願いと希望~エピローグ~
先に投稿した外伝は短話過ぎたので日をあけませんでした。
他にも書ききれなかった短話はあるものの短いので書いていません。
願いと希望〜エピローグ〜
「おかえりなさいませ、リュウ様」
覇王城での静養を終えて銀世城に帰還してきたリュウとリリスと五人の眷族たちは帰還を知らされていたのかキバが出迎えてくれた。
「父君と母君は?」
「エリン様がお倒れになられてしまわれましたのでアルフレード様は主寝室に居られます」
「倒れた?」
リリスが少し慌てた。
「はい、神族の治癒師の話では原因がわからないとのことでエリン様は不安なご様子。リュウ様がご帰還されたらお顔を見せて欲しいとエリン様がおっしゃられておられました」
「そうか……」
「それと側室の皆様の件は伺っておりますのでひとまずは特大の寝具をご用意いたしました。個別の部屋については私に一任されておりますので明後日にはご用意できるかと思います」
「わるいな」
「いえ、いずれ来られると思っておりましたので」
キバはそう言ってアルフレードの居る主寝室に案内を始める。
一行はそれに従うように歩き出す。
「引継で忙しいのに悪かったな」
「大丈夫ですよ。少し前にくらべれば今は落ち着いておりますので」
「引継ぎ?」
「銀世城の宗主代替わりは城仕えも一新されますのでリュウ様の父君の城仕えの家令から引き継ぎ作業でわたくしは忙しい身でありました」
リリスが口をはさむ。
「リュウの部下たちは理想的に揃っていたからな。普通は代替わりの際に引き継げない部署もあるんだがそれもないから混乱も少ないんじゃないかな」
「来てそれぞれの部署に配置されて落ち着いたら引継ぎが始まったからな。キバたちからすれば慣れた頃の引継ぎで落ち着かないんじゃないかと心配したがそれもないようだしな」
「覇王城にくらべれば城内清掃作業がない事でここのほうが楽な城ですよ」
「そういえば女官たちがそう言っていたな。お前の女官も身の回りの事には手慣れているからありがたいがな」
リリスが言った。
「どれだけ一緒に来たの?」
クリスが聞いてきた。
「城に初めからいた百人がそのままここにいる。兵も含めてな」
「じゃあ、古株ばかりってことですか?」
「はい。あの時はリュウ様にご負担をおかけしてしまいましたからさすがに気をもんだ者が多かったです」
「はは、あの時はさすがに血を流しすぎたからな。参ったよ」
「百人一斉に眷族化したの?」
「あれをか…。時間がかかったのではないのかのう」
「眷族化は時間を置くと上下関係ができるからできるだけ一斉にするのが鉄則だからな。仕方ないのさ」
「じゃあわたくしたちもキバさんたちの部下ってことになるのですか?」
「そこは別口だな。眷族化したときの俺の意識一つで別口にできるから部下ではなく同じ主に仕える同期といった感じかな。別々の役割を持つ者同士という意味で」
「それって…」
俺はさすがに少し言いづらかった。
「俺付きの傍仕え、愛人…というか側室扱いになってる。だから子を作ることが許可できる存在になっている」
「なるほどのう」
そんな雑談をしつつも主寝室の扉の前にたどり着く。
キバが扉をノックして声をかける。
「キバです。リュウ様がご帰還なされました」
キバのその言葉を待たずおれは扉を開けて部屋に入る。
「入り口付近で待っていてくれ」
他の六人にそう言ってきたのはリリスだ。
「すまんな、後でちゃんと父君達に紹介するから…」
「わかったわ」
帰還の際にこの六人はいろいろとチェックされたので容態の悪い病人に近寄ることは許されなかったのだ。
天使上がりの間のない天使は全員がしばらく行動に制限が掛かるのである。
下界の病や不穏分子排除のためである。
俺は言い置いて歩を進め母君の居る寝具に近寄る。
「父君、母君が原因不明の病と聞いたんですが…」
「ああ、リュウか。治癒師では原因がわからないと言われたんだがどうやら下界の病らしくてな」
「触れても平気なのですか?」
