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1943年7月 お上りさんのお友達

来てしまった。

麻布の男爵邸。


服装は言われた通り、学ランと学生帽。

いつもの通学と同じ服装だ。


手土産はいらんと言われて、その通りにした。


しかし、こっちの身にもなれ。


麻布の男爵様と御曹司様に手ぶらで行ったなんて、実家の手紙に書けん。


よし、行くぞ!


コン、コン。


この真鍮のノッカー、2、3回でいいんなよな。


はあ、もっと御曹司様に聞いておくべきだったなあ。


「はい」


扉が開いてしまった。


「お待ちしておりました!あなたがお上りさんのお友達ですのね!わたくしはこの家の娘です。どうぞ、よろしくお願いしますわ」


……?


「ど、どうぞよろしくお願いいたします」


この家の娘?


男爵の娘!?


「旦那様からお話は伺っております。後ほどお茶とお茶菓子をお持ちいたします」

「どうぞお構いなく」


なぜ、ご令嬢が出迎えにいる。


「部屋はこっちだ」

「あ、ああ」


玄関近くの部屋か。


……。


もしかして、ご令嬢はまだご覧になっているのか?



部屋の扉が閉まった。


はあー。


ん?座布団が2枚?


「上座も下座もいらんから、好きな場所に座れ。学ランも学生帽も好きな場所に置け」


「……ああ、わかったよ」


「あの方が、噂の男爵様のご令嬢か」

「ああ」

「しかしどうして俺の出迎えに来られたんだ」

「興味を持たれたのだ。俺の学友が来るとお聞きになって」


やつが机にメガネを置いた。


「そうだ。どうしてわざわざ付けて出迎えた。いつも読書と勉強以外、かけてないだろう」


「……」


「……すまん、野暮だった。しかしお前を『お上りさん』呼びするご令嬢がいらっしゃるとはな」


笑わない。


それもそうだ。


「なぜご存知ないのだ」

「男爵様はお伝えしたそうだが、最後まで話を聞いていなかった、とおっしゃられていた」

「…いいのか」

「…ああ」


コンコン

「失礼いたします、お茶とお茶菓子をお持ちいたしました」

「どうぞ」


さすが男爵邸の茶だ。

俺の下宿先の茶と色も香りも違う。


「うん!美味い!こんな美味い茶を飲んだのは久しぶりだ。…御曹司様のご学友ともなると、茶の味も変わるのか」

「御曹司ではない。祖父の代からの分家だ」

「俺たち庶民からしたら、十分御曹司様だよ。ほら、もう一杯飲め」


茶菓子に手を伸ばす前に。


「さて、大本営発表、お前はどう思う。戦果戦果と勇ましく書いているが、俺の田舎は相変わらず徴兵が絶えんそうだし、品不足も変わらない」

「⸻隠蔽と誇張」


相変わらず、涼しい顔をしたやつだ。


「勝っていればする必要あるまい」

「そうだ」

「お前はどこまで確信しているんだ」


御曹司だからじゃない。


お前なら。


「…俺も断言できない。証拠がないからだ。⸻ただ」

「ただ、なんだ」

「俺たちが真実を知る日は、そう遠くないはず」

「……いつだ」

「…年内、俺の予想だ」


「茶菓子、もらうぞ」


甘い。

砂糖入りの和菓子だ。


「…男爵様は俺のために、こんな高価な品を」

「あの方は、そういうお方だ」

「確か貿易関連のお仕事をされているという話だな」

「ああ」


⸻そうか


◇ ◇ ◇


「じゃあ、そろそろ帰るとするよ」


まったく、あいつは。


「…せっかくの色男が台無しだぞ」

「これでいいんだ」



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