六章・4
「あら、いい匂いね。一輝が作ってくれたの?」
「俺じゃない。美弥子が作った」
「えー! 美弥子ちゃん料理もできるの!?」
「ち、違います! わたしはつっきーのお手伝いをしただけです」
「でも俺がやったのなんてタネ作って、一つだけ形を整えただけだ。あとはみんな美弥子がやってくれた」
料理をテーブルの上に並べ終えたら、タイミングよく母さんと一咲子がキッチンに入ってきた。ずいぶんと長いお説教だったな、今回は。さぞ絞られたことだろう。しかし一咲子は特に沈んでいる様子は見られない。タフなやつだ。
「あら? 形がなんだか……」
母さんがハンバーグの一つを見て首を傾げた。
「ご、ごめんなさい。わたし、上手にできなくて」
「これ、美弥子ちゃんが? いいわね、これ。ハートみたい」
「そ、そうでしょうか?」
母さんが自分の席に置かれた皿を眺めて、嬉しそうに言った。美弥子は首の角度を変えながら「ハート?」とつぶやいた。
「それじゃあいただきましょうか。美弥子ちゃん、いただきます」
「美弥子ちゃん、ありがとう!」
「あ、は、はい! ど、どうぞ!」
「美弥子、いただきます」
「はい! どうぞ召し上がってください、つっきー!」
俺はハンバーグを箸で切り、口に運んだ。
ほう、なかなかどうして。
「美味いぞ、美弥子。ありがとう」
俺がそう言うと美弥子は嬉しそうに、心の底から嬉しそうに微笑んだ。
○
「お兄ちゃん?」
「何だ、一咲子か。どうした?」
俺が自分の部屋で携帯を見ていると、部屋のドアが開かれ一咲子が顔をのぞかせた。
「入ってもいい?」
「別にいいけれど、何の用だ?」
「ちょっと話したいことがあって」
一咲子は言いながら部屋に入ってきたが、ドアの前に立ったままだった。
「何でそこに突っ立っているんだ?」
「話は、すぐだから」
「そうかよ」
俺は携帯を机に置いて体を一咲子の方に向けた。
「それで?」
「あのね、美弥子ちゃんのことなんだけど」
「美弥子?」
当の美弥子はと言えば、今は母さんと風呂に入っているはずだ。なぜか母さんが一緒に入りたがったのだ。
「お兄ちゃんは、美弥子ちゃんのことどう思ってるの?」
「……どういう意味だ?」
「美弥子ちゃんのこと、好き?」
「…………」
「一人の女の子として、美弥子ちゃんのことを見て、お兄ちゃんは美弥子ちゃんのことが好き?」
どうして一咲子が、突然そんなことを聞いてきたのか。気になりはしたが、それを聞く前にまず正直に自分の今の考えを伝えた。
「……嫌いじゃないけれど、そういうのはまだわからない。美弥子はいい子だ。どんな奴にもきっと好かれる。だからこそ俺は、すぐに結論を出したくない」
「そっか……。わかった」
一咲子はなぜかほっとしたように言った。
「何で急にそんなことを?」
「それは、ね……」
一咲子は両手をパンと鳴らして言った。
「二人とも、とってもお似合いだからだよ! それじゃあね。おやすみ」
「ああ、おやすみ」
一咲子は手を振って部屋から出て行った。
一咲子には一つ、小さい頃からの癖がある。本人が気づいているかどうかはわからないが。
それは嘘をつくときの癖だ。
一咲子は嘘をつくとき、手を動かす。
これでも、兄だ。




