7ー2
俺たちが最後の入室だったのだろう。入ってすぐの兵から入室を告げる大きな声が部屋中に響き渡るとそれまで騒がしいほど賑やかな室内がぴたりと静かになった。
先導されるままに俺とリリスは父君母君の座る上座のすぐ隣に案内されてすわる。
夕食会が父アルフレードの言葉で始まると食事も始まる。
テーブル形式の夕食会に軽くホッとしている自分が居た。
見たことのないパーティーだと作法もわからなくなるので困るからだ。
こんなことならあの書たちの中にあった神界作法とマナーの書を最初に借りればよかったかな
「どうした、リュウ?」
すぐ隣のリリスが微細な俺の反応に気がついた。
「ああ、神界作法とやらがわからないからボロが出るかもと思ったら少し…な」
「心配はいらん。地球の作法とお前の世界の作法とさほど変わらんようにここでもさほどの誤差はない。それともそれすらも知らんのか?」
俺は首を横に振った。
「それならいい。作法はそれなりに身にはついてるよ。ただまさか、ここで食事会があるとは思ってなかったな」
それでもしたたかに空腹であったので食は進んだ。
「下界の人間たちの良い習慣などはいろいろと便利な側面もあるから取り入れるようにしているのは先代から継続している。この食事会も衣食に無頓着だった神族に激変をもたらした。先代宗主の功績だ」
そう言ったのはアルフレードだった。
「先代宗主……。アルフォンス様ですか…」
「覚えているのか?」
「ええ、そういったアルフの関係者はおおよそ記憶にありますが接触が少ない方たちは、名は覚えていても顔まではわからないので…」
「それでか、私を見て驚きはしても即、名を呼んでくれたのは…」
リリスが納得顔だった。
「もしかして、俺を父君と以前のアルフと同じように呼んでくれたのは…」
「今生の父さんと区別するのにちょうどいい呼び方でしたのでそのまま使っているんですが変えたほうが良いんですかね?」
「私は変えられるのはいやよ、リュウちゃん。今までと同じように母君って呼んでくれなきゃ嫌よ。ねぇ、アルちゃんもそうでしょう?」
「ああ」
おれは嫌悪感を抱かれないようにと呼んだその呼び方が予想以上に喜んでくれたことに安堵した。
おれはちょうど良かったので一つの疑問を父君に聞いてみた。
「そういえばリリスから聞いたのですが、次代候補者として俺の覚醒を待っておられたと聞いたんですがアルフレッド叔父君には息女お一人とご子息はお二人なはずで、次代候補としてはかの方たちでもよかったんではないのですか?」
俺のその言葉にリリスも父君も聞かれるとは思っていなかったのだろう驚いていた。
「………あの?」
三人のその神妙な空気に聞いてはいけなかったのだと察した。
「お前は知らなかったな」
「アルちゃん、あの事件はアルフちゃんが逝ってからの事よ」
「お二人方の名は覚えているかリュウ?」
リリスが聞いてきた。
「確か、エリュシオン嬢とエリュシオーヌ君でしたか…。エリュシオン嬢は俺、アルフと一つ遅れの歳でエリュシオーヌ君は五つほど違いましたよね」
「うむ、兄上の下二人の御子は、今はもう大罪を犯した罪で母のエリシオンと共に人に落とされ寿命が尽きてもうおらん」
「え」
さすがに驚く。
「あいつらはな、大罪を犯した。アルフという宗主の御血筋の一人を穢し暗殺した罪だ」
「!」
母君は軽く震えていた。
「あの二人に暗殺の意志は少なかったはずよ。元凶は母のエリシオンよ。唆したのよ。今でもあの女は許せないわ」
「それでも暗殺を指示し実行したことには違いない。罪は変わらん」
「まさか、あの二人が……」
さすがに俺は驚くしかなかった。
「母親のエリシオンが宗主の位に執着したのだ。自分の息子のフリードが次代として神力に欠陥があるということを誰よりもしっておったのにそれを兄上はおろか父上にすら報告せずにいたのだ」
「次代に据えたいばかりに…ね。それをアルフレッド様に知られ焦ったあの者たちは次に候補に挙がるアルフちゃんの命を狙ったのよ」
「アルフレッド様とフレッド様は何もお知りではなかった。彼らは神族のままだが宗主の血筋からは外され、以後の血筋の者たちから宗主の継承権の永久はく奪を先代に二人が願い出た」
アルフレードは沈痛な表情だった。
「その願いは聞き届けられ、管理不行き届きとしてそれが二人の罰となった。今は辺境の神界の隅で穏やかに暮らしておいでだ」
