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翌日フローラが居たことにクリス達は驚いたがフローラが正式に側室の一人になったことを俺から聞かされたものの納得された。
エリーゼ曰く時間の問題だったという皆の認識だった。
それを聞かされた俺はさすがに軽くへこんだ。
「気にする必要はないわよ。フローラのリュウへの想いが強いことはすぐにみんな分かったからね」
「そうじゃの」
「早々にわたくしたちは認めておりましたから…」
「俺だけかよ…」
肩を落としてしまっている俺を慰めたのはステラだった。
「フローラさんは勇気が出なかっただけなのよ。私も覚えのある感情だからわかるの」
「それよりもその髪が気になるんだけど…」
「え?」
クリスがそう言って俺の後ろの髪を触りだした。
「絡まってるじゃない!」
「ああ、エルフの髪がどうもヒューマの時と髪質が変わるらしくてな。すぐに絡まるんだよ。長すぎるから切るつもりなんだがフローラがダメだしするものだからどうしたものかと…」
「当然です。エルフの髪は魔力と連動しているのですから上質の髪質と長さはそのまま魔力の多さと質を現しています。切っても翌日には元に戻ります。切るだけ無駄です」
「マジかよ…」
タテがどこからともなくコームをクリスに渡していた。
一つにまとめていた髪をクリスが解きコームを入れていた。
「本当に長いですわね。さすがにこの長さは慣れていないと手入れが難しいと思いますわ」
「エルフでもこの長さは見たことがないわ。絡まってるわりには痛んでいないところを見てもかなりの上質の髪ね」
「前世でそれなりに長い髪はしていたから手入れはしているんだが、さすがに長すぎてな」
腰丈の長さはさすがに長すぎた。
「はい、できたわ」
クリスはコームをタテに返す。
「わるいな」
「ふふ、今度からエルフの時は梳いてあげるわ」
「あら、いいですわね。順番で行きましょうか」
「いいよ、別に…。いつもエルフってわけじゃないからさ」
「そういうわけにはゆかんじゃろ。わらわとの逢瀬が竜人姿と同じでフローラ殿ともエルフ姿にするつもりじゃろう?」
「それはそうだが…」
「決まりね。後で決めましょう」
俺の意志なぞ関係なく決定されてしまった。
「ありがたいが、困った奴らだな…」
おれは苦笑するしかなかった。
「リュウ様。やはり今日も試練に行かれますか?」
「ああ、それは変わらんな。ただ、心の間。精神だからどうなるか分からん。どんな試練になるのか見当はある程度つくとはいえ最悪の事は想定しておくべきだろうな」
「最悪…とは」
「最悪、意識が飛ぶかもしれんな。何が起こるか分からないのが試練の所以だからな」
「わかりました」
そしていつものように昼になってから俺は試練の扉をくぐった。
『敵を消せ』
条件が現れる。
「敵…?」
そこは真っ白な空間だった。
そこは果てのない空間のようで何もなかった。
だがおれは見覚えのある空間だった。
神界の転生の間のような空間だな
辺りを見回すが何もない。
俺はその場に立ち尽くしていた。
そういえばエルフの姿のままで来てしまったか
しばらく何も起きなかったので思案に暮れていると辺りの景色が真っ白から次第に見たことのある風景に変わる。
小さな空間に出た。
見たことのあるその空間は地球で香里菜と過ごしていた俺たちの家だった。
2kの小さな賃貸住宅がすべてだった。
小さなキッチンと二つの和室。それと浴室とトイレのセットになったユニット。それだけだった。
だが俺にとってそれが世界のすべてでもあった。
二つの和室の一つは香里菜が、もう一つは自分の部屋だった。
少ない家具はテーブルと椅子が二脚あるだけのキッチン。冷蔵庫はキッチンに備え付けの小さなものがあるだけだった。
懐かしさ半分、自分の部屋に入ると師匠から譲り受けた修羅が飾ってあった。
ちょっと不安になって思わず腰にある修羅を触る。
腰にある修羅と少し違うように感じた。
おいてあった修羅を手に取るとなぜか持っている感触が少なかった。
腰に下げた修羅が淡く光りだした。
なんだ、共鳴……?