「それは心配いらん。空気感染でもない上に、軽い接触ならば何も起こらないことは調べがついてる。が、神力移動などの口づけは禁止されているがな」
「そうですか…」
そばに置いてある椅子に腰かける。
「鑑定しても?」
「別に構わんが、鑑定などろくに表示できんだろ。上級でなければ…」
「俺のは最上級ですから病も出ます」
背後の治癒師たちはどよめいた。
「どれだけ鑑定していたんだ……リュウ」
「あはは、簡易版を勝手に表示できるようにしていたら腕が上がってしまったんですよ」
「自動表示か」
「はい」
「頼めるか?」
俺は鑑定すると魔法の『キュアオール』でも直せることに気がついた。
神力を使った癒しの術には高い抗体があるので原因不明というのも納得できた。
「この病。神力には高い抗体があるようだな」
「そうなのですか?」
背後の治癒師が聞いてきた。
俺は頷く。
「だけど魔力に対してはむしろ弱点のようだ」
「リュウ、それだとお前の魔法で治せるんじゃないのか?」
「ああ」
俺は一拍置いて呪文を解き放った。
『キュアオール』
それなりの消費をしたが俺の壊死を直すほどの最上級魔法ではなく下級なので何でもない程度の消費だった。
魔法が効いてエリンの意識が回復した。
「リュウちゃん……?」
「母君、もう大丈夫」
「エリン」
「アルちゃん……」
「リュウちゃんが直してくれたの?」
アルフレードは頷いた。
「まだ無理はだめだぞ」
「ええ………あら…入り口にいる彼女らは…」
「あ、ああ。どうしてもと彼女らが聞かなくて天使化させたんだ」
「………そうか」
「うふふ、リュウちゃんはもう大丈夫ね。大事なものは手放しちゃダメじゃない。やっと迎えられたのね、良かったわ」
「母君…?」
さすがに俺は驚いた。
「にぎやかになるな、と思ってな」
「父君も……、驚かないんですか?」
「見ていたからな、驚かんよ」
「!」
リリスも驚いた。
そこで俺は気がつく。
「依り代システム…?」
アルフレードは頷いた。
「エリンが聞かなくてな。お前を産む存在がいてもいい。育てるだけの存在もいてもいいが産んで育てるのは自分だけだと、母親は自分だけだと言い張ったんだよ」
「!」
「エリンに他の男など許せるはずもないだろう。だから俺も一緒にな」
「どうして言ってくれなかったんですか…。言ってくれれば俺は……」
「リュウちゃんが自分で気がつかなきゃ意味がないじゃないの。それに依り代システムは非公開」
「そういう事だ。何度か言いたくなったがな」
俺はさすがに頭が下に下がり俯いた。
アルフレードは俺の頭を掻き交ぜた。
「にぎやかになるわね」
「ありがとう……ごめん心配かけて……父さん母さん……」
「まったくだ」
「やっと呼んでくれたわね」
「アルフレード様、リュウ様。エリン様の体調も回復なさったとは言え体力がお戻りではないのですからエリン様には安静にしていただかなくては…」
背後の治癒師からせっつかれたキバが声をかける。
「そうだな。エリン、後でもう一度様子を見に来る。ゆっくり休んでいなさい、いいね?」
「ええ」
アルフレードはそう言うとエリンの額にキスを落として離れる。
追従するようにリュウとリリスも離れた。
そのまま六人を連れて父アルフレートと共に謁見の間に入ると確認のために声をかける。
「先日よりお願いしていた別宅の件なんですが構わないんですよね?」
「ああ、城の中央にある庭園に浮かせるには構わんよ」
「その別宅の件について少し報告がありまして」
「うん?」
「別宅の中の空気というか属性の魔力がどうしても抜けないので浮かせるには少し空間を弄る必要があるんです」
「弄るとまずい現象があるのか?」
「いえ、周囲の神空力を魔力変換する形に変更はできたので問題はないのですが別宅の中が下界と同じ魔力構成が抜けないので空間結界を張る必要があるんです」
「つまり何か、別宅の中が下界構成になるという事か。神力でなく魔力が強くなると?」