「あのお二人方は病弱だったはず。辺境では…」
「ああ、二人がどうしてもと頑なであってな。今ではその辺境の空気が良いのかここに居た頃よりも健康で暮らしていると聞いている」
「そうね、辺境暮らしがとてもお気に入りのようだわ」
「噂に聞けばフリードは妻を娶ったと聞いたな。世間知らずなお二人方をリードする方でとても幸せだとか」
「………………そんなことが」
「お前も知っていると思うが我が兄にも宗主となる継承権はお持ちなのは知っているな?」
リリスが俺に聞いてきた。
「ああ、でも確かリリン兄君は宗主としての資質は自分にはないと言って辞退していたような…」
「その通りだ。だがアルフの転生者のお前がアルフと同じように未成体で子を孕めない体であった場合には兄君が次代候補として名が上がる予定だった」
「それであんな確認を…」
俺はさすがに居たたまれなくなった。
「すまなかったな」
父君のその言葉に俺は首を横に振った。
「ここだけの話、アルフの未成体には理由がある。理由はアルフにしか理解できない精神的なものだった」
「リュウ。理由があったのか?」
「ああ、アルフは知ってた。自分の体がどうして未成体で子が孕めないのかその理由は知っていて放置していた。放置するしかできなかった。精神的なものからくる身体的な成長止まりだったから」
「知っていて放置していたというのか?」
「ああ、でも知らないほうが良いということもある。だからアルフも口をつぐんでいた。知ってしまえば後悔するかもしれない。いや、きっと後悔するだろう。それでも聞きたいか?」
俺は言うべきではないのかもしれないと思った。
神族はヒトと違う部分がある。子孫を残す手段だ。ヒト上がりということもあり身体的にはヒトと変わらない体つくりだが神力を腹で掛け合わせ混ぜることで一定の混ざり具合と精神的な想いの強さによって混ぜた腹に孕むのが神族だ。孕んだ後すぐに生まれてから肉体が作られる。それは性別に囚われない。
囚われるどころか孕んだ腹の性別で子の性別も確定するため両の腹でそれぞれが子を宿すことを神族で盟約化されている。
女神が産んだ子は女性になり男神が産んだ子は男性になる。それが神族だ。
ちなみに肉体的に女性に孕めばそれはヒトになる。神力を使い他のヒトに下賜することができる能力がありそれはヒトの間で神の子と呼ばれ、信仰心の拠り所となる。
そして宗主は男神に最優先継承権がある。
アルフは無意識化で宗主になりたくなかったのだ。だから未成体であった。
最も、それだけではなくリリスとの婚姻がアルフの意志を介入せずに決まってしまったことにも起因している。
ハッキリ言えば知らないほうがいいのだ。
彼らは後悔するかもしれないと聞いても聴きたがった。
その覚悟を俺は見たので腹を括り当時のアルフの心境を語ることにした。
やはり驚いていた。そしてアルフが言えない悩みを多く抱えていた事実に気がついていなかった自分らに腹が立ったようだった。
一方でリリスは沈んでしまっていた。
あまりにも沈みすぎたのでおれは慰めるように言葉をかける。
「リリス、勘違いをするな。アルフは君が嫌いだったわけではない」
「………慰めは要らない」
俺は席を立ちリリスの傍にしゃがみ顔を見るために見上げる。
「慰めじゃない。事実だ」
そう言ってリリスは初めて俺を見た。
「アルフは君を嫌いではなかった。嫌いだったなら体に異常をきたすほどの現象など起きないだろ」
「…………」
その言葉にリリスはハッとした。
俺は笑みを浮かべた。
そっとその手を握る。
「アルフはあの時、母君から君との結納が済んで正式な伴侶と認められたと報告されたとき絶望したんだ」
「絶望……?」
「一足遅かったことにショックを受けた。気弱なアルフは何をするにしても勇気が要った。リリス、君は覚えているか。彼が花を持っていたことに」
「知ってる。受け取ったから…」
「あの花はな。アルフがお前に贈るために前日から用意していたものなんだ」
「え、前日……?だってあれはエリン様が当日にご用意したんじゃ?」
「私は確かに用意はしていたけれど、アルフちゃんに渡そうとしていたら別の花を持っていたからアルフちゃんに手渡すのをやめたのよ」
「あの日、君はアルフに呼び出されていたことは覚えているか?」
「……ああ、大事なようがあるって…」
