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昼を過ぎ俺は再び試練に挑んだ。
扉をくぐると試練条件がでた。
『病を取り除け(回復魔法禁止)』
「病?」
周囲が真っ暗だった。
『ライトアップ』
明かり用の呪文を唱えるとそこは倉庫だった。
「?」
見覚えのある壁はどうやらエジャルナ神殿らしい。
地下倉庫からでて階段を上がり1階に進めるとたくさんの神官があわただしく行きかっていた。
近くの神官に事情を聞いた。
「何かあったのか?」
「あ、賢者様。実は街で原因不明の病が蔓延していまして原因がわからずご覧の有り様で…」
周囲を見ると死屍累々といった感じで野戦病院のように簡易的なベッドでたくさんの患者があふれかえっていた。
すぐそばの患者を鑑定すると状態異常に強毒とあった。
「毒か」
「はい、ですがこの毒なのですが、解毒呪文が一切効かないのです。なので調合のスキルもちの神官総出で毒消しを作り投与しているのですがこの毒消しもあまり効果が少なく悪化を阻止するだけで精一杯なのです」
「なるほどな…。このあたりの患者は軽度なのか?」
「はい。重傷者はあちらです」
指さして神殿の外側の部屋だった。
「毒が何なのか調べるのに協力してもいいのか?」
「もちろんです!」
重症患者の部屋に入りさらに鑑定を行う。
毒の種類の鑑定は上級に当たるので誰も鑑定できなかったようだ。
商人ならば当たり前のように持っている上級鑑定だがここは神殿、神官しかいないのだろう。
『ラルザ梅毒(強)』とでた。
ラルザ梅毒といえばたしかラルザという魔物の体液が毒だったはず…
おれはスキルの図鑑を使った。
普段は勝手に使われるスキルだが試練ということもあり発動しなかったようだ。
この図鑑スキルは末裔に括られるだけあり過去に末裔が討伐した魔物が記されるのでスキル図鑑として記録されるのか誰が使っても共通の図鑑に更新される。
過去大賢者シルファードが討伐していた記憶があるので載っているだろうと判断したのだ。
パラパラとめくり該当の魔物を見つける。
これだな。聖属性魔素を食らう特殊な魔物…か。聖属性…ね。聖地ならではという事か
生息地は影とあった。
より高度の聖魔素を好み食らう魔物で大きな陰影に潜むという。
聖魔素は水に溶けやすい性質があるため水場近くに潜み発見されやすいという。
特効薬もない毒を持ち聖属性と回復魔法の強い耐性がある。おまけに影に潜むだけあり物理が一切効かない体を持つ。この魔物の毒にかかっても軽ければ対象の魔物を討伐すれば毒は消えるという。
この魔物を討伐すればいいという事か。だが陰影に潜むだけありどこに潜んでいるのか特定するのに時間がかかる可能性があるな
「この毒はラルザ梅毒という毒でラルザという魔物を討伐すれば毒は消えるはずだ」
「本当ですか…!」
近くにいた神官が驚き対処が分かったので嬉しそうに聞いてきた。
「ああ、だがこのラルザという魔物は影に潜むというから探す必要がある」
「影ですか…」
「この神殿の内部で大きな影のある水たまりを探さなければ…」
「水たまりですか」
「水がたまっていても放置できるような陰のある場所だな」
「それなら神殿の水場でも限られます」
「あるのか」
「はい」
俺は早速教えてもらった水場へと向かう。
静かな水場だった。
決して明るい水場ではないものの魔素が満ちた水場だった。
だからこそラルザの魔物が住み着くにはもってこいの場だった。
そして聖魔素がみちるからこそ魔の気配にも察知できた。
後ろから付いてきた神官が声を上げる。
「賢者様の言う魔物を聞いてから罹患した神官たちに聞いたところ重症者はこの水場を頻繁に使っていたことがわかりました」
「だろうな。観覧するのは良いが建物の中に居ろよ。邪魔になる」
「はい、お願いします」
討伐は良いとして体液は入手する必要があるか。重症者は体液を使った特効薬を作る必要があるしな
収納にある空き瓶が取り出せることを確認して水場を見やる。
陰に潜んでいるので水場から出現させる必要がある。
『イビルポイズン』
魔物が生息している水場に向けて一時的な毒魔法を放った。
聖耐性がある獲物には逆の魔属性がよく効くのは周知の事実だった。
しばらく様子を見つめていると湖面の下から泡が出始めた。
そろそろ来るな
杖を持った。
湖面が大きく揺れだす。
俺は数歩、後ずさって出現に備えた。
俺が数歩後ずさるのを確認するように湖面の奥から黒い大きな塊が上がってきた。
GAAAAAAA!
