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異世界に戻った異世界賢者の備忘録  作者: 夏
最終章8章 魔王と神
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外伝 伝承

竜の伝承


その日、城でその一報を聞かされた。


ひと月ほど前からリューイの病の状況が悪化していることは知ってはいたものの、幾とどなく持ち直していたので今回も大丈夫と思っていた。


リューイが危篤状態に陥ったという。


俺はその一報を聞いてすぐ里に向かった。

ゲートを使えば直ぐに行けるのだが俺は近年、城を出て外へ出かけることを控えていた。


5百年近く変わらない姿。それだけで知らない人は特殊な感情を持つ。

拒絶、嫉妬、畏怖などだ。

それだけでなく今の教会は俺を主神扱いしているので出かけると大事になることがほとんどだった。


控えるには十分だった。



里に着くと屋敷ではリューガが出迎えてくれた。

早々にリューイの部屋に向かう。

室内に入るとそこには末子のリュージュがリューイのそばに居た。

「父君!」

「久しぶりだな。息災だったか?」

「はい」

肩を叩いてリューイの眠るベッドに寄る。


俺の力の恩恵を受けているリューイの姿も出会ったときから変わらない姿だった。

それでも青い顔で眠るリューイの手を取り握る。


手から伝わる生命力でリューイが今まで頑張って生きていたことを知る。


俺にとって大事な人が逝こうとしているのを看取るのも初めてではない。

それどころか彼女が最後だった。


もう一つの空いた掌で彼女の頬を触れる。


俺は無意識に姿を竜人に変えていた。

「お前は最後まで俺を心配していたな…。俺を置いて逝く事に……」

「父君………」

「………………」


俺は一筋、涙を落とした。

自然と流れていた。

言葉に出来ない感情が溢れて止まらなかった。


一人つづ逝ってゆくごとに孤独が増した。


はじめから理解していたこととは云え、やはり辛かった。


それでも俺は生きなければならない。

俺を必要としている者達のためにも。



俺は命の消えていくリューイの側を離れなかった。

離れることが出来なかったのである。




そうしてリューイは目を覚ますことなく眠る様に息を引き取った。


子供たちは暫く一緒に泣いていたが俺に気を利かせて部屋から出ていった。


俺は悲しみから疲れ果てて意識を失っていた。



目を覚ますと誰かが俺を心配したのだろうか毛布を掛けてくれていた。


もう一度リューイの亡骸を見つめて冷たくなっていたその手をゆっくり下ろし置いた。


俺の中で何かが崩れ落ちたものがあった。

癒やされない哀しみと誰も居なくなってしまったが故の孤独から喪失感だけが俺を包んでいた。


リューイに声をかけるように呟いた。

「俺は行く。この世界はいずれ俺を必要とはしなくなる日が来る。それでも俺は前を向いて生きていたいから………」


俺は他の先に逝った彼女らにしたようにリューイの額に最後のキスを落とした。

頬から涙が伝いリューイの頬に滑り落ちた。


「………………サヨナラだ………」


俺は立ち上がろうとしてベッドのリューイの脇に落ちて沈んだ物に気がついた。


俺の2つの金色の角だった。眠っている間に抜け落ちたようだった。


半分近くが神族化している自分の角が落ちることなどありえなかった。

それどころか今、角は息子リュイの金角が奉納されて数年しか経っていないので落ちる理由が無かった。


その角は半分神族化しているだけあり自立していた。

確認するように一つ手に取る。

自立して制御している……か。神力も混じっている様だな。

調べると不滅道具になっていた。

この大陸が欲したようだな

そっとベッドに置いた。


子供らに挨拶せずに屋敷を後にした。

竜化して飛ぶ。

行き先はリューイと何度も逢瀬を重ねたあの場だった。



そこは5百年経ってもなお変わらない景色だった。

雄大さと自然の美しさも何一つ変わらない景色だった。


唯一違ったことはここに来るときはいつもリューイと一緒だった。そのリューイがいない事だけだった。


子供達の前で泣きたくはなかった。

誰にも見せたくなかった。

だからここに来た。



その日、神竜の嘆きが世界に轟いた。

その嘆きは天空大陸を覆い尽くし、下界の世界中に轟いたのである。


その嘆きは後世に伝わる伝説と化した。

神竜の嘆きと共にもたらされた神竜の角という宝の伝承として。


だが子どもたちにはその轟いた嘆きが誰の嘆きなのか理解していた。

だからこそ神竜の正体を秘した。



神竜の角と呼ばれた俺の角はその後の天空大陸の角不在時の維持に無くてはならない物となったのは当然の事だった。


同時に遺したゲートも下界と繋ぐ大切なものになったことにも触れておこう。





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