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城に戻ったクリス達一同は宙に浮いた銀の本を見つめていた。
その本はパラパラとページがめくれていくとやがて本は最後のページを開けた。
銀の本のページが動くのをやめると金の綴じ紐がない青い本がひと際輝いた。
周囲に浮かんでいた赤の本と黄の本が輝きを増すと青い本に重なるように消えると青い本はその厚みを増した。
その時リュウが目を覚ました。
まだ意識がはっきりしないのかぼんやりとしていた。
「リュウ…」
クリスがそんなリュウをのぞき込んだ。
クリスはリュウをのぞき込むようにその目を見るとリュウの目が碧に変化していた。
「あら、目が碧色になっているわ?」
「え?」
代わる代わるステラたちがのぞき込むが、リュウはなぜかぼんやりとしたまま反応が薄かった。
「リュウ…どうしたのじゃ?」
さすがに反応がないのでリューイが頬を両手で覆うように手を置く。
そんなリューイを見えていないかのように腕を動かして銀の本へと手を伸ばすリュウ。リューイは少し横にその体をずらすとリュウの手は銀の本へと触れる。
その時銀の本はひと際輝き、金の綴じ紐がその本を十字に綴じた。
タイトルは【大魔王の詔】だった。
やがてそのまま銀の本は青い本へと同じように重なるように消えると青い本はさらに厚みを増した。
そしてリュウの意識が浮上したのかその目は意志が込められていた。
体を上半身起き上がるとリュウはその青い本に触れる。
すると青い本はリュウの手のひらに収まった。
その青い本にタイトルはなく無地の題目が一行の目を引いた。
「何も書いてないわ」
リュウはその青い本の無地の題目に手を触れると字が浮かんできた。
だがクリス達にはその文字が読めなかった。
「なんて書いてあるのかわからないわ。見たことのない文字ね」
「どんな文字?」
海がのぞき込んできた。
「あれ、この字…」
覚や麗奈や優美ものぞき込んできた。
「「「日本語」」」
三人ともその字が読めた。
タイトルは日本語でこう書かれてあった。
【侍の備忘録】
そこで初めてリュウが言葉を発した。
「前世、工藤隆の人格と記憶の本だ」
手にしていたその青い本に手を翳すと金の綴じ紐がその本を縛った。
やがてそれがきっかけだったのか青い本は再び金に輝きだした。
リュウの手から離れ、宙に浮くとその本の色が徐々に変色していく。
その色はひときわ輝き金の色へと変化した。
やがて銀の綴じ紐がその金の本を縛る。物理的な音をたててリュウの手のひらに落ちてきた。
タイトルは【神の讃歌】とあった。
だがそのタイトルはリュウ以外には読めなかった。
「なんて書いてあるのかな」
海が聞いてきた。
「…………………。神の讃歌と神代文字でかいているんだ」
おれはジッと本を見ていた。
「神代文字?」
「神のみが書き、読める神の文字。文字自体に力が宿るため大いなる文字と崇められてきた字だ」
おれは本を持つ手が震えていた。
「読まないといけない本なんだが………。読みたくない」
「どうして…?」
ステラが震える俺の手をそっと上から握って聞いてきた。
「この本を全て読み終えた時、おれは………」
俺はそれ以上、どうしても言葉にできず俯き首を横に振った。
それでも言わなければいけないことだったからだ。
ふり絞るように呟いた。
「俺は…………………。人を捨てることになる」
「え」
一同は言っている意味がよく分からなかったのだろう。沈黙が答えだった。
「人を捨てる…?」
「ああ、人でなくなるということだ。神覚醒し人の身を脱ぎ捨て、神族へと変化を遂げてしまう」
「変化するとどうなるのですか、リュウ様」
キバが聞いてきた。
「姿は何も変わらない。だが、神族はヒューマの、人の千倍以上の寿命を持つ種族。生きる時間軸が大幅に変化する。それだけでなく、己が作った世界に降りることは基本、禁じられている。故に神界へとその身が置かれる」
「それって………」
さすがに俺の言いたいことが分かったのだろう。クリスが震えだした。
俺は両脇に座っていたクリスとステラを抱いた。
「永遠の別離。二度と会えなくなるということだ」
「それは………嫌じゃ」
「嫌ですわ」
「離れたくないわ」
「嫌だよ、そんなのは嫌だ」
そこにいた全員が同じ意見を言った。それを聞いた俺は嬉しかった。
「俺だってみんなと共に居たい。だから読みたくないんだ。でも読まなければいずれこの世界は終わる。神の居ない世界は無いから…」
「リュウ様…」
「いずれは全てを読破しなければならないが今は少しだけ…、少しだけ読む。そうしないと、この世界はあまりにも俺の神力が足りなさ過ぎて荒れているから…」
「荒れている?」
