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そうして数時間俺は飽きがこないまま少女の寝顔を傍で見ていた。
自分の居る場が決して安らげる場ではないので離れることもできず、かといってうたた寝ができるはずもないのでただ細い手首を握っていることしかできなかった。
その間に影たちが召喚魔方陣のありかを突き止めることにも成功していた。
なぜ陣を探していたかといえば複数回、陣を使っているにもかかわらず効果が切れていないからだ。
つまり許可がいまだに下りたままなのだ。
それはさすがにアルフを引き継いだ者として無視できることではなかった。
とはいえ、ありかを突き止めただけでありさすがに影たちと言えども、陣のある部屋に立ち入ることができてはいなかった。
そんな数時間後、少女リナが目を覚ました。
目を覚ました気配を感じて俺はそっとのぞき込んだ。
「どこか痛い所やおかしなところはないか?」
さすがに俺の存在に驚いたのか目を見開いて驚いたようだった。
返事がないのでもう一度念を押した。
「痛い所とかないか?」
少女は自分を見回して頷いた。
「ない」
さすがにホッとした俺は自然と笑みが浮かんだ。
「よかった。さすがに息をしていなかったから癒しが効いていなかったらどうしようかと思った」
不思議な顔をしていた。
「君、俺が来た時には一度死んでいたんだよ」
そう言葉にしても彼女は不思議な顔のままだった。死んでいたと聞かされても不思議でしかないのだろう。
「助けてくれた…?」
「ああ」
その言葉はこの世界の言葉ではないことに気がついていた。
「俺は君の言葉を理解できる言語自動翻訳スキルがあるから何でもないが、この世界の言葉は喋れないのか?」
「聞く…できる。喋る……少し……不便」
この世界の言葉で話したが片言だった。
単語だけなのだろう。
「ふむ」
おれは顎に指を置き少し考えた。
「君が何者なのか非常に興味深い。この世界の言語は一つしかないのでな。言語自動翻訳スキルを持つ者は異世界からの異邦人以外にはありえないんだよ」
おれはそう日本語で答えた。何故ならば彼女が話した言葉も日本語だったからだ。
「!」
「この言葉も異世界の一地方の言語でこの世界で操る者は異世界召喚で現れた四人の勇者だけだ」
リナは驚いていた。
「君は、異世界転生者…だな。それもかなり不完全な転生だったらしいな」
「どうして……」
「おれも異世界転生者だからな。それにわかるんだよ。転生に関わる事で俺以外に関われる存在は絶対にこの世界には居ないからな」
「……………」
「というよりも君がこの世界に転生したのも俺の力のせいだろうな。そこまで気がつけば君が誰なのかもおのずと答えは出る」
「……………私は…………」
リナはギュッと寝具を握った。
その所作を見ておれは優しく笑う。
「きみが誰なのかは聞くつもりは俺にはない。君が答えてもいいと思う時まで待つさ」
「……………。どうして?」
「……それよりも、すまなかった。俺の無意識の力で君を無理にこの世界に転生させてしまったことに変わりはない」
「………」
俺を見ていた彼女の視線が手元に落ちる。
「今世の人生は君の物だ。君がどう生きるのも君自身で決めてゆけばいい。もう、君を拘束するつもりはない。今の俺には君とのつながりは魔人族とその王というだけだ」
「…………」
「でもその前に不完全な君の転生を完全にする必要がある」
俺はそう言って彼女の顎に手を置いた。
有無も言わさず彼女の唇に自分のそれを重ねた。
口から神力を使ってスキルを授けた。
今の自分は神族としては不完全なのでどうしても授けるには身体的な接触が必要だった。
ついでに魔人族の祝福も授けるのを忘れなかった。
彼女の手のひらが無意識に俺の肩に縋ってきた。
そんな仕草も懐かしかった。
お互いの唇を感じあってなかなか離すことができなかった。
それでも名残惜し気に離し、彼女を見下ろすと少し頬を染めた彼女に心を奪われた。
「……………!」
自分の頬が染まるのを自覚した。
首を横に振って熱を散らし、彼女から離れて背を向けた。
見るのが辛かったからだ。見れば、また心が奪われるのはわかり切ったことだからだ。
「この国は君にとって最悪な国だ。俺の国に送り届けた後は君の自由だ。言葉の壁も取り払った。魔人の祝福も与えたから時期が来れば成人するだろう。それまではすまないが俺と同行してもらう」
「成人……?」
俺は背を向けながらも頷いた。
「魔人族は成人体になるには王か王一族の祝福が必須の種族だ。祝福がなければ未成長の子供の体のままなんだ」
「あ」
リナは心当たりがあったのか納得したようだ。
「特に君は魔王族で俺という王以外では受け付けない血筋だ。苦労したんだろう事は想像に難しくはない」
「…………………」
「君の事でこれ以上この国が関与しないように手を打っている。君はこの世界でも絶滅したと思われていた種族の唯一の王族だ。だからこそ所在だけは把握しておく義務が俺にはあるということは覚えておいてくれ」
「どうして背を向けるの?」
「…………」
「私が嫌い…?」
「……それは君のほうだろう……」
俺は首を横に振った。
「嫌いになれるならどんなに楽か……」
リナはその言葉で俺の背にもたれるようにしがみついてきた。
温かい体温が俺の背に伝わり焦りと嬉しさとが入り混じって鼓動を早めた。頬も真っ赤に染まっているだろう自覚があった。
