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キバたちに少し出かける旨を報告し居場所が分からなくなるが心配する必要はないと言って帰還用の魔方陣を3階のリビングに設置してから俺はリリスに連れられるままに城と世界を後にした。
神界に関してはあまり下界のものに言うことはできないので神族がらみの用事としか言わなかった。
少しクリス達に何も言えないままに後にするので後ろめたい気分だった。
そんな感情を汲んでかリリスはこの時間に確実に帰還させると約束してくれた。
神界の銀世城にいくにはまずは神界に上がる必要がある。
久しぶりの自分の神界に帰ってきた俺はリリスを少し待たせてでもやることがあった。
神力の源である信仰心の更新だった。
神力は知性ある生き物の信仰心によって貯まり増える。
この信仰心の更新は神のみができ、イヴにはその権限はない。アルフが転生の儀を行って以来一度もしていないことなので必須だった。
この更新は下界ではできないもので下界の存在が立ち入れる場ではないこの神界でのみ許されるものだ。
当然ながら半人半神の俺でも基本立ち入れない場だ。
リリスも理解しているのか何も言わずに待ってくれた。
アルフが居なくなってからこの神界も真っ白に更新されているので転生の間のようにただ真っ白な空間が広がっているだけの場だった。
「待たせて悪かったな」
「もういいのか?」
「ああ、信仰心を更新できたからもう少し経てば神力も貯まりやすくなるはずだ」
「そうか。更新したなら一気に5千年分が来るな」
「そうだけど、あまり期待はしてないかな」
「そうなのか?」
「あまり良い時代ではなかったからな。神は信じられない時代が長かったから」
「そういうことか」
そうして俺はリリスに連れられるように銀世城に到着した。
城門番たちには話が通っているのか半人半神の俺を見ても嫌な顔をせずむしろ最敬礼で迎えてくれた。
「今日お前を連れてくる旨は伝えてあるから心配はいらん」
俺が心配したことを軽く払拭してくれた。
というのもこの銀世城は基本下界人のヒトは入れないからだ。
半人半神でも忌避感があるので心配していた。それだけでなく世界そのものがヒトという種を拒むようになっていて酷く体が重く感じだ。
改めて銀世城を見上げた。
とても不思議な建物で見る存在によって姿が変わるこの城はアルフの記憶では古風なギリシャ風建築だったが俺の目では日本の城そのものだった。
「お前の目にはどんな城に映ってるんだ?」
「どんなって……。日本の城だな、真っ白で金がある。姫路城を豪華にもっと真っ白に巨大化したような感じだ」
「ほう……。日本の城か。やはり工藤隆の意識が強いんだな」
「今更だろ」
「ふふ、かもな」
言い置いて内部に入るとリリスが不意に俺の腕を取った。豊満な胸が二の腕を包む感触が伝わる。
「リリス?」
「私の自慢の伴侶だ。見せびらかしてやる」
「お前な……」
「私が自慢できるほど今のお前は男らしい。お前を選ばなかった事を他の女どもに後悔させてやるのさ」
呆れながら一息ついて聞いた。
「どこに向かえばいい?」
「真っすぐだ。あの大階段を上がる先の大扉の向こうでお待ちだ」
「あれか…」
俺は腕にしがみついたリリスを気にすることなくいつものクリス達の散歩のように歩き出した。
それ程、腕組みの歩きに慣れていた。
それはリリスも気がついたのか堂に入ったものだったので笑みが深くなる。
するとしばらくして半人の気配を感じたのだろう城に仕える神族たちの注目を集めだした。
階段を上がるころには衆目にさらされている感じだった。
「なんでこんなに注目されるんだ…」
「仕方ないさ。次代候補のお前の帰還はすでに城中に広まっているからな。興味津々なのさ」
「ちっ…」
「嫌な顔をするなよ」
「するわけないだろ」
「度胸も十分だ」
くくっとリリスが笑った。
そうして大階段をあがるとひときわ大きな扉の前に立った。
扉の前には護衛兵が立っており慇懃な仕草で大扉を開けた。
扉の先の部屋にはダダ広い広間が広がっていた。奥のほうに豪華な椅子が二脚見えた。
