外伝 五人の聖母
一回投稿を落としました(+_+)
気が抜けてしまったようです。
ごめんなさい(TT)
五人の聖母
その日彼女は十五歳の誕生日を迎え成人のために教会で成人の儀を執り行うことになった。
その成人の儀で思わぬ事情が発覚する。
自分が聖母の転生体だというのだ。
驚く間もなく事態はあっという間に教会のトップにまで知られることになり、あれよあれよとここ聖都カイエルの大教会にとその身を移されてしまった彼女は聖母と聞かされてもなお信じることができずにいた。
与えられた一室に座って姿見を見た。
そこには金髪の少女がいた。
自分の姿である。
この姿も当時の聖母の姿に生き写しなのだという。
少女には漠然とした思いで行かなければならない場があった。
それはこのカイエルにはない浮き城だ。
なぜかはわからなかったがよく幼い頃からずっと見てきた夢の中の城だったからだ。
ただただ、その城こそが自分の帰る場なのだという事だけは知っていたからだ。
こんな所で幽閉されている場合ではないのに…
この神殿から出してもらえない苛立ちから何度目かの直談判を神官たちにしていた時だった。
急に大神殿内の騒ぎが大きくなったのだ。
後から知ったのだがこの日、五人の聖母が大神殿内に揃ったのだという。
そんなことは今までなかった事だった。揃っても二人までであった。
少女が五人目の聖母だったのである。
そこで聖母同士を引き合わせてみることになったのだが場所は大神殿が一番集めやすかったというのが理由だ。
なぜこんなにも聖母出現が教会にわかるのかといえば判定宝珠が大教会内に置いてあったからだ。
この判定宝珠、リュウ神の子であるという事が知れ渡ってからすぐに現れた偽物を判別するためにリュウ神直々に作られた宝珠でこの宝珠に紐づけするようにしてオーブがある。
このオーブは量産が可能なオーブでリュウ神が降臨されておよそ九百年のこの世界において世界中の教会にあるものだ。
大体において生まれてすぐに判定するか遅くても成人の儀の時に判定することが儀式として定着しているため世界中の人が判定する。
このオーブはリュウ神の血統を受け継ぐ子孫かもしくはその御力を受け取った使徒や聖母判定もできるのである。
オーブの発光色で使徒か子孫か聖母か神の子かが判定できるのだ。
故に聖母であっても即、わかるのだ。
少女はそうして聖母の判定を受けてこの大神殿に移送されたのである。
だが、少女からすればいい迷惑である。
聖母という理由だけで教会に丁重とは言え、幽閉に近い状態で教会に拘束されているのだから。
神殿からの外出には許可は下りなかったが代わりに他の聖母が集まっているというので会ってみないかと神官から言われたので会ってみることにした。
自分と同じように幽閉されているのではないかと思ったのだ。
神官に案内された部屋に入ると自分が最後だったらしい。
他の神官たちが遠巻きに扉の手前に立っていた。
案内された部屋の奥にはどの協会でも見る大天使イヴの御姿の像があった。
視線が向いたのにも理由がある。
両手を祈るように握って立っているイヴ像の後ろにそのイヴ像を包み込むように大きく両腕を広げている男の像があったからだ。
どこかで見たことがあるような男の人ね…
すぐ後ろにいた神官に聞いてみる。
「あの男の人の像は…?」
「ああ、初めて拝見なされたのですね」
「え、ええ…」
別の神官が答えた。
「あの聖像は各地の大教会のみに置かれている像なのです。知らなくとも無理のない事です。
あの聖像の方こそリュウ神様の御姿を写し取って作られたものであの像も聖像の複製像なのです」
「え」
「かの御方はそのお姿をさらすのを嫌った御方でしたのであまり御姿が残っている魔道具が少ないのですがその数少ない映像や情報を頼りに御子様方と共に作られた聖像とお聞きしております」