「でも、今世は今世。前世とは何も関係はない。君を縛りたくないんだ。今世の君には自由に生きて欲しいんだ。俺自身で君の、リナの未来を狭めたくない」
「結ばれなくてもいいと…?」
俺は頷いた。
「………君が俺の傍に居たくないだろうことはわかるから、俺のこの想いはいずれ封印するつもりだ。俺の事は気にするな。今世の君には今度こそ自由に幸せになってほしいんだ」
「………………」
リナは何を思ったか背からもたれるのをやめた。
俺は離れてくれたことに安堵しつつ離れた体温が酷く寂しく感じた。
だが、離れたのは一瞬だけだった。
後ろから頭を抱えるように小さな腕が首を回してきた。
そのまま耳朶をかまれた。
俺はさすがに大きく体を揺らしてしまった。
「!」
耳朶に温かい濡れた感触とかかる息に顔がさらに真っ赤に染まる。
「…………よせ…」
さすがに息が乱れた。体が震えてしまった。
しばらくリナは耳朶をもてあそんだ。
俺は震えて目を瞑るしかできなかった。
俺の反応に満足したのか耳朶を解放したその口でリナは息をかけるようにしゃべる。
「ここが弱いのは今世も変わらないね。隆は」
「……………!」
「この世界に落ちて何度か君を恨んだこともあった。両親を持たない子供としてこの世界に転生して何度も奴隷にされた。そのたびにリュウを恨んだ。それも事実」
「…………」
「それでも自殺して死んだ私に新しい体をくれたその事実も変わらない」
「そうだとしても…」
俺の言葉を遮ってきた。
「どうして死なせたままにしてくれなかったのかと恨んだこともあった。でも恨んだ数だけ恨んだ深みの分、リュウを愛してる自分が今も居る。この世界の自分の境遇をリュウのせいにしていただけ」
「!」
「私はリュウを傷つけてしまったんだと今、気がついた。自殺したことでリュウすらも否定してしまったと気がついていなかった」
「………」
「リュウには感謝してる。やり直す体をくれた。それだけでなく前世で私の罪を受け止めてくれた事には申し訳がないとさえ思った。だから自分が許せなかった。私の罪を受け入れたばかりか赤の他人の子を孕んだこんな自分がリュウの傍に居てはいけないとそう思って…私は、香里菜は自殺したの」
「………か、りな…」
俺はさすがに驚き聞き入った。
「隆には自分の事なんか忘れて幸せになってほしかった。それは私のエゴなのかな…。ごめんなさい」
俺は彼女の腕を軽く触れる。
「エゴ……そうかもしれない。でも一つだけ言えることがある。君が死んでも俺は香里菜を忘れることはなかった。今世で俺を愛してくれた女性はたくさんいる。彼女らは俺にとっても大事な存在であることも事実だ」
「知ってる。六人の側室は有名だもの。うれしかったかな。リュウが他の人を愛せるんだと思ったら」
「彼女らに期待したのも事実だ。俺の胸の奥に居る香里菜を忘れさせて上書きしてくれるかと」
「…………無理だったの?」
「死んだ人に勝てる人はいない。それだけは痛感したよ。過去が変えられないのと同じだ。君ですら上書きすることしかできない。忘れることなんて出来るはずがない」
「だから封印すると?」
「……ああ。……君の未来を想うならそうするべきだ…」
リナは思い切り俺の首を横に向ける。
さすがに俺は痛みから呻きが漏れた。
「……そんな封印要らない。ここでリュウとやり直せる。この世界で私の初めてをあげることができる。それはとてもうれしい」
「……かり……」
唇をふさがれた俺はされるまま、彼女は俺の口の中を味わいつくした。
夜もしたたかに更けていた。
周囲の警戒をタテと影たちに任せて少し仮眠することにした俺は蘇生して間がない彼女はとっくに意識が途切れていたので小さな体を抱えるように横抱きに抱いて目を閉じる。
転生後、彼女はいろいろあったのだと話してくれた。
彼女が転生してから三百年近くたっているという事にも驚かされた。
どうやら転生の際に時間を前に横滑りした可能性が高い。
本来の祝福を早くに貰えていれば彼女の体も違った可能性があるが三百年近くたっているとなれば成人化するときに大きな負担になる可能性が高い。
経過年数で成人化時の成長具合も大きく幅が出るからだ。
実年齢とさほど変わらない時に祝福を貰えば変化はほぼないのでヒューマと同じような成長を遂げるので負担はないのだが経過すればするほど大きな変化が出る。
止まっていた歳月分だけ取り戻すように大きく急激に成長するのだ。
三百年ともなれば最大の成長をするだろう。
彼女の変化が現れる前に早々に城に戻る必要に迫られていた。
魔人族の子供は基本、角はないのでヒューマと変わらない姿だ。祝福を貰って初めて角と羽根が生えだす。
彼女は魔王族なので三本角になる。片方だけ二本生える形だ。普通の魔人族は二本で王だけが四本角。魔人族として力が強ければ強いほど角も増え、頑丈になる。
俺の場合も四本の角があるがどの角もオリハルコンよりも強い強度があり角を武器で破壊しようとしても武器のほうが壊れるというほどの強度がある。
過去魔人族刈りでヒューマに狩られた時代は魔人の角が武器加工されたという逸話さえある。
彼女は断末魔で無意識に王召喚をしたほどの能力がある。
故に彼女の角も強度は出るだろう。
安全な、他の魔人族の居る城で変化を見る必要が出てきているのだが、彼女が俺から離れそうもない。
それはタテも同じように思っているのか早々にこの国を出たがっていた。
それもあるので彼女には自身に変化の兆しがあれば城から迎えをよこして先に城に行かせると明言してある。
俺としても早々に魔導国にある覇王武具の回収を早めたいところである。




