れないなと笑いながら彼はコーヒーの缶を机の上に置いた。

その缶の縁をなぞりながら名代は話し始める。


「思い出話って言ってもいっぱいあるんだけど、君にはこの幸せな話を。紺平が僕を慰めてくれた話」

俺のコップの中にはまだ並々と水がたっぷり残っていた。その話に不覚にも少し心が踊っている自分がいた。


「僕がまだ幼い頃、僕は家を継ぐための教育を受けていたんだ。まぁ家を継ぐってのもあるけど、家の教えは少し厳しくてね、正直幼いながら人に嫌気がさしていたんだ。どうして他の人から願ってもいないのに期待されなくちゃいけないのかなって」


まぁまぁ入りが重いな。


「それである日全部投げ出して逃げたくなったんだ。それからの行動は早かった。荷造りして、身代わり用の人形を作って。真夜中の家の人間が寝静まった時間に僕は家を出ようとした」


「”した”?出なかったのか?」


名代はハハと乾いた笑みを零す。


「うん、僕の家って高い塀に覆われててね。家の見回りをどうにかこうにかくぐり抜けたはいいものの、5、6歳の僕じゃ手も届かなかった。明らかな計画不足。まさに虎の子の策だった。見つかればただじゃすまない。でも部屋に戻るためにはまた監視の目をくぐり抜けなくちゃいけない。それでアワアワしてるときに紺平が僕を見つけたんだ」


「監視って……お前はどっかの武士の子かよ……。それに見つけたってお前ら兄弟だろ?一緒の部屋で寝てたりしないのか?」


すると名代は困ったように笑った。


「実は当主となる子供とそうでない子供は同じ屋敷に住めないんだ。そうでない子はそういう専用の場所で個別に育てられる。だけどあの時、紺平はなぜか外を歩いていたんだ」


そう言って名代はスッと目を閉じた。


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