「聖母様方であればその貴重な映像の魔道具を拝見することもできると思いますよ」
「映像があるの?」
「はい。辺境の地ではリュウ様のご降臨も信じない者もいるそうですが残念なことです」
少女が育った町もそれは同じだった。
教会の崇める神とやらが降臨していたなどという事実はとても信じられなかったものが大半だった。
それでもこの教会の力は全世界中にあり影響も凄まじいので陰口程度でとどまっているのである。
「我らが神の御業は未だこの世界の繁栄に大いに貢献しているという事もあまり知られてはいない事実なのです」
「繁栄に貢献?」
「はい」
「例えば魔導車。あれも我らが神の御業の一つ」
「え、魔導車ってどこにでもある魔道具じゃない」
「ええ、他にもこの教会にもあるゲート設備をご存じかと思いますが、あれを大衆向けに魔道具化に成功させたのもリュウ神様の御業の一つなのです」
「ゲートって確かリュウ神末裔の者にしか移動できないっていう噂の長距離移動設備というあれですか?」
「ええ、あのゲートこそリュウ神様がご降臨なされた最たる証。今も稼働しているあのゲートの基礎魔力はリュウ神様の魔力で動いているのです。元々は身内の者限定に設置されたという事ですが子孫が増え大衆向けになったのもここ近年の話です」
「リュウ神様はそれまでのこの世界になかった移動革命を起こされました。今でこそ当たり前に北の特産品が南地方に届くようになったのもリュウ神様のおかげ。神官たちはそれを知っているからこそ存在を信じているのです」
「貴女様はそんなリュウ神様に愛されし魂をお持ちなのです」
「他の聖母たちも…?」
「はい。一部の聖母様には当時の記憶を持ってお生まれになった方もいらっしゃいます」
少女は奥に立っていた女性陣たちを見た。
自分を入れても五人だ。
不思議なことに同じ種族の女性はいないようだった。
少女はゆっくりと他の聖母たちの居る奥に歩を進めた。
近くに寄るにつれて少女は不思議な感覚に陥っていた。
知らない女性たちなのにどこか懐かしい感情があったからだ。
近寄って一言聞いてみた。
「……………。どこかで会ったことがあります?」
赤い髪の竜人女性が答えた。
「初めて会うはずですが、偶然ですね。どこか懐かしい感じがします」
「不思議ですね…」
そう答えたのは浅葱色の髪の女性だった。
「…………。この五人は全員前世で面識があるはずですわ。全員聖母なのですから…」
そんな会話に一人黒髪の女性は混ざらなかった。
ただ、奥のリュウ神聖像に見入っていた。
「………彼はこんな立ち方はしない。姿はとてもよくできているけど彼と面識の少ない人が作ったの…?」
その言葉に答えたのは獣人姿の白い髪の女性だった。
「私はこの立ち方には反対したのですけれどどうしてもこのほうが良いと押し切られてしまったのですわ」
「そう…」
二人は顔見知りのようだった。
「お知り合いなの?」
「私たちは前世からの記憶を引き継いで持っているのですわ」
「ええ、とはいっても彼と別れてから初めての転生だけど…」
そう言ったのは黒髪の女性だった。
「ここにいる皆の顔には彼と一緒に居た頃の姿をそのまま映したように同じなのよね」
「何度か転生いたしましたが、姿はなぜかいつもこの姿でしたわ。恐らく聖母としての力なのでしょう」
「そうなのですか?」
「ええ」
金髪の少女は意を決して聞いてみた。
「記憶を持っているという事ですけど空に浮く城というのはあったのかしら」
「空に浮く城?」
「…………。どうしてそんなことをお聞きになるの?」
「そこに帰らなければいけないような気がして…」
「………宙に浮く城は実在いたしますわ」
「実在するんですか?」
「ええ、宙に浮く城。正式名を覇王城と言って遥か北西の樹海の中に今も浮いているリュウ様の居城だった城」
