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異世界に戻った異世界賢者の備忘録  作者: 夏
大賢者と試練
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  3


その扉は神殿付きの神官たちの倉庫代わりに使っていた部屋に開かずの扉として存在していた。その倉庫は比較的神殿の中央に位置する場にありながらも、なぜ倉庫になっていたのかといえば明かり一つ点けられない特殊な部屋だったためだ。

それも当然だろうと思う。明かりは魔道具がほとんどなのだがこの部屋には聖地に満ちる神力の影響が一番強い場だからだ。当然だが魔力は効かず無効化されるため明かりも手動なのだ。


試練の門は扉の形を取っていると書かれてあった。それも条件が満たしたものにのみ、扉は反応して開く仕掛けになっているとも書かれてあったので神官たちに聞いて回ったのだ。

神殿内に開かずの扉はあるのか、と。

その結果としてこの倉庫に使っている部屋の奥にある扉が浮上したのだ。


確認のためにその扉のある倉庫へと足を踏み入れた俺は間違いのない事を知る。

というのも俺がその倉庫に使っている部屋に入るとなぜか魔道具の利かないその部屋に光が立ち上ったからだ。

光は扉から立ち上っていた。

「間違いないようだな。ここが試練の門だな」

「入りますか?」

「いや、準備をしてからだな。この門の先には試練とはいえ、魔物がいるということだからすぐに入るというわけにはいかないか」

手に持っていた本を取り出し開けて捲る。

この最上級職への転職の間はアルフ神が作り出したものでイヴでは改修できないのだとか。

アルフ神が居た頃には転職への条件をいろいろと変更し改修できたらしいのだがアルフ神が不在な今、最低条件の全種族の秘宝という条件が不可能に近い条件になっているため挑む者がこの千三百年居ないというのも納得である。

というのも条件の中にある魔人族が伝説上の種族扱いされているためである。

エデンと共にイグニアを復活させたことで共にしていた魔人族も復活したがそれ以外で魔人族は覇王城にいる以外には居ない。ヒューマによって駆逐され、絶滅したとされているからだ。

故に最上位職への転職が不可能状態だったのである。

その最上位職の転職の試練は三つある。

 体の間

 知の間

 心の間

この三つである。

いずれの間も大賢者としてふさわしいかを試す間だ。

文字通り体力知能精神を試す場とある。大賢者ではなくもう一つの英雄で受ける場合でもこの試練の門だという。試練の内容と試す基準は違うがそれでも同じ三つの間だ。

失敗しても何度でも受けることができるのだが失敗すれば即、試練の間から放り出される。

それだけでなく失敗すれば半年間は試練の間へと行くことができなくなる。

「何が起こるかわからんな…。同行者を連れることは可能でも試練の間に入り受けるのは俺一人だ。万全にしておきたいところだな」

パタンと本を閉じた。

「…ですね」

「いつもの装備の聖別はいつ終わるか聞いているか?」

「明日には終わると聞いています」

「そうか。修羅は元々がイヴの神力を受けている装備だから問題はないが他が揃ってからだな」

「どうして…?」

「いつもの装備じゃないと落ち着かない」

「兄さんらしいね。気に入った物でないと落ち着かないというのは……」

部屋を出た俺たちは部屋のすぐ外にいた神官がうかがうように聞いてきた。

「やはりここが最上位職への転職の間でしたか…?」

「ああ、ここが試練の門への入り口になる」

「教皇様へご報告いたします」

「そうしてくれ。試練は装備の聖別が完了してからになる」

「はい」

神官は慌てるようにして立ち去って行った。

おれはその後、ゲート設置の許可を教皇から許可を貰い、設置した後、試練のための準備を入念にした。



その日の夜おれは不思議な夢を見た。

「君からもらった血を基にしてやっとできたよ」

正面に蒼い髪をした竜人族の女性が居た。

「これが…竜の涙なのね…?」

目の前に置かれている黒い丸薬を手に取って感動していた。

「うん、里の書物を基にしてやっと解析した竜の涙の作り方だ。鑑定した結果、完成しているよ。完成したことを確認してからたくさん作って専用の箱を用意したから千年くらいはもつだろうと思う」

