表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
笑顔と恋と ※BLです※  作者: 舘城凛


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

14/37

14

3500字超、です。

前回と合わせると長丁場になります。

ブックマーク登録をして、お時間があるときに読んでいただければ幸いです。


 学童保育所に残る最後の小学生、健太を見送る。手早く片付けを済ませ、戸締まり全て確認した。


 職員室に鍵を返してすぐに保育園を出る。部屋に戻ると時間は十九時で、和泉さんが来るまでまだ余裕があった。


「風呂に入っておこうかな」


 銭湯へ行くため準備をする。タオルや着替え、石鹸などを持って部屋を出た。

 朝海園の裏手にある公園の横を通る。街灯にライトアップされた八重桜が綺麗だった。


「ここから五分もしない所に、あいつがいる」


 銭湯の前に着き、すぐ横にある坂道を見た。その道を上った先には、あの貝崎が勤める白山小学校がある。目と鼻の先だ。

 こんなに近ければ頻繁に和泉さんのもとへ訪れるのも頷ける。でも逆に、歩いて十五分程度の距離で車を使うことに疑問を覚えた。


「それだけ、和泉さんのことが好きなんだろうか」


 僅かな時間を使って、和泉さんのもとへ通う。そのことから、あの貝崎が和泉さんに一途な気持ちを抱いているとわかる。


「優しくしてあげれば良いのに」


 貝崎が来ている時、和泉さんはいつもつらそうな顔をしている。元恋人が現れたら、それはつらいと思う。貝崎は、そんなこともわからないのか。

 わからないから、優しく接することができないのかもしれない。


 自分の中で結論をつけ、銭湯の中へ入る。下駄箱に靴を入れ、暖簾をくぐって若い男の番台さんに料金を支払った。

 服を脱ぎ、備え付けの鏡に全身を映す。


「うん。ちゃんと引き締まってる。俺ってば良い男」


 鏡の前でターンして、風呂場へ向かった。




 銭湯から部屋に戻ったのは夜七時四十分。和泉さんが来るまで何かしていようと考え、折り紙を出した。台所のテーブルの上で作業する。


「うーん……ギリギリ、見えなくもないかな」


 教室の飾りに使えるだろうと作り始めたのは良かったものの、出来映えはいまいちだ。ゾウや馬、猫や犬を作ったけど、かろうじてわかるのは猫ぐらい。

 自分の不器用さに溜息をついていると、呼び鈴が鳴らされた。作業を中断して、すぐに玄関を開ける。


「えっと、中にどうぞ」


 立っていた和泉さんの手には、肉じゃがが盛り付けられている大皿があった。まだ湯気が出ている。予想外の持ち物に面食らったけど、ひとまず和泉さんを中に通そうとする。

 でも和泉さんは、大皿を俺に突きつけるだけで動こうとしない。


「えーと、いただきます」

「邪魔するぞ」


 大皿を受け取ると、和泉さんは中に入った。暖かい皿をどうしようかと思いながら和泉さんを追う。


「すみません、和泉さん。椅子、一つしかないのでそこに座ってください」


 椅子を和泉さんに譲り、肉じゃがの皿をシンクの横に置く。


「和泉さん、お皿は何でも良いですか? 生憎箸がないので、フォークになっちゃいますが」

「オレの分はいらない」

「そうですか」


 和泉さんのために用意しようとしたお皿を片し、自分の箸を取る。

 和泉さんが肉じゃがを持ってきた意図はわからない。でも出来たてと思われる湯気の立つ料理を目の前にしたら、空腹感を覚えた。


「えーと、この肉じゃがって俺が食べて良いんですよね?」

「それ以外に何がある」


 いつも以上に、端的な返し。

 前に本人が言っていたように、和泉さんからは俺と仲良くしようという気持ちが見られない。同僚を作らないと言っていた和泉さんが、なぜ手料理を持ってきてくれたんだろうか。