「聞いたことがあるわ。確か聖跡とされているんでしたっけ…。わたしもそれを聞いたときそこに行かなければという想いがあったのも事実ね」
竜人の女性が言った。
「同じように感じているなんてやはり私たちもそこに居たのかしら」
浅葱色の髪の女性が言った。
頷いたのは獣人の女性だった。
「ええ」
「行ってみたいわ」
「ええ」
「でも樹海の奥深くという話ですから危険ですわよ?」
「だとしても…いかないと…です」
その気持ちは一つだった。
獣人の女性は感極まったのか少女の手を握ってきた。
添えるように上から全員握った時だった。
握った五人の手のひらから輝くばかりの光があふれ出してきた。
それは部屋全体を照らし光の海に包まれる。
光は五人の手の上に集まるように一人の人の形を形作る。
遠巻きにいた僧たちが驚いていた。
五人も驚いていた。
その形作った人に見覚えがあったからだ。
リュウ神と崇められるその人だった。
『お前らが俺を必要としている限り俺はお前らの傍にいる。俺はここにいるよ。この城が俺の住処だからな』
その言葉だけを残して消えた。
だが五人にはそれだけではとどまらなかった。
その姿がきっかけの様に失っていた三人の記憶があふれるように蘇った。
五人全員涙が流れていた。
「妾たちは………行かねばならんの」
赤い髪の竜人のリューイがそう言った。
「ええ」
金髪の少女クリスティーナも頷く。
「帰りましょう。リュウの元へ…」
同意するように浅葱色の髪のステラが言った。
「私たちの帰るところなのだから…」
「たとえここに戻れなくてもいかなければいけませんわ」
五人全員が肩を抱いて決意を固めた。
「戻れなくても…?」
「ええ、そうですわ。私は待っていたのですわ。私一人ではなく他の皆様とこうして邂逅できる日を待っていたのですわ。一緒にあの方の元で天使化するためにも」
「天使化……?」
「ええ、天使化ですわ。リュウ様が死の床に就きかけている私におっしゃられたのですわ。転生に疲れたのなら俺を訪ねて来いと。すべてを捨てる覚悟があるのなら天使化して眷族化してやると」
「眷族化とはなんじゃ?」
「わかりませんわ。ですが私は転生を止めてリュウ様の元に居られる手段だとそう思いましたわ」
「すべてを捨てる覚悟……」
「そんなものはとうにないぞな。リュウの元に居られるのなら、わらわはすべてを捨てられる」
「そうね…」
「今更だわ」
「ええ」
「決まりですわ。元カイエルの上空に浮かぶ城に向かいましょう」
「でも今の私たちでは入れないのじゃないの?」
「心配いらない。リュウがソラに言っていたの。城に入れる条件を覇王の末裔から子供と使徒、聖母の魂を持つ者だけが入れるようにしたとこの世界を離れる際に言っていたらしい」
黒髪の女性の香里菜がそう言った。
「なにも持っていなくても入れるというわけじゃな」
「そう」
「でも城に行ってもリュウ様には会えないかもしれませんわ。それでもよろしくて?」
「それでも行くでしょ。エリーゼもみんなも」
「もちろんじゃ」
「ええ」
「そういえばフローラさんはいないのね」
「エルフの皆様は転生することはないと思います」
「ステラ何か知っているの?」
「エルフの皆様は自分たちが死を迎えればその魂は世界樹に帰ると聞きます。フローラさんもきっと世界樹に帰られたのだと思います」
「聞いたことがあるな。世界樹に帰り、葉の一葉となって世界樹を支えるだったかのう」
「ええ」
「この五人で覇王城に向かうことでよろしいですわね」
全員が頷いた。
その後五人は城に行くための準備とエリーゼの持っている世界の変化の情報を共有していた。
何故、元エジャルナがカイエルと名を変えているのか、元々のカイエルはどうなっているのかなどほぼ千年の間に劇的に変化をしている世界を知った。