「あの日の用事というのはな。君にパートナーを申し込むつもりだったんだ。アルフは」
「え……。パートナー…?」
その事実はエリンも初耳だったのか驚いていた。
「リュウちゃん…それって……」
俺は自分の椅子に座る。
「彼は当時の君がパートナーだった伴侶を病で失ったことを聞いて、きっと君は魅力的な女性だったからすぐに相手を見つけると思って諦めていたんだ」
「それは…」
「アルフは自分に自信を持つことができなかった。『父君のように頭が賢いわけでもなく、祖父君のように武力に秀でているわけでもない貧弱な自分はリリスにはふさわしくない』と」
「アルフがそんなことを…」
父アルフレードは驚いていた。
「だから言えなかった。リリスに自分のパートナーに、伴侶になってほしいなんて言う勇気が出なかった。諦めていたんだ。それでもあきらめきれない決断力のない自分にも嫌だった」
「でも、私にはだれも申し込む人など居やしなかった。世界は、地球は対の世界を失って崩壊寸前だったから時間もないのに相手が誰もいないのに危機感だけが増していた時期だ」
俺は頷いた。
「幾ら時間が過ぎてもリリスに相手ができたという報告はこない。リリスに時間がない事はアルフも知っていた。誰もいないなら、いや、誰もいないからこそこんな自分が申し込んでも受け入れてくれるのではとおもったんだ」
「……!」
「彼は男神としてのひとかけらの勇気を振り絞って君のための花を用意していた。あの時、母君からの要請の前に君に逢えていたらかれは間違いなく君に申し込んでいた」
リリスは震えていた。
「………でも、逢えなかった…」
俺は頷く。
「彼は『もしもリリスが自分の申し込みを受けてくれたらきっと自分は変われる、自信を持つことができる。彼女のためになら彼女にふさわしい伴侶になれる努力がきっとできる』そう思っていた」
「あの時、母君から君に申し込む前に君との結納が済んで伴侶になったと聞かされて彼は絶望した。小さな男神としての勇気と気力と誇りがあの時、砕け散った」
俺はその時のアルフの感情が手に取るようによみがえる。
顔をあげられなかった。無意識に服を握る。
「男神として自信に変えられるはずのものは絶望に塗りつぶされ砕け散った。そんな彼の心にはその大きな傷を修復する術を持たなかった。結果として彼は男神としての機能のすべてを否定されてしまったその心のままに体は成長を止めた」
「リュウ…」
肩を叩かれた。見ると父君が慰めるように笑っていたがその笑みは痛々しい笑いだった。
「俺の感情じゃないんだ。俺の感情じゃないのに言葉にすると苦しい…」
俺は涙が一筋落ちたことを実感していた。
気を取り直してそれでも彼らに伝えるべき記憶があることがある。
「でもな、彼は全てを絶望したわけじゃない」
「それって…?」
「自分の言葉で申し込めなかったのは辛い事だった。それでも彼は前向きに考えたんだ。『こんな自分でもたとえ渋々だったとしても自分を選んで受け入れてくれたことには違いない』と」
「…………」
俺はリリスを見て笑った。
「『だったら、彼女に認められる存在に男になりたい。知性も武力も父君や祖父君に肩を並べられなくてもいいから彼女に男として見てもらえる存在になりたい。男として見てもらえたらきっと彼女は自分の子を産んでくれる』と前向きに顔を、意志を向けた矢先だった」
「矢先…?」
「自分の神力がいつの間にか大部分で穢れに満たされていた。自分ですら気がついていなかったほどに記憶の大部分が失われていて、取り返しがつかない状態だった」
「…あ……」
おれは自分の手を見てアルフの穢れた手と重なる幻影を見た。
「日追うごとに知識と記憶が失われて神力が穢れていく恐怖は言い難いものがある。それでも彼はその先にある死を受け入れてた」
「え、でも…」
俺は机にあるワインを一口飲んでのどを潤した。
「でもな、彼はふと、気がついたんだ。『二人目の自分という伴侶を失った彼女に三度目の伴侶なんて現れるのか?』と」
「!」
リリスは驚いた。だが事実だった。
「彼は気がついてしまった。二度目でさえもなかなか現れなかった彼女にきっと三度目はないだろうと。だからこそ彼は最初で最後の大きな決断をした。転生の儀をもってやり直そうと。君にそういう儀式があることを前に聞いていたこともあるんだろう。辛いものになることも彼は理解していた。理解していてなお、躊躇いはなかった」