海が不思議に思った。
「そうだ、この世界は神力不足で荒れている。神力不足だから魔物が蔓延っているんだ。神力が満ち足りている世界に魔物は出現しないんだ。地球のようにな」
「あ……、そういう事なんだね…」
「地球といえばリュウ様たちの故郷の異世界ですね」
「そうね、日本には昔は妖怪という魔物がいたというけど今はどこにもいないものね…」
「神力が満ちたからいなくなったんだ。今から読むから海、優美でもいい、姿が変わったらすぐに本を、俺を止めてくれ。姿が変わる前でもいい。異世界の人間でないと止められないんだ。読みだしてしまえば俺には止められないから……」
海と優美は頷いた。
それを知ったステラとクリスは場所を海たちにあけた。
このベッドサイドでは本を読むには環境が悪いと判断した俺はベッドから起き上がる。
「兄さん?」
「場所が悪い、隣の部屋にある椅子のほうが良い」
「そうね…」
「リュウ様」
タテが乱れた俺の衣服を直しにかかった。
ローブ姿なのですぐに終わる。
それを待ってから俺は隣の部屋にある長椅子の中央に座った。
隣の部屋には俺が目を覚ましたことを知った母さんもいた。
乱れた俺の髪を軽く整えてくれた。
「安心したわ」
「ごめん、母さん」
「いいのよ」
部屋の隅で立って何か起こるのだろうと見つめていた。
「でもその本、スキルよね。触れるの?」
本を見ていたフローラはもっともな意見を言った。
海は俺の隣に座って恐る恐る本に触る。
「あ………、触れるよ」
「本当ね」
優美も触って確認した。
「俺が触っている時点で物理的な存在があるんだろう。読み終えると取り込む形で消えるがそれまでは本自体に力があるからな」
「閉じたらいいのかな、兄さん」
「ああ」
俺は手の中にある金の本を見た。
物理的に綴じ紐が鍵の役割を持っているらしく俺にしかこの紐をほどけないようだった。
本の中央にある鍵穴のような綴じ紐の結び目にある金属に指で触れる。
「どう見ても鍵穴だよね、これ」
「誰にでも触れる半面これは俺にしかほどけない封印だからな」
「どうやって解くの?」
俺は指先に神力を込めた。
同時に姿が魔人姿からアルフ姿に変わる。
さすがにその姿に一同は驚いた。
「神力を使うとどうしてもこの姿に変わるらしくてな」
「そ、そうなのね…」
指先に込めた神力を鍵穴に注ぐと綴じ紐はゆっくりとおれの頭の上部をくるくると回るように移動していた。
俺の姿はヒューマ姿になっていた。
綴じ紐がなくなった金の本をじっと見ていた。
左手で本の背をもって右手で表紙に手をかける。
その手は震えていた。
右手の震えが止まらないので右手を何度か握りこぶしを作っては開いて震えを止めようとした。
右側に座っていた優美がその手をそっと握った。
「優美…」
「大丈夫、絶対に完読させないわ」
海がうなずく。正面にいた覚と麗奈もしっかりと頷いた。
「止めます」
「……頼む……」
その彼らの強い意志を感じ少し安心できたのか震えが止まった。
おれはゆっくりと表紙をもって開いた。
すると本は少し発光して俺の左手から少し浮いた。
初めはゆっくりページが自動で捲られていった。
本の影響からかおれは身動きができなくなった。
俺は頭に刷り込まれるようにしてアルフの過去が刻み込まれた。
徐々にページの速度が上がりだす。
速度が上がるとなぜか俺の息も荒くなりだす。
「………くっ…」
思わずうめき声が上がってしまう。俺の全身が淡く輝きを纏いだしていることに俺は気がついたがどうすることもできなかった。
俺は気がつくことができなかったが海たち4人はその本を閉じようと4人がかりで力いっぱい閉じてくれたようだ。
本が閉じられると動けなかった体の自由が効き、その反動から力が抜け背もたれに沈み込んだ。
本はおれの膝に落ちるように置かれた。
荒くなった息を整えていると傍で見ていたクリス達が声をかけてきた。
「4人がかりでないと閉じられない本なんて見たことがないわ…」
「それだけその本の力が桁違いという証明にもなりますか…」
キバがそう言った。
右側の優美の体温を感じた。
おれは4人を見た。
それぞれ息を荒くしていたようだった。
「助かった…。あれ以上進めていたらさすがに取り返しがつかなかった…」
「……ビクともしなかったからさすがに焦ったよ…」
「……だな」
優美の肩に腕を置いて寄せた。
「……………。異なる世界の人のみが異界神に干渉することが許されているんだ」
「それって大魔王討伐にも関わっているの?」
「もちろんだ。人とは言え、神力を持つ者を殺すことはその世界人では不可能なんだ。俺にも言えることだが神力を持つ者の殺害をするには異世界人でなければ実現しない。だから魔導国は海たち異世界人を召喚して俺を殺そうとしたんだ」
