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笑顔と恋と ※BLです※  作者: 舘城凛


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 貝崎来訪から一週間。

 貝崎は訪れず、平穏な日々を送った。


 そして迎えた、お泊まり会当日。

 お泊まり会の最終調整のため、参加する園児達はみんな学童保育所の方で現在待機中だ。

 あとどれくらい時間がかかるのかと思っていたら、葛城さんが園児達を呼びに来た。後ろには桜ヶ丘さんも立っている。


「はーい、みんなー。先生について来てねー」


 葛城さんを先頭に、真ん中に桜ヶ丘さん、最後尾に俺がついて園児達を保育園の方へ連れて行く。職員室のすぐ前まで行くと、点呼を取るために葛城さんが止まった。

 通路として使う段ボールは、葛城さんのすぐ近くに入口がある。普段教室を区切っているパーテーションは、今日は端に寄せた。


「たんぽぽ組の子から始めるからね。ゆり組がその次、一番お兄さんとお姉さんのさくら組は最後に入ってね」

「ねー、せんせー。ひよりせんせいはー?」

「ひより先生は、部屋の中で皆を待っているわよ。だから安心してね」

「えー。せんせーみたいなおばさんじゃなくて、ひよりせんせいが……」


 文句を言っていた良哉が、突然口を閉ざす。何かあったのかと思い目を向けると、葛城さんが口元をひきつらせた満面の笑みで立っていた。


「ごめんね、先生ちょっと耳が遠くなっちゃったみたい。良哉君の言葉が聞こえなかった。もう一度、言ってもらえるかな?」

「えっと……」


 どうやら葛城さんは園児に対しても容赦がないらしい。きっとさくら組の子達が大人しいのも、そのせいだと思う。


 ……葛城さんには、年齢に関する話題は禁句だな。


 俺は、朝海園で働いていくための方針を決めた。

 一方、失言をしてしまった良哉はきょろきょろと辺りを見回して助けを求めている。俺が良哉の元へ行こうとすると、それよりも先に一人の園児が良哉の耳元で何かを伝えた。恐らく、葛城さんが受け持つさくら組の子だろう。


「良哉君。さっき、なんて言ったのかなー? もう一度、聞かせてもらえるかな?」

「えっと、かつらぎせんせーみたいなお姉さんじゃなくて、ひよりせんせいがいいなぁって」

「あらあら、お姉さんだなんて。先生、照れちゃうわ」


 柔らかい笑みに戻った葛城さんは、どうやら機嫌が直ったらしい。たんぽぽ組の子をつれて段ボールの前まで行き、説明をしている。

 そんな葛城さんを見ながら、俺も自分の持ち場に行く。中で待機している和泉さんや葵ノ本さん同様、俺も園児にアクションを起こす役なのだ。


 真剣な表情で葛城さんの説明を聞いている園児の隣を通り過ぎ、本来はゆり組の入口になっているドアを開ける。そして、段ボール通路に入って最初のカーブの所へ行く。

 和泉さんはその先の直線経路の先、葵ノ本さんはゴールに近い場所に立っている。


「じゃぁ、始めるわよー」

「はーい。了解でーす」


 葛城さんに返事をし、遊戯時間が始まった。

 園児達は、四つん這いになって段ボールの中を通って行ってもらう。俺が担当しているカーブでは、中を通っている園児の足を掴んで驚かせることになっている。


「だぁー」


 年少クラスの子は一番体が小さく、段ボールの中をくぐりやすい。一気に通過することも可能だ。でも勢いをつけるほど段ボールが左右に揺れ、今どこに園児がいるか一目瞭然となる。

 その揺れを見ながら、コーナーのところに設けた穴から手を突っ込み、足を掴む。


「わっ」


 外の光が漏れないように工夫してあるから、足を掴まれた子は驚いたみたいだ。小さく声を出してそこで止まってしまった。


「驚かせてごめんね。でもこの先はもっと楽しくなるよ」

「ほんと?」

「ほんと。だから進んでごらん」

「わかった」


 止まってしまう園児を促して先に進んでもらうようにするのも俺の仕事だ。

 和泉さんのところでは、用意した数種類のお菓子から好きなものを選べるようになっている。

 そんな風に進んでいった園児は、最後に葵ノ本さんに抱きかかえられ、ドアから外に出ていく。そして桜ヶ丘さんに連れられて、じいちゃんが待っている学童保育所へ移動する。

 たんぽぽ組の子は比較的大人しい子が多い。さくら組の子は、落ち着いている。一番危なっかしいのは、ゆり組の子だ。


「だりゃりゃりゃりゃりゃりゃりゃりゃ」


 たんぽぽ組の子が終わり、すぐにゆり組の番になる。その途端、段ボールが大きく左右に揺れた。声を聞き、今進んでいるのが良哉だとわかった俺は、年少クラスの子よりも素早く手を入れる。


「わっ」


 驚いてくれたのは良かったけど、良哉は自由を取り戻すために足を掴んでいる俺の手を力の限り蹴りつけてくる。思わぬ反抗に驚き手を離すタイミングを逃してしまい、良哉の蹴りを何度もくらってしまう。


「ストップ! ストップ!」


 園児の力を侮ることなかれ。体は小さくても全力で蹴られると相当痛い。俺は良哉の足から手を離して解放する。


「いまだ!」


 自由になったとわかった途端、良哉は目にも止まらぬ速さで段ボールの中を駆け抜けていく。

 和泉さんはそのスピードについていけなかったらしく、良哉はそのまま通過する。そしてゴールにたどり着いた良哉は、葵ノ本さんの腕に飛びこんで行った。葵ノ本さんに抱きかかえられ、良哉は満面の笑みを浮かべている。

 良哉が通った後の段ボール通路は、すぐ次の園児を入れられない状態になってしまった。


「葛城さん。すみませんが、次の子はちょっと待ってください」

「どうしたの?」

「良哉が元気すぎて、ちょっと直さないといけなくなりました」

「わかったわ」


 葛城さんに声をかけてガムテープを取りに行き、よれてしまったり破れてしまったりしていた箇所を修復した。


「すみません、お待たせしました。これで大丈夫です」


 入口にいる葛城さんに声をかけ、再開した。





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