「ためらいはなかったというのか?」
「ああ、彼には躊躇う理由がなかったからな。むしろ死を覚悟して受け入れていたからこそためらいはなく希望すらあった」
「希望…?」
アルフレードが不思議に思った。俺はそんな父君を見て笑みを浮かべた。
「転生の儀は穢れの大きさで時間も転生する回数も増え、人格は失われていく辛い儀だ。それでも彼は希望があった。どうしてだと思う?」
俺はリリスに聞いてみた。
彼女は首を横に振った。
「わからない…」
「『転生の儀を終えれば今度こそ君とやり直せる。君にふさわしい男神になって成人化し隣に並び立てる。ひょっとしたら自分の理想の男神に近づくかもしれない。たとえ、自分という人格が失われようとも俺じゃない俺が君の傍に立って君が幸福ならそれは自分にとっても幸福だ』そう思ったのさ、彼は」
「あ……」
「それはたしかに実現したことだ。俺という存在で…な。理想かどうかは分からんがな」
「リュウちゃん…」
「彼にとってすべてが不幸だったわけじゃない。それをあなた方は知るべきだ。そう思った。彼のわずかな感情と一欠けらの最後の記憶を受け取った俺にとって、彼は確かに俺の過去で前世だから逃げるつもりはない。力も受け取ったしな」
おれはその気持ちを込めるように笑った。
「リュウ……、お前は強いな。前世で自分じゃない過去なのに受け入れるなんて…」
リリスのその言葉に俺は首を横に振った。
「そんなに強いとは思ったことはない。前世という括りの中のおれの感情で記憶である以上は俺の過去だ。それにな、俺は決めたんだ。新たに貰った生は前向きに生きると。戻らない過去に対しても、振り返ることはかまわない。でも俯き、後ろ向きになるのは貰った生に対しても過去に対しても真摯じゃない、そう思うようにしてる」
「前向きに生きる…か。確かにそうだな」
リリスは笑ってくれた。
食事会は滞りなく進み最後の言葉として俺が自己紹介と共に集まってくれたことに感謝をして食事会は終わった。
その後、二次会として場を変え、立食式のダンス広間にその身を移した。
当然だが俺のお披露目の二次会なので出ないという選択肢はなくまたも服を着替えさせられる羽目になった。
今度の服はダンスもするとのことなので動きやすいものになっている。
開幕リリスと踊る羽目になった。
とは言え半人な自分は神界ではいつものようにはいかず重い体を隠すようにして踊ることになった。
重い体を引きずるようにしてダンス終わりに用意されていた椅子へと座るとここぞとばかりに参加していた神族たちに囲まれた。
俺という次代に興味津々であり、どういう人物なのか図るためと思われた。
それも理解していたので適度にあしらっていた。
場も和みそろそろお開きという時間にそれは起きた。
二次会ということもあり警備の量が夕食会にくらべて格段に少なかったのが理由だった。
始まりはダンス広間と繋がる窓の外で諍いが起こった。
集まる人数が多ければ当然ながら犬猿の仲ともいう間柄の者たちもいる。
言い争いは初め、些細なものだった。肩がぶつかった、ぶつかっていないといったものだ。
だが不幸なことは争い始めたのが武力を得意というあまり賢いとは言えない人たちで誰も彼らを仲裁できなかったことだ。
今回の招待人たちは神界でもそれなりに影響力のある者たちが集められていたことも仲裁できなかった理由の一つだ。
警備の目がそちらに向いていた時だった。
俺や父君もその争いに気がついて意識が向かった時、刺客が俺を襲い掛かってきた。
かなりの手練れで俺に襲い掛かるまで殺意を持たなかったため俺は少し反応が遅れた。
例えダンス用に服を着替えようともおれは修羅を腰に差していた。
だが反応が遅れた為、修羅を抜く間はなく。収納から覇王の短剣を取り出しきわどいところで刺客の刃を受け止める。
大きな金属音が響き渡る。刺客はもう片方の手に持つ剣を俺に向けて振ってきた。
その剣は引きぬきかけていた修羅で受け止めた。
ギリギリとお互いのつばぜり合いの中、刺客は口から何か吐こうとしていたので椅子に座っていた俺の脚は空いていたので刺客の腹を蹴り飛ばし吹き飛ばした。
その頃にはすでに周囲は大混乱で包まれていてそこかしこに悲鳴が上がっていた。
広間から逃げる者、興味本位に遠巻きに観察する者など様々な者たちがいる中で俺は父君が武力はからきしなのでちらりと視線を向けると警備の物ががっちり守っているのを見た。