 ぐだぐだ考えたけど、目の前には美味しそうな肉じゃががある。自分は空腹。肉じゃがは俺に持ってきたもの。

 だとすれば、食べないという選択肢はない。


「では、いただきます」


 和泉さんは椅子に座ったまま、俺をじっと睨んでいる。テーブルに肘をついて、手の上に顎を乗せていた。

 監視されているような気がして、気分は良くない。でも、せっかく持ってきてくれた手料理を冷ますさけにはいかなかった。

 せめて見られていることを意識しないように、和泉さんに背を向けるような体勢にする。


 まず、ジャガイモを取ってみた。煮崩れしていないジャガイモは程良い硬さだ。力を入れても崩れない。でも口に運ぶと違う印象を持った。

 舌の上で溶けるように崩れていく。よく染みた醤油の味。でもそれを引き立てるように砂糖の甘みを感じられる。

 今まで食べたことのあるどのジャガイモよりも美味しかったから、他の野菜も口に入れた。

 乱切りされた少し大きめの人参は、独特の臭みがない。ジャガイモと同様に味もよく染みている。硬さもちょうど良い。

 玉ねぎも豚肉も同様に、俺好みの味付けだった。口の中でとろっと溶けていく。白滝にも、味が染みている。


 すっかり和泉さんの肉じゃがにはまってしまった俺は、どんどんパクパクと箸を口に運ぶ。まだ和泉さんの視線を感じていたけど、不快には思わなくなっていた。

 食べ始めてからそれほど時間をかけずに完食し、大皿の中に汁だけ残った。


 ……この汁、明日ご飯を炊いてかけて食べようかな。


 朝食のことを考えていると、和泉さんが咳払いした。すぐに和泉さんの方へ体を向ける。


「和泉さん、すっごく美味しかったです」

「当然だ」


 そう言い、和泉さんは目をそらす。言い方はぞんざいだけど、和泉さんの顔からは気恥ずかしさが窺える。肌が白いから、耳まで赤くなっているのがよくわかった。

 ずっと見ていたのに、感想を言うと恥ずかしそうに目をそらす。そんな仕草を、思わずかわいいと思ってしまう。


 ……普段からそんな態度だったら、けんか腰にならずに済むのに。


 のほほんと和泉さんを見ていたけど、空腹を満たして本来の目的を思い出す。


「和泉さん。俺に話って何ですか?」


 問うと、和泉さんは俺を見据えた。立ち上がって俺の目の前まで来る。そして、二十センチぐらい身長差のある俺を見上げてきた。

 長い横の髪が後ろへ流れる。細すぎない瞳が俺を映す。そらされた細い首には、小さいけど喉仏もきちんと確認できた。

 やっぱり和泉さんは男なのだと、改めて思う。


「肉じゃがは、口止めだ」

「口止め?」

「先輩とオレに関わることは全て、口外するな」

「口外も何も、俺は和泉さんに関わっちゃいけないんですよね?」

「ああ。関わるな。関わってほしくない。オレは、ただ静かに過ごしたいだけなんだ」


 和泉さんは目を伏せ、寂しそうな顔を見せた。

 伏せられた長めの睫毛が震えているように見え、儚げな印象を受ける。


 ……関わってほしくないって、どういうこと?


 疑問に思っていると、和泉さんがまた目を合わせてきた。合わせ方に勢いがある。何か重大なことを言おうとしているように感じられた。

 でも、すぐに目をそらされる。また目が合う。そんな行動を、和泉さんは何度も繰り返す。


 和泉さんが何か言おうとしているらしい。でもなかなか言ってくれない。

 もどかしくなってきて俺から質問しようとした時、和泉さんが玄関に走った。

 話を聞く体勢を取っていたのに話さない。肩すかしを食わされた気分で、すぐに振り返る。

 和泉さんは、俺のすぐ後ろで立ち止まっていた。


「……何度も、ありがとう……」


 耳を澄まさなければ聞こえないような声量。でも、きちんと聞き取れた。

 和泉さんは言い終えると、振り返らずに部屋から出て行く。玄関は開けられたままだ。


「……ありがとうっていうのは、貝崎から助けたこと?」


 口に出し、思考を整理する。そして、和泉さんが言ったことを理解した。


「えっ、あれ?」


 和泉さんの言葉を理解すると、言いようのない喜びがこみ上げてきた。自然と頬が緩む。

 電車が通過する音が聞こえる。どこからか舞い込んだピンクの花びらが、俺の前にひらりと落ちた。


「あーもう……」


 俺は頭を抱えて座りこむ。

 開けられたままの玄関からは、次々と桜の花びらが舞い入る。玄関先の土間でクルクルと花びらが渦を巻く。


「和泉さんは、俺と同じ男だろ……」


 消えそうな声量で言われた和泉さんの言葉。それがずっと頭の中で再生されている。

 言いづらそうにしていた和泉さん。決意したような目を見せ、一度離れての発言。そんな言動を、不覚にもかわいいと思ってしまった。


「はあ……」


 和泉さんは男。和泉さんは同僚。

 そう考え思考を切り替えて、俺は扉を閉める。渦を作っていた花びらは土間の端に寄り、大人しくなった。


「うん、寝よう。明日はセラちゃん達が来る日だし」


 鍵をかけるとすぐに寝室へ行き、特大のベッドに身を投げた。






評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