3-2
出遅れました。
お待たせいたしました。
翌日、意外に早くガブラス王子の返答が来た。
覇王武具の返還になぜか玉座を指定してきた。
そこで俺は気がついた。
この魔導国に本来あった物ではなく略奪等において戦利品として徴収したものなのだと。
なぜならば覇王武具は持ち主限定がついたものであり俺以外の誰も装備出来ないものゆえに魔術絵と共にセットになっているのもだからだ。
「本当に覇王武具なのかも怪しいのではないかと思いますので魔法武具の装備の許可をいただいております」
「偽物かもしれん。だが持ってみればすぐにわかる。持たなくとも目の前にすれば真偽ははっきりするさ」
「は」
「だが、ガブラス王子は信用したいが周りはそうではない。玉座に呼び出すことに意味があるかもしれん」
「罠かもしれないと?」
「ああ。とは言え、半分とは言え神族化している俺を害せることなどそうありはしないが用心はするべきだ」
「は、では守護の護服を纏われますか」
「ああ、あの服なら側使いにまで守護が働く。彼女を連れるのであれば万全にはしておきたいからな」
「了解いたしました」
守護の護服とは覇王セット装備の中でも群を抜くほどの守りに特化した装備だ。
あらゆる異常と呪文と技を妨害し無効化し排除する結界を常時発動する。
時空属性と空間属性が常時働くため周囲の存在もろともその影響はすさまじく覇王自身が身内と意識しているものにも守護が働く効果がある。
半面、隠密には向かない装備で周囲に影響を及ぼすため使いどころを選ぶ装備である。
覇王戦記にもたびたび戦場で活躍したと逸話が残る装備だ。
何故そんな装備が存在するかといえばひとえにウィリアムが貧弱だったためだ。
キバとタテの提案の元、作られた装備だった。
基本的な身を守る護身術を持つ俺はここまでの守護は必要になる場はあまりなく、過ぎるほどの守護なので出番はなかった。
だがここは敵国。それも少数の影兵しか傍にいない状態では万が一ということもあるのでこの装備でちょうどいい。
戦場での場を想定しているので実は最も地味な服である。
過度な刺繍はなく動きやすさが重視されている服で服の色も周囲の景色などで配色も変わる服だ。
戦場での会談も想定してあるので一応身を隠すためのマントは足首にまでかかるほど長い。
マントの背には唯一の刺繍の聖印が魔力糸と共に織り込まれているので背後からの襲撃も耐える設計だ。
そんな服を着た俺をリナは一言呟いた。
「地味」
「君ね…」
背後で笑うタテを横目で見たがお構いなしに彼女に言った。
「リナが先に城に戻らないと言い張るからこの服になったんだぞ」
「そうなの?」
「はい、この服は周囲の者を含めるほどの守護の力を持った服ですからこのような敵国では守護は必須です。我らの守りにも限界はありますので」
「………」
「俺の傍から絶対にはなれるな。ここでは何が起きてもおかしくはないほど俺は敵意を持たれているんだから」
リナは頷いた。
「今回の譲渡が終われば即、引き上げられる。それまでは我慢してくれ」
「ん」
「リュウ様、そろそろ予定の時間かと」
「ああ」
実は魔導国側から指定された時刻は昼以降の時間だったがそれは俺のほうで変更してもらった。
相手側の時刻ではわなを仕掛けるには好都合だからだ。なので時間を大幅に早めて早朝に変更した。
リナの変化もあるので魔導国でダラダラと時間を掛けたくなかったというのもある。
俺はリナとタテと影兵を二名連れて貴賓室から出た。
「おれからあまり離れないようにな」
「ん」
部屋を出たときに案内の侍女がお辞儀をして先導してきた。
しばらく城内を歩いていると服の守護が働いたのか軽い金属音が響いた。
「きゃ」
侍女が驚いて声を上げた。
おれは冷ややかに周囲を見回した。それらしい術師が見当たらないところを見て遠距離かと当たりを付けた。
「敵意が多すぎるな」
「は」
「大丈夫?」
リナが侍女に声をかけた。
「あ、はい。申し訳ありません」
再び歩き出すと今度は軽い頭痛が俺を襲った。
軽いので気に留めた程度だったがタテは警戒心を引き上げたようだ。
そして玉座のある謁見の間へと通された。
通された謁見の間にはガブラス王子に賛同する部下たちが居並んでいた。
どうやら一目俺を見たかったらしい。