その椅子の周囲に立つ存在がどよめきをあげていた。
歓迎されていない感がするな
「来ないほうが良かったんではないのか?」
「半人の気配に驚いているだけだろうよ」
「ならいいが…」
「大丈夫だ。アルフレード様がお前を邪険にするような奴は許すはずがない」
椅子に近づくにつれて周囲のどよめきは静かになっていった。
それでも俺の姿に驚きが勝るのかひそひそ声がしているのが気になった。
「それにしては妙に珍獣扱いされている気がする」
「それも心当たりがある」
「?」
「今のお前は先代の銀世宗主の御姿に瓜二つなのだ。若かりし頃の…な」
「初耳だぞ?」
「うむ。私も驚いたな。私の好みの姿とは言えここまで似るのかと…」
「……神力の系譜のせいかもな。理想を探して系譜を遡ったのかもしれない」
先代の銀世宗主とはアルフの祖父に当たる神だ。アルフやリリスが生まれたときすでにかなりの高齢であったのでリリスが若いころの姿など知るはずがない。
「アルフレード様にイヴから渡された姿写しを見せたらそうおっしゃられていた」
「見せていたのか…」
「もちろんだ。この十六年お前の成長をずっと見守ってきたからな。下界の掟で神覚醒するまでは見ることしかできなかったからな。私もアルフレード様もエリン様もずっとこの日を待っていたのだ」
「そうか。随分待たせてしまったな」
そう言った後、俺は立ち止まる。
この先は二脚の椅子のある壇上だけだったからだ。
リリスが腕組みを外してお辞儀をした。
つられるように俺も頭を下げた。
「アルフレード様、エリン様。ただいま我がパートナーのアルフの転生者リュウを連れて戻りました」
「ああ、よく戻った」
「はい」
「アルフの継承者のリュウといいます。よろしくお願いいたします」
そういうしかできなかった。
ゆっくりと顔をあげた。
するとすぐに妙齢の豪華な服を着た椅子に座る男性と目が合った。
「…よく、戻ってくれた………。待っていたぞ、息子よ」
「辛い転生の儀をよく乗り越えましたね」
「………………!」
俺は首を横に振った。
「………いえ、俺よりも彼女のほうがずっと辛かったと思います。離縁するものばかりおもっていたので…」
「うむ。儂らもな、離縁を勧めたのだが、血筋なのかな。頑として聞かず離縁しなかったのだ。待つと言ってな」
「宗主!」
「本当の事ではないか」
「そうですが…」
俺はさすがに驚いてリリスを見た。
彼女の頬は真っ赤に染まっていた。
「どうして…」
「三度も伴侶を変えるなどしたくなかっただけだ!」
おれはそのリリスの顔がどうしてもそれだけには見えそうになかった。
「意地っ張りなのは変わらないんだな。そうだとしても嬉しいよリリス」
おれは笑みを浮かべた。
5千年は神族とっても長い。生半可な覚悟で待てる歳月ではない。
それだけで十分答えになることだった。
しかも彼女の顔もわかりすぎるほど真っ赤に染まり自分をどう思っているのかありありと周囲にもわかる顔だった。
おれはそっと彼女の手を取るとそのまま甲にキスを落とした。
それは神族にとっても求愛の証だった。
「!」
リリスはされると思っていなかったのだろう。驚きの目で俺を見ていた。
「俺の伴侶が君でよかったと本当にそう思うよ」
おれはリリスがどう反応するか理解していて追い打ちをかけるように極上の笑みを浮かべた。
その直後、俺の想像通りの反応をリリスはしてくれた。
真っ赤な顔どころか全身を真っ赤に染めてしまったのだ。
どう答えたらいいのかわからなくなったのだろう。彼女は女扱いされることに慣れていないのでただ震えてしまっていた。
そんなリリスを見て笑みが笑いに変わるのを俺は止められなかった。
さすがに声をあげて笑うわけにもいかないので震えるように笑いをこらえているとその俺の反応を見て、してやられたと気がついたのか俺の胸ぐらをつかんできた。
「お前。わざとそんな心にもない事を言ったな!」
さすがにもう、声を抑えることができなかった。
笑いながらも彼女の悋気を軽くいなした。
「リリス、君、可愛いよ」
