スパイ?
そうこうしているうちに紺平の部屋がある階に来た。
『勝星ってさ……』
連が口を開く。
『随分と子供にモテるんだね』
そう、今俺の手や足、体には子どもたちが隙間もないくらいに引っ付いている。
紺平の部屋に行こうと思ったらどうしても小児科を通らなければならない訳で、あれよあれよといつの間にやら磁石にくっつく砂鉄のような現象が起きたというわけである。
……クソ歩きづらい
『なんか面白いな』
そう言って連がハハッと苦笑いをした。
するとその笑い声に反応したのか、一人の子供がくっついたまま連の方に急に振り向いた
『……』
その子供はずっと連のことを見つめている。
連って美形だし見惚れたりしてるのだろうか?
クソっ羨ましい(血涙)
『お姉ちゃんどうして男の子のかっこうしてるの?変なの』
その言葉にギョッとする。
え?この子供、連が男装してるって分かるんだ?
俺が驚いている隙に子どもたちはどんどん話を広げていく。
『え?わぁ!ホントだ!!なんでなんで!?』
『こいつ女なのに男装してやがる!!変態だ!!』
無知ゆえの心無い言葉を吐く子供だっていた。
『おい!?お前ら……』
と俺が思わず叫びかけたのを連が手で制した。
『勝星、任せて。僕のために怒ろうとしてくれてありがとう』
そう言うと連はつかつかとさっき俺が怒鳴りかけたせいでビクッと固まってしまった子どもたちの前に行く。
『君たち、僕のことお姉ちゃんに見えるの?』
そう言ってニコッと子どもたちに笑いかける連。
子どもたちはその笑顔を見て、怒ってない?、怒ってないのかな?とコソコソ話をしたあと、連にコクリとうなずいた。
『お姉ちゃん、すっごく男の人に見えるけどね、なんかね、違うって思ったの。それでよく見てみたらね、女の人だったの』
そう最初に連のことを女だと言った子が答える。
その言葉に連はニコニコと笑顔を続ける。
『そっか〜。バレちゃったか〜。すごいね、君たち。
実はね僕は……』
そう言って連はスクッと立ち上がると子どもたちから少し離れてその場でバク転をクルッと披露して見せる。
急に何やってんだ?あいつ?
『僕はね、スパイなんだよ!!』
その言葉が流れた瞬間、俺は固まる。
すぱい?え?なんのこと?
すっぱい?レモン?
しかし子どもたちの反応は違った。
『すッスパイ!?ほんと!?』
『え!!ほんとにスパイなの!?』
なぜか子どもたちが目を輝かせて連を質問攻めにしている。
どういうことだ?
『今、僕はね秘密の潜入調査中なんだ!だから、君たちにこのことをバラされたら困るから、秘密にしておいてくれないかな?』
『でっ!でも!本当にいいスパイなの?もし悪いスパイだったら……』
そう一人の子供が口を開く。
『大丈夫!!僕はいいスパイだよ!証拠に、、、』
そう言ってよくわからないポーズをとりだす。
『悪を滅する。それが私の月に誓った任務!!』
その言葉を聞いた瞬間、子どもたちがわー!!と歓声をあげる。
『だから秘密ね♪悪い奴らに見つかったら大変だから!君たちも秘密のエージェントだよ!!』
そう言うと連に子どもたちが抱きつきに行く。
『わかった!!私、約束守れるもん!!』
『お、俺も……さっき変態とか言ってごめんなさい……。頑張ってね!!応援してるから!!』
すっかり蚊帳の外になってる俺を察してか連が子どもたちの中からうまく抜け出してくる。
『それじゃあ、任務開始!!』
連の言葉に反応して子どもたちはビシッと敬礼を決めるとサーと蜘蛛の子を散らすようにパタパタと走っていった。
『連……今のって……何?』
俺は表情を強張らせながら言った。
『やっぱり、その表情知らなかったか〜。勝星、せめてニュースとか見ようよ』
そう言って連はポケットに入っていた携帯を取り出しシュッシュと操作すると俺の方にある画像を見せてきた。
『スパイの拳?』
その画像には女の人とスタイリッシュな黒ずくめの男が写っていた。
『そうそう。この主人公である黒ずくめな男と女の人は姉弟なんだけど姉が悪役に殺されちゃうんだ。その復讐のためにその主人公はスパイになって成長していくって話。子供から大人まで人気の作品で社会現象にまでなってるのになんで逆に知らないのさ?』
『ウッ……』
そこをつかれるのは痛い。確かに最近は零の成仏の仕方を考えるばっかりでニュースとかあんまり見てなかったかも。
そして……勉強も……。
しないとな……。
人生はなんでこんなに苦難ばっかりなんだ…。
『じゃあ、さっき言ってた言葉とかしてたポーズも……』
『そそ、全部この作品の有名な言葉さ。子どもたちっていいね、純粋で』
連、悪い顔してる、むっちゃ悪い顔してる。
まぁ、連の変装がバレたらいつ襲われるか気が気じゃないし、結果オーライでいいのだろうか。
『でも連』
『ん?』
俺は少し間を置いて告げる。
『俺は連のこと変態なんて思わないからな?』
そう告げると連は目を見開いてしばらく間が空いて『ありがと』と嬉しそうに笑った。
さっきのお返しだ。




