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笑顔と恋と ※BLです※  作者: 舘城凛


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 飲み会が終了し、店を出る。


「悠真君、本当にカラオケ行かないのー?」

「ええ、すみません。男一人だとやっぱり行きづらいです」

「そっかー。それじゃぁしょうがないね」


 残念そうにする葵ノ本さんの誘いを断り、俺は和泉さんと朝海園に戻ることにした。それなのに、女性陣を見送っている途中に和泉さんが先に行ってしまった。

 俺はすぐに和泉さんの隣に並ぶ。


「あまりしゃべってなかったですけど、やっぱり飲み会は苦手ですか」

「そういうわけじゃない。酒の匂いに少し気分が悪くなっただけだ」

「えっ、大丈夫ですか」

「今は治った」

「それは良かった」


 話が終わると、和泉さんは足早になる。どうして急に早くなったのかわからないけど、俺も和泉さんに歩調を合わせる。すると今度は、和泉さんが走り出した。様子がおかしいと思い、俺は和泉さんを追い抜かして前に立つ。


「どうして先に行くんですか。一緒に帰りましょうよ」

「なれ合いは終わりだ」

「えっ」


 和泉さんは吐き捨てるように言うと、俺の横を通り過ぎようとする。俺はとっさに和泉さんの腕を掴んだ。そして和泉さんの様子を窺うと、まるで貝崎と会っている時のような顔をしていた。


 ……今は、俺しかいないのに。どうして。


 和泉さんが見せた表情にショックを受け、思わず腕を離す。和泉さんは目をそらし、俺が掴んでいた部分を擦る。


「もう、関わらないから」

「和泉さん!」


 和泉さんは走り去る。

 和泉さんの表情があまりにも悲しそうに見えて足がすくんでしまった。追いかけても良いんだろうか。


「和泉さん……」


 凱津駅に入ってきた快速電車に乗っていた乗客が外に出てきた。道の真ん中に立っている俺に、邪魔だと言わんばかりの視線を向けてくる。


「そんな所に突っ立ってんじゃねえよ」


 会社員に文句を言われる。


「ちょっと、邪魔なんだけど」

「あ、すみません」


 駅から出てきた男子学生とぶつかり、謝って道の端に寄る。学生は舌打ちしながら帰路についた。

 帰宅を急ぐ人の流れを見ながら、和泉さんのことを考えた。


 ……関わらないと言われるほどのことを、俺は何かしたんだろうか。


「わからないことは、本人に聞くのが一番だ」


 自分の考えをまとめると、俺は和泉さんを追った。




 和泉さんと別れてからまだそんなに時間が経っていない。だからすぐに追いつけると思ったけど、和泉さんに会えないまま朝海園に到着してしまった。先に帰ったはずの和泉さんの部屋にもいる痕跡がない。

 どこかにいたのを見落としてしまったかと思い、道を戻る。


「和泉さん?」


 陸橋を越えた所にある公園の奥で、人影が動いたような気がした。違うかもしれないけど、可能性を確かめておこうと思い、公園に入る。

 公園の入口と反対側を結ぶ道に、二人分の影があった。街灯の下に照らされているのは、和泉さんだ。

 駆け寄ろうとして、傍らに貝崎を発見して足を止める。二人から見えないように物陰に隠れ、様子を窺う。


 なぜ和泉さんは貝崎に会っているのか。その理由を考え、一つ思いつく。

 あれほどしつこく和泉さんに会いに来ていた貝崎が、ここ二週間全く顔を見せなかった。あの執拗さから考えるとあり得ない話だ。

 でももし、和泉さん本人が会いに行っていたとしたら? 貝崎が訪れなくなったのも頷ける。


 二週間で何かあったかと考えたけど、何も浮かばなかった。そもそもこの二週間、特に後の一週間は、和泉さんとまともに話せていない。和泉さんの変化なんてわかるわけがなかった。


「朝海……」


 貝崎との話し合いが終わったのか、移動した和泉さんに発見されてしまった。傍らにはまだ貝崎がいて、俺を見て勝ち誇ったような顔をしている。


「和泉さん! どうしてこいつと会ってるんですか」

「お前には関係ないことだ」


 いつもだったら和泉さんに言われている言葉。でも今日は、貝崎が言った。同じ言葉でも、言う人間が変わると気持ちがささくれ立つ。

 俺は貝崎の胸倉を掴んだ。


「離せ、朝海」

「和泉さん……」


 和泉さんに止められ、俺は仕方なく貝崎から離れた。和泉さんはまた、つらそうに顔を歪めている。


「もうお前とは関わりたくないんだ。だから、オレに構うな」

「どうして関わりたくないなんて言うんですか。俺達は同僚じゃないんですか」

「関わりたくないと思ったから、そう言っただけだ」

「だから、どうしてそんな風に思ったんですか!? 俺にわかるように説明してくださいよ」


 和泉さんに近づこうとすると、貝崎が間に入ってきた。


「しつこい男は嫌われるぞ。達哉は、お前と関わりたくないって言ってるんだ。諦めろ」

「あんたに言われたくない」


 貝崎に反論する。でも和泉さんがつらそうな顔をしているのは、俺がいるからだ。


 ……今、和泉さんの笑顔を奪っているのは他でもない。俺だ。


「和泉さん……」


 受け入れがたい事実を突きつけられ、和泉さんの名前を呼びながら一歩後退する。


「和泉さんは、本当にそれで良いんですか。こいつと、付き合うんですか」


 和泉さんの口から、否定してほしかった。でも俺が望む答えは聞こえない。和泉さんは黙っている。


「どうして否定しないんですか? どうして、付き合わないって言わないんですか!?」


 和泉さんに詰め寄り、肩を揺さぶる。

 和泉さんは俺から目をそらしたまま。何も話さない。


「やめろ。達哉から離れろ」

「和泉さん! どうしてですか!? こいつは、以前和泉さんを苦しめた人間ですよ!? なのにどうして……」


 足の力が抜け、座りこむ。

 和泉さんは貝崎に肩を抱かれ、そのまま立ち去ろうとする。


「和泉さん……!」


 一度だけ振り返ったけど、貝崎に何か耳元で話されると俺から目をそらす。そしてそのまま、貝崎に身を寄せて公園を出て行ってしまった。


「なんで……」


 もしかしたら和泉さんは、貝崎が来ても困っていなかったのかもしれない。むしろ俺が口を出すことで、二人の仲がこじれてしまったのかもしれない。

 でも、確かに言っていた。何度も言っていた。

 貝崎とは付き合わないと。

 貝崎の唇が触れた首は、あれほど執拗に擦っていた。

 確かに言っていたのに、タオルで擦っていたのに、あれは嘘だったのか。あの態度は、好きという感情の裏返しだったんだろうか。


「あー……わっかんねえ……」


 俺は足を投げ出し、空を見る。背中に伝わる地面は冷たい。だけど空には満天の星が広がっていた。






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