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墓に添える花の名は  作者: 春鏡凪/ちゃんす
金平糖
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許可

俺たちはいつも幸子さんが昼食のときにいる、物置に向かった。扉からはいつも幸子さんが食べている青のきつねの匂いがした。

ドアをコンコンとたたく。中からはゴホッと咳き込む音とガチャンと大きな音が聞こえた。コケたんだな。


「幸子さん?俺です」


「その声、勝星くんかい?」


そう言ってガチャッと扉を開ける幸子さん。膝辺りにはたぶん青のきつねをこぼしてできたであろうシミが付いていた。


「どうしたんだい、また相談かい?」


そう言って椅子を出してくる幸子さん。さぁ、どうぞと言った時に俺の後ろにいた連に気づいたようで、目をパチクリさせていた。


「そちらの美しい青年はどちらさま?」


「こいつは……その……俺の親友ですよ……」


これなんか気恥ずかしいな。いつもならサラッと言えるのに。

俺の話を聞いていた幸子さんはえ?といった顔をして

「親友……」

と声を漏らした。


「こんにちは、勝星の親友の連です。今日は勝星の付き添いで来ました」


そう言ってペコリと会釈をする。


「親友……」


そう言って下を向き、手で額を抑えてしまった幸子さん。


「幸子さん?」


そう声をかけ近づくと、彼の顔から涙が滴り落ちていた。

俺たちはぎょっとしてあたふたとしながら幸子さんを見つめた。

こういう時って背中とかさすったほうがいいのだろうか、でも、幸子さんもういい歳したおじさんだしそういうのは失礼なんじゃないか。そんな考えが頭を行きかいする。


俺がモタモタしているうちに幸子さんは鼻を啜って泣き止んでしまった。


「すまないね、大の大人が急に泣き出してしまって」


「どうしたんですか、何か気に入らないことでも?」


連が心配そうに聞く。


「いや、気に入らないどころか感動しちゃってね」


「感動……?」


あぁと言いながら幸子さんは俺の方を見る。


「いつも友達なんかいないし、いらないって、ずっとずっと言ってたあの勝星くんが……親友……親友って……しかも、勝星くんだけじゃなくて親友くんの方から親友……親友って……。お互いにそう言って……今日はなんて嬉しい日なんだ……ウッ……ウッ……」


それを聞いた瞬間、俺の顔はカァーっと熱くなった。連なんか今まで真顔だった癖に笑い必死でこらえてるし!!


「そう…です…か……プッ……」


おい連、漏れてるぞ笑い声。


幸子さんはまた出た涙を拭うと朗らかに笑ってみせた。


「本当にすまない、年をとると、どうにも涙腺が緩むようだ。」


ゴシゴシと顔を腕で擦ってパチンと頬をたたく。


「さて、君たちはなんの用でここに来たんだい?」


その言葉を聞いた瞬間、俺はここに来た理由を思い出す。

俺は意を決して口を開く。


「幸子さんに折り入ってお願いがあったのでここに来ました」


そう言って俺は幸子さんの前に座りなおし、真っ直ぐと幸子さんを見据える。

幸子さんは話のわかる人だ。真剣に話せば外出許可をくれるかもしれない。


「幸子さん、単刀直入に言います。俺に外出許可をください」


幸子さんは戸惑うような顔を見せた。


「これまた急にどうしたんだい?今まで外出許可なんていいやしなかったのに」


「少しやりたいことがあるんです」


「やりたいこと?」


「はい、新しくできた友達の手伝いをしてやりたいんです」


「……また友達ができたんだね」


「それには俺が外に出てそいつを手伝ってやらなくちゃいけないんです。他の誰でもない俺が……だからお願いです、俺に外出許可をください!!」


そう言って頭を下げる。たった数秒なはずなのに随分と長い時間が経っているように感じた。

いつまでこの沈黙が続くのかと思っているとその沈黙を破ったのは他でもない幸子さんだった。


「顔をあげてくれ、勝星くん」


そう言って俺の頭に手が置かれた。


そのままそっと顔をあげると幸子さんは少し寂しそうな顔をしていた。


「相変わらず君は優しい子だね、友達のために動こうとするなんて」


急に褒められ、俺は戸惑う。これはOKという意なのだろうかそれとも逆なのか。

混乱している俺を置いて、幸子さんはその次にまた言葉を紡いだ。しかし声が少しだけ重かった気がする。


「しかしね、君も今は奇跡的に大丈夫でも、いつ一大事になるか分からない状況なんだ。それを君は理解した上で言っているのかい?」


その言葉に少したじろぐ。

口調はゆっくりで落ち着いているのにその中には大きな見えない力が含まれている気がしたからだ。

しかし、ここで折れたらいけない。明華が両親に会えるかもしれないのだから。


「でも……俺が行かなきゃそいつは不幸になってしまうんです。だから……!「だからじゃない」…」


「お願いだ、勝星くん。

お願いだから、君を大切にしてやってくれ。自己犠牲精神なんてものは捨ててしまっていい。

もしその外出先で失神して頭でも打ったら、君の中で病気を抑えてくれている免疫が崩れるかもしれない。

その外出が原因で君を死なせたら私は一生悔やむだろう。君のことは小さい頃から知っているし、君のことは僕の子供のように思っているよ。だから、絶対に死ぬ可能性があるのなら行かせるわけにはいかないんだ。わかっておくれ」


俺はその言葉を言い返せなかった。幸子さんの言葉に力が入っていて怯んだというのもあるだろうが

それよりも……幸子さんの顔があまりにも縋るようで俺が言い返せば幸子さんは泣き崩れてしまう気がして……


俺は


「……わかりました」


そう言うしかなかったのだった。 



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