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試練の間で魔王族と化したリュウの意識は戻らなかった。神殿の一室で2日ほど様子を見た結果、戻りそうにない事を確認したタテは覇王城のキバと相談した末に一旦、転職を中断し城へと戻ることとなった。
覇王城へ移送する当日になりキバがリュウの眠る部屋へと入るとそこにはイヴがいた。
イヴはリュウの鼓動を聞いているのか目を瞑り動かなかった。
「イヴ神様…」
「連れてゆくのね…。アルフの神官長」
「はい」
「このまま眠りの元凶を取り除くこともできます…。でも彼の意志は何よりも尊重すべきこと…。彼は全てを取り込み受け止める覚悟をした。かれは目を覚ませば一つの選択に迫られるでしょう」
キバの後ろにはクリス達もいた。
「選択…?」
「その選択は不可避。先送りにすることはできてもその選択は彼の存在を決める重要なもの。逃げることはできないのです。その選択の末にあなた方の未来も決まる。私の行く末すらも」
「イヴ神様」
「聞いたのでしょう。彼の分身から私は神ではないと」
「ええ」
「その通りです。私はこの世界の管理者。アルフ神が己の神力を穢して以来この世界の安定と管理をアルフよりその権限を代理執行する役目を負った存在。役目があるから存在を許されている意志無き道具。人でも神でもありません」
イヴはそっとリュウの頬を撫でる。
「彼は5千年間私が待ち続けた存在…。彼の居場所は私の居場所。それを心においてください。アルフの神官長と巫女達よ」
イヴはそう言ってリュウの唇に自分のそれを重ねた。
その時恐ろしいほどの力が動いた。
ゆっくりとした動作で唇と離すとイヴはさらに言葉をつづけた。
「わが身とかの御身に関することは口外を許しません。できないでしょう。本来ならば記憶を消すのが一番の選択なのですがそれは彼が選択しなかった。受け入れるのであれば是非もない」
イヴはそう言うとリュウから離れた。
そのまま空に消えていった。
城へと移送されたリュウは自室へと運ばれた。
城へ戻ってもなおリュウは目を覚まさなかった。
二週間過ぎてもなおリュウは目を覚まさなかった。あまりにも変化が起きずさすがに何もせずにはいられなかった。
そこでリュウより手渡されていたエリクサーを使うことにしたのである。
エルフ郷より戻って以来リュウは時間があればエリクサーを作っていたのでそれなりに量があったからこそできたのである。
なかにはエリクサー改もあったがそれはさすがに量があるわけではなかったので使用はしなかった。
何かが変化があればと願っての事だった。
それはクリス達や海たちも同じ想いだったので3階のリュウの自室にメンツが揃っていた。
二週間眠っている間リュウに変化がなかったわけではない。
頭部から覗く4本の漆黒の角は初め、気がつかないほどに小さかったのだが二週間後には大きく成長しており、リュウの眠るベッドを傷つけるのではと思えるほどに成長していた。
そんなリュウの首を抱えてゆっくりとエリクサーを口から流し込んだキバはリュウの様子をジッと見つめつつゆっくりとベッドに下す。
一同はかたずをのんで注視していた。
何も変化が起きそうにないので一同が落胆しかけていた時だった。
「…………………う……………」
リュウの顔がわずかに傾き、眉根が寄りうめき声が漏れた。
意識を失ってから初めて起きた変化だった。
リュウの右手と左手をそれぞれ両手で握っていたクリスとフローラは心配げに声をかける。
「……リュウ……」
その時リュウの全身が淡く金色に光り輝く。
その金の輝きはリュウの胸の上で光の玉となり一冊の本となって姿を現した。
光の玉はなおも出現し合計4もの光の玉が現れた。
その光の玉はそれぞれ一冊の本に変化する。
4つの本はそれぞれ本の色が違っていた。
赤、青、黄、そして銀だった。うちの二冊赤と黄色には金色の綴じ紐が十字に本を縛っていた。
「なに、この本…?」
「二つの本には見覚えがありますね。この赤と黄色の本はおそらくウィリアム様と大賢者シルファードの記憶のスキルですね」
