25
午後二時過ぎ。九時から始まった遊戯時間が終わった。
「はーい、みんなー。残さずいっぱい食べようねー」
園児達が体を動かした後は、昼食になる。倉庫から特大のレジャーシートを出し、駐車場に敷く。そこで園児達はお泊まり会恒例のカレーを食べるのだ。保育士も一緒に食べるのも、恒例らしい。
食事担当の和泉さんは毎年調理場に待機するということで、俺も付き合うことにした。
「子供は元気が一番ですよねー」
「そうだな」
元気すぎる良哉が一部の段ボール通路を破損するトラブルはあったけど、それ以外は順調に進んだ。
「良哉みたいな子って、毎年いるんですか?」
「あれほど元気な子はそうそういない」
「ですよねー」
開けた窓からは園児達の元気な声と、女性陣の楽しそうな声が聞こえた。
「達哉君。おかわり、頼んでも良いかな」
「はい」
調理室の窓は駐車場に面していて、そこから器の受け渡しをする。和泉さんは葵ノ本さんから二つ器を受け取り、よそっていく。
「どうぞ。熱いので気をつけてください」
「ありがと」
和泉さんはまた俺の隣に戻る。
「和泉さん。俺もおかわりもらえますか」
「わかった」
和泉さんに器を渡し、俺はその間に椅子を少し離れさせる。右を向けばすぐに見えてしまう和泉さんの首筋は、目に毒だ。調理中の暑さでうっすらと汗ばんでいるから、余計に悪い。
つい、凝視してしまう。
「ありがとうございます」
和泉さんから器を受け取り、カレーを食べる。
「やっぱり、和泉さんの手料理って美味しいですよね」
「どうした、いきなり」
「いえ、素直な感想を言っただけです」
和泉さんは首を傾げながら俺の隣に座る。
和泉さんと向き合っていると、彼を凝視してしまう。高温の部屋にいるせいで赤らんだ頬とか、潤んでいるように見える瞳は危ない。意識しないように注意する。
「俺、和泉さんが作った綾里って好きです。肉じゃがも美味しかったし」
「そうか」
「――っ」
和泉さんがする自然な仕草を意識しないようにしているのに、ふとした時に心が揺さぶられる。
はにかむように微笑んだその姿は、はっきり言って反則だ。つい見つめてしまう。
「なんだよ」
「いえ。自分だけに向けられた笑顔って嬉しいなって」
「なっ……」
俺の言葉を聞いた和泉さんは、さっと顔を赤くした。それからすぐに、俺に背を向ける。色白の和泉さんが、耳まで赤くなっているのがすぐにわかった。
「……前は、無愛想だって言ったじゃないか」
「違いますよ。あれはそういうことじゃなくて、生き生きとしてるって意味です」
和泉さんのことをかわいいと思うようになった時のことを、拗ねたような口調で言う。そんな和泉さんが、またかわいいと思った。
「もしもーし。今、取り込み中かな?」
かわいらしい和泉さんを見て俺が和んでいると、遠慮がちに葛城さんが声をかけてきた。傍らには、桜ヶ丘さんもいる。二人とも、手には空の器を持っていた。
「おかわりですか?」
「えぇ。忙しくなかったらお願い」
「わかりました」
「和泉さん、俺も手伝います」
桜ヶ丘さんが持っていた器を受け取り、ご飯を載せる。すると外から桜ヶ丘さんが何やら盛り上がっている声が聞こえた。あのはしゃぎようから、どうやら彼女の中でまた俺と和泉さんの関係が進展したようだ。
「桜ヶ丘さん。言っておきますけど、何もないですからね」
「わかっています。朝海さん、頑張ってくださいね」
「いや、だから……」
もはや彼女に何を言っても無駄らしい。俺は桜ヶ丘さんの言葉を否定するのを諦めた。