なにせ故郷の街で聖母と知られてすぐ大教会に幽閉に近い状態だったのであまり事情に詳しくはなかった。
同時に準備を進めるうちに理解したのだが今の覇王城は聖跡扱いされていることを神官たちから聞かされることになった。
心の拠り所の一つになっていることを知ったのである。
城に行くことを決めた五人は神殿にもそう報告すると大慌てで拒否された。
今はあの周囲は魔物も闊歩していて大変危険だからだと言われた。
その神官たちの懸念も理解できる。
今の時代、千年前と違い魔物数は激減しており街を取り囲む塀には魔物忌避の効果があるのでめったに魔物と相対しない。魔物と相対するのは専ら冒険者か町を守る役目を負った男たちだ。
女性は相対しないのである。
五人は故郷の街から守られるようにしてこの大神殿へと連れてこられた。
以降も魔物と相対するようなことなどないので身を守る術なのどないと思われていた。
だが記憶を全て取り戻した五人は前世で覚えていた呪文特技スキルをも取り戻していたので今の時代の冒険者よりも腕が立つのである。
けれど五人の意志は固く神官たちはどうやっても彼女らを諦めさせることはついにできなかった。
折れるようにして護衛の騎士たちを同行させることになったのである。
ゲートを使って五人は旧カイエルのゲートをくぐるとそこは深い森の樹海だった。
ゲートをくぐると円形状の天井の周囲には昔のような建物はなく溶岩の跡と思われる岩で固められていた。
その円形状はリュウが張った時空間結界が溶岩の侵入を阻んだようだった。
出口には掘った後なのかデコボコの出入り口でその出口の外からは樹海らしき森の空気が時折入ってきていた。
外の風景を見て五人はさすがに驚きしかなかった。
自分たちの知っている街の風景はどこにもなく上空に浮かんでいるはずの城さえも見えないほどの樹海はここに町など初めから無いような風景だった。
時折樹海内の魔物のけたたましい泣き声が響いてくる。
クリスはあまりの変化に城への入り口さえもわからないのでサーチを使った。
すると覗き込んだステラが一言呟いた。
「魔物だらけね」
「でも大したことはないのう」
「そうね。でも方角がわからなくなりそうだわ」
サーチの方角を見て香里菜は呟き指さす。
「城への入り口はここより真北だからこっちの方角」
「ええ」
「どれくらいの距離があったかのう」
「遠くはないけどこの調子では近くはないわよね」
「ブレスを吐いて道を作るかの」
「リューイ、お願いできる?」
「まかせてたもれ」
そう言うとリューイは大きく息を吸って北の方角に炎のブレスを吐いた。
その一回のブレスで大きな道が出来上がる。
「さすがね」
そのぽっかり空いた道に群がるように周囲の魔物が寄ってくる。
「邪魔」
香里菜はそう言うと黒い球体を空いた道に沿うように投げ飛ばし魔物を吹き飛ばした。
「香里菜ってばいつの間にそんなに強くなってたのよ?」
「アルフが時々教えてくれた」
「大魔王様ね。時々リュウのスキついて表に出てたものね」
「ん」
街中を歩くようにして五人は歩き出す。
時折ブレスを吐いて道をつくるリューイを先頭に歩いていた。
時々クリスが飛んで近寄ってきた魔物を熱呪文でぶっ放して一撃で処理する。
スキをついて寄ってきた魔物をその拳を使い一撃でのしていくエリーゼ。
のされた魔物を消していくのは香里菜だ。
五人や騎士たちの周囲を結界して守っていたのはステラだった。
同行していた騎士たちは五人の技量に驚き彼女らの前では護衛として役にたたず呆気に取られていた。
「リュウにいろいろ教わって身についたものだけど身を守る術は持っていてよかったわね」
「そうね」
しばらく進んだころ、前方に異変があった。
「前が開けておる」
「え?」