笑いがなかなか止まらないのでさすがに困って無理にやめる。
「誰が心にもない事をこんな公の場で言うか。本心だからこそ出たのにこっちのほうが心外だ」
「うぐっ………」
押し黙るリリスを見て、そんな顔も可愛いと思った俺だった。
ゴホンと咳払いが聞こえてアルフレードがその場を宥めた。
「仲がいいようで安心したよ」
「おかげさまで彼女に振り回されてますよ」
「そうか、それよりもリリス。彼はどうだったかな。未成人のままか?」
リリスはそのアルフレードの言葉に気が張ったのか姿勢を正した。
「いえ、心身ともに神力も問題はなく神族としても成人しておられます。完全に神族化すれば子作りも可能でしょう」
そのリリスの言葉に周囲のものも含めて騒然となった。
分からないのは俺だけだったらしい。
「それは良い報告だ。いやな役目を押し付けたな」
「いえ、役得でしたよ」
「……………。お前、まさか昨日のあれはそのためか…?」
「すまん…。本当ならばもっと時間をかけるべきだったのだが私との相性が良すぎた。お前の中で私が嫌いな存在ではないことを知って暴走してしまったんだ」
それは事実だった。
アルフの数少ない記憶と感情の中からこれだけは守るべき感情とでもいうようにリリスへの思慕が神力と共にこびりついていたのだ。
アルフから継承した唯一の感情といっていいものだった。
「そういうところは敏感なのは変わらないのか…」
「リュウ?」
「それは唯一アルフが残した感情だ。人格も能力も失われることは自覚していたアルフにとって残すべき、残ってほしいと祈りにも似た思いが神力と共にある」
「!」
「知識の大部分が失われてもいいからと神力にこびりつくようにあったその感情は決して浅い想いではないだろうさ」
「リュウ…」
「逃げるつもりはない。いずれこの感情も自分の感情と混じるだろうさ」
リリスは感極まったのか俺の腕をグッと握ってきた。
「皆者達よ。かねてよりの取り決め通りアルフの転生者リュウを次代銀世宗主と指名する」
「!」
俺はその言葉に顔をあげる。リリスもその言葉に持っていた手を離した。
正面の父親のアルフレードは深い笑みを浮かべていた。
「半人半神でなく完全なる神覚醒を果たした暁に正式に着任するものとし、それまでは未成人扱いとなる」
アルフレードの手には銀に輝く杖があった。
それはアルフの記憶の中にもある次代の証の杖であった。
「受け取るがよい。我が息子リュウよ」
「……………」
俺は無言のまま恭しく壇上に上がり受け取った。
「最善を尽くします」
「うむ」
そうして一連の自己紹介と共に次代継承を受けた俺は城の一室に部屋を貰った。
さすがに気疲れしてしまい貰った一室の中にあるソファに沈み込んだ。
さすがに神界というだけあって摩耗も半端ないな
「疲れたか…」
「ああ、神界はどうしたってヒトを拒む土壌があるから酷く体が重い。長居したくはない気分だがそういう訳にもいかないからな」
神界での一日は俺の世界で五十年の時間が過ぎるほどの速さがある。ヒトが立ち入れない理由もまさにそこにあり、瞬く間に人間やヒューマなどは老いてしまう。
半分以上が神族化して老いが止まった俺だから疲労だけで済んでいるのだ。
「そばにいてやるから少し眠ったほうが良いな。誰か来たら起こしてやるよ」
「……ん。悪いな」
リリスのキスを頬に感じおれはあっという間に意識が落ちた。
この神界に昼夜はない。休むためのベッドはあるが昼夜がないので誰かしら動いているのがこの銀世城だ。その為ベッドには遮音と遮光のカーテンが必須だったりする。
そんな俺の安眠を確かにするためだったのだろう。リリスが気を利かせて俺をベッドに運んでくれていた。
その後、父や母が部屋を訪ねたらしいが半人で疲労のため眠っていると知って俺に気を使ったのか起こすことはなかった。
俺が起きたのは丸一日後の事だった。
体が神界の空気に慣れるのにかかった時間だった。
丸一日以上眠った後はさすがに寝すぎたと思ったのだがそうではなく神界の空気に慣れたのか体はマシになっていた。
眠気を吹き飛ばすように大きく伸びをすると今度は腹が空腹を訴えるように鳴った。