「じゃあ、やっとなのね?」

「ああ、やっと君の父上に認めてもらえる。番いになれるんだ」

「うれしい………」

「リュカのお父上に認めてもらいたくて君の血を貰い、大賢者になったというのに種族が気に入らないというならヒューマを捨てるだけだ」

「でも本当にいいの?」

「いいんだよ。この涙が一回きりの転身になることくらい承知しているよ。君が別の男の人のものになるのを見るくらいなら今の姿を捨てるくらいなんでもない」

おれは本心でリュカにそう言ってそばに用意していた水を口に含み竜の涙を飲んだ。


翌日早朝に目が覚めた俺は姿が変化していることに気がついていた。

二度目となればすぐ気がつくというものだ。

洗面の鏡を使い確認すると茶髪の竜人男になっていた。

 さっきの夢の男…か。先々代の大賢者の姿というわけか


 リュウ=クドウ=マリノス *

  ヒューマ(竜人・エルフ) 職業=賢者50・王者33

   HP=20026

   MP=23569

   力=2989

   素早さ=2046

   集中=2963

   魔力=6952

   魅力=71430

   運=8600

 特技〈抜刀術・剣術・体術・全武具習得・無詠唱・魔術付与・魔力操作・魔道具作成・使い魔召喚・使い魔疎通・使い魔共有・息吹(限定)=MAX 覇剣術・弓術=中級 竜魔法(限定)=初級〉

 呪文〈水・炎・熱・光・闇・土・風・空間・聖・魔・回復=全最上級習得済 時空=上級・召喚=中級 独自魔法=超級Ω〉

 スキル〈鑑定β・図鑑・言語自動翻訳・速読・暗記・道具収納Ω・装備自動変換・特技呪文補助機能・手加減・魔力消費最適化・即時自動習得・浄化・生成・魅了・完全防御・魔物浄化・転身・魔法合成・多数詠唱無方陣最速化・竜化(限定)・飛行(限定)〉

 固有スキル〈覇王の末裔・管理者の福音・管理者の祝福・覇王の結晶・王者の証・叡智の結晶・覇王の覇道記・叡智の魔術記〉

 EXスキル〈超回復・超吸収・自己栄養生産〉

〈称号〉

 覇王を継ぐもの・獣王に認められしもの・世界樹の神子・ハイエルフの始祖・アルフ神の器・女神の愛を得る者・神の卵・輪廻を統べる者・異世界を旅するもの・時をかける者・大賢者の卵・ドラゴンスレイヤー・獣を狩るもの・魔を消すもの・聖を滅する者・全能の魔法師・大賢者への道へ挑みしもの・聖人・魔人王・竜王・教皇の友人


 やっぱり、叡智の魔術記が解放されてるか。試練の門に接触したからか…?

パッとスキルを使い、本を召喚した。

金に輝いた本が手元に現れる。

パラパラとそれを捲っていると気がついた。あの後、転変の後遺症で先々代の大賢者シルファードは急逝した。竜人姫リュカの腹の我が子を見ることなくその生涯を終えたのだ。

 俺は本当に運がいいんだな。何事もなく転変して自分の子さえ見れるのは…

「そこで何をしておるのじゃ?」

「リューイ…」

「その姿は…?」

「先々代の大賢者シルファードの姿だ。どうやら条件が満たしたらしくてスキルが解放されたんだ」

「竜人としてはずいぶんと貧弱そうじゃのう」

俺は笑った。

同時にリューイが気になり聞いてみたくなった。

「リューイ…。君は俺を番いに選んだことを後悔しているか?」

「なんじゃ、いきなりそんな事…」

「後悔しているか?」

「しとらん。後悔なぞするわけがないじゃろ」

「そうか、それならいいんだ」

「なぜそのようなことを聞く?」

「大賢者シルファードは竜人に転変した後、当時の竜人姫と番いになったが、我が子を見ることなく転変の後遺症で死んだ。後に残す姫と我が子を心配しながら逝った。それを思うと番いになったのはいいのかよくわからなくなってな」

「……。里には大賢者の事がいろいろ残されておってな。大賢者の番いとなった当時の姫の手記も残されておる」

「そうなのか?」

リューイは頷いた。

「姫は後悔したそうじゃ。竜人にならなければ大賢者として栄誉も竜人以上の寿命も手にしておった彼を死なせてしまったことにの。じゃが、その姿を見るに納得できる」

「………竜人としては貧弱だったようだな。角こそあるが生命力が少なさそうだし…」

おれは鏡の自分を見た。貧弱で弱弱しい姿だった。

「うむ。転変の事故は時折聞く。元々の体を変化させるのだから耐えきれる保証はないのにも納得じゃ」

リューイはそう言って背後から俺を抱きすくめてきた。背丈はリューイと変わらないのでされるままになる。

「そういう意味でも妾は運が良い。そなたは転変にも耐え、強靭な竜人を手にしたのじゃからの」

「リューイ…」

おれは身長をそのままに姿を自分の竜人に転身する。抱きすくめているリューイの手に自分の手を重ねる。

「彼は姫を心配していた。先に逝ってしまう自分を呪いながら番いとなった彼女を長い時間一人にしてしまうことを悔やんだ…。だからこそ心配していた。彼女は幸福に生きられたのだろうかとこの本を通じて俺に聞いてくるんだ…」