大きな雄叫びが響く。その姿は大きな丸い影の塊といった感じで圧迫感はない。
おれはその雄叫びを軽くいなし呪文を唱える。
『ブロックタイム』
魔物の周囲が結界に覆われた。
俺はその結界内に向けてさらに呪文を繰り出した。
『ライトニング』
結界内が光に包まれると魔物はその光によって本性を現した。
その姿はとても気持ち悪い姿で丸い姿はそのままにゼリー状に包まれた体液を使い結界を壊そうと暴れだした。
俺は結界が壊れる前にトドメの呪文を唱える。
『イビルカッター』
魔属性の風呪文は通常一線だけ魔物に向かって飛んでいくもので中級の呪文だったが数が多かった。その数、十はあった。
結界内に留められたその魔物は十の風呪文に切り刻まれてなすすべもなく断末魔の叫びをあげて倒れた。
魔物が消えてもなお結界は維持されていた。
その結界内には呪文によって切り刻まれた体液がびっしりと底に溜まっていた。
「多く残ったな」
おれは笑みを浮かべた。
結界内の体液を残さず瓶詰めした後、結界をほどく。
その足で水場に近寄り汚した水場を浄化スキルを使い、洗浄して一息ついた。
背後の建物に居た神官に声をかける。
「調合できる設備はあるか?」
「あ、は、はい。ご案内します」
魔物討伐がクリア条件ではないので軽度の毒持ちは治っただろうが重症者は治っていないからだ。
案内された調合施設ではほかにも調合スキルもちが居た。
「特効薬を調合できる配合をご存じだそうですね?」
「ああ、これがそうだ」
俺はそう言ってメモを数枚彼らに手渡す。
「調合自体は一つを除いてオールを作る材料と同じだがこの体液を混ぜる必要がある」
俺はそう言って先ほど瓶詰した体液を置いた。
「おお、これで作れます!」
「ここは我々が特効薬を作りますので休憩なさってください」
「そうさせてもらおうかな」
「はい、ありがとうございました。賢者様」
しばらくして神殿内に歓声が沸き起こった。
『病除去を確認しました。条件を満たしました。観覧者と共に先の間の扉を解放します』
目の前に扉が現れくぐった。
元の倉庫に戻ってきた俺はさすがに深いため息をもらした。
次の試練を考えると気が重くなっていたのだ。
「リュウ?」
「どうしたのじゃ?」
「ん?」
うっかりため息をもらしたのがいけなかったらしい。心配された。
皆を安心させようとして軽く笑う。
「ああ、ちょっとな」
「次の試練が気がかりですか…?」
「………。ああ、次は心の間。精神、だからな。どうなることやら…」
「兄さんの場合、何が起こってもおかしくはないから心配になるね」
「……………」
クリスが右腕を取ってきた。ギュッとしがみついてくる。
そっと左手を使いクリスの髪を触る。
「次の間はある程度は何が起こるかは見当が付く。おそらくは香里菜絡みになると思う」
「兄さん……」
「覚悟の上だ。キツくても乗り越えてみせる。だから心配するな」
「うん…」
俺はそう言って収納の一覧を見て試練で使った体液の残りがあることに気がついた。
「面白いな。試練で拾った道具は残らないとばかり思ったんだがな」
パッと取り出して見つめた。使った瓶がかなり大きい瓶なので片手で持つぎりぎりの重さだった。
鑑定すると調合専用道具に設定されていた。
この体液、普通ならこのまま魔物にぶちまけると即死効果がある毒になるのだが入手経路が経路なので調合専用になったようだ。
「先ほどのラルザという魔物の体液ですか?」
「ああ、調合にすると上級の万能毒消し薬ができるはずだったか。いい拾い物だな」
「それだけではないぞえ」
「リューイの言いたいことはわかってるさ。これが原材料の一つだからな、竜の涙は」
「え、そうなの?」
「ああ、これで涙の材料がそろったことになるかな。リューイ次第だけど」
「他を持っておるのかえ?」
俺は頷いた。
「この体液と世界樹の葉とイヴァースの存続のクルミと竜王族の血だからな。涙の材料は」