ここは神界で食事は必須ではない神族しかいない世界である。
当然だが食事というものはなくその事は事前に聞いていたのであらかじめある程度の食料を道具収納にいれて持っていた。
というのも神界でもスキルは使えるとも聞いていたのでしこたま入れてきた。
その収納から果物とパンと果実汁をとりだして食事にありついていると、部屋にリリスが入ってきた。
「起きたのか」
「ん」
慌てて口の中の食べ物を飲んで開けようとするがそれは制止された。
「落ち着いて食え」
「ん。悪い」
リリスは手持無沙汰のようにそばに置いてあった果実汁の瓶を持っていた。
中の味が気になるのか封を開けて一口飲んだ。
「うん、これも美味いな」
俺の持っている食料はどれも城のジェフたちが作った傑作ばかりなので不味い味は一つもないはずである。
パンと果物を食べきりそれだけになったのでリリスの中にあるそれを貰おうとするがリリスは渡してはくれなかった。
「リリス?」
不思議に見ているとリリスは持っていた果実汁を一口、口に含むと有無を言わさず俺を引き寄せて口を奪いにかかる。
口移しするようにリリスの口から果実汁を飲まされて嚥下するがその後も口は解放してくれず、いつものように口の中を犯されるように神力を押し込まれる。
「う……ん…」
ずっしりと飲まされるその神力はさすがに大きいのでくぐもってしまうがそれでもリリスはやめなかった。
何度かそのまま神力を飲まされ腹に溜まる神力が暴れそうになる頃、リリスの口はやっと解放してくれた。
「……ん……」
喋ると神力が漏れそうになるのでそれ以上は言葉が紡げず、口を覆う事しかできなかった。
「ふふ、やはりお前の神力は癖になる甘さがある。極上だ」
暴れる神力を抑えてやっと言葉が出る。
「お前な…」
「言っただろう。毎日神力をやると」
「ふふ、随分と仲がいいのね。安心したわ」
「エリン様」
見るとそこには金髪蒼眼の妙齢の女性が立っていた。姿に覚えがあり、アルフの母だった。
「目を覚ましたようだから様子を見にね」
「エリン様、仲がいいというのではなくさっきのは…」
「わかっているわよ。リュウちゃんはずいぶんと痩せているようだからあげてたのよね」
「は、はい」
「ありがたいことだわ。リリスちゃんはそのために頑張って肥えていたのだものね」
「……………」
「リュウちゃんはもっと肥えなきゃだめなんだから拒否しちゃだめよ?」
「え、あ、ああ」
思わす肯定してしまう。
なんだか母さんにそっくりな性格のようだな…
「リュウちゃん。アルちゃんが後で今後の予定が聞きたいって言っていたから後で謁見のままでいらっしゃいな」
「アルちゃん?」
リリスがぼそりと耳打ちした。
「アルフレード様の事だ。誰でもちゃんづけだから気を付けろ」
「……わかった。後で行くよ」
「後でね!」
エリンは俺の頬にキスを落として名残惜し気に言って部屋を出て行った。
「なんだが今の俺の実母にそっくりな性格な気がする」
「そうか?」
「ああ」
「だったら、あしらい方もわかるよな?」
「……多分な。この城で最強の存在なんじゃないのか?」
「………その通りだ。この銀城であのお方の悋気に触って無事なやつはいない。お前が一番な御人だからな。特に穢れでアルフを失ってからお前という転生者に一番気をもんでいらした方だ」
「…………。そうか」
俺はなんだか嫌な予感が消えそうになかった。
俺は与えられた部屋からリリスを腕に伴い出るとリリスは意外なことを言った。
「この部屋、元はアルフの部屋だったんだ。穢れからアルフが転生して長い間封印されてた」
「!」
俺は驚いてリリスを見る。
「こんな奥が?」
「ああ」
「それでか、なんだか母君が通いなれた様子で入ってきたから」
「………!」
「?」
「今……。いや何でもない」
「おかしな奴だな」
謁見の間に向かう途中でリリスも今後の事が気になるのか聞いてきた。
「エリン様じゃないけど。お前、この後どうするつもりだ。エリン様は簡単には帰還させてはくれないと思うぞ」
「わかってる」
「なら?」