本に興味を持ったのかクリスが触ろうとしたが触れなかった。
「触れないわ」
しばらく様子を見ていると銀の本がゆっくりと開いた。
パラパラとページがゆっくり自動的に捲られる。
そのページがある場所で止まると、ひと際周囲を遮るかのような閃光が辺りを包んだ。
その場にいた一同は全員別の場所へと誘われていた。
閃光がやむと天井が真っ黒になるような高い城のような場所に一同は立っていた。
『なんだここ?』
『私たち透けていない?』
ステラが自分の手を翳し気がついた。
『本当だわ…』
キバとタテは辺りを見回し警戒を強めた。
そこで周囲にたくさんの魔人族が跪いていることに気がついたタテとキバだった。
『魔人族…ですか』
『そのようですね。これほどの魔人族は見たことがありませんからこれは過去でしょうか』
魔人族と気がついたのには理由がある。同族ということもあるが全員が黒い角を持っていたからだ。魔人族は角の出し入れが可能な種族である。
角を出し、首を垂れるのは敬意を払い忠誠を誓う存在のみである。
魔人たちが跪いているほうを見ると三段ほど高い位置にある豪華な椅子一脚に腰かけている人物がいることに気がついた。
4本の角をもったその者は角を捧げられることが当たり前のように玉座と思わしきひじ掛けに肘をつき指をひじ掛けで鳴らした。
跪いていた魔人たちの先頭にいた者が彼に声をかけた。
「王よ、お考え直してください!」
「ダメだよ。もう決めたことだからね。変えるつもりはないよ」
「なぜですか。なぜ、ヒューマの勇者に討たれることをお望みになるのですか!」
「そうです。我らには王が必要なのです!」
ざわざわと口々に声を荒げる魔人たちを王と呼ばれた彼はため息をもらした。
「それも言ったはずだよね。俺はもう生きるのに疲れたんだよ。俺をお前らが殺せない以上、ほかを頼るしかないだろう?」
「ですが!」
「うるさい。もう決めたんだよ。おれはこの生を終え、浄化の転生に臨むと」
「アルフ様…」
「なぁ、キバ。お前、何代目だっけ?」
「は、私はアルフ様より頂いたキバの名を五代目として継承いたしました」
「うん、お前の曽祖父を拾って名付け、育ててから千年たったね」
「は。我が血族はアルフ様に多大なる感謝と共に永の忠誠をお誓い申し上げております」
「運がよかったよね。神官長の血筋を拾って救えたことは本当によかったよ。だからこそお前にしか頼めないことだろう」
「アルフ様…」
「おれは生まれてからこの二千年ずっとこの地上に生きていて疲れたんだよ。そろそろ本格的に転生を始めないといけないことくらい、君らも理解しているはずだよね?」
「それは、そうですが…」
「……………。キバ。俺の前身は何か答えてくれないか?」
「………偉大なる世界の創造神アルフ様です…」
「わかっているならいいよ」
さすがにクリス達はその言葉に驚いた。
『どういう事…?』
驚く一同を置き去りにするように魔人たちの会話は続いた。
「俺は穢れた神力を浄化するために転生をしてこの魔王族に生まれた。おれは始まりなんだよ。始まりの転生者。始まりがあるのなら終わりもあるってこと」
「アルフ様…」
「この二千年苦痛でしかなかったよ。穢れのせいで老いは止まり、中途半端な神力のせいでなかなか死ねない。ヒューマたちは俺を邪神の使いの大魔王と恐れる一方でこの世界は長く戦乱が続きすぎた。すべて俺のせいだよ」
「ヒューマがアルフ様の事を忘れてしまったのがヒューマどもの最大の罪です。己が創造神様を忘れ邪神などと蔑むのがいけないのです。アルフ様のせいなどではありません!」
アルフは首を横に振った。
「ヒューマは元々、忘却と未知の種族。二百年もたてば忘れる種族だ。仕方のない事なんだよ。お前らは俺が死ねる唯一の機会を無駄にする気なのかい?」
「…………………」
「ヒューマの勇者は異世界よりの異邦人。唯一、俺という神殺しを可能にする存在だ。この機会を逃すわけにはいかないんだよ。お前らが俺のことを思ってくれることはとてもうれしいよ」
アルフは柔らかな笑みを浮かべていた。
「アルフ様…」
「俺はね、君ら魔人族もヒューマもドワーフも獣人も竜人もみんな俺が作った可愛い子たちだ。そんな子たちが争うのはもう見たくはないんだよ。わかってくれ」
魔人たちはすすり泣き始めていた。
「さ、もうこの城を脱出しなさい。明日には勇者が近くにまでくるからな」
一気に周囲が暗転した。
『どこかにリュウ様がいるはずなんですが見当たりませんね』
キバが確認するように呟いた。
『ええ』
周囲が明るくなり玉座にはアルフと小さな稚い少女と5代目のキバがいた。
「父様…」
「元気でな。イリーナ」
「嫌、離れたくない…」
しがみついて離れそうになかった。アルフは仕方なく魔法で眠らせキバにその体を預ける。
「キバ、イリーナを頼むぞ。唯一の魔王族の血を引くこの子はお前たちの生命線ともいえるのだからな」
「は」
「これから先、魔人族は苦難の道しかないであろうよ。これからはヒューマがもっと多く世界を支配するだろうからな」
「アルフ様はやはりあのドワーフの予言を信じておられるのですか」
「ドワーフ族の予言は違えることはない。やがて来る未来だ。準備するに越したことはないからね」
「私は信じたくはありません。魔人族が滅びる、などという予言は…」
「だが準備は居るよ。キバ、魔王族が滅びたときはお前の血筋のものには伝わるはずだ」
「…………」
「魔王族が滅びたときは我が転生体を探すんだよ。神官長の血筋である君にしかたどれないからね」
「我が君を?」
「うん、そして使い魔となり滅びを回避するんだ。魔王族を失った魔人族に待つのは緩やかな滅びだからね」
「ですが使い魔となってしまえば滅びているも同然です…」
「そうだね。でも俺が最後の転生を迎えればやがて神覚醒に至る。そうすればその使い魔は存在を人に上げられる。使い魔となっているものすべてにその恩恵はもたらされる。人に戻ることができる。それで魔人族の滅びは回避できる」
「わかりました。我が子孫にキバの名と共に伝えます、永劫の忠誠を我が君に…」
キバは深々と頭を下げ少女を抱えて城を出て行った。
アルフは大きくため息をもらした。
ゆっくり玉座に座った。他には誰もいない静かな城内で一人アルフは城を見ていた。
「もうじき終われる…。君らは俺の終わりを見届けなければ帰れなさそうだね…」
『…………!』
キバが驚いた。
『まさか、見えているの…?』
『あり得ぬことではなさそうじゃのう…』
「不思議な関係に見えるね。竜人にヒューマ、獣人もいる。きみはドワーフかな。見たことのない種族や異界の勇者。君は何代目のキバなのかな?」
『…………。十五代目のキバの名を継承して千年になります』
「そうか、十五代目か。使い魔になっているところを見るとやはり魔人は滅びたのか」
『……………はい』
タテがその言葉を引き継ぐ。
『ですが先日、我が君がエデンとイグニアの浄化を完了なされました。当時の神官たちとその家族、およそ千人ほど穢れの呪いを解かれて聖都での生活を始めております。ヒューマとの関係も良好なので問題はありません』
アルフは眼を開き驚いた。
「聖都の呪いが解けたというのか」
『はい、エデンも聖地としても元に戻っております』
アルフは震えていた。
「そうか…元に戻るのか……。安心したよ。気がかりがすべて消えたな。心置きなく転生にいける。ありがとう…」
『良い旅を…我が君…』
「ああ、君らの主はここにいるよ。心配はいらない、終われば解放されるだろうからね」
アルフはそういって胸に手を置いた。
城の入り口のほうから扉があく音が聞こえた。
「勇者が来たようだ」
そうして彼、アルフは勇者に討たれたのだった。
アルフが討たれ、辺りは閃光で真っ白になり気がつくと覇王城のリュウの部屋に戻っていた。
7章はもう一話あります。
その後は外伝を掲載。
備忘録をなんとかエンドまでに持っていけました。
最終章は予定通り8章です。
その後は補完用に外伝を掲載予定。
問題は海イベントを書くか迷っています
一つくらい領地内視察を入れたいんですけどね…
丸一年投稿してますか…短いのか長いのか分からないですが、なろうスパンで見ると短い方ですね、きっと…




