1943年7月 坊ちゃんのコマ
トットットッ!
家の前を元気に走る音が。
ふふ。今参りますわ。
ノッカーを2回。
ちゃんと守れていますね。
「はい」
玄関は女中さんが開けますが、わたくしは自然と階段付近へ。
「なんだいあんた!」
「あら?坊ちゃん、いらっしゃい」
「こんにちは、お嬢様」
坊ちゃんは食堂へ。
あら?手にコマが。
ふふ。そういうことですのね。
コンコン
「はい」
「わたくしです」
「お嬢さん、どうされました?」
「今、お時間ありますか?」
「ええ、少しでしたら」
「坊ちゃんがお見えになりましたの、食堂にいらして頂けませんか」
食堂で過ごす約束ですものね。
坊ちゃんの耳にそっと。
⸻こちらの方はお上りさん。
⸻おのぼりさん?
⸻そう、田舎から来た人をそう呼ぶのよ。
「ふーん。にいちゃん!よろしく!」
「あんた!この方はね!」
「女中さん、僕は構いません。よろしくな」
「どうも、申し訳ありません」
お勤めに戻られました。
坊ちゃんがもじもじしていますわ。
ふふ。普段は強気ですのに。
ここはわたくしが。
「ん?そのコマ、ちょっと見せてみろ」
あら?
「どうなさったの、お上りさん?」
「いえ、見た目は子供用の玩具ですが、これは職人が作った作品です。しかもこの子が使いやすいよう設計されています、回してみないことには、なんとも言えませんが…」
「にいちゃんすげー!一発で父ちゃんのコマを見抜いたのは、にいちゃんが初めてだ!」
「お父さんは、職人さんなのか?」
「ああ!飾り職の大工なんだ!外に来てくれよ、ヤマトが回ってるところ見せてやる!」
まあ!
専用の台まで持参されていたのですね。
「わたくしたち、坊ちゃん自慢のヤマトを見ます。どうぞ料理人さんもご覧になって」
「はい。お嬢様」
「それ!」
台の上を勢い良く回っています。
お上りさんはヤマトから目を離しません。
「艶の美しさもあったが、軸がとても安定している。普通のコマはここまで回りません」
坊ちゃんが反対のポケットから、もう一つのコマと紐を出しました。
「にいちゃん、試してよ!ヤマト、すげーんだ!」
まあ!
お上りさん意外とお上手!
ですが、すぐに弾かれましたわ。
「このコマは、店で買ったやつだな」
「ヤマトは本当にお強いですわね」
「店で購入した物では、大人でも勝てないでしょう」
「え!?」
「にいちゃんそこまで分かるの!?」
「…ずるいって言われないか?」
「ああ!生まれも運のうち、って言い返してらあ」
料理人さん、お上りさんも笑ってらっしゃる!
…前よりも自然ですわ。
「こらー!」
「かあちゃん…」
「皆さんの前でなんてことを言うんだい!」
「だいたいいつもお前はね」
ふふ。
「じゃあ戻りましょう、お上りさん」
「ええ」




