三人で話そう
『連、、、平気か?』
膝を抱えてうつむいている連に声をかける。
『連?』
零もプカプカと浮きながらも連を下から心配そうに見つめている。
連も無理はない。
クロマンたちが失敗すればそれは大事な肉親である母親を失うことになるのだ。不安にもなるだろう。
『勝星、、、信じていいんだよね、、、あのクロマンっていう人』
うつむきながら連がボソッと呟く。
その言葉に俺は少し引っ掛かった
俺はクロマンと会って一日も経っていない。
それなのに俺は今クロマンを信じ切っている。
端から見ればおかしな話でバカな判断とも言えるのだ。
しかし
『あぁ、大丈夫だ。あの人は信頼していい存在だ』
口は迷わずその言葉をつむいでいた。
バカそうでも、おかしくてもいい。
ただクロマンを見ているとこんなにも純粋で強い人がいるのだと思い知らされる。
クロマンは信じてもいいんじゃなくて、信じたい人だ。
『勝星がそう言うなら、信じるよ、、、。
ねぇ、少し話そうよ?母さんが帰ってくるまで、いつもみたいに』
少し無理をした笑顔を浮かべながら連は言った。俺の答えは勿論”はい”だ。
『零もね』
連にそう言われると零は目を輝かせて『うん!』と返事をした。
『それにしても何を話すんだ?』
『私、いつもの物語の話が良い!』
『今?』
俺が零の言葉にポカンとした声を出すと、連はフフッと声をもらした。
『いいね、そうしよう!それで、いつもみたいに感想を言い合おうよ。いつもみたいに!』
そう言うと連は嬉しそうにその場を立った。少しだけ、さっきの無理な笑い方が和らいだ気がした。
『連、せっかくだし俺も見てみたいな。お前の本』
今までは連の部屋に入れなかったからどうしようもなかったが今だからこそ少しだけ見たくなったのだ。俺たちに今まで話してくれていた本たちを。
『え?いいけど、どうせ持ってくるし、待ってたら?』
連はキョトンとしている。
『だから、今まで俺たちに話してくれてた本全部だよ』
『だから、その本だって、、、まぁ、別に入ってきてもいいけど』
『え?』
意味が分から無いまま、瓦礫を避けて連の部屋に入るとそこには本が大量にある訳ではなく一冊の分厚い本がポツンとベッドの上に置いてあった。
『もしかして、今まで話してた本って、、、』
『これだけど?どうしたの?』
それをヨイショと言って抱えながら連は首を傾げた。
『一冊の本とは思ってなくて、、、今まで話したのってかなりの量だっただろ?だからてっきり個別の本にまとめられたものかと、、、』
『たしかに、話が多いよねこの本』
そう言ってその本の表紙を撫でる連
しばらく沈黙が流れた後、連が小さな声で言った。
『この本ね、実は父さんがくれたんだ』
『父さん?』
連は本から目を逸らさずに続けた。
『うん、父さんとして接してもらった記憶なんてほとんどないし、大体、こんなことになったのも父さんがアイツらの仲間で家まで付けられてきたせいだし、僕は今でもあんまり好きじゃない。でも、、、』
連はそこで言葉を止めて、俺にその本の表紙を見せてきた。
「ハッピー物語」
そう書いてあるのを見ると俺は唖然とした。
そんな俺を見て予想通りというように連は笑った。
『「ハッピー物語」、ハッピーエンドの話だけ集めた短編集』
続けて連は言った。
『おかしいでしょ?今までほっとかれたのに何で急に、、、しかも僕が入院するときに内緒でこんなもの、、、。
嫌味のつもりなのかなって最初は思ったけど、
実は父さんがその時ね、すごく泣きそうな顔をしてたんだ』
『泣きそうな顔?』
『うん、本当に辛いって顔。
その表情を見て思ったんだ。この人は好きでこんなことやってる訳じゃないんだなって、、、勘違いとか、平和ボケとか言われそうだけど、僕は少しだけ信じたいって思ったんだ』
現実、この本に結構助けられたしね。
そう呟く連の目はすごくきれいだった。
『さぁ、行こ?零が待ってる』
そう言って俺より先に出ていく連の背中は少し大きく見えた。




