10
午後六時半。健太に迎えが来た。
「気をつけて変えるんだぞー」
お父さんの隣で歩く健太に手を振り見送って、学童保育所内の片付けを始める。机や椅子、マットなどを倉庫に入れた。
今日はこれから、じいちゃんから話を聞く事になっている。
改まって話されるようなことが思い浮かばず、首を捻る。でもいつまでもそうやっていても埒が明かない。
手早く片付けを終わらせて職員室に行った。
「和泉さん?」
職員室に行くと、じいちゃんの他に和泉さんもいた。驚いているのは和泉さんも同じようで、俺を見て目を見ひらいている。
「悠真。こちらに来なさい」
じいちゃんに手招きされ、和泉さんの隣に用意された椅子に座る。これから何を言われるのかと、ドキドキしながらじいちゃんの言葉を待つ。
「悠真。休日に何か予定はあるか」
「特にないけど」
「けど、なんだ?」
「いや、遊びたいじゃん? 彼女とデートするとか」
「恋人がいるのか」
「いや、いないけど……」
「なら早く大切な人を見つけなさい。人生が楽しくなるから」
「じいちゃんこそ、恋人でも作ったら?」
「わしはいるぞ」
「えっ」
じいちゃんに恋人? お腹以外は、まあ、確かに大丈夫かもしれないけど。
「わしに恋人がいたらおかしいか」
「いや、まあ、良いんじゃん? てかさ、じいちゃん。そんな話をするために俺と和泉さんを呼んだわけじゃないでしょ」
「ああ、もちろんだ」
じいちゃんは俺と和泉さんを見て、何か言おうとして首を振る。いつもはっきり用件を述べるじいちゃんにしては珍しい。
これから言われることはそれだけ大変なことなのかお緊張した。
「……二人に休日も仕事をしてもらえたら、と思っているんだが、どうだろうか」
「休日に仕事? 何すんの」
「いや、やはりいい。わしがやる」
「何だよ、歯切れ悪いな」
「園長先生。オレにできるんだったら、何でも言ってください」
和泉さんの言葉に驚く。でもそれは俺だけみたいで、じいちゃんは困ったような顔をしただけだ。
「休日に、子供二人の世話をしてほしいんだ」
「なんだ、そんなこと。別に本職と変わらないじゃん」
「そうですよ」
「和泉君、負担にならないかな? ただでさえ一人で園の食事を作ってもらっているのに」
「平気です。休日は料理の研究をしているだけで暇なので」
「そうかい? じゃあ、頼めるかな。悠真と二人で、やってほしい」
「わかりました。お引き受けします」
「ねえ、じいちゃん。その仕事を引き受けるのに俺の意思ってないの?」
「ありがとう、和泉君。ちゃんと代休をあげるからね」
「いえ、お気づかいなく」
「これは仕事だ。休日をつぶして引き受けてもらう以上、きちんと休みを取ってもらわないと。まあ、和泉君に食事を全部任せているからなかなか難しいかもしれないが」
「じーちゃーん。俺の意思はー?」
「でもきちんと、代わりの休みを用意するから」
「無視か!」
訴えてみてもじいちゃんの態度は変わらない。
「べっつに、良いけどさ。子供好きだし」
ふてくされてみても変化なし。
じいちゃんは和泉さんを見ている。和泉さんも、じいちゃんを見ている。俺だけ仲間はずれみたいだ。
「じいちゃん。休日にお世話する子って誰? 俺達が知ってる子?」
「有沢さんのお子さんだ」
「有沢? それってセラちゃんと……」
「隼人君だ」
セラちゃんの弟の名前が思い出せないでいると、和泉さんが教えてくれた。
「その二人なら、何であんなに改まって聞いてきたのさ」
「休日をつぶしてまでしてもらうのは、さすがに気が引けるからな」
「何だよ、じいちゃんらしくないな。いつもみたいに、これをやれって指示をすれば良いじゃん」
「園長と呼びなさい」
「はーい」
いつものじいちゃんに戻り、俺もいつものように返事をする。
「有沢さんは母子家庭で、少しでも多く稼げるように休日も仕事をしたいそうだ。それで、働いている昼間の間に子供達を見ていてほしいということだ」
「いつから?」
「早ければ早いほど助かるらしい。明日休日に預かれることを伝えるから、恐らく今週からになる」
「了解」
「わかりました」
俺も和泉さんも了承し、じいちゃんは席を立つ。そのじいちゃんを、和泉さんが目で追っていると気づいた。
じいちゃんへ送る和泉さんの視線が熱を帯びているような気がして、二人の関係を邪推する。