リューイのその言葉に全員が前方を見ると確かに開けていて光が差し込んでいた。
さすがにリューイは慎重に進んでいく。
「誰かいますわね。それも一人ではなさそうですわ」
「うむ」
「……………。魔人の気配な気がする」
香里菜はそう言って慌てるように駆け出す。
「え」
そんな香里菜を追うように開けた場所に踏み入れた。
そこには前世で見慣れていた祭壇があった。
その周囲には数人の魔人らしき人影が見えた。
五人はその内の一人に見覚えがあった。
「タテさん!」
タテは駆け寄ってくる人影に驚いていた。
「!」
近寄ってくるのを待ってくれたタテは笑みを浮かべた。
「…お懐かしい、皆さま。お久しぶりでございます」
「お久しぶりです。タテさんがここにいるってことは……!」
エリーゼは城を見上げた。
そこには輝くばかりの懐かしい光に包まれた覇王城が見えた。
「煤っていない城ですわ!」
「煤っている?」
「ええ、リュウ様が不在の間はあの城はずっとあれ程の輝きはなく煤っていたのですわ」
「じゃあ、タテさん。あの城には今…」
タテは笑みを浮かべた。
「はい、居られますよ。リュウ様は今、三階でご子息様達とご静養にお戻りになられているのです」
「静養?」
「…………はい。リュウ様はここ最近ずっと荒れておいでなので宗主様よりご静養を言い渡されておしまいになられて、リリス様のご提案の元、この城に来ておられるのです」
「何があったのじゃ?」
タテは静かに首を横に振った。
「なにもございませんよ。何もないからこそリュウ様は生きる意味を見出せずにおられるようです」
「それって……」
「リュウは元々、寂しがり屋。それと守るものがあってこそリュウは立てる。そこは何も変わっていない。私たちがいないから孤独に耐えられない」
香里菜が言い切った。
タテは頷いた。
「よくご理解しておいでです。守るものを失ったあの方の孤独はリリス様お一人では癒すまでには至っておられないのです」
「………」
「リリス様のご提案でご子息をお持ちになられてもなお深すぎる虚無をリュウ様ご自身でさえ拭いきれないご様子です。皆さまとお別れになられた傷が深すぎるのです」
「……………」
さすがに声が出なかった。
「ご自身で精一杯のため、世界の管理も未だイヴ殿に任せきりで、視察も行ってはおられません。ですが」
「私たちは彼に会いたくて来たのよ」
「お会いになってくださいますか…」
「もちろんじゃ」
「それならば安心ですね。リュウ様は立ち直ってくださる」
タテは微笑んでいた。
「もう離れ離れは嫌なのですわ」
「リリス様がこの城に静養をご提案なされたのは理由がありましてね。リュウ様の気分転換を兼ねてもございますが、リリス様は今回、地球より優美様をお連れするという事をお聞きしております」
「え、優美を?」
「はい。優美様はリュウ様の御力と相性が良すぎたようでございまして、人でありながら不老不死になってしまっているというリリス様のお話でした」
「不老不死じゃと…!」
「はい」
「それは大変ね」
「はい、ですから優美様をリリス様は眷族化なされるとお聞きいたしております」
「わたくしも眷族化を願いたくて来たのですわ」
「…………。眷族化。天使化は永劫リュウ様と共にあることを意味します。死もリュウ様の手にゆだねるということです。世界のすべてを捨てる覚悟のある者だけが許されることです。その覚悟はおありなのですか?」
「もちろんよ!」
五人は即答して頷いていた。
「その想いをリュウ様にぶつけてください。きっとそうすれば…」
「上がっても?」
「もちろんです。ですが背後の騎士様達はご遠慮願います。これより先は聖地。聖母様、神の子様達、使徒たち以外では立ち入ることはできません。お帰りを」
有無を言わさない気迫があった。