「そんな材料だとは知らんかったのう。ラルザの体液がいるということは伝わっておったが…」
「それだけではないんだ。知っているだろう、竜王族の血は番い相手にしか譲渡できないことは」
「そうじゃの…」
「涙を作れるのは竜王族のそれも調合スキルを最上級にまで上げる必要がある。エリクサーを作るには上級だからエリクサー以上に難度が高い。先々代の大賢者シルファードが凄いとしか言いようがないな。あれを大量に作ったというんだから思いの強さがうかがえるよ」
「涙は数が少ない。頼んでもいいのかえ?」
「もちろんだ。だけど失敗はできる限りしたくないからな。もう少し調合に慣れる必要があるからすぐには作れないぞ」
「わかっておる」
リューイが左側にもたれてきた。感極まっているようだ。
リューイの背中に手を置いて宥める。
「ちなみにな、涙は竜人専用というわけじゃないんだ」
「え」
「それってどういうことですの?」
エリーゼが興味津々に聞いてきた。
「この竜王族の血を別の種族王の血に変えるとその種族の涙になる。たとえば獣王族の血とか日巫女の血とか、ドワーフ予言族の血とかな」
「それでしたらわたくしの血が使えますわ。歴とした獣王族ですし」
「はは、そうだな。でも獣人族にはいらんだろ」
「ですわね」
「ねぇ、ドワーフ予言族というのは確かなの?」
「ステラ?」
「たしかドワーフの予言師という職を持つ者かその一親等。つまり親子関係のある者なら該当するはずだが?」
「そうなのね…」
「それがどうかしたのか?」
「それが本当なら私も使えるということだから」
「え」
「ステラはドワーフだったの?」
さすがに一同が驚いた。
「ええ、そうは見えないでしょうけど。私はドワーフ族よ。母が予言師なの」
「初めて知ったな。ステラがドワーフの王族だったとは…」
「王族?」
「ああ、確か予言師の職はドワーフの王族にのみ伝わる職と聞いたことがある。連合国にドワーフの予言師がいるのは知っていたが…」
「私は先祖返りでドワーフらしくないのよ。昔はそれが嫌だったわ」
「つまりエルフのフローラを入れるとヒューマと魔人族以外の涙が作れるという事なのね」
「素晴らしいですね。魔人族以外の涙が作れるというのはある意味でリュウ様、種族の王族を集めてしまわれたという事ですから」
タテのその言葉におれはさすがに驚いた。
「え、あ?」
「そういえばそうね。ステラがドワーフだったのなら揃っているわね。それも純王族ばっかり」
「そ、そんなつもりはないんだけどな、俺…」
「集まるべくして集まったんだね」
海が納得していた。
「フラグが立ちますよ、隆さん。絶対どこかで魔人族もそろう気がする」
「え」
「そうだと嬉しいですが、それはないでしょう」
タテが否定してきた。
「どうしてですか?」
その覚の言葉に答えたのはタテでなくクリスだった。
「魔人族は絶滅したと有名なのよ。魔人族の王。つまり魔王族はかのマリス魔導国が滅ぼしたと大々的に宣伝したくらいだから…」
「そうです。我ら魔人族は魔王族を失いました。故に新たに王を立てる必要があったのです」
「それが兄さんってこと?」
「はい、アルフ神の御子であるリュウ様の魂が唯一、魔王族の替わりになりえる方でしたので当時の神官長だったキバが種族の存続のために決断したのが千年前だったのです」
「種族の存続って…王族が居ないと存続できないの?」
タテは頷いた。
「できないのです。魔人族は成人するには必ず王か王族の祝福がいるので失えば成人できないのです。成人できなければ子は作れませんからね」
「それを知った魔導国が真っ先に魔王族を滅ぼしたんだ。〈脅威を取り除くため〉とか言ってな」
「あれはただの虐殺です。なにせ女子供年寄りですら皆殺しにしたのが魔導国ですから」
「そのせいでこの世界は均衡を失った。魔素の乱れを唯一操作できる種族を失えば安定は失われる。大賢者がこの千三百年間現れなかったのも魔人族の秘宝、忠義の証をもつ魔王族を失ったからなんだ」