何人居並んでいようともどうにかするだけの力量の差があるので警戒しつつも堂々と正面に座っているガブラス王子の元に歩み寄った。
そして声をかける。
「随分と壮観なお出迎えだな」
「申し訳ない、彼らがどうしても貴君の御姿を拝見したいと聞きませんでした」
「それでこの場というわけですか。気にはしていませんよ」
「そう言っていただけるとありがたい」
「で、目的の武具は返還してもらえるのかな?」
「もちろんだ」
ガブラスは手を挙げた。
背後から宰相と思われる男が手押し車を押してきた。
少し大きな箱が置いてあった。
俺とガブラス王子の間に置かれた。
「五百年ほど前に我が国に献上された覇王武具と思われるものだそうだ」
そうガブラス王子は言った。
「なるほど…」
「断定できなかった理由もこの箱の中身をどうしても開けることができず壊すこともできない箱で、鑑定結果では覇王の魔術絵としか分からなかったためです」
「想定内だな。恐らく略奪等で、もとからあった場から引きはがしたためだな。魔術絵の守護が働き、空間結界が発動したんだ」
周囲にどよめきが起こる。
「こうなるとどんなことをしても解除できないことになる。元々魔術絵に認められたもの以外には武具は触れもしないからおそらく絵を先にはがした結果起こったことだな」
「それでは…」
「心配いらん。こうなっては持ち主以外には解除できんが、おれは持ち主だからな」
おれは箱に近寄ることもなくその場で魔力を込めた掌を箱に向け翳した。
それだけで箱は白い光に輝き周囲を照らした。
箱は箱でなくなり敷板のようになって、中から金の腕輪が現れた。
その腕輪が宙に浮き俺の左腕にはまった。
【スキル魔法創造を取得しました。これに伴い、魔素創造と属性操作が解禁されました。流出特技技能全開放を確認しました。異世界権限が解除されました。更新しますか?】
更新?
【保留だ】
【了解いたしました。現状維持。常時更新可能です】
腕にはまった新しい腕輪を鑑定してみるとトリプルブレイブとあった。
前世ウィリアムが作った数少ない武器使用を想定した付与が付いていたものだった。
よく見ると右手にしていたソウルオブサマサと対になっているのか色違いの同じ装飾だった。
「どうやら本物だったようですね。よかった」
ガブラス王子がそう言って安堵していた。
「返却、深く感謝申し上げる」
俺はガブラスに向き合いそう言って収納の中から一つ魔法スクロールを取り出した。
魔法スクロールとは使用回数が限られた汎用品の魔導書だ。汎用品なので基本魔法屋で買うことができるのがスクロールだ。
下級の魔法はどの属性もスクロールで売られているが大体が一回の回数だ。
このスクロール魔法魔導書は特殊な生地を使った紙で作られているので結構値が張る。冒険初心者が習得できる属性を教会で調べても気軽に買える値段ではなく初心者が一月ほど稼いで貯めた金でやっと一つ買える程度だ。それでも流通しているにも理由がある。
スクロール以外の魔導書のほうが様々な属性もあり中級や上級に至ってはこの魔導書でしか載っていないのだ。
だが紙でできた魔導書は閲覧に許可がいるのは常識で、紙自体に守護が働いている。なかなか閲覧ができなかったりする。
貴族の独擅場なのだ。
それを防ぐためにスクロール魔法がシルファードの手によって開発された。
これにより平民上がりの冒険者でも魔法が使えるようになった。
辺境の貴族の収入はこのスクロール魔法に頼っているという話もよく聞く。
下級であれば回復呪文ですらも売っているので適性があるならば先ずは回復系の魔法スクロールがギルドでも推奨されている。
その上、職が術師系であればギルドでも支援が可能で、契約期間の間、借りることができる仮性スクロールも存在する。この仮性スクロールは持っている間だけその魔法が使えるというもので所持期間が設定されていて期間を過ぎると手元から消えギルドに戻る機能がある。
生き残りはギルドの売り上げに最も力を入れるものだから、術師育成に余念はない。
俺の持っているスクロールはどれも汎用品ではないので買えない魔法だ。前々世シルファードが作ったオリジナルだ。
「貰うだけでは借りになるので貴重な魔法のスクロールを受け取ってくれ」
俺はそう言ってタテに渡す。
タテはさらに影兵に手渡しその影兵が宰相と思われる男に手渡した。
