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朝礼宙も和泉さんと貝崎のことを考えていた。でもやっぱり答えは変わらず、二人の交際に違和感を覚えるばかりだ。
朝礼が終わり、園児を迎える時刻になる。玄関で登園する子供達を待ちながら、俺はずっと調理室を見ていた。
「おはよーございまーす」
「あ、おはよう。良哉君」
「おはよーございまーす」
葵ノ本さんが声をかけた後、良哉が二度目の挨拶をする声が聞こえた。
「おはよーございますっ」
「うおっ!?」
三度目の挨拶が聞こえると同時に、足に衝撃を覚えた。そして尻餅をつく。
「こらっ、良哉!!」
どうやら良哉が突っ込んで来たらしいということを知る。お母さんに叱られた良哉は一目散に教室へと逃げて行った。
「すみません」
「悠真君、大丈夫?」
「ありがとうございます」
良哉のお母さんが謝罪する。差し出してくれた葵ノ本さんの手を借りて立ち上がった。
「悠真君、大丈夫? やっぱり体調が悪いんじゃないの?」
「大丈夫です」
「おはようございます」
「おー、俊介。おはよう」
葵ノ本さんへの返事をしつつ、登園してきた俊介の手を引いてゆり組の教室に行く。俊介の案内が終わると、良哉が近づいてきた。
「ゆうませんせい」
「どうした? 今日も背中に乗るか」
質問すると、良哉はフルフルと首を振る。さっきの出来事なんてなかったかのように、良哉の元気がない。何かあったんだろうか。
「ゆうませんせい。おしり、いたくない?」
「尻?」
良哉は俺の目をじっと見る。玄関先のことを心配してくれたんだろう。
「大丈夫だ。ありがとな」
良哉を愛おしく思い、頭を撫でる。すると良哉も本来の活発な表情に戻った。
「せんせー。のせてー」
「おお、良いぞ。今日も良哉が一番な」
「せんせい。ぼくものりたいです」
「わたしもー」
「おれもー」
俺の様子がおかしいと感じていたのか、遠慮していた園児達が次々と手を上げた。
「よーし。先生の背中に乗りたい子は一列に並んでー」
園児達から元気をもらい、次々と背中に乗せて喜んでもらった。
「はーい、みんな。おやつの時間だよ。もう手は洗ったかな?」
「まだー」
「じゃぁすぐに洗いに行こう。今日はドーナッツとオレンジジュースだよ」
「わーい」
葵ノ本さんがワゴンを押して入ってきた。
葵ノ本さんと一緒に、園児達は手洗い場に行く。
教室に残った俺は、今日のおやつを見る。
……ドーナッツ……。鶏肉を叩いておく前に準備していたのかな。それとも、朝来てからやったのかな。
今日和泉さんが着ていた服では、さぞかし作業がしづらかったに違いない。袖をまくっても落ちていると思う。何か対策をしたのかな。
「どうなのかな」
和泉さんのことがわからない。
見えたかもしれない和泉さんの気持ちは、俺の勘違いだった。今では、調理している和泉さんの姿も、簡単に思い浮かばない。
貝崎のTシャツを汚したのか。それとも汚れないように何かしたのか。そんなくだらないことばかり考えてしまった。
和泉さんと接触できないまま、正午を回った。園児達は昼寝の時間だ。いつものように、葵ノ本さんは先に昼食を取りに行っている。
「悠真君」
葵ノ本さんが戻り、俺が教室を出ようとすると呼び止められた。
「あのさ、悠真君。今日仕事が終わってからって時間あるかな?」
「今日ですか? 大丈夫ですよ」
「本当に? ありがとう。ちょっと話したいことがあるから、学童保育所が終わったら職員室に来て」
「わかりました」
真剣な様子の葵ノ本さんを見て、終業後の話を承諾する。葵ノ本さんは安心したような顔をして、ゆり組の教室に入っていった。
……和泉さんへの告白を手伝ってくれって言われるのかな。
和泉さんの気持ちはわからなくなったけど、葵ノ本さんのことは恐らく俺が考えた通りだと思う。昨晩の飲み会までは、恐らく協力できた。あの時はまだ、和泉さんへの気持ちを自覚していなかったから。
でも今は、葵ノ本さんの恋を応援することはできない。
世間一般的な考えならば、葵ノ本さんと和泉さんの仲を取り持った方が良いと思う。でも和泉さんには貝崎と付き合うと宣言した事実があって、和泉さんにとって女性は恋愛対象にならないという事情もある。
かといって、和泉さんの性癖を簡単に伝えてしまうのも気が引ける。そしてさらに、俺は和泉さんへの気持ちを恥じていない。
葵ノ本さんには、諦めてもらうしかない。
昼食を食べる気になれず、鍵を持ってそのまま移動する。途中、調理室の前で足を止めた。
貝崎と付き合うようになったと言った和泉さん。いつから貝崎と連絡を取っていたのかな。
良かれと思って今まで、貝崎に絡まれている和泉さんを助けてきた。でもそれは、全て無駄だったのかな。
「……やっぱり、納得いかない。和泉さんがあいつと付き合うのは、間違ってる」
俺自身が二人の関係を認めたくない。どうしたって認められない。失恋なんてしたくないと思うのは、当然のことだ。
……和泉さん、あんなにつらそうな顔を何度もしていて、本当に幸せになれるのかな。……最後は、俺といるときにつらそうな顔をしていたけど。
和泉さんが笑顔になれるのは貝崎の隣だけだとしたら、それは負けを認めるしかない。もしそうではないのなら、和泉さんが何かを我慢しているのだとしたら、二人の関係を壊す。
葵ノ本さんの話が終わってからきちんと和泉さんと話そうと思い、学童保育所へ移動した。