「キバが唯一、魔王族以外で秘宝を持つことができる魔人族なのです」
「だからなのね、エデンの神殿の扉を開けられたのは…」
「はい」
その日の夜、渋るクリス達を言い聞かせて一人あてがわれた部屋で休むことにしたのだがゲート設置したことを城側が知ったらしく夜になってからフローラが俺にあてがわれた部屋に忍んできた。
どうも放置しすぎたのか、一人城に残されたのが寂しくなったらしい。
それだけではないようでかなり思い詰めていた。
ベッドで休んでいた俺に馬乗りになるように俺を上から見下ろしていた。
「どうしてこの部屋にいるのを知ったんだ?」
「………この神殿と世界樹は密接に関係があるから神殿の神官は多くが顔見知りなの」
「こまった姫様だ」
「どうして一度きりなの?」
「は?」
「私も貴方の傍にいたいのよ」
「…………」
じっと見つめる。フローラの言いたいことを理解した俺は軽くため息をもらした。
彼女の強い覚悟のした眼を見つめていると封印しているはずのクリフの感情が沸き起こってくるのを感じた。
さすがに居たたまれなくなり視線を外す。
そんな仕草にフローラはクリフを思い出した。
「私が嫌いならそう言ってもらうほうがよほどいい…」
その言葉におれはフローラを見る。
「…………。なぜ俺なんだ?」
「理屈じゃないの。他に女性が居てもいい。好きなの、貴方が…。初めて世界樹で見たときからずっと…」
「……………」
「忘れたいと思った。でもクリフとして接していればいるほど嬉しかった。もっと好きになってた。もう離れるのは嫌なの。日巫女として継がなきゃいけないことはわかってるけど繋がっていたいの」
おれは彼女の寄せる思いの深さを知った。同時に子孫からの忌避感にして線を引きたかった俺のこの態度がフローラを苦しめていることも。
知るとクリフの感情が零れた。同時に無意識に姿がエルフ姿に変わる。
「…………。俺を選ぶことは苦痛になりますよ…。おれは姫様だけを選ぶわけにはいかないんですから………。辛くなることを知っていて、どうして俺から側室になんて提案ができるわけがない。たとえ、そう願っていても」
フローラは不器用に唇が触れるくらいのキスをしてきた。
ゆっくりとお互いの息の感触が頬に感じるほどの至近距離で見つめあう。
「覚悟はあります。辛いと思う日もあるかもしれない。それでもそれ以上に貴方と繋がっていたい。そう思ってはいけないの?」
「せっかく姫様のためにと用意した逃げ道は要らないと…?」
「いらないわ。そんな義務という逃げ道なんて」
「……………。以前にも言ったと思うけど俺には自由というものはないに等しい」
フローラは俺をジッと見つめている。
封じてきたクリフの感情には封じるだけの理由があった。
俺の今の心と結びつきが感じられたからだ。
放置すればクリフの恋心が俺の想いになるのも時間の問題だった。だから封じていた。
彼女の覚悟がない以上、子孫からの忌避感として義務にして封じたのだ。仕方がないと自己欺瞞のように納得させていた。
「だからこそできる選択の中から自分の中で納得できる選択をするしかない。それは側室に至っても言えることだ」
おれは眼を閉じてもなお言葉を続ける。
「それは…」
「俺のこの胸の奥には側室の数だけ大事にしている存在がいる。それを知ってもなお、かまわないというのなら俺には拒否はできない。その大事な側室の数の中に君を入れるだけだ」
おれはフローラを見る。一拍置いてもう一度聞いた。
「……………いいんだな?」
フローラは時間を置くことなく頷いた。
「ええ、貴方と傍に居られるほどの幸福なんて他にはないわ。私には…」
そのフローラの言葉は封じていたクリフの想いが俺の中で自分の想いとして昇華したことを実感した。
その感情のまま振り回されるようにおれは下からグッとフローラを引き寄せ唇を貪った。
止める気は俺にはなくフローラは俺にされるままになってその日、俺たちは心と体を繋げた。