「回数は三回使える。対人仕様の検索魔法だ。サーチの亜流の上位版に当たる呪文で中級の光属性に当たる呪文だ。汎用性は高いんだがあまり出回っていない魔法なんだ」
「そんな貴重な魔法をいいんですか?」
「構わんさ。その魔法は前々世の大賢者時代に創造した魔法だ」
「大賢者とはまさか大賢者シルファードですか?」
「ああ」
ガブラスはそのスクロール魔法を受け取り感極まったのかおもわず頭上に捧げるように持ち上げた。
「感謝します。わが国の英雄ともいえる大賢者様のスクロール魔法とは…!」
周囲に居た部下たちが驚きガブラスの持ったスクロール魔法を感嘆した様子で見ていた。
さすがにその様子に俺は驚くしかなかった。
「……………」
「驚かせてしまいましたね。我らは皆、大賢者シルファード様が我が国に残された偉業と国の在り方を讃えているもの達ばかりなので信仰にも似た思いがあるのです」
「おれは…」
「シルファード様はシルファード様。貴方ではない。過去ではあるのでしょう。記憶も持っておられるのでしょうし、その御力を継承なさっておいでということも理解しております。でも貴方は貴方でシルファード様ではない。そうでしょう?」
ガブラス王子たちは理解しているのだ。
知ってなお俺はシルファードではないと言い切る彼らの想いの強さを知った。
「ああ」
「我らはシルファード様のご遺志を、この国で出来なかったことを代わって成し遂げたいと思っている者たちばかりです」
おれはこの部屋にいる者たちを見まわした。
その言葉に嘘はないのだろうということは理解できた。
そのガブラスの言葉に頷くものたちやその強い意志の込められた目が肯定していた。
「…………。君らは強いな。シルファードがこの国の支配階級に愛想をつかし苦しみながら祖国を後にせざるを得なかったその事は、シルファードのその後の人生でも後悔という色で染められている事を成そうとしている」
「……苦難な道ということは理解しています。ですがあの方の弟子の末裔として恥じぬ行動をと、ここにいる者は皆思っている同志たちです」
俺はスキル叡智の魔術記を取り出した。
「それは…?」
ガブラスが光る本に目の色を変えた。
「これは記憶のスキル本、叡智の魔術記という。大賢者シルファードの記憶と感情と人生のすべてが本という形を取ったものだ」
「そんなものが存在するのですか…!」
周囲の者たちは驚いていた。
「貴殿らはすごいな。この本があるわけでもないのにこの国に置いた書だけで彼の後悔をくみ取るなど…そうできるものではない」
「貴殿にそう言っていただけると報われます」
おれは手にした本に手を翳す。
すると本は輝きを強め、光の塊が本から分裂した。
光の塊はその形を四角い分厚な本に形を変えた。
俺の両手に二冊の本がそれぞれ手に収まっていた。
「彼の歓喜が形を成したな」
「え…?」
「この本は記憶と感情と人格のすべてが収まる本。俺のスキルという形で彼の心はここにあるんだよ。その彼がとても喜んでいる。君らの力になりたいと」
片方の本が宙に浮いた。
その本はゆっくりとガブラスの手の中に納まった。
「あ……」
ガブラスはさすがに手が震えていた。
「その複製本にできることは限られる。大賢者として魔法が使えるわけではないもののその知識が君らの力になるだろう。忠告や迷った時の道標くらいにはなる。本という形を取っているが神聖級のアーティファクトだからそうめったなことでは傷一つ付かない上に心があるからな。君らが持つに値しないと本が判断すればその本は消えるだろう」
「こんなすごいものと戴いてもいいんですか?」
俺は笑みを浮かべた。
「彼の意志だ。君らの想いの強さが彼を動かした。俺はきっかけを与えただけだ」
「感謝いたします」
ガブラスはさすがに椅子から立ち上がり首を垂れた。
その場に居た部下たちが倣うように一斉に首を垂れる。意識したものではないはずなのに揃っていたことに驚き、おれはさすがに首を横に振った。
「そう思うならこの国をシルファードの夢見た国に近づけてくれ。そうすれば俺にもその恩恵はくる」
「はい」
ガブラスは極上の笑みを浮かべた。
「良い会談だった。この国での用も済んだのでこれで失礼させてもらいますよ。新たなる魔導王殿」
おれはそう言って謁見の間をタテとリナと影たちを連れて後にした。
そのまま俺は城を出たその足で自分の城へ転移し戻ったのである。