リリスは自己防衛程度はできることは知っていたのでさほど心配はしてはいなかったがそれでも父君の隣にいたことを確認して俺が狙いなことを知った。
刺客を蹴り飛ばしちらりと周囲を確認した後、俺は刺客に意識を向ける。
どうやら呪詛を吐こうとしていたらしくその前に俺が蹴り飛ばしたので呪詛が自分に向かったのか悶えていた。
悶える中でも俺の存在は確認していたのか失敗とみるや煙幕を巻き窓に向けて逃走しだした。
「逃がすか…よ!」
俺は逃走しかけた刺客を逃がすまいと握っていた短剣を刺客に向けて投げる。
「ぐあ!」
煙幕の中、短剣が飛んでくると思っていなかったのか刺客がどこかに短剣が刺さったのだろう、うめき声が聞こえた。
俺は修羅を抜き煙幕の中、刺客の気配を確認して修羅を向けたまま近寄るとうっすらと刺客を確認できた。どうやら短剣が足の甲を串刺ししていた。
串刺しにされてもなお刺客は逃げる気だったのだろう。短剣を抜こうとして屈んだところに俺の修羅が首元に添えられた。
「動くな。動くとどうなるか保証はせん」
修羅の気配が一層強く醸していて凛とした冷たい気配に周囲も晒されていた。
修羅のその気配に刺客はどうやら圧倒されていたようだ。
そうして周囲を覆っていた煙幕が晴れると刺客は戦意を喪失して震えていた。
「リュウ!」
「リュウ様!」
警備の兵たちが刺客を取り囲む。
「いい腕だが、相手が悪かったな」
刺客を兵たちが取り押さえて俺はやっと警戒を少し解いた。
リリスが近寄って来て肩を握る。
「大丈夫か、けがはないか?」
「大丈夫だ。ケガなんてない。リリスのほうこそ大丈夫か?」
頷くリリスにホッと安堵して後から近寄ってきた父君を見た。
「すごいな、まるで父上を見ているような武力だな、リュウは…」
「いえ、これくらい何でもないですよ。それよりも…」
「ああ、尋問して背後を吐かせるつもりだ。それにしても大胆な事をする奴らだな」
「ええ、背後関係が明確になればいいんですがね…。これだけ派手だと追えるか心配になってくるな」
「まぁ、そこは心配はいらん。調査隊は優秀ぞろいだ」
「そうですか」
俺はそこで初めて修羅を収めた。
「次代様、これを」
兵たちが投げた覇王の短剣をもってきた。血糊はふき取ってくれたようだ。
「ああ、ありがとう」
俺は受け取り収納に仕舞った。
とそこへリリスが寄ってきて布で俺の額の汗を拭ってくれた。
「あれだけなのになんでこんなに汗が…」
「ん、この世界は俺にとって普通の動作の二倍ほど負荷がかかっているようでな。派手な動きをしようとするとどうしても全力になってしまうからそのせいだろ。完全に走って逃げられたら追えなかったな」
「手練れのようだったみたいだな。そう報告が来た」
俺は頷いた。
「殺気が直前にまでなかったからな。手練れだとおもったな」
父君は周囲の者たちに不審者は捉えたので安心だと落ち着かせるための声をかけたのだった。
二次会も終えて自室に戻ってきた俺とリリスは煌びやかな服を脱ぎ夜の服に変えてベッドに座った。
夜の時間になっていたからだ。
この神城には夜はないが夜の時間に定めている時間はある。
したたかに気疲れもあるのでベッドで楽になりたかったからだ。
リリスは気を利かせて水差しをくれた。
「ありがとう」
礼を言ってもらった分を飲み干すとサイドに置いた机に置く。
「疲れたのか?」
「気疲れというやつだな。ダンスがあるとは聴いていなかったからな」
リリスがベッドに遮音と遮光のカーテンを引いて同じベッドに乗ってきた。
「癒してやるよ」
「え」
俺はリリスに押し倒されてしまった。
その間にもリリスの手は俺の夜の服を剥きにかかっていた。
「約束してただろう?」
「あ、いや確かにそうだが…」
「今夜のお前の雄姿はすごかったな。あれほど動けると思っていなかったから見惚れたぞ」
そう言ったリリスは自分の夜の服を脱ぎ捨てるとそこには覆うものが何もなかった。
「…………っ」
さすがに驚き息を飲んでしまった。
何しろ絶世の美女ともいえる存在が誘っている姿は倒錯的過ぎた。男心が揺さぶられた。
「お前が欲しいんだ、私は」
「……リリス……」
「最高の私の伴侶の心もすべてが…」
誘われるまま吸い寄せられるように口を奪われ、拒絶することもなく、その夜は更けていった。