「はい、神力も通常通り使えるのですがどちらかといえば魔法を使うほうが効率のいい別宅になるので…」
「その別宅は自力で動かせるんだろうな?」
「もちろん完全に神力構成に成功しているので自動で神空力を取り込み修復させることも加えたので俺が何をしなくても勝手に浮いて現状維持できる機能があります。その中に空間結界も加えたので問題はないかと。ただ、未報告だったので…」
「周囲に問題を及ぼさなければ構わん」
「ありがとうごさいます」
俺は許可を貰ってホッと安堵した。
「リュウ。下界と同じ構成になると言っていたがお前の使う魔法もその城で使うほうが効率良くなるのか?」
「……はい。別宅の中のほうがこの銀世城よりも消費が少なく済むことは事実です」
「ふむ……」
「父君?」
「その別宅一部を治癒師たちに開放することはできるか?」
「それなりに広い城ですから一階は使っていない部屋があるので修復が済めばできますが……。父君、まさか城で魔力を使った治癒院を作るつもりですか?」
「ああ、たしかあの城には魔導書も置いてあったな?」
「はい回復書は最上級まで置いてあります………。本気ですか?」
「テストモデルケースとしてやってみる価値があるのではと思ったのだ。今回のエリンの病も下界の病で結果的にお前の魔法で回復したのもある。神界に置いて天使たちの治癒院があまりに少ないのも実は随分前から問題視されていてな。その別宅の件がうまくいけば神界中に広めることができる」
「なるほど………。治癒院として開放するにしても修復と、いろいろ改修する必要性があります。それが済んでからでもいいですか?」
「もちろんだ。お前も帰還して間がないのだからゆっくり休みなさい。リクト達も寂しがっているようだしな」
「はい」
俺は与えられている部屋に戻った。
「父君―!」
入って早々にクウヤが足元に纏わりついてきた。
「おかえりなさい、父君」
クウヤとリクトの頭をひと撫でして答える。
「ただいま」
「だいぶお疲れのようですね」
リクトが気を使ってきた。
「ああ、どうも昨日から調子がおかしくてな」
言いながら俺はソファに沈んだ。クウヤが膝の上に乗ってきた。
「あまり無理はいかんぞな」
「無理をしてるつもりはないんだけどな…」
俺自身に纏わりつくこの倦怠感には覚えがあったが否定したい気分だった。
「神力に乱れがあるみたいだな、リュウ」
リリスがそう判断していた。
「そうかな…」
「一日休んでも治らないようなら治癒師を呼ぶぞ、リュウ」
「………ああ、でもこの症状には覚えがある。当たってほしくないんだがな……」
「心当たり……?」
「三度目ともなれば分かるというものだろうな」
「……………リリス。お前な…」
俺は確信犯なリリスに呆れるように声を出した。
「………父君。もう一人弟ができるのですか?」
リクトが聞いてくる。
「もう少し経たないとわからないさ」
「僕と一緒に遊んでくれる弟がいいなぁ」
クウヤが呟いた。
そのクウヤに反論するようにリクトが声を荒げる。
「違うよ、俺と一緒に勉強してくれる弟がいい!」
「お前たちな…、まだ分からんと言っただろうが」
膝の上に乗せていたクウヤを下ろす。
「リュウは嬉しくないの?」
クリスが聞いてきた。
「あまり嬉しくないな。俺のこの体はヒト上がりだから孕むといつだって命がけになる。それを思うと……な」
「リュウの体は基本ヒト上がりである以上、孕むようにはできていないからな。生まれつき神族なら何も問題はないんだが人であった以上は物理的にダメージが来る。リクトの時もクウヤの時もかなり危険だったからな。心配はわかるんだ」
リリスがそうクリス達に言った。
クウヤを下ろした膝の上に転身したエリーゼが乗ってきた。
俺の腹を首元でひとなですると丸まった。
そのまま頭と全身を撫でる。
そんなエリーゼをクウヤはじっと見つめた。
顔をキラキラさせている。
「なでてもいい?」
エリーゼは軽く鳴いて応じてくれた。
「優しくなでるんだぞ」
「うん」