「俺たちの召喚にそれほどの意味があったんだ…」
「良くも悪くも神に干渉できるのが異世界人の特権でもあるかな。今みたいに神の行動を阻害できるのも異世界人だけなんだ」
「転生する魂がこの世界の神であることは魔導国も知っていることですしね」
タテが言った。
キバがそれを引き継ぐ。
「魔導国は神というより邪神と扱っているようですが、神殺しを画策していることに変わりはありませんよ」
「バカな国だ。創造神を殺せば世界も維持できん。神を殺してもイヴ神がいると考え世界は維持すると思っているのだろう。それをかの国は知らんのだ。かの国は大魔王を殺した過去を懐かしみその栄華が欲しいのだろうな」
「ともかく、リュウ様が魔人王として力を取り戻したとかの国は気がつくはずです」
「だろうな。おそらく事態が動くだろう。フィニアスと協議する必要が出てくるな」
「戦争になるの?」
「できれば避けたいところだな。その為の協議だ」
「じゃのう。戦争をしても得など無いからの」
おれは部屋を見回して気がついた。
「…………………」
「どうしたの?」
おれは見回して周囲の異変に気がついた。立ち上がり3階の部屋を見回りだした。
「どうしました?」
最後に階段を見てうなだれてしまった。
「やばい…」
「?」
クリスが俺をのぞき込んだ。
母さんも俺をのぞき込んで聞いてきた。
「何か粗相でもしたのかしら?」
「いや、……その…」
椅子の上に置いた金の本を手に取りじっと見てから綴じ紐をすると収納に仕舞った。
「まずいことになった……」
「どうかしましたか?」
キバが聞いてきた。
俺はバツが悪く頭を掻いた。
「この3階だけ聖域化してる」
「え」
「聖域ってエデンやイヴァースのような?」
「ああ、本を読みすぎたんだ。本の活性化で聖域化したらしい」
「それは…」
「一握りの存在しかここに上がってこれない。あの階段前の扉が境になってる」
「…………」
「あらま、それはこまったことになるのかしら、リュウ君?」
「問題ないじゃろ」
「そうですね。もともとこのフロアはここにいる者と使い魔の女官しか上がっては来ませんし…。使い魔であれば上がってくることも普通にできますから」
「いいんじゃない?鉄壁の結界が張られたと思えばね」
「魔力も使えるようですし、問題はなさそうですね」
「なってしまったものは仕方ないか……。母さん」
「なあに?」
俺は母さんに近寄りその頬にキスをした。
「あら、嬉しいことしてくれるのね?」
頭を掻いた。
「俺の祝福。それないと、ここに入れないからさ」
俺は一同を見回して麗奈だけがない事に気がついた。
「麗奈も」
「わたし?」
「ああ」
麗奈にも頬にキスを落とした。
麗奈を解放してちょっと驚いていた俺だった。
「どこで海と覚に祝福なんてしたんだが……」
「え」
「祝福って…?」
頭を掻いた。居心地が悪い空気だった。
「さっきのキス。あれは神の祝福の力があるんだ」
「キスに祝福の力?」
「ああ、キスには神力を操る力があって意識しなくても祝福の効果がある。この祝福、聖域に入るための条件なのと状態異常をかかりにくくする効果と持っている属性の効果を高める力があるんだが…」
俺は考える。
「側室メンツがあるのは当たり前だが、海と覚にいつそんなキスをしたんだか覚えがないんだ」
「キスが祝福なんだね?」
「ああ」
「それならありますよ。隆さんが深酒して酔っぱらってキス魔になってしまいましたからね」
「うん」
「深酒って、あのときか…」
エジャルナに到着したその夜に深酒をしたことを思いだした。
「兄さん、酔っぱらうとキス魔になるのは変わらなかったからね、あの時は慌てたよ」
「まじか…」
頭を俺は抱えた。
キス魔の癖が転生しても変わらなかったことに愕然とした。
「もう酔いたくない」
クリスは俺の背中を宥めるように触ってきた。
「まあまあ、身内で済んだことでよかったじゃない」
俺はクリスを見た。
「……………。ちなみにな、おれと体の関係を持ったものは巫女と呼ばれるんだ。神の巫女。その身には神の絶大な祝福と恩恵を授かり不老になる」
「え」
「不老じゃと?」
「不死の伴わない不老。絶大な祝福も持つから生半可なことではその体を害せなくなる。これから先、俺と関係を持つということはそういうことだ」
「巫女から生まれた子はどうなるのじゃ?」
「……どうもしない。普通のヒトだ。少しだけ老いが緩やかになる程度…かな」
「なら問題はないのう」
「少し本を読みすぎたんだ。俺は軽くヒトから逸脱してしまったらしい。これ以上、歳は取れないだろうな」
自分の手を見ての感想だった。
おれはその数日後、中断していた大賢者の転職のために天職の間で大賢者として転職をはたした。