「それは心配いらん。その手記にも残されておるが彼女は残されたシルファードとの子を大切にかの者の思い出と共に幸福じゃったと聞いておる。後にも番いにと言い寄ってきたものはおったそうじゃが彼女は生涯シルファード一人を愛したという」

「そうか…」

「それに大賢者シルファードが転生するということは有名じゃったからの。帰ってきたかの転生者に姫の幸福を伝えよと聞かされておる。姫とシルファードの直系の子孫である妾もそう聞かされた」

「リューイ…」

「じゃからの、妾たちは大賢者たちの分までも幸福にならねばの…」

「お前は幸福か?」

俺は背後のリューイを見つめた。

「もちろんじゃ。妾はこれ以上ないくらい今、幸せじゃぞ…」

自然と唇が吸い寄せられて重なる。


しばらくそのままお互いの体温を感じていた。


早朝のそれも洗面所という密室で濃厚なキスをしていればそれなりに興奮するというものだがさすがに踏みとどまる。

だがリューイはそうでないのか背後から俺の体をまさぐりだした。

「よせって…」

手と手を抗うようにしていると背後から首筋を吸われる。

痺れるように首筋を吸われると羞恥が勝り、顔が熱を持った。

「やめろって…」

無理やり離れるとその時、洗面所の扉が開いた。

「こんなところで何をやってるのよ…」

扉を開けたクリスはあきれ顔でリューイを見ていた。

「何って。ふふ、少し情熱的になってしもうたのう」

「冗談じゃない……」

俺はさすがにホッと安堵した。

乱れた着衣を戻しているとクリスが何かに気がついたようだ。

「やだ、三つに増えてるわ。キスマーク」

クリスは笑みを浮かべていた。意地悪な笑みだ。

「おや、一つはクリスかえ?」

「ええ」

「あら、私もリュウ様につけたいですわ」

「ずるいわ。みんなばっかり」

「え」

さすがに俺は身の危険を感じた。

逃げようとするが狭い洗面所は逃げられるはずもなくリューイから後ろから拘束される。

「離せよ!」

羞恥ですでに真っ赤に染まっている俺の顔は加虐心をそそられたのだろう。

身をよじり拘束を解こうとするがうまくいかない。力任せに外すことはできたがそれをするわけにはいかないので途方に暮れた。


その後おれは代わる代わる同行していた側室たち全員にキスマークをつけられてしまった。

さすがに海たちは制止できるはずもなく呆気に取られていた。


ぐったりと朝食を終えた俺はテーブルに突っ伏していた。

「制止できなくてごめん、兄さん」

「いや、気にするな…。あんなの止められる奴がいたら部下に欲しいくらいだ…」

突っ伏していた身を起こして気分を取り直す。

その時タテが声をかけてきた。

「無事に聖別のために渡してもらっていた装備が帰ってきております、リュウ様」

「ああ、後は本当にそれだけだからな、やっと動けるな」


朝食を終えた後、俺は早速ヒューマに戻り装備を整えた。

「やっぱりいつもの装備のほうが落ち着く」

俺はなんだかやっと落ち着きを取り戻した気がした。

「兄さんずっと落ち着かない感じがしていた気がしてたんだけど気のせいじゃなかったんだね」

「はは、まあな…」

「やっと準備が完了しましたがやはり行かれますか?」

タテが聞いてきた。

「……ああ、……食後の休憩もしたことだしな」

おれは無意識に意識を切り替えたようだ。


クリス曰く覇王様モードとか後日言っていた。

それほどに醸し出す気配に変化があったという事だった。

……俺からすればやる気が俄然出ただけなのだが。

そして俺は再び試練の門の部屋に立っていた。


扉のノブに手を置いた時、部屋全体に機械的な声が響いた。

『資格者確認。同行者九名確認。同行者同行状況を最終確認。資格者の意志を確認します。資格者と同等の試練を受ける場合は同時入門を願います。観覧のみの場合は資格者の入門後赤色灯後入門願います』

「リュウ…」

「一人で行く。これは譲れない。来るなら後から来い」

腰に下げた修羅を確認して杖を取り出す。

「魔法職の転職だからな。杖のほうが役に立つだろうな…」

おれは腹を括って再びノブに手をかけ扉をくぐったのだった。





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