互いの修羅が淡く輝く。輝きが収まると手に持っていた修羅の感触がいつもの感触になっていることに気がついた。
腰の修羅に手を置くとどうやら機嫌がすこぶるいいらしい。
……分霊というやつか…
少し思案したが存在が位相したらしいので置いていくこともできなかった。
持っていくか
俺は二本目の修羅を反対の腰に差した。
自分の部屋は基本衣類以外何もないので隣の香里菜の部屋に視線を移した。
そのとき香里菜の部屋に人の気配を感じた。
ふすまをゆっくりと開けた。
ふすまを開けた途端に大きな悲鳴が上がる。
「きゃああああああ!」
さすがに俺は驚き立ち尽くす。
そこには香里菜がいた。
「あ………」
「貴方…誰……。ここから出て行って…」
そこで俺は姿が違うので他人と思われたのだと判断した。
「す、すまない」
慌てて部屋を出ようとして声が工藤隆の声なことに気がついた。
それは香里菜も気がついたのか驚いたようだ。
「隆…?」
その声にさすがにおれは心が震えた。
呼ばれるのも久しぶりすぎた。
もう、呼ばれることのない声だと思っていたから。
感情が泡立ち平静でいられなかった。
同時に心の奥では警鐘を鳴らしていた。危険だと、これは偽物だと。
「すまない、出て行く」
踵を返し部屋を出て行こうとする。
それを香里菜が引き留めた。背後から抱きすくめるように俺の胸に腕を回してきた。
その柔らかな柔軟剤の匂いが懐かしかった。
「…………!」
「どうして出て行くの?」
「他人の空似だ。俺は君の言う隆とやらではない」
「隆は嘘が下手。胸がどきどきしてるわ」
「…………!」
香里菜は俺の事を察することにはとても鋭かった。少しの感情もよくバレていた。
「逢いたかった…」
その言葉は俺には毒だった。甘すぎる言葉だった。
涙がこぼれた。
そっと香里菜の手に手を置いた。
どれだけそうしていただろうか。後ろの香里菜は呟いた。
「貴方に謝りたかったの…」
その言葉でおれは心が冷えていくのを感じた。
言ってほしかった言葉をつぶやくこの香里菜がどうしても本物ではないことを痛感させた。
グッと回された腕を外す。
香里菜に向き合いおれは言った。
「…………。君は香里菜じゃない………。俺の願望だ……。消えてくれ」
突き放した。
「何言ってるの……。私は…」
「君は香里菜じゃない。よく似せたな。だが俺の香里菜はそんな甘い言葉なんか言わない!」
涙がこぼれて止まらなかった。それでもなおこの香里菜が許せなかった。
腰の修羅を引き抜く。目の前の香里菜に向けた。
手に入れたばかりの修羅ではない本物の修羅だ。
「姿を現せ。香里菜の死に顔を見るのはもうたくさんだ。悪趣味なやつだな!」
驚いた顔をしていた香里菜の姿をしていた存在は笑い出した。
「ふふふ……。あははっははっはは!」
そいつはひとしきり笑っていた。
香里菜の姿から見覚えのある姿に変わる。
その姿は俺だった。前世の工藤隆の姿だった。辺りの風景も真っ白に変わる。
だが腰に差したもう一つの修羅はそのまま腰に下がっていた。
「…………!」
「さすがは俺だね。ひと時の甘い時間をプレゼントしてあげたかっただけなんだけど、いらないってか」
「……………!」
「女に不自由してなさそうだしね。香里菜が今の君を見たらどう思うかな…?」
「黙れ…。お前が香里菜を語るな」
「後ろめたいのかい。仕方ないことだと思うけどな。女を六人も侍らせていたらね…」
「…………。それを否定する気はないな」
突き出された修羅をつまんで隆は俺を見ていた。
この存在は仮初ではない気がした。何故ならば修羅が軽く歓喜を上げたからだ。
「………。お前はなんだ?」
「気になるかい?」
「幻ではなさそうだしな」
おれは修羅の切っ先を下げる。
「ふふ、幻ではないよ。俺はお前だ。だが俺を消さないとお前はここから出られないよ」
「敵を消せ、か」
「そう、俺を消すか君が諦めるかだな。ここを出るのはな」
「幻ではないというのならどんな存在だ。お前は?」
「おれはお前の過去だよ。この世界の管理者によってお前から引きはがされた存在さ」
「引きはがされた、だと?」
「そう穢れで管理者から君を綺麗にするために引きはがされた君の過去と汚された力そのものさ」
「過去…ね。大賢者シルファード以前のものか」
「そうだよ。気がついていたようだね」
隆はふわりと宙に浮いて俺を見下ろしていた。
「そりゃあ…な。転生する魂ならいつからどうやって始まったのか大賢者では解明できなかったからな」
「その答えは俺そのものさ。少し遊ぼうか」
隆はそう言って黒い球を俺めがけて飛ばしてきた。
修羅で真二つに切り落とす。
「次々行くよ!」
そう言って多数の黒い球を飛ばしてきた。
おれはそのすべてを切り落として見せた。
「さすがだね」
すべてを切り落とし再び隆を見たおれは驚いた。
頭に4本の漆黒の角を伸ばし背には黒い蝙蝠のような羽根を生やしていた。
見覚えのあるその姿はキバやタテの戦闘時によく見る魔人姿だった。
「…………。魔人族…?」
「ふふ、そうだよ。でもただの魔人族じゃないよ」
「………。まさか、魔王族…か。だとすると引きはがされた力というのは魔人王の力なのか」