さすがに出番がなかった騎士たちは帰還していった。
五人はタテに連れられて城に入る。
かなり城内は傷んでいて風化のために劣化が激しいようだった。
だが、それでも見慣れた城内に変化はなく懐かしい風景に五人は安堵を浮かべた。
入ってすぐの入り口付近にかつてのリュウの乗り物のバイク『奏』と魔導車『颯』が置いてあった。
この二つの魔道具は城と同じように置かれていたのか奏は劣化していた。颯には空間と時空魔法が施されてあるので劣化はなかったが。
「城内はかなり劣化が激しいため1階全域と2階の一部を除いて立ち入りを制限しています」
「上から声が聞こえるのう」
「城内でクウヤ様が迷子になられているようでして…」
「クウヤ?」
「リュウ様の三人目の御子様です。まだ幼く稚い方ですのでいつもは誰かが傍にいていたのですが眼を離したすきにいなくなられてしまいまして、捜索中なのです。少しここでお待ち願いますか」
「ええ」
タテはそう言うと階段を上がっていった。
「三人目の子供…ね」
「一人目はリリィよね。リリスが孕んだ女子」
「うむ。リリス殿の話では孕んだ腹で性別が決まるという話じゃから男子ならリュウが孕んだことになるのう」
そんな会話をしていると一階の奥から小さな足音が聞こえてきた。
五人はそちらに視線を向けると小さな五歳くらいの黒髪の男の子がこちらを見ていた。
大きな碧の目をこちらに向けじっとこちらを見ていた。
「………………。この子」
「うむ。リュウにそっくりじゃのう」
「……………。だれ?」
「ひとりなの?」
「……あい」
「だめよ。お父さんやお母さんはどうしたの?」
「……ははぎみ、おでかけ。ちちぎみうえにいるよ。ぼく、おさんぽ」
「おさんぽは、大人の人と一緒じゃないとまだ駄目よ」
「しかられる?」
「そうね」
男の子は目元を潤ませた。
「おこられるの、だめ…」
男の子は潤んだ目元に手をそえて涙をこらえているようだ。
小さな黒い頭を香里菜は撫でる。
「一緒に行ってあげるわ」
その時上から声が掛かる。
「クウヤ!」
上から男の子の声が聞こえたのでそちらを見ると十二歳位の黒髪の男の子が階段を下りてきていた。
その更に上の二階から一同を見下ろして伺っている男がいた。
複雑そうな表情を浮かべ驚きの目を五人に向けていた。
二人の子供が会話をして男はやっと動き降りてきた。
五人は変わらない愛しい男を見て視線が外せなかった。
クウヤを軽く叱った後、彼はその子を抱える。
その抱える仕草には五人も見慣れていた。
自分らが産んだ子らにもそうやって抱えてあやしてくれていたからだ。
五人はその彼の荒んだ目に痛々しさしかなかった。
再会してもなお彼はしばらく自分らと線を引いているようだった。
軽く世間話でもするように会話をすると背後にいた男の子が気を利かせてクウヤを連れて上に上がっていった。
五人が自分に会い眷族化を希望してここに来たことを知ると拒絶してきた。
それでも自分たちの意思を尊重して選択をくれた。
彼は自分たちを置いて階段を上っていった。
その上でもう一度みんなで確認することにした。
「わたくしは行きますわ。この機会を逃したくはないですし」
「それは私も同じよ」
「皆同じ気持ちじゃ」
「ええ」
「元々、この生はしがらみはありませんから今更でしょう」
五人全員が頷いた。
階段を上がり二階に行くとリリスと共に優美がいた。
途中で会話が聞こえた。
優美は私たちが来ることを断言していた。
さすがに彼は驚くものの私たちの決意の深さにやっと認めてくれた。
天使化する際にやっと彼は笑ってくれた。
柔らかな笑みはいつから笑っていなかったのか少し照れがあるように見えた。
私たちは彼と共に生きることを選択したことを後悔などすることはない。
彼と共にある事こそ何よりの幸福だから。