「姿を変えられるんですね。父君と同じですごいなぁ」
リクトが感心していた。
「姿を変える特技は珍しいんだ」
「そうですよね。あまり見たことがありません」
「人だと命を縮めてしまうんだ。持っていて嬉しい特技ではないかもな」
「今も竜になれるのか?」
リューイが聞いてきた。
「なれるぞ。人でないというだけだ。括り的に言えば竜神扱いになる。魔神、竜神、精霊神扱いだ」
「父君の背に乗せてもらったことがありますが速くて強そうだったのが印象深いです」
「リューイの姿も別枠になっているはずで竜化できる」
「それは気がつかなかったのう…」
翌日になっても俺の体調は良くはならなかった。
リリスは言っていた通り、翌日の午後に治癒師を連れてきたので受ける羽目になった。
結果的には孕んでいた。
だが普通ではなかった。
いわゆる無魂症というもので、夫婦で一度は起こる病だという。
無魂症とは読んで字のごとく孕んだ神力に宿る魂が存在しない子のことだ。
この病は二つしか手段がない。
一つは早々に腹から出して神力を無に帰すか、もう一つは魂を調達して普通の神族の子として存在を確定させるかの二択だ。
初め俺は無に帰すことにしていた。
俺の体には無に帰すほうが、負担が少ないからだ。
それだけでなく魂を調達というのは意外と難しいからだった。
神族の魂は宿る時でなければ調達は不可能だ。
必然的に人の魂を神力で強化する必要がある。
この強化は意外と時間がかかるのであらかじめに予定していなければ孕んだ体に負担が大きくなる。
だがリリスは無に帰すには待って欲しいと言ってきた。
聞くと強化済みの魂を持っているというのだ。
何故そんな魂を持っていたのかと聞けば言葉をリリスは濁したが俺は気がついた。
元々、この魂を使うつもりで何度も孕ませていたのだという事だ。
ギリギリまで待って欲しいとリリスから頼まれてしまったので治癒師の許す範囲内でという許可が下りた。直後にリリスは魂を取りに出かけていった。
リリスは数日後に帰還して魂を調達してきた。
俺の体のことを思えば時間が掛けられないことをリリスは理解していたのだろう。調達しに行った時間にしては早かった。
調達してきて腹に納めたその時のリリスの言葉が今もって忘れることは出来そうもない。
「この魂はな、地球で願いの強さが強すぎるあまり、輪廻を拒否してしまった魂でな。お前にしかその願いはかなえられないのだ」
「願い?」
「ああ、アルフレード様でもよかったのだが、かの御方はアルフを孕んだ時の状態が悪く二度と孕めないお身体になっていらっしゃるからお前でなければ無理なのだ」
「……………」
俺はリリスの持っていた魂のランタンを見つめた。
「この魂は強く願ってしまったのだ。輪廻を拒否するほどの願いを。『弟でなくとも息子でも孫でもいい。もう一度〈兄さん〉と血のつながった家族になりたい』とな」
「!」
おれはその言葉に驚きしかなかった。
「だから、お前かクウヤかリクトにしか叶えてやれないのだ。叶えてやれ……」
リリスはそう言って持っていた魂のランタンの扉を開けて俺の腹に押し込んできた。
さすがに押し込められた衝撃でおれは意識を失いかけた。
孕んでいたその新たな神力は最後のピースがはまったかのように停滞していた動きを再開して数時間後、神力は与えられた魂と混じり俺の腹から飛び出して力強く光り輝き、その光が収まると小さな赤子となって生まれたのだった。
その赤子はリリスにそっくりな金髪を持って生まれた。
リリスの神力の影響が強い為だった。
おれはその弟、海の魂を持つ子の名をカイルと名つけた。
『カイ』と名つけなかった。
記憶があるなしに関わらず子の名には陸海空をつけるつもりだったからだ。
これにて完結です。
読んでいただきありがとうございました
今は次回作を執筆中。
亀のように進まないので投稿は少しかかるかと。
タイトルは
[RE・VERSE]
いずれ投稿するつもりです。その時は読んでいただければ嬉しいです。