「正解。大魔王の力さ。古の大魔王は聞いたことがあるかい?」
「……ある。邪神によって汚され邪に落ちた魔王族の始祖……。ヒューマの勇者によって打倒された、だったか」
「そう、それが前世の君だよ。俺はね。君の中でゆっくり溶け込んで眠っていたんだよ。それがこの世界に呼び戻されたときに無理やり引きはがされここに置かれた」
「……………」
「あの管理者、許せないんだよ。君の中でもうあと少しで穢れが消えて君に引き継げるはずの機会を邪魔したんだからね」
「気に入らんな」
「俺がかい?」
「違う、俺の過去の力だというのならどうにかするのは俺だけだ。手を加えられたのには気に入らん」
その言葉に隆は満足気だった。
「正確にはね。過去の大魔王の力と記憶、そして人格が今の俺だ」
「………ウィリアムも持っていたというのか」
「持っていたよ。持っていたというよりは内包してたと言ったほうが正しい。大魔王の力と記憶は最後の転生者のみに引き継がれる予定だった。彼は自分が大魔王だったという事すら知らないよ」
「最後の転生者?」
「そう君だ。リュウ=クドウ=マリノス。君が最後の転生者なんだよ。だからあの管理者が君に手を加えてきた。よほど早く転生を終わらせて君に覚醒してほしかったんだろうね」
「覚醒?」
「俺の穢れが君の中で終えれば自然と思い出す予定だったことさ。大魔王の記憶は転生の始まりであり終わりをもたらす記憶だったんだよ。それをあの似非神の女が邪魔をしたんだ」
「………似非神とはイヴの事か…」
隆は頷いた。
「あれはね。創造神アルフが作り出したこの世界の管理人さ。神族ではない、ただの道具さ」
「道具…?」
さすがに驚きで言葉に出なかった。
「そうさ、あれは道具だ。その証拠にアルフの神力が無ければ何もできない。浄化さえできないんだよ」
浄化という言葉で思い立った。聖地の浄化は俺が行ったが神ならばできるのではないのかと。
「…………」
「あの女、よほど君が大事なんだろう。俺をここに幽閉して俺という大魔王の力と記憶をどうするかを君に決めさせようとしているんだからさ」
「だから消せということか」
「そう、俺を消滅させるのかそれとも取り込み存在を消すのか決めろってことさ」
「だが、それだと試練といえない」
「心の間の試練かい?」
「ああ」
彼は宙に浮いたままくるくるとその場でタテ回転を始めた。
「試練にはなるさ。消滅させるにはそれなりに精神力がいる。取り込めば記憶のスキルが増える。もちろん大魔王時代のスキルも増えるけどね」
「お前は消えてもいいというのか?」
「…………。消えたくはないよ。できれば君に帰りたいさ。でもね、今、俺が語ったことは本来、君が徐々に思い出すことだったんだよ。あの女はそれを遅らせ、邪魔したんだよ」
「だから許せないといったのか」
「そうさ、越権行為も甚だしい。神族でもないくせにさ」
「神族…?」
「…………………。ギャラリーが多すぎる。これ以上は言えない」
「…………受け入れればわかることか?」
「ああ、全部、君が持つべき記憶だったんだからね」
「………………………」
俺は覚悟を決めた。
「決めたみたいだね。でも覚悟したほうが良いよ。大魔王アルフの力と記憶は膨大だ。徐々に覚醒することで抑えられたはずの痛みが一気に来るだろうからね」
それを聞いたとき俺は軽く目を閉じた。
意識的に超回復と自己栄養生産スキルを入れた。
眼を開けて顔を上げ、隆を見た。
「どうすればいい?」
彼は笑みを浮かべた。嬉しそうな顔が印象に残った。
「両手を…」
お互いの両手のひらを握った。
両手を握ると浄化スキルが不意に発動した。
「な!」
驚く俺を落ち着かせようとしたのか声を上げた。
「取り込むには穢れを浄化する必要がある。すぐに終わるさ」
軽い浄化だったので負担はなかった。
「浄化スキルは神力ありき、穢れた神力では決して使えない。だからこそ歴代の転生者には使えないスキル。最後の転生者だけが使える証だ」
「俺だけだというのか?」
「そうさ」
彼は淡く輝く。
「……できるならあの女に折檻をしてやってよね。おいたをした子には叱らないとだよ…」
パァンと彼は霧散して消えた。
同時に全身に激痛が俺を襲った。
「が、ああああああああああああああ!」
さすがに悲鳴が上がってしまう。
『条件を満たしました。天職の間への通行を許可します。観覧者は通行不可です。観覧のみになります』
その報告を耳にしつつもおれは自分の体が変化するのを実感していたが同時に意識が持たなかった。
擦り切れる意識の中、さらに声が響いた。
『意識不明と断定。強制排出します。天職の間への通行は許可済み』
俺の体は倒れたまま扉の外へ出された。
エルフだった姿はいつの間にかヒューマとよく似た黒髪の姿に変化していた。
その頭には隆にあった物と同じ4本の黒い角が小さく生えていた。
同時に観覧場から出てきたクリス達や海たちはただ驚いていた。
タテは倒れたリュウを、涙を流しながら両腕で抱えた。
「リュウ様…!」
その涙は歓喜の涙だった。魔王族姿に変わったリュウを見て打ち震えた。




