疑問
どうしたものだろうか。幸子さんに断られてしまった。
これでは明華を両親のところまで送ってやることができない。
明華は幽霊だ。両親と話すことが未練を晴らすことに繋がるなら俺みたいな奴が間に入って通訳しないと未練が晴れることはない。
このまま悩んで時間だけが過ぎれば俺が先に死んでしまう可能性だってある。
そんなゴロゴロと霊が見える奴がいるわけでもないし、どうしたものだろうか……。
俺がもんもんと悩みながら歩いていると気づけば病室に付いていた。
最近よくあるなこういうこと……。
それにしても明華になんて話せばいいんだろうか。
期待させといて、それを裏切る。そんなの最低野郎がすることじゃないか。俺はとりあえずドアに手をかけたがどうしても開ける気にはなれなかった。
心に罪悪感と自責が混ざった重いものがぶら下がる。
せっかく俺を信じてくれたのに
俺はあんなえらそうなこと明華に言ってたのになんて……なんて……情けn
「ストーップ!!」
そう聞こえた瞬間俺の目の前は真っ暗になった。
この声、連だよな。ずっと黙ってたと思ったら急にからかってきたのか?なんでまた急に……
「どうしたんだよ連?ふざけてるなら悪いけど今そんな気分じゃ「勝星はいつも優しすぎる」は?」
「優しい」その言葉に体が異様に反応する。
まずい、頭が、心が熱い。優しいなんて言わないでくれ……。俺が俺を抑えられなくなる。体から漏れ出しそうな得体のしれない物は俺の心にどんどん侵食してくる。
「俺は優しくなんてない」
俺の声が怒気を帯びたものになる。
連はそんなこと気にも止めないように目を隠し続けた。
「ううん、絶対に勝星は優しすぎる」
一番嫌いな言葉を連呼されて、怒りが止まらない。
理由は分からないが紺平に言われたときだってなぜか湧いてきた感情だ。
あの時よりもひどい。
「ッだから俺は……!!「シー……静かに」」
連がもう片方の手で俺の口を塞ぐ。
「ムグッ!?ムグムグ!!?」
こいつ!?いったいどういうつもりなんだ!!?
俺がムグムグ言いながら暴れていると連は静かに耳元でつぶやき出した。
「勝星は本当に優しすぎるんだよ。
目に見えているものを全てすくいきろうとする。
何個か取り落としたって誰も文句は言わないし責めない。なのに君はそんなことお構いなしにすくおうとする。
僕のときだってそうだ。
あの時君は僕を見捨てたって誰も怒らなかった。
なのに危険をおかしてまで僕を助けてくれた。そんな人間を優しいと言わずになんて言うの?
ねぇ勝星、教えてよ」
「ん……プハッ!!?それはただ罪悪感を感じたくなくてやったことで決して善心から来た行動じゃない!!俺はただの偽善者だ!!善者なんかじゃない!」
俺が何とか連の手を避けてそう言った。
零に俺は優しいって言われたけど、
偽善なんてないって言われたけど
そんなのただの綺麗事だ。
そんな善の心なんてこの世にないはずなんだ。
あってはいけない。
俺の心が否定の言葉を重ねる。
連は構わず俺の口をもう一度塞いだ。
「勝星は善者だよ、本物の。だからこそ明華ちゃんのためにそんなにも悩んでるんでしょ。他人のことなんてほっとけばいいのに。
このままだと君が壊れそうで僕はそれがものすごく怖い。だからこそ僕は君の目を塞いでいるんだ。たまには目をつぶって、自分のことだけ考えてよ。君が壊れないために」
そう言って連は手を離した。
急に光が入ってきて俺は目を細めた。
振り向くと連はニッコリと笑った。
「優しいって認めることは君にとっていちばん大事なことだと思うよ。だからさ、怖がらないでよ、勝星」
その言葉に俺は目を見開いた。
怖がる?
俺が自分自身を優しいって思うことに?
頭の中にたくさんの疑問が浮かぶ。
しかし体の奥の方ではストンと腑に落ちている感覚があった。
俺は……怖いのか…?優しいって認めることが……なんで?……なんで……なんでなんだ?
頭の中が混乱してきて頭がズキズキ痛みだす。
考えちゃいけない。頭がそう忠告した。
俺の前にぼんやりとした線が見える。
本能的にこれは記憶の境界線だということを悟る。
これを超えれば俺はこの気持ちの正体を知ることができるがその対価を俺は払わなくてはいけない。その対価が恐ろしく怖いものだと言うことも……
俺が頭を抑える素振りを見て心配したのか連が声をかける。
「勝星大丈夫?
僕、もしかしてなにかしちゃったかな?」
連が不安がってる。
連はきっとただ俺にアドバイスしたかっただけなのに……。
とにかくしまうんだこの疑問を。心の最も深い場所へ。
俺は深呼吸をしてからその疑問を心の奥へとねじこむ。
すると同時にさっき感じていた怒りが全て消えた。
「勝星?」
連が俺の顔を覗き込む。
俺は咄嗟に言葉を取り繕った。
「ごめんごめん、ボーッとしてた。うん」
しかし連には効かないらしい
「ごめん、何か余計なこと言っちゃったみたいだね」
「そんなこと……」
「だって今の勝星の顔、すごく辛そう」
俺は顔を思わず触ってみた。特に変わりはなさそうだが……連には何でもバレてしまうらしい
俺は思わず苦笑いをした。
「あぁ、確かに辛いかもな、優しいってことを認めるなんて初めて言われたしそれがなぜかすごく怖い」
それを聞いて連がしゅんとした顔をする。
「でも……」
「でも?」
「連が俺を思って言ってくれてることだけはわかるんだ。だからさ……」
そう言って俺は病室の扉を一気に開けた。
中にいた零と明華はビクッと肩を揺らす。
「俺、もうちょっとだけ自分勝手になってみるよ。明華のこともまだ完全に終わったわけじゃない。また他の方法を探せばいい話だし……。いいよな?連」
俺のその言葉を聞いた瞬間、連は困ったように笑った。
「もう……バカ野郎」




