死への門
ピッ、、ピッ、、ピッ
機械的な音がする。
ここはどこだろう?
目をゆっくりと開ける。
まず飛び込んできたのは見慣れた白い天井。
ゆっくりと首を横に曲げる。
白い壁に白いベッド。そして極めつけに点滴と心電図。
つまりここは病院。
運命は残酷で絶対に俺をはなしてはくれない。
生きているだけで幸せなんてそんなことは恵まれている奴しかいわない。
俺みたいに死にたがってるやつだっているのに生きろって言ってヒーロー気取りの奴が俺は人間の中で一番大っ嫌いだ。
しばらくボーッと天井を見上げているとガラッと病室のドアが開いた。
こちらもまた見慣れた白いひげと白髪が特徴的な小太りおじさんが入って来た。
俺はなんとなくその見慣れた人から顔をそらした。
『また、、、、戻ってきてしまったんだね』
白い眉が下がっている。
『はい、、、、またよろしくお願いします。幸子さん』
この人は俺の昔からの主治医だ。この人に俺は何度も助けられた。俺の治療費がないと言ったら借金してまで助けてくれた人だ。
ここまでするのは一人の医者としてどうかと思うが幸子さんはどうやら俺の親父と古い知り合いらしく自分のことをまるで自分の子供のように思ってくれているらしい。
その親父と俺は一度も会ったことがない。
俺が小さい頃、医者だった親父は発展途上国に病気の研究に行ったところ、テロに巻き込まれて亡くなったらしい。
家には小さな写真立てに家の中で撮った家族写真がある。
嬉しそうに笑う俺を優しい目で見つめていた親父。一度だけでも会ってみたかったな。
俺には兄弟もじいちゃんもばあちゃんも親戚がいない。つまり、今の俺の家族は母さんだけなのだが、その母さんはバリバリの仕事人間。
幸子さんに病院に来ると必ず言っている言葉を言う。
『母さんは?』
すると幸子さんはいつものように首を振る。
『電話、してみたんだけど忙しいから後にしてって』
いつもこんな感じ。母さんは今や大手企業の社長。社長になってからというもの、俺が倒れても見舞いにすら来てくれなくなった。
『分かった。ありがとう』
そう言って幸子さんの方に寝たまま体を向ける。
これもいつものお決まりセリフ。
『それで?俺は何で倒れたの?』
すると幸子さんは顔を背け、窓の外にいる青々と茂った常緑樹に目を向ける。そして重い口調でゆっくりと言った。
『また原因不明だよ。あと、君の腎臓がガンになっていることが分かった。』
『え?』
今まではこの原因不明の失神と体が弱いことによる肺炎だった。
でも今回はガン。
俺にはもともと腎臓が一つしかない。
体が死に一気に近づいたのを感じる。
『もう結構大きくてね。このままだといつ何処かに転移してもおかしくない状況だ、死の危険もある』
俺は返事を返す。
『そうですか』
俺の声は自分が驚くほど落ち着いていた。
『冷静だね』
『まぁ、命の危険なんて今まで何度もありましたし』
『私としては、慣れて欲しくはないのだけどね』
そう言って幸子さんは悲しそうな顔をする。
それでも俺の心はあまりにも静かだった。
理由を探すと答えはすぐに見つかった。
あぁ、そうか。俺はこんなにも死にたかったのか。
ドロドロとした黒いものが心を包んでいく。
俺は生きていたくなかったのだと思うと妙に心が軽くもなった。
『勝星くん、どうか諦めないで。きっと助けるから』
『はい、ありがとうございます。これからお願いします』
『あぁ。』
そう言って病室を去った幸子さんを見届けてから、俺は笑いがこみ上げてきた。
『ハハッ。ククッ、、、。ハッハ!!ハハハハハハハッハハハ!!』
俺は何に笑っているんだろう。自分が死ねるかもしれないことに関しての歓喜か、
それとも、、、
その笑い声は病院に響き渡り、どこか不気味でもあった。