「この城ですることがある。先も言ったが俺にはアルフの知識は皆無と言っていい。父君や母君、姉や叔父君や叔母君、いとこのお前や他のいとこたちとか人に関することは大丈夫だが技能のすべては持っていないからもう一度学ぶ必要がある」
「それならこの城に図書室がある。アルフもそこで学んでいた場だ」
「そうか、その許可取りかな。そうしないとアルフがかろうじで遺した能力が無駄になる。能力は失われたが才能が失われたわけではないからな。ここで山のように叩き込んでアルフが見つけられなかった能力が開花するかもしれないからしばらくは勉強だな」
「勉強…ね。アルフは勉強嫌いだったから意外だな」
「はは、そうか。だが俺は結構、本を読むことはままあるからな」
「だが、この城の図書室は桁違いだぞ。自分に見合った書を検索しないと探すのに苦労するぞ」
「検索?」
「ああ、この神界の書はどれもそれぞれに意志があるからな。ふさわしいものが検索で寄ってくる。アルフは勉強嫌いということもあって書たちから嫌われていたがお前は違うかもしれんな」
「好みがあるのか」
「ああ」
そう雑談をしていると謁見の間に到着した。
衛兵が扉を開け大きな声で入室を叫んだ。
「次代宗主リュウ様、その妃リリス様ご到着です!」
俺はその声を聴いても立ち止まることなく歩を進めた。
「ふ、世界の王を務めているだけあって堂に入っているなリュウは」
「今更だろ」
「違いない。だがそのあたりもアルフとは大きく差があるぞ」
「そうなのか?」
「もちろんだ。アルフとは背も私のほうが高くて腕など組めない落差があったし、何度も胸を張って堂々としろと言っても丸めた背は治らなかったからな」
「それは記憶しているがここでの事なのか…」
「記憶にあるのか」
「一応な。広い場としか認識していなかった」
「そういう意味でも、私よりも少しとはいえ背が高いお前が嬉しいんだ。普通の女性に見えるから」
そうして段差の下まで歩を進めて立ち止まると声が掛かった。
「大丈夫そうで安心したぞ、リュウ」
「御心配をおかけいたしましたが休んだおかげで幾分か体が楽にはなりました、父君」
その俺の言葉になぜか嬉しそうな笑みがこぼれたアルフレードがいた。
「…………そうか。この後、どれくらい滞在できそうかな。できればもう少し長居してもらいたいところだが半人のお前ではこの世界の空気は厳しいだろう?」
「そうですね。慣れたとはいえ、消耗が激しい世界のようですから居心地が良いとは言えませんが、少しならば長居は可能です。帰還に関してもリリスが時間を設定してくれたので元居た時間軸には戻れるようですので時間はあります」
「そうかそれは良かった」
一瞬とはいえ、心底嬉しそうな顔を浮かべたのが印象に残ったおれだった。
「父君」
「なんだ?」
「この城に滞在期間中でよいので図書室に入ることをお許しいただけませんか?」
「図書室か。何故だ?」
俺は語った。
転生の際に技能の知識が失われたこと。能力を継承していても知識がないので全く使えないことなどだ。
「そうかそれなら問題はない。ここで渡したあの杖を持てばこの城はどこでも行ける」
「あの杖ですか…」
「ああ、あれは次代に決定したものにしか持てないもので、色々と能力がある杖だから今のお前にはとても助かる杖になるだろう。あの杖は次代育成の力と保護の力があるからな」
「ありがとうございます」
「ああ、それと今晩次代決定の祝賀パーティーが執り行われるから夕方には部屋には戻ってくるようにな。準備もあるから夕方になる前には戻らないと間に合わなくなる。主役が居ないと始まらんからな」
「はい、承知しました」
「集中すると時間を忘れることはアルフと同じようなので杖に設定願えますか、宗主様」
「む、そうなのか、それはいかんな。杖を持ちなさいリュウ」
「…はい」
俺は収納してあった杖を取り出した。
すると手に持っていた杖を使ってアルフレードが俺の杖に光を授けた。
「杖は持っていても持っておらずとも時間が来れば姿を現して光を放つ。それが時間の合図だ」
「………ありがとうございます」
そうして俺はしばらく図書室の住人と化したのだった